第5章 脱出編 その6 レクア防衛隊、総進撃! 中編
第5章 脱出編 その6 レクア防衛隊、総進撃! 中編
その姿を間近に見て、僕は一反木綿って妖怪を連想した。最初だけだったけど。だって一反木綿は、まあ、それなりに長いけど、あんな果てしなく伸びてない。その姿は胃空の果てまで伸びていて、それが渦を巻き、レクアを覆う光壁に絡みつこうとしている。
「シャルネ司令!光壁が破られます!」
「……全投石器!弩砲!一斉射撃用意!目標は……ここに合わせて!」
シャルネさんは「魔力槍」と簡易詠唱だけで巨大な白銀の槍を現出させ、それを投擲した。あれだけで小型怪獣くらいなら消滅できる代物だけど、余りに巨大なサナダグンに対しては、目印にしかならない。細長いヒモ状の、超巨大な体内生物。僕らの正面に向かったシャルネさんの魔力槍はその一点で弾けた……あれ?違うな。なんか、こう……吸収された?
「しまった!……エマ!聞こえないのか!エマ!今すぐ光壁を解くんだ!」
僕は僕の契約妖精に必死に思念を送るんだけど、やはり返信はない。そして光壁は、レクアを守る魔法の障壁は今もまだ残ったままだ。
「おい、モーリ!光壁を解けなんてバカ言うな!」
「あ~待ってくださいよ~ジナ隊長~。ここは魔王様の言う通りかと~」
「なんだと?」
僕に食ってかかるジナさんを止めてくれたのは、リュイシアさんだ。
「魔王様~あれは魔力を吸収する生物。そう思われたんですよね~」
さすがは副官魔導師だ。つまり隊長を補佐し魔術で隊を導く存在。そのキャリアは魔族の中でもかなり高さそうで、実は前隊長シャルネさんのかなり以前から任官してたそうだ。
「はい。おそらく光壁に巻き付くことで、魔力を奪っているはずです。あいつには口とかの摂取器官が見当たりません。体の表面から栄養を吸収するタイプの生物かと」
頭部とか胸部とかの部位すら見当たらない、完全な白いヒモ状生物。本物の(?)サナダムシもそんな感じだったはずだ。ただ、胃世界のこいつは魔力を栄養として食っている。なんて言ってる間にも、光壁はますます光を弱らせ、サナダグンの体表は妖しく輝く。しかし……見上げる空はもう白い布に覆われてるみたいだ。
「だけどよお、光壁を解いたら一気にコワされちまうんじゃねえか?」
「隊長~それはごもっともでもありますけど、一週遅れの心配ですよ~」
「副官、なに言ってるんだ?」
「つまりですね。どうせ光壁はもう保ちません。だったらせめて吸収する魔力が少ないうちに解いた方が、こちらには反撃する余力が残ってるってことです」
光壁を展開する魔力は、エマとエマにつながってる家妖精たち、そしてレクアの住民たちの魔力だ。それを吸い尽くされたら……反撃どころじゃない。
「そうなんです~どうせ敵に奪われるんなら、早く解いた方がマシなんです~」
「ち、そういうことか」
リュイシアさんは完全に僕の意図を理解し支持してくれた。ジナさんもそれで納得はしてくれた。しかし……。
「ただ、エマとの連絡がとれません……もう手遅れかも」
光壁は最後に弱々しく瞬き、そして消えた。だから僕たちの目の前に広がってるのは、ただ真っ白なサナダグンの、ナゾの内生生物の体表だけだ。多分外から見たら、レクア全土を包帯で覆ってるみたいに見えるんだろうな……包帯と怪獣ってなんかいいよね。
「エマ様もエルダ様も消息不明ですか~さすがにピンチですね~」
リュイシアさんの声は明るくて軽いんだけど、言ってる内容はかなり深刻だ。
「へっ。びびるんじゃねえ!あたいらの出番だってことだろ!」
「ジナ隊長、よくぞ言いました!今こそ我らの役目を果たすときです」
ジナさんは英士たちに向かって、シャルネさんも人族兵士に向かって劇を飛ばす。
「シアラ副隊長!3班4班の魔術支援は中止!人族の操作に全て任せなさい!」
「はい、司令。でも」
シアラさんが心配するのももっともだ。ただ、魔力を吸収する敵に対し風精霊の誘導はそれこそ精霊たちが危険すぎる。下手すれば魔力どころか存在すら奪われかねない。かといって、大型投射兵器を操る人族兵士は、この国を守る二大戦力の音信不通を聞き顔面蒼白。なんか士気崩壊寸前って感じ。あれじゃあ撃っても当たらない。いや、そもそも撃たずに逃げそう……。
「防衛隊のみなさん!あなた方も腹をくくってください!我らは既に一心同体。同じレクアを守るためと共に戦う兵士です!あなた方の家族を守るためには、あなた方の勇気が今こそ必要なのです!」
兵士たちの震えが止まった。逃げ出す寸前だった人族たちは、顔を青ざめたままだけど、それでもそれぞれの兵器の操作に戻ったんだ。
「……仕方ねえよな」
「シャルネ司令にここまで言ってもらえたんだ」
「ああ、死んでも本望さ」
「やるしかねえだろ」
まだ彼らの不安は去らない。恐怖は止まらない。だけど、自分たちの任務から逃げずに戦うことを選んでくれた。特別な力もない人族たちの、普通の小さな勇気に僕はちょっと感動してしまった。それを呼び起こしたシャルネさんにも。
「やっぱりシャルネ司令はすげえな」
「は~い、でもジナ隊長もなかなかでしたよ~」
本当です。敵は大きくて強くて、味方の戦力は少なくて、だけどみんな逃げずに頑張ろうとあがいてる。だから僕も。無知で無力な僕でもなにかできないかって考えてる。
光壁が消え、サナダグンの白いヒモがどんどん縮まる。このままだとレクア全土を締め付け、再議には壊す。さっきの決意にも拘わらず、そんな想像が僕の頭をうめ尽くす。
「全員、攻撃開始!」
しかしシャルネさんは違った。サナダグンを充分に引きつけ、その一点めがけて一斉攻撃を命じたんだ。その声は落ち着いていて僕の、この場のみんなの恐怖を鎮めてくれた。
ギギギギギ……びょん!大型投石器からは成形したタングステン弾が!
キリキリキリ……ピュ!弩砲からはオリハルコンの弩矢が!
ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!魔術を控えた英士たちの連弩からは次々と弩矢が!
「ははは!どこに撃っても敵だらけだ!」
ジナさんがハイになってるけど、まあ、間違いじゃない。しかしみんなの攻撃は一点に、さっきシャルネさんが撃った魔力槍の位置に集まってる。
タングステン弾や大小の弩矢は、当然だけど全弾命中!僕が見た限り素晴らしい集弾率だった。ヒモ状生物は長いけど薄いせいか、かなりのダメージに思える。その部分だけちぎれそうだ。
「攻撃を続行します!第二次攻撃用意!」
一発撃つ度に大変なのが大型兵器の欠点だ。それでも弩砲は改良のせいで、滑車を巻き上げ装填できる。魔族の連弩にいたっては十連発で、撃ち尽くしても弾倉を換えるだけですぐ撃てる。問題は投石器だ。こっちも滑車やらで装填速度は上がってるんだけど……さすがにまだ遅い。そこで偶数次の攻撃は、弩砲と連弩だけとなる。で、奇数次の攻撃が本当の一斉攻撃となるわけだ。ただし、狙点はもう定まってる。旧式の火砲みたいに一回一回反動で砲撃位置が変わったりしないおかげだ。その分だけ射撃速度は悪くない。
「撃て!」
再び放たれた弩砲の矢!連弩はもう打ちっぱなしだ。なにしろ光壁が展開してる空間は高度にすれば数十mだ。防衛隊たちにとって至近距離といっていい。
「いいぞ!もう穴が開いたんじゃねえか?」
ジナさんの言う通り、局所に集中した攻撃で、白いヒモの向こうに暗い空が見えそうだ。
「まあ、そうなんですけどね~それっていいことじゃないんじゃないですか~」
ドキリ。リュイシアさんの顔を見る。
「あ~だって、魔王様~街妖精様たちが逃がした相手ですよ~単純な物理攻撃だけで倒せるわけないじゃないですか~」
この言葉で僕の不安は一気に増した。そう言えば、エマ、なんて言ってた?「敵が多すぎて」って言ってなかったか?だけど……こいつは大きくても一体じゃないのか?
「第三次攻撃!撃て!」
サナダグンは体表からこのレクアの魔力を吸収してるせいか、一気にレクアをしめつけ壊さないよう、宙に浮いたままだ。だからこそ防衛隊も連続攻撃ができている。再び投石器がタングステン弾を打ち出して、もうボロボロになってた狙点の辺りが完全に千切れた。千切れて、その箇所が小さく散らばって地上に墜ちた。
「やったあ」
「ああ、やったぞ!」
「俺たちは勝ったんだ!」
魔族も人族も歓声を上げる。
「まだです!喜ぶのはヤツを完全に葬ってからです!」
シャルネさんの叱咤のおかげで、防衛隊も英士隊も手を休めず、再び給弾装填、射撃の流れに戻る。
「……隊長~具申します~英士隊の攻撃目標を変えてください~」
「ああ?なに言ってるんだ、副官?」
リュイシアさんは相変わらずの明るく軽い感じで続ける。
「ちぎれた部位が動き出しました~地上で植物を枯らしながらこっちに来てます~」
その指さす方向には、一反木綿の群れが見えた。いや、もちろん一反木綿じゃなくて、あの白いヒモ状生物の破片だったものだけど……サナダグン?群?そういことか!
「敵が多すぎてって、つまりこいつは千切られても分裂して動くんだ!」
しかも小さい部位は魔力に限らず土地や植物の養分を吸い取ってる。このままじゃあ、本体に巻き付かれて魔力をもってかれなくても、レクアの農産物は壊滅的だ!
「ジナ!英士隊に命じます!英士隊は地上に降りた敵群生生物を殲滅してください!」
「はい、司令!」
シャルネさんの判断は早かった。リュイシアさんの具申を聞きつけるや、間を置かず、本体は防衛隊の大型投射兵器で、ちぎれた分体群は英士隊で、それぞれを相手する指示を下す。
「第4次攻撃、続けます!ただし、狙点はここに!」
魔力槍ではなく、火球を飛ばしたのは、純粋魔力のマジックジャベリンより炎で発生する熱や爆風の副次的ダメージを期待したからだろうか?
命中し弾ける火球。その痕跡は、しかし前回とあまり変わらなかったように見える。
「……純粋魔力だけでなく、四大精霊がもたらす副次的自然攻撃ダメージも吸収ですか」
つまりは雷撃、火炎といった高い攻撃力を誇る魔術もおそらくは無効に近い。これはエルダたち妖精の天敵と言っていい。道理で二人そろって音信不通……ただ、僕は二人がもうやられてしまったとも思ってない。僕の契約妖精だ。同じ家で過ごす時間も増えた。彼女らが消え去る時くらいはわかるんじゃないかな。そんなの感じたくもないけど、今、すがりたいのはそれくらいだ。
「モーリ様!あそこを!」
シャルネさんが、火球をぶつけた場所を指さす。やっぱりなにも変わってないように見えるんだけど……シャルネさんの目が青く光ってる。魔法知覚で見てるのか?
「モーリ様!あの箇所にはわずかながら違和感を感じます!よく見ていただけませんか?」
シャルネさんの言葉に従って、僕は未熟な魔法知覚を働かせた。実はこれ、普段は隠してる僕の額の目の力らしい。だから使うの怖いんだよね。また三つ目になったりしないかって。だけど。
細部を見れば、他の部位が真っ平らなのに、この辺りはかすかに隆起している。まあ、この巨大さの中では誤差の範囲かもしれないけど、知覚を集中し探る……。
「……さすが、シャルネさん。いい勘してますね」
そこにはいたんだ。僕の大切な捜し物が。
そしてもう一つ。
ずしぃぃん……ずしぃぃん……。おっと、拡大した聴覚も、ついでに捉えた。
「オマケです。援軍が到着します!」




