第4章 その17 現れた四人衆(かいぞうにんげん)
第4章 その17 現れた四人衆
明るい。どうやらここは常時明るい場所らしい。火精霊灯が静かにともってる。先行していた魔族っ子もいったんここで合流した。
「……ど」
「ここは大広間ですかね~?天井も高い~」
いつの間にか僕の隣に並んでるリュイシアさんの言う通りです。
地下なのに、吹き抜けになっていて、階段や上の階が見える。
しかも装飾がすごい。壁から円形の天井まで、アラベスクがもう、偏執的なくらいにぎっしり埋まって一片の隙間もない。無限につながるかのような幾何学模様は、一度見てしまうとなかなか目が離せない。てっぺんまで飛んだシルネが目を回してるくらい。
「どうもこの装飾、気になりますね~」
リュイシアさんが壁に近づいてる。興味津々だ。芸術が好きなのか、癒されてるみたいだ。ここ、まさか保養所じゃないよね?アジトじゃ、保養所をつくって人員を休ませないとストライキやらケンカやらの事件を起こされてしまうんだ。今にして思えば僕の会社よりよっぽどホワイトだね。
「ぴゅ!」
「え?敵?」
保養所じゃなくて保安室の方だったか。あれ、ってことは配置されてるのは……アレかも?
「魔王様~なんか楽しそうですね~」
「副官殿、こいつはヘンタイなんですよ」
ひどいや、ジナさんと思いながら僕はいつもの罵倒に耐えた。
広間の奥に続く通路から、足音もなくゆっくりと現れる人影が見えた。大きなツノに雄偉な姿。鬼だ。ただし……両のこめかみに小さなのが。そして両耳の上から巨大なツノだ。キャッホー!
「4本ヅノの鬼!改造人間だあ!」
思わず叫んだ僕の足をジナさんが蹴飛ばした。なんで?痛いんですけど?
「バカ!味方が驚いて動揺したらどんすんだ!」
「サイテー」
「しかも魔王、なんだか喜んでなるみたいだし~」
みんな、冷たい。とはいえ、精鋭の英士隊がざわついてたら僕のせいだ。だけどそんな隊を叱咤する声。シャルネさんだ。
「落ち着きなさい!敵は一人。しかも素手です、恐れるに足りません!」
その声は波紋のようにあたりに広がり、周りを落ち着かせた。さすが、シャルネさんとそのお仲間たちだ。もう、ひれ伏したいくらいだね
だけど、そんなみんなの努力をあざ笑うかのように事態は動く。
「影が分かれました!?」
「背後に潜んでいたのか?」
暗く狭い通路から明るい広間に入った途端に、火精霊灯がまるで怯えたかのように大きく揺らめき出す。それに照らし出された4つの影。
「影分身?改造人間で忍者なんだああ!変○忍者ア○シなのか!?」
今度は思いっきり頭を殴られた。ジナさん、容赦なさ過ぎ。
「鬼王の側近たちですか?降伏しなさい!魔王モーリ様は寛大なお方です。あなたたちが抵抗しなければ身の安全は保証します!」
シャルネさんが僕を押したててくれるのはうれしい。だけど、敵も味方も僕なんかを重要視していない。優秀なシャルネさんがそこに気づかないのが不思議だね。
「既に雄士隊長フレダンは討ち取りました!たとえあなた方が改造されていたとしても我々に勝つことはできません!無駄な抵抗はやめなさい!」
広い空間にシャルネさんのリンとした声が響き渡る。しかし、それでも影たちは動じなかった。その姿は既に影ではなく。
「我らをフレダンなどと一緒にするな」
鬼だ。4本ヅノの鬼だ。その上半身は見事な筋肉に覆われている。ただ……胸の中央に。
「所詮、アイツは新参者の下っ端」
なんだろう……シルネが怯えてる。サラも、ウディアも、ノルンも?
「変化したてであれば、時間稼ぎがせいぜいだろうよ」
なんだ、このイヤな感じは?さっきは僕を守ってくれた精霊たちが、今は僕なんかの背中に隠れてる?
「我らこそは原初にして最後、そして最強の守り手なのだ」
4体の鬼の角は、よく見れば、それぞれ色が異なる。赤、白、青、黄。そして、その胸の中央には……同じ色の痣がある。魔王斑……じゃあ、ない。もっと大きくくっきりしてる。だけど、あの形はまるで……。
「ぴゅ~」
「ぼぉ~」
「しゃ~」
「ど……」
シルネたちが泣いている。あれは、小さな人の、そして羽根の……つまり精霊の形だ。僕の右手の魔法斑が、アルビエラ母さんの印章が勝手に光って、僕に教えてくれた。僕の魔法知覚を通して。
「精霊印……生きた精霊を刻んだのか」
それは禁断の練成魔術だ。捕まえた精霊を魔族や鬼族、人族に刻みつけ、さらには全身に魔結晶の粉で呪印を埋め込む。精霊の力を触媒にして自在に周囲の現象魔力を呼びよせ、呪印は己の生体魔力を増幅し、その両者が結びつくことで、処置をなされた生物は魔力も体力も全てが爆発的に進化する。それは魔族を霊魔へ、鬼族を霊鬼へと。
「……進化?これが進化?……練成魔術師が忌まれるわけだ」
改造人間をみた感激が、すっかり冷めてしまった。刻まれた精霊たちの聞こえない悲鳴が、僕の背中で泣いているシルネたちの声が、僕の胸をしめつける。
「まったく、衝撃者や血愚流魔党の改造人間なんかかわいいもんだ」
さっきまでの興奮はもうどこにもない。精霊は、自然そのものの象徴だ。だけど、その自然との調和もなく、こんな醜悪な形で一方的に利用するだけの、そんな進化も改造も、僕は認めない。道理で4人いるはずなのにハカ○ダーカラーじゃないわけだ。
「鬼王……許すもんか」
だけど非力な僕の声は、4体の「霊鬼」に笑われるだけだった。
「クックク……鬼王様に取って代わられただけの弱者がなにを語るやら」
赤い「霊鬼」が笑う。
「まさにまさに。あれがごまめの歯ぎしりと言うものか」
青い「霊鬼」が嘲る。
「いや、蟷螂の斧とも言うぞ」
白い「霊鬼」が侮る。
「いやいや、石亀の地団駄であろうよ」
黄色い「霊鬼」が軽蔑する。
「偽魔王はイワシかカマキリかカメか?どれがお似合いなのかのお。いや、これは迷うわ」
再び赤い「霊鬼」が笑うや、そろって嘲笑する4人の鬼たちを、僕はそれでもにらみ続けた。たとえ僕がどんなに非力でも自分から負けない限りは無力じゃないと思うから。




