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第4章 その15 神殿の決闘

第4章 その15 神殿の決闘


 風精霊シルネの誘導と土精霊ノルンの道案内のおかげで、僕たちは見つかることもなく街の中央部を通り抜け、無事に湖の神殿にたどりつくことができた。途中、水門から潜入するために水精霊ウディアが水流を止めてくれたり自分だけ見せ場がないって火精霊サラが怒ったり、いろいろあったけど、詳細は省略だ。

「モーリ様の子飼いの精霊たちは随分と賢いのですね」

なんてシャルネさんがほめてくれたのはうれしい。最初は下位種の小精霊くらいだったのに、みんなとっても成長早かったんだよね。エラい、エラい。

 神殿の石壁には、内側に大きな壁画が描かれていた。最初に来た時は気づかなかったなあ。暗かったからかな?

「これは我が国の建国神話を描いたものです。ご興味がおありかもしれませんが……」

すまなそうに僕に謝るシャルネさんだ。

「いえいえ。僕こそ、作戦中にすみません。急ぎましょう」

「バカ。急ぐのはおめえだけだ」

「集中力なさすぎ」

「魔王、もっと真剣にやってよ。もう敵地にはいってるんだから」

「すみません」

 頭を下げて急ぐ僕だけど、その視界の隅っこには、一柱の美人さんの絵が映っていた。どことなくエスリーたち三姉妹に似てる。お母さんかな?

「ぴゅ」

「あ、シルネ……そっちだね」

 鬼王の潜む場所は……本殿の方だ。湖をはさんでちょうど僕の家の対岸あたりだと思う。薄暗い空とは無縁に、とてもきれいな青緑の湖。僕はここからレクアにあがったんだ。懐かしくはないけど、不思議な感じだ。

 湖岸は白砂で覆われて、随分離れた位置にいくつかの建物が並んでる。随分と面積とってるなあ。

「ぴゅ」

 で、シルネが指さす方向にはひときわ巨大な建物があった。巨大といっても、まあ、レクア基準だ。つまり、二階建てくらい。でも横幅がすごい。そして飾りや彫刻も。色こそ塗られていないけど、それは街みたいに竜酸雨で消えたんじゃなくて、建材の美しさを見せるためだって思う。

「ぴゅ」

「え、ここ、違うの?」

「ぴゅ」

「あっち……小さい方か」

 シルネが指すのは本殿の脇にある、小さな社だ。

 材質は本殿と同じみたいだ。白くて、きらきらした石材だ。小さいながら、瀟洒な彫刻があちこちにあって、なかなか凝った作りに見える。

「すあんづああああぶれいづおおおおお!」

「わ!?」

 社に見とれていた僕に向かって、謎のかけ声とともに稲妻が襲ってきた!

「ぴゅ」

「どん」

「しゃ」

「ぼぉ」

 その時、僕を囲む4体の精霊たちが僕の前で四方陣をつくった。シルネは白、ノルンは黄、ウディアは青、サラは赤。輝く小さな両手から4つの光が僕の前で重なって、稲妻をはじき返したんだ。

「ありがとう~助かったよ」

 腰が抜けそうな僕をジナさんが支えてくれた。

「すまねえ、護衛のあたいが気づかなかった」

 珍しく僕に謝るジナさんだけど、「仕方ないですよ」って返した僕です。僕が油断してた

のは確かだし。

「彫像」

「ほんとだ!彫像に紛れて見過ごしたんだあ~」

 神聖な神殿内ということもあって「周辺探知サーチ」の魔術をしてなかったせいらしい。

「何者です!」

「この俺様を見忘れたかあ!」

 で、シャルネさんの誰何に答えたのは、大きなツノの巨漢の鬼族だった。

「我がサンダーブレードを新調するため一足遅れて参陣すれば、怨敵自ら押し寄せる場面に出くわすとは、これぞ天佑!」

 ええっと、なんか聞き覚えがある声だなあ。

「あ、雄士隊のフレダンじゃないか?」

「あ~」

「あいつ、まだ生きてたんだ~ってか、隊長のくせに自分の都合で一人居残りってるってどういうこと?」

 あーあの人。僕が湖底から浮上した時に最初に会った人の。ってか鬼の。だけど。

「フレダン隊長!そのお姿はいったいどうなさったのです!?」

 シェルネさんが驚くのも仕方ない。僕も顔は知ってるつもりだったけど……いろいろ違う。今の彼は三本ツノだ。そして右肩から腕がもう一本。つまり腕も一本多い。体格だって以前より二回りくらい大きくなってる気がする。目の周りの模様は、まあ、アイシャドウ……ってことはなさそうだ。

「鬼族の成長期ってすごいんですね」

「バカ。んな訳あるか!」

 やはりそうなのか。つまり、自然な成長でないとしたら!?

「じゃあ改造ですか!フレダンさんは鬼王配下になって改造され、めでたく改造人間になったんですか!」

「めでたくねえ!」

「バカ?」

「魔王ってこういう話好きだよね~ヘンタイじゃない?」

 そんな彼女たちの声は僕には届かないけど。

「そうだあ!俺様は鬼王様に忠誠を誓い、その信頼厚い腹心として最初の改造手術を受けたのだあ!」

「ほら、改造だって!記念すべき改造人間一号だって!」

「なんの記念だよ!」

「……やば」

「この魔王、自分も改造されたくなって向こうについちゃうんじゃない?」

 そんな訳はない!だって今の僕は、12体の魔王の体の合成体。いわば合成人間だ!これ以上改造されるキャパはない。別に残念じゃないぞ。

「落ち着いて、みんな。特にモーリ様!」

 いえいえ、僕は落ち着いてますけど?

「たとえ鬼王に強化された改造鬼族だとしても、みんなでかかれば敵ではありません!」

 そう言えばそうか。秘密戦隊でも5対1なのに、こっちは戦力外の僕以外に20人

の精鋭がいる。

「……シャルネ、卑怯だぞ!キサマも英士の隊長ならば、隊長同士一対一で勝負しようではないか!」

 なに言ってるんだ?そっちから不意打ちしてきたくせに、改造鬼族相手に一対一だって?誰がそんなこと聞くか!しかもあの武器って家宝の業物なんだろ?

「いいでしょう。かつてはレクアを守るためともに戦った仲間。引導くらいはこの手で渡して差し上げます」

「待ってよ、シャルネさん!?」

 慌てて止めたのは僕だけじゃなかった。英士のみんなが口々にシャルネさんを心配してる。

「いいえ。鬼王なる者がいかなる難敵を従えていようと、我ら英士はモーリ様のお味方としてそれに劣らないということを実力で証明してみせます」

 シャルネさんって、強くて賢くて信頼できる人だけど、誇り高い人だってことを僕はまだよく知らなかったようだ。

「ご心配には及びません、モーリ様。わたくし、勝算なき戦いを挑むほど愚かではありません」

「でも、あいつはあんなに大きくて強そうで」

「モーリ様がわたしにくださったこの武具の前には、全て無意味ですよ」

 シャルネさんは部下たちも抑えて、一人前に出た。青い鞘から、長剣を抜く。その時、剣身がきらめき、薄暗い空が一瞬だけ青空に見えた気がした。

「隊長の魔力が剣にこもってる……すげえ」

「技も魔力もさすが」

「オロハルコンに魔力を込めるって難しいのに」

 この世界のオリハルオンであるところのマジカルファインセラミックは、硬度耐久性耐熱性にいたるまで最高の素材だけど、魔力伝導率についてはミスリルの方が上だと思う。

僕の製法がまだ不完全なのかもしれない。一方、フレダンのもつサンダーブレードはミスリル製だ。その点では不利。ただ、鬼族と比べ魔族は魔力が多いから有利かもしれず、でもフレダンの改造が魔力量にも影響していればわからない。

「能書きが多いわりにゃあ、たいした結論じゃねえな」

「ムダ」

「まー魔王ってだいたいそうだよね~」

 聞こえてません!

 ギラッと光る巨大な両手剣クレイモアに僕の不安が増す。マジックアイテムって使用者に合わせてサイズを変えるって本当みたいだ。

「フレダン殿!勝負!」

「よくぞ受けて立った!誉めてやる!」

 女性にしては長身だけど、やっぱり華奢なシャルネさんと、改造されてさらに巨漢になったフレダン。体格差は圧倒的だ。当然、武器の間合いは明らかに向こうが上。ただ、フレダンは防具らしい防具を身につけていない。上半身にいたっては薄い布鎧くらい。シャルネさんの防具は手甲に脚絆、同体部の防具もオリハルコン製だ。磁器みたいなものだし、敵からの魔力も電気もまず通さない。軽さと頑丈さも最高で、僕の自信作だけど実戦ではどうか?

「うらああ!ゴーリキサンダー!」

 フレダンの雷光がシャルネさんに迫る。いや、あれにはヤツ自身の魔力もこもった、いわゆる魔闘技だと思う。

「は!」

 しかしそれを切り裂くオリハルコンソード。え?切った?稲妻切った?

「なに同じこと2回も言ってんだ?」

「それ、大事?」

「あんたねえ。自分のつくった武具をもっと信用したら?」

 磁器は電気を通さない。だから前世でも電信柱の要所に使ったりしてたはずだけど。

「でも、あれ、魔法の稲妻ですよ?」

「だから隊長も魔力を込めてんだろ」

「あ」

 次々と放たれた稲妻のことごとくを切り、時に受け流すシャルネさん。まともに食らったのは一撃もなく、しかも次第に間合いを詰めていく。

「なめるなああ!」

 近づいたシャルネさんに対し、フレダンは上段から巨大剣を振り下ろす!火花がまとわりつく巨大な剣身!あんなの食らったら!?しかしシャルネさんは早かった。振り上げた彼女の長剣は、振り下ろされた一撃が落ちる前に、既にフレダンの右腕を切り上げ、さらには返す刀で額のツノをも切断した。その場に血しぶきが散る。

「ぐああああ」

「……改造で増えた腕とツノだけを切り捨てました。普通の鬼族として暮らす分にはちょうどいいでしょう……」

 スチャ。剣を振って血糊をとばし、納剣したシャルネさんはとてもかっこよかった。防具の塗装に抑え気味に青を使ったのがさらに彼女の凜々しい美貌をひきたててるね。

「隊長~サイコーです!」

「死ぬまで離れません!」

「もう、隊長がレクアを支配してくださあい!」

 う~ん、なんか一種の軍閥化が進んでる気がするけど、いいや。シャルネさんだし。

「ぴゅ」

「え?油断しちゃダメ?」

 シルネが指さす。フレダンの切り飛ばされた右腕にまだ握られたままのサンダーブレード。それはシャルネさんをはさんでちょうどフレダンと一直線だ。そして、まだ火花を?

「シャルネさん!そこから離れて!」

「ぐあははは!サンダーブレードォ!」

 なんと?血まみれながらも立ち上がったフレダンは左手で背中からもう一本の大剣を抜いた!そして残ったもう一本の右手とともに、振り下ろされた剣から再び稲妻を放ったんだ!その雷光は、シャルネさんの向こう側の、もう一本のサンダーブレードからも!

「くらえ、必殺のダブルサンダー!」

 なんだ、そのヒーローの合体技っぽい必殺技名は!?

「やべえ、稲妻に挟まれる!?」

「隊長!?」

「アイツ、なんで平気なのよ~腕もツノも切られたのに~」

 磁器は電気を通さないけど、電圧が高い場合は万全じゃない。しかも両極から同時に来た場合はオリハルコンでも危ないかも!

「え?」

 だけど、周りの、特に僕の慌てる様と無関係に、シャルネさんは地面に伏せた。それはもう、一瞬の遅滞もなく。そして、その上を通り過ぎる稲妻……。二筋の雷光は一本になり、それはその源へと集約されて。

「ぐわああああ」

「フレダンの黒こげのできあがりかよ。さすがはシャルネ隊長だぜ!」

「冷静」

「改造人間も鬼王も魔王も全部、隊長の敵じゃないわ~」

 あれ、僕も退治される方に入ってる?まあ、僕が悪の首領でも、シャルネさんに退治されるんなら本望だけど。

「シャルネさん、勝ったのはお見事ですけどやっぱり隊長自ら危険を冒すのはいけないですよ」

 部下に取り囲まれてるシャルネさんに、僕はつい苦言を呈した。

「……おめえが言うな、バ~カ」

「前科者」

「魔王本人がこんなとこまで来てるのに、よく言うよね~」

 うう。ごめんなさい。

「先ほども申し上げましたが、勝算があったのです」

 シャルネさんが見極めたのは、フレダンの身ごなしらしい。

「以前より力押しの目立つフレダン殿でしたが、それでも今の姿には不自然なものを感じました。おそらくこの姿になって間がなく、修練もしていなかったのでしょう」

 で、パワー自慢の敵相手に多数で挑むよりは、むしろ自分一人の方が損耗なしでくぐり抜けられる、って考えたんだって。

 考えてみればそうか。改造手術の後に、体格が変わったり新しい器官が増えたりしたら、それに慣れるだけでも訓練がいるだろう。ふつうの体の僕たちだって利き腕とそうでない腕では筋力や操作性に差が出ちゃうくらいだ。そう考えれば曲がりなりにも二本目の右腕を動かしてただけでもたいしたものかもしれない。誉める気にはなれないけど。。


 焦げたフレダンは、まだ煙を上げたまま倒れている。

 僕はこいつが復活して巨大化しないか見届けてたんだけど。

「モーリ様、なにをそんなに興味深げにご観察なされてるのですか?」

「いえいえ!期待なんかしてません!」

 幸か不幸かフレダンは意識を失いながらもまだ生きてた。しかし、こいつ相手にまともな尋問をする気にもなれず、僕は練成炉からミスリル製の鋼線を出して縛りあげ、放置することにした。後は鬼王との決着がついたら考えよう……巨大化、しないかな?

「そういえばシャルネさん。レクアにはこういう改造技術がまだあったんですか?」

「……人体改造というよりは、練成魔術によって種族的な進化を意図的に促進する、といった方法ですが。しかしそれも神祖様の時代を頂点として、今では廃れてしまったはずです」

 練成魔術なのかあ。僕なんかの未熟者には到達できないレベルだね。アルビエラ母さんの頃はそれなりに発達しただろうけど……今じゃあ、なんか冷たい目で見られがち。便利なのになあ。

「8代様はレクアに幾多の新しい作物をもたらし食料事情を改善してくださいました」

 そういうシャルネさんは、そのお孫さんなんだけど、堅苦しいよね。

「しかし、その一方で、異国出身の8代様への反発がなくなったわけではありませんでした。

特に、8代様が練成魔術によって新たな疑似生命を創造したりすると、神祖リエラ様の偉業を汚すと扇動され、強い反対運動が広まったのです」

 神祖リエラさんを神聖視する余り、異国出身のアルビエラ母さんがそれに近づくだけで反発されたのか。ママ、大変だったんだな。

「8代様は混乱を収めるために、以後自ら練成魔術を封印なさいました。そのせいか、今では練成魔術は廃れ、疑似生命の創造は異端とされているのです」

 ……オ姉サンが後ろ暗い生活をしている訳だ。練成魔術師で実はホムンクルスなんてばれたら大変だ。それ以前に30年以上成長してないってだけでアヤシイけど。いや、あの格好だけでアヤシイよね。僕は今、僕の身代わりをしてくれてるオ姉サンの顔を思い浮かべた。

 双眼鏡より分厚いメガネをかけた十歳児。うん、アヤシイ。

「ということは、フレダンを改造したのは、やはりリエラさん時代の技術の名残りなんでしょうか?」

「おそらくは。鬼王がその時代の元王太子であれば、王家に由来する禁断の知識を所有していても不思議ではありません」

 面倒なことになりそうだ。とはいえ、改造人間第一号がこいつだかから、二号とか、VとかXとかが改造される前に大本を絶った方がいい。あ-最大同型が13人とかやめてね。TV版の6体でもツライ。そう言えば「ダイラカツヨシ」作戦の意味がわからなくて、後で知った時、自分の愚かさに絶望したっけ。

「あの、モーリ様?」

「わ、ごめんなさい!先、急ぐんですよね!」

「わかってんなら急げよ!」

「ここ」

「あ、ホントだ。隊長!社の奥に隠し通路がありました!」

 精霊を見ることができるクラシアさんたちがシルネの後をついて行って、見つけてくれたらしい。

 僕はそっちに進みながら、振り向き、縛られたフレダンを見る。まだ意識はないようだ。

「おい」

「はい、行きます」

 本当は、僕の右手でフレダンを魔法走査スキャニングしておきたかったんだけどな……いや、趣味とかじゃないから!敵を知るためだから!

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