第5章 脱出編 その5 レクア防衛隊、総進撃! 前編
第5章 脱出編 その5 レクア防衛隊、総進撃! 前編
じゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!じゃんじゃんじゃんじゃんじゃん!
会場に鳴り響くこの音は……半鐘だ。この困ったイベント(元老院主催!第一回デモンズラバーコンテスト♡)に強制参加させられてた僕としては、まあ、必ずしも凶報ではないけれど。
この建物……青雲堂……の家妖精が大声で叫んでる。何度か来たんだけど初見だね。
「街妖精エムリア様からの急報!街妖精エムリア様からの急報!……サナダグン接近!サナダグン接近!英士隊は北防壁に急行せよ!英士隊は北防壁に急行せよ!市民の皆さんは安全な場所にただちに退避してください!」
会場のみんなは、警報とともに動き出した。こんなやらせイベントに参加してたにも関わらず、さすがは魔族だ。僕は避難の指示をガイドさんにお願いした。
「マオマオ様~ごめんなさいなの~やってきたサナダグンが多すぎて逃がしちゃったの~」
そこで受け取ったエマの思念。最初に思ったのは「サナダグン」ってなに?だった。
この胃世界は、大山脈級の大きな竜の胃の中だ。その中にはいろいろな体内生物……オネエサンには内生生物だよって言われてる……がいる。
だから、まあ、前世で言うサナダムシを思い浮かべたんだけど、すぐ否定する。
あれは人間の消化管に住む、超細長い寄生虫だ。人体にいるのに10mってウソってくらい長い。ただ、そう、人間の寄生虫だ。古代は「寸白」だったかな?
だからまあ、竜の中にいるなら違うだろう。ただ……名前の由来は細長いことだ。あの有名な真田家の内職「真田紐」を連想させるそうで、だからこの敵も細長いんだろうって推測できた。
ここまで想像して、次のことを思い出す。
「敵が多すぎて逃がした」
エマがそう言ってた。多すぎ?
もしも前世のサナダムシに近い生物、つまり寄生主の5倍の体長の生物だったとして……世界竜の5倍?その体長は大陸級とか、下手したらこの星を一周くらいできちゃうんじゃないか?そんな敵が多すぎ?……なんか目の前が暗くなった。
「魔王様、参加者の避難、終了いたしました」
おっとガイドさんが報告してくれた。我に返って見回しても、参加者さんはもう誰もいない。
「ありがとうございます。あなたも避難してください」
これで僕も前線に向かえる。
「おい、まさか行く気じゃねえだろうな」
聞き覚えのある声がして、振り向くと、そこにはマスク姿の魔族さんがいて、その後ろにも数人並んでる。
「…………ジナさん?」
「ジナさんじゃねえ!まさか今の今まで気づかなかったのかよ!」
「僕に気づかれないようにマスクしてたんでしょう?なんで怒るんですか?」
「マスクぐれえであたいのことがわかんないなんて、薄情なヤツだからだ!」
マスクを脱ぎ捨てると、ウィッグもとれて金髪魔族のジナさんが怒ってる。相変わらず僕には理不尽に怒ってる。
「ジナ隊長も大変よね~」
「あんなイベントの会場警備にかり出されて非番はなくなるし」
「あんなイベントで魔王は鼻の下伸ばして喜んでたし」
「あんなイベントの日に外敵はやってくるし」
「何より魔王って、ほんとバカだし」
うわああ……英士隊1班2班のメンバーが声をそろえて僕をディスってる。あ~でも、非番の日を潰されたら誰だって怒るよね。せっかく増員して、当直、待機、非番の三交代制にしたのに、意味ないじゃん。これじゃブラック警備隊だよ。しかも緊急事態ともなれば全隊員は無条件で召集される。ジナさんたちも、この後前線にで行かなきゃいけないんだ。
「ジナさん。僕もこれから前線に急行します。エルダとエマの警戒網が突破されたそうです」
「だから!魔王のあんたが出てくんな!」
「いいえ!だって、今回の防衛任務はエルダとエマと、あなた方との共同作戦になりそうです。だったらシャルネさんはもちろんですが、僕自身がその場にいないと」
エルダが暴走でもしたら国が滅びます、なんて言わなくてもわかってほしい。
「ちっ……仕方ねえな。だけどあんたは絶対あたいから離れるんじゃねえぞ!」
ジナさんも今や英士隊の隊長だ。指名したのはシャルネさんだけど承認して任命したのは僕だ。ただ……それ以前、僕の警備役だったせいか、僕に過保護気味だ。
「……魔王、まだ気づかないよ?」
「自分が警備対象としては最悪だって自覚もないけど」
「そっちも無自覚かあ」
「隊長も司令も報われないわよね~」
う~ん。以前から思ってたけど、この子たちは防衛隊にしては空気が軽い。まあ、いくらブラック待遇だからって愚痴や不満を禁じるつもりはない。戦闘時は切り替えてるし。
「シャルネさんは?」
「司令は先行して、クラシアたちと合流したはず……副官!」
「は~い。あなたの副官魔導師リュイシアで~す。司令から合流したとの思念伝達を確認してま~す」
いたんだ、リュイシアさん。相変わらず存在感隠すのうまいよね。副官も兼任してるから当然だけど、でも彼女がここにいるってことは……。
「そうなんですよ~あたしの後任候補も二人入れて副隊長補佐にしたんですけどね~まだまだ頼りなくて~だから英士隊の最大火力にして最高知能はまだあたしのままなんです~」
「ち。こればっかりは経験値がものを言うからな。リュイシアくらいの年寄りは現場じゃ貴重だし」
「隊長~そこは年寄りじゃなく、もっと敬意を込めて熟練者とかって呼んでくださいよ~」
「はいはい。熟練者ね」
さすがは軍隊。以前はジナさんの方が敬語だったし今でも年下に変わりはないんだけど、やはり隊長になると上下関係は変わるらしい。見た目みんな若い魔族だから違和感はそれほどでもないけど。
ちなみに僕はジナさんに腕をつかまれ今も一緒に走らされてる。かなり速い。僕の転生体は優秀で、運動不足気味の生活でも英士に遅れずついていけるのは幸いだ。
その甲斐あって、狭いレクアの外周部、街の城壁にはすぐ着いた。
「英士隊、隊長ジナ他、1班2班到着しました!」
「ジナ!早かったですね。会場警備もお疲れ様」
で、一気に階段を駆け上がり、城門上の櫓にいたシャルネさんに報告だ。シャルネさん相手だと、ジナさんも相変わらず固い軍人さん。まあ、前任の隊長で今も上司だしね。
「シャルネ司令の迅速な行動には負けます!まあ、こいつの警備がなけりゃもっと早く来られたんですが」
シャルネさんは、今は元老で国防の任についている。まあ、抜擢したのは僕だけど、偉くなってもどこか初々しくて凜々しい美人さんのままだ。
「……モーリ様!?」
その美人さんが柳眉を逆立てる。え、僕、なにかした?
「どうしてこのような危険な場所に!前線はわたくしどもにお任せくださいといつもあれほど申しているではありませんか!」
「ほーら、司令にも叱られた」
「わかりきってるのに魔王って懲りないよね」
「シャルネ司令も大変よねージナ隊長も大概だけど」
ジロリ。シャルネさんの視線が見回すと、そんな声も自然に止んでいく。う~ん、さすがは元老の威厳か前隊長時代の躾なのか?
「ジナ隊長、どうしてモーリ様をお連れしたのですか?危険はわかってるでしょうに」
「はい、司令。いいえ。お言葉ですが討滅妖精様と管理妖精様が逃がした敵です。魔王モーリ自ら契約妖精様を指揮し、シャルネ司令と連携する必要があると申されては反論できません!」
上官への返事は必ず「はい」なんだって。その上で意見があれば後で「いいえ」。軍隊って面倒だね。さすが上意下達の権化。
「状況は理解しました……モーリ様、本当にこういうのはこれで最後にしてくださいね」
生真面目なシャルネさんだけど、ジナさんの主張を受け入れる度量はあるし、お互いの信頼関係も厚い。まあ、僕をジャマにしたがるのもわかるから、念を押されるのは仕方ない。
「もちろんですよ、僕だって危ないことは大嫌いですから」
だから、心の底から言ったんだけど。
なぜか額を抑えるシャルネさん。無言のままのジナさん。そして
「今の、前にも言ってなかったっけ?」
「司令も隊長もシワ増えちゃうんじゃない?」
「どっちもいい加減、責任とってもらわないとヤバイよねー」
「あんなイベントやる前に気づけっての」
やっぱり聞こえる魔族っ子の声。なに言ってるんだろう?シャルネさんは初めて会った時から全然変わらないし、ジナさんも成長こそすれシワなんかないぞ?
「あ~魔王って何にもわかってないって顔だよ」
「やっぱ二人とも報われないねー」
ドン!ダン!シ~ン…………。
シャルネさんが城壁を叩いてジナさんが石畳を踏んづけたら、みんな静かになった。
さすが軍人さん。さっさと切り替えろって無言の指示だね。なんか怖いけど。
「ジナ隊長は全隊員を掌握!戦闘態勢を整えなさい!」
「はい、司令!」
弾かれるように動き出し、副隊長たちの班を集めて武器やら防具やらを第一級装備にしている。つまりオリハルコンでフル武装だ。
「モーリ様、今のうちにエルダ様とエムリア様の状況をお話しください」
シャルネさんは、以前僕があげた専用装備を今も着用している。彼女に似合うよう要所を青く塗装したオリハルコンの長剣に籠手(マジカルスタッフ装備)、防具だ。キラキラ光って、見とれちゃいそう。
「……エマからの思念では、襲来したのはサナダグン。数が多すぎて逃がしたとか」
実は僕は思念を送るのは苦手だ。契約妖精の思念の受信はできるけど。ただ、向こうが勝手に僕の思念を読むことは多い。だから、なんとかなってる。ただ、今は続報が欲しいのに来ない。いつもなら向こうから察していろいろ教えてくれそうなのに。そういう事情までくみ取ったか、シャルネさんは難しい顔をしたままだ。
「サナダグン……厄介ですね。雄士隊が来ないと」
雄士隊。つまりは鬼族の部隊だ。
「そう言えば……来てませんね」。
「まだ再訓練中ではありますが、緊急時には召集されるはずです。伝令の風精霊は送ったのですが、ただ、魔術要素に劣る彼らは精霊による連絡は軽視する傾向がありまして」
う~ん、まだ防衛体制に問題ありかあ。そもそも、鬼族も人族も精霊が見えないのが当たり前だから魔族とは違うんだよな。思念伝達も僕とそう変わらないレベルだし。
「人族の伝令も送ったので、待つしかありません。ただ、前線では来ないかもしれない友軍は来ないものとして考えます」
家妖精ネットワークを使えば改善できそうだな。次回の課題だね。もっとも、今はそのネットワークの要の街妖精と連絡がとれない。どうしたんだろう?要領のいいエマに限ってそこまで心配じゃないだけど……いや、心配だな。それにエルダも。
ぶぉん、ぼ、ぶぁん……ぶぉん、ぼ、ぶぉん……ぶぉん、ぼ、ぶぁん!……レクアを覆う光壁を通して、アヤシイ音が近づく気配。
……長い。細長い。ひたすら長い。おそらくこのレクアを軽く包めるくらいの長さの、そんな紐状の物体が光壁を透かして見える。相変わらず、この胃世界の怪獣はファンサービスのカケラもない。見てて楽しくもかわいくもない。ただ、醜悪過ぎて吐くという心配がないだけ幸いだ。
「うん、ただの白いヒモだね」
サナダムシが古代「寸白」だったとすれば、こいつは「万里白」とか?なんか母を訪ねて海底二万里くらいなヤツだ。そんなものに動じないシャルネさん。さすが歴戦の隊長。
「防衛隊の皆さん、先制攻撃の用意を!」
「はい!シャルネ司令!」
元老院魔族第4席にして国防の総指揮を司るシャルネさん直々の指令に、城壁に並ぶ人族兵士は勇躍し、大型投射兵器の操作についた。やっぱり美人の指揮に官命令されるっていいよね。
大型投射兵器というのは、以前からここにあった投石器や弩砲を改良したものだ。まあ、ほとんど前世で言うところの中世の攻城兵器なんだけど、設計の見直しや素材の入れ換えで以前とは格段に操作性も命中精度も破壊力が上がった。連射性だけは、まあ、微増だけど、そこは防衛兵士の尽力に期待だ!
ワンダバなBGMが似合いそうな外見の投石器は、本体をオリハルコンで組み上げ、滑車式にして、石の代わりに成形したタングステン弾を使用する。以前のものとは重量で3割軽減、摩擦減と滑車で動力5割増、強度的には10倍以上あがったおかげで比重が大きいタングステン弾を打ち出せる。その威力は当社比5倍だ。弩砲もだいたいそんな感じで、本体や矢をオリハルコン、弦をミスリル鋼線に替えこれまた滑車の採用で、クレインクインアーバレストとして再生、当社比10倍は期待できそう。それらが10基も並ぶと壮観だね。そして照準補正と初速向上のために、シアラさん率いる英士隊3班4班が魔術を使う。風精霊が弾や矢と一緒に飛んで誘導してくれるんだって。
「全投石器、砲撃準備よし!」
「弩砲、同じく!」
「3班、4班、用意完了」
人族の防衛隊と魔族の英士隊の連携は問題なさそうだ。
「光壁を突破されたら、攻撃を指示します!それまでよく引きつけて!」
言ってるうちから、光壁が弱々しく瞬き始める。これ、危ない状態だ。光壁を展開してるはずのエマは大丈夫なのか?エルダはどこにいるんだ?メンタルが弱い僕に不安が次々押し寄せる。
そして……援軍はまだか?暗い胃空を白いヒモがヒョロヒョロ飛び回る。今にも消えそうに弱まった光壁を透かして見えるそんな景色に、僕は押しつぶされそうです。




