第4章 その18 赤いピラミッド
第4章 その18 赤いピラミッド
敵の改造人間らしい4体の鬼たちは一斉に僕をあざ笑う。正直、僕はここに来てからこういうのは慣れてるし、実際無知で無力だから怒る気にもなれないんだけど。
「モーリ様、お怒りはごもっともですけど、ここは私どもにお任せください!」
なぜかシャルネさんの方が怒ってるんじゃないかな。ジナさんも顔が怖い。なんでだろ?
「僕は平気ですよ」
なんて言っても聞く耳もってくれそうにない。まあ、どっちにしろ僕の推定戦闘力は1以下だからおとなしくするしかないんだけどね。
「みんな!敵の連携を断ちます!各班ごとに一体を倒すのです!」
英士隊は20人の部隊だ。そして5人一組の4つの班で組織されてる。
「第2班は白、第3班は青、第4班は黄色の鬼を!」
しかし第1班は少し事情が違う。隊長のシャルネさんが班長も兼ねるからだ。なんて言うんだっけ?部隊本部要員みたいな感じなのか?
「第1班はわたしとともに赤い霊鬼を倒します!モーリ様も1班に!……リュイシア!」
副官魔導師もここに属する。だから、5人いても実は班員そのものは3人しかいない。
「は~い。あなたの副官魔導師リュイシアちゃんですよ~」
「早く!」
「隊長、余裕な~い。ダメですよ、こういう時こそ、ゆとりが大事なんですって」
「リュイシア!」
「はいはい~みんなは隊長の指示に従って~。でも、危険を冒して倒す必要はないから~1班以外は。でもね~1班は隊長直轄の最精鋭だから~こういう時は最速で目標を倒し、他の班の援護に回るんですよ~」
隊長と副官がいる変則編制の1班だけど、最精鋭なんだ?
「あ~、あと魔王様の護衛は、このリュイシアが務めますんで隊長は安心して前衛に。ジナはその支援、クラシアとシアラは後方から援護を~」
ジナさんたちって、その最精鋭なの?長期にわたって僕なんかの護衛をやらされてたから、半ばいらない子なのかなって心配してたんだけど。
そんな僕の疑念とは無縁に、英士の動きは素早かった。もともと班ごとに隊列を組んでいたんだろうけど(情けないことに僕にはそれすらわからなかった)、シャルネさんの最初の指示で鬼たちを分断し、いまは班ごとに鬼1体を包囲している。1班以外は。
1班、つまりシャルネさんたちだけが違った。リュイシアさんの軽~い指示に従い、シャルネさん自ら接近戦に持ち込み、その傍らにジナさんが、少し離れた位置にクレリアさんとシアラさんが、その背後に僕とリュイシアさんがいる訳だ。
「魔力矢!」
「氷弾!」
クレリアさんが放った白銀の矢が、シアラさんが放った氷の弾丸が赤い鬼へ向かう!さすが魔族。攻撃魔術の投射も早い。だけど、二人の放った攻撃魔術は目標から大いにそれて、壁に、アラベスク模様に吸い込まれた。
「そんなもの、この炎霊鬼に効かぬわあ!」
「ウソ」
「あーずるいよ、ここ魔術が効かない場所なんだぁ」
なんて言ってる二人をリュイシアさんがたしなめる。
「少し違いますよ~投射式攻撃魔術の魔力を奪ってるだけです~ちゃんと支援術式に徹してれば問題ないです~だから後方から援護してって言ったじゃないですか~」
「そういう援護?」
「もう、はっきり言ってよ~」
なんて言いながら、二人とも「筋力増強」「俊足」なんかの支援系に切り替えて、シャルネさん・ジナさんに投射してる。切り替え早いね。
周りを見れば、他の班でも同様だ。ただ、「鈍足」「弱化」なんかの弱体化術式を投射して失敗してる子たちもいた。鬼たちに魔力抵抗されたらしい。だいたい3,4人で敵に接近し、2人か1人が支援術式に徹している。
「1班って接近戦がシャルネさんとジナさんだけで大丈夫なんですか」
さらに言えば、正面に立つのは隊長のシャルネさんだ。部隊としては問題じゃないのか?
「まあ、隊長は大丈夫でしょ~ジナもわかってますし~」
その軽い口調は不安でしかないんだけど。
「くらえい、炎十字ぃ!」
炎霊鬼と名乗った赤い鬼が、両腕を前に出して熱戦を放つ。フ○イアーク○スか?
それをぎりぎりでかわしたシャルネさんだ。いや、かわした後、そのまま長剣を前に突き出す!
「ふん!」
しかし、炎霊鬼の腕にはじかれた!オリハルコン並に固い?ウソだろ?だけど、そこに背後からジナさんが斬りかかる!いい連係攻撃だけど!
「あっちい!」
うわあ、赤い鬼が両腕を広げると全身が真っ赤に光りだした。熱そう。オリハルコン装備でなかったら、燃えてるか溶けてるかしていたかもしれない。で、そこから腕を前に突き出すと赤い球体が出現し
「炎閃っ!」
と叫ぶや赤鬼はそれを投げつけた!……ファ○アーフ○ッシュか!?火球がシャルネさんを襲う!それを長剣で迎え撃つシャルネさん!
「紅炎剣(プロミネンスソード!)」
シャルネさんの剣が真っ赤に燃える!敵を燃やせと輝き叫んで!?
オリハルコン特有の金色を紅炎に変えて、その輝きが火球を切り裂いた!爆風の後、だけど……シャルネさんの姿は、あちこち火傷だらけで。
「隊長!?」
「冷やせばいいんだよね?冷風とか?」
しかし、シャルネさんは心配する部下を叱ったんだ。
「わたしの手当は後です!今は敵を倒すことを考えなさい!」
って。シャルネさんの側に駆けつけようをしていたジナさんは、それで向きを変えた。
「よくも!」
ふたたび炎霊鬼の背後に回って斬りかかったんだ。大技の後のせいか、炎霊鬼は面倒くさそうに振り向き、腕で攻撃を防ぐ。
「……スタミナ」
「隊長~……加速!」
クレリアさんたちも再び支援魔術に切り替えた。それでシャルネさんは動き出した。でも……支援魔術を受けてすら、やはりその動きは鈍っているように見える。
「リュイシアさん、なにか治療する魔術ってないんですか!?」
「あたしたちは敵を倒して国を守る部隊ですから、そういうのは専門外なんですよ~」
治癒魔術は魔力効率が悪いそうで、同じ魔力を使っても攻撃術式の半分以下しか治らないんだって。そもそもレクアを襲うあんな怪獣たち相手に回復できるレベルのケガですむなんてめったにないし(死ぬか無傷か……ひどい二者択一だ)、だから普段は、戦闘が終わってから、治癒が専門の魔族に直してもらってるとか。そういうことを相変わらずの軽い口調で話すリュイシアさんは、戦闘中なのに既に戦闘を見てもなかった。
「みんな戦ってるんですよ?なにか打つ手はないんですか?」
「う~ん……ここがこうで、これがこうなって……精霊の力を魔力に変換してるからには……○×△□がXYZで……」
僕には意味不明のことをつぶやきながら、固い地面に魔杖で何やらひたすら刻んでる。
「リュイシアさん、仲間が危ないんですよ!」
「あ~魔王様、もう少し黙ってて~え~と……」
副官魔導師ってなんだ?ただの「解説者」なのか?
「☆が◇で¥が$で」
でも……僕もそうだ。魔術どころか普通に戦うことすらできない無力な自分に腹が立つ。なにか、できることはないか?本当にないのか?
ジナさんが正面にまわり、動きの鈍ったシャルネさんが炎霊鬼の脇や背後に回り込む姿勢を見せる。それを嫌がる鬼をジナさんが攻めて、シャルネさんが援護して、でも攻めきれない!むしろ、今、炎の拳がシャルネさんの頬をかすめて!畜生!せめて練成炉からオリハルコンの塊でも投げつけてやる!その時だった。
「ぽん、そうかあ~そうきたか~……魔王様、お待たせしました~なんでしたっけ?」
戦ってる場から少し離れてるとはいえ、大広間の床を埋め尽くした謎の文字を書き終えていた。
「あ~これですか~あたしは副官魔導師ですから~」
「説明になってません!」
「あ~つまり、この戦闘に最適な魔術をつくってたんです~」
は?魔術ってそんな現場でつくるものなの?毎回、出動の度にうんうんうなってつくるの?
「ですから~あたしは魔術で味方を導く魔導師ですから~」
定型の術式を唱える魔術師ではない。そういう意味なのか?
「でも、みんなが、シャルネさんが大ピンチなんですよ!」
これじゃあ、今までリュイシアさんの活躍を見なかった訳だ。
「ま~最近は魔王様のとこの契約妖精さんが出張ってたんであたしの出番がまわってこなかったんですけどね~」
「ジナ!」
シャルネさんの声に振り向けば、ジナさんが炎霊鬼の「炎十字」をくらっている!あの光線、炎系のくせに妙に電撃っぽくてよけにくそうだ。
「それは鬼族の魔闘技ですから~」
説明になってない!いや、つまり純粋な魔力じゃなくて鬼の闘気のせいで特殊効果がついてるってことなのか?うん、でも、その追究は後にしよう。シャルネさんが待ちかねてる。
「隊長~あたしの準備できました~」
「リュイシア!待ってたわ!」
「はい~お待たせしました~クレリア、シアラ……ジナも生きてたら方陣をつくりなさい~」
「聞こえたなら行動しなさい、ジナ!クレリア!シアラ!」
シャルネさんの叱咤にみんなが応える。
「まだ生きてますよ、隊長に副官殿!」
「了解」
「待ってました!じゃあわたしはこっちに行くよ~」
4人は4方に散って、身構えた。傷ついてるシャルネさんもジナさんも、離れた位置にいたクラシアさんもシアラさんも、それはもう、一糸乱れぬ動きで、炎霊鬼が一瞬戸惑うほどに。しかし、あくまで一瞬。次の瞬間、炎霊鬼の全身は再び赤く輝いた。
「またファ○アーフラッ○ュか?」
と思ったけど動きが少し違う。
「炎爆走!」
フ○イアーダ○シュか!?自らが火の玉となって突撃するのか?
「あ~もうこのあたしが自由にはさせませんよ~」
リュイシアさんが魔杖をふるうや、炎霊鬼の足元が融け、それで足をとめられた。
「何事だ?」
「火には火を~熱には熱です~だから魔王様~この子借りますね~」
「ぼぉ?」
サラ?僕の背中にはりついていた火精霊をリュイシアさんが素手であっさりつかんだ。
「え?はい!サラ、いいね?」
とっさに疑問は浮かんだけど、それを飲み込んだ。この子は強気な子だから自分の意志とかタイミングと違うことはイヤがるんだけど。
「ぼぉ!」
炎霊鬼の胸の中央をにらんで力強く返事してくれた。あそこには……きっとこの子の仲間がいた。赤毛のボブでつり目気味のサラ。その体は、小さくてもその元気は誰にも負けない。
「火精霊ちゃん~いい子だからあそこに飛んでくれる~」
「ぼお!」
リュイシアさんが示したそこは、1班のみんながつくった正方形で、炎霊鬼の真上。ピラミッドの頂点だった。サラはむしろ待ちきれないみたいな勢いで飛んでいった。
その間、炎霊鬼は融けていく地面からなんとか足を引き抜いてたけど。
「隊長~いきますよ~」
「早くしなさい!」
「はいはい~あなたの副官魔導師の大活躍を~その目でしっかりと見ててください~」
「だから早く!」
「はいはい~」
シャルネさんは「はいは一回」って言い足そうな目をしてたけど、それをこらえて魔力を高めてるみたいだ。怒りが熱を呼んでるのか、全身が火の精霊力に満ちていく。ジナさん、クラシアさん、シアラさんもそれぞれの持ち場で赤い光に包まれ、その赤光は頂点のサラに向かってる。まるで赤いピラミッドだ。でも、相手が火の精霊の改造人間なのに、火で対抗していいの?こういうのって、精霊の相克とかが有効なんじゃないの?火には水とか、風には土とか?
「それは正論なんですけど~」
わ、考え読まれてる?
「この場合、相手の力を消すんじゃなくて利用した方が楽なんですよ~だから火には火なんです~」
何でも、体内に巨大な精霊力を持つ相手に、それに反する精霊力をぶつけても弱めるのが精一杯で、だったら相手の力に上乗せして、さらに力の方向性を反転させて自滅させるのがこのピラミッド陣の目的らしい。
「ええい!今度こそくらええい!炎爆走!」
なんか両腕を奇妙にまわすと、炎霊鬼の全身も真っ赤に輝き、前方に光となって放たれた。
「は~い、それを待ってました~」
で、喜色満面で迎え撃つリュイシアさん。
「火は火元へ~」
長い魔杖をまるでバトンのようにくるくるまわしてる。
「精霊は精霊界へ~」
魔杖そのものが赤く輝き、なんかファイアーダンスっぽい。赤いピラミッドはさらに赤くなり、そこに炎霊鬼の放った赤光がぶつかる。
「世界は循環からなっている~火は火へ~火炎は火炎へ~精霊よ~精霊界へ帰るのです~」
ぶつかった赤光は、ピラミッドの頂上へ、サラの元へ跳ね返って!
「サラ!?」
「ぼぉ」
小さな火と化していたサラは、その赤光を吸い込んでいった。けっこう普通に。
「ぼぉ!」
そして、サラから大きな火が、吸い込んだより数倍大きい火が降りる!
「ふん」
その火が炎霊鬼を包むのだけど、効いてないみたい……いや?
「ぼぉ」
「ぼぉ!」
いつの間にか、炎霊鬼の、あの不気味な精霊印が消えている。サラの呼びかけに応えるかのように、火が精霊の形になっていく。
「ぼぉ!」
「ぼぉ」
炎が小さな精霊の姿に凝縮されて。上に、いや、天に昇っていく。サラが手招きするかのようだ。そして、二人の精霊が手をとりあって……サラだけが残った。おそらくあの子は帰ったんだろう。故郷へと。
「ぐわああああ!」
胸の精霊印を失い遺された炎霊鬼は、いまやただの鬼だった、火に包まれて焼け落ちていった。赤いピラミッドが消えた後、そこには灰だけが残っていた。
リュイシアさんが僕の精霊たちを次々使って、他の3体の霊鬼たちを倒すのに、さほど時間はかからなかった。




