第4章 その12 秘密の会談 中編
第4章 その12 秘密の会談 中編
白い石壁に囲まれた密室で会談が始まった。やや大きめの円卓に着いたのは。
「ボクはグルグルグールル。言わずと知れた錬成魔術師だよ」
「ウーシュ言います。元老院では魔族第二位を努めておりました」
「先代魔王ルリエラ様の娘イシャナだ」
「ルリエラ様の家宰を務めしアルシャイアの娘シャルネです。現在は英士隊の隊長を拝命しております」
蒼々たるメンバーに交じった僕の立場ないことっていったら、ホントにもう場違いだね。
「モーリです。このたびは僕が下剋上されたせいでお世話をおかけしています。すみません」
この場にいる5人の中で、契約妖精を失った僕が一番無力だろう。いたたまれない。
「で、本日この場に集まってもらったのは、鬼王と名乗る者から、現在のレクアに危機感を抱いているからだ。しかしボクを含めてそれぞれの事情やら思惑やらを抱えている。それを確認せずに会談の成功は難しい。だから本題に入る前に、互いのことを話すことから始めよう」
見た目十歳児で、しかも奇妙なメガネをかけて素顔が見えない。どこからどう見てもアヤシイお姉さんなんだけど。
お姉さんはそう言って自分のメガネを外した。外せば普通の幼女なんだけど。いや、母親(?)譲りの端正な顔立ちで、年齢不相応に落ち着いてるけど。
「ボクは8代魔王アルビエラが造ったホムンクルスであり、弟子でもある」
で、まず自分から、と言わんばかりにいきなりぶっちゃけ始めた。現代のレクアでは練成魔術師はまだ日陰者くらいだけどその被造物ホムンクルスは差別対象だ。大丈夫かな。
さりげなく周囲の反応を伺う僕……あれ?驚いてるのはイシャナさんだけ。
「さらにつけ加えれば、アルビエラはボクに神祖リエラの魂を召喚しようと実験をしていた。まあ、そっちは失敗して、ボクに神祖時代の記憶はほとんどない」
それも言うのか?そっちに驚く僕だ。イシャナさんなんか口をアングリ。まあ、若いから許される失態だろう。腹芸苦手そうだし。でも……ウーシュさんもシャルネさんも、変化がない?鉄面皮のウーシュさんはまだしもシャルネさんが?……知ってたんだ。
「ただ、鬼王と僭称する者が、かつてレクアの王太子だったこと、世界竜に飲まれて以来のレクアの危機にいかに無力、いや、有害だったかは覚えている。それゆえ、かの者の治世には断固反対する」
もともとの評判は「文武に長けた将来有望な王子」だったけど、いざ危機が到来してみれば、あっさり絶望して、責任放棄。挙げ句に刹那的に振る舞いお気に入りの家臣たちと街でやりたい放題。国王に叱責され疎まれるようになった。妹のリエラさんが頭角を現し、国難に対処するようになるや、王太子は弟王子たちをそそのかして邪魔をした。
「結果として、弟王子たちは神祖に従う忠臣たちと争い内乱が勃発。そのキッカケをつくった王太子は廃嫡。以後、神祖は摂政として反対派と戦いながら、この国を救う施策を次々と進めていったわけだけど、後は当時からいた魔族なら誰でも知ってるよね」
リエラさんは内乱を収め国をまとめ上げて、さらには湖の妖精との契約を基に魔力を集めてレクアを守る仕組みを作り上げた。さらには自分に従った貴族を魔族、鬼族という強靱で長命な種に変えた。反面、逆らった者は全て粛正された。
「そうです。うちは神祖はんに従い、真っ先に魔族になったんです。おかげさんで今もこうしてよう生きてますけどな」
ウーシュさんは才覚がある。リエラさんを評価して支持したのもその一端なんだろう。だから元老院でも中心的な役割に任命された。まあ、その後の魔王とはビミョウな感じだったみたいだけど。
「ウーシュ家当主。いえ、あなたこそウーシュそのもの。そのあなたがこの場にいるのはなぜ?」
お姉さんの口調が違う。どうしたんだろう?
「うちです?うちは、向こうはんから恨まれてますし」
……内乱の原因となった王太子は、しかし自らリエラさんを直接邪魔した訳じゃなかった。表だっては弟王子たちが反乱を首謀した形で終わった。それでも多くの業績を残したリエラさんを支持する声が圧倒的に増え、次代の王はリエラさんに落ち着き、無力どころか有害な王太子は廃嫡された。アイツからすれば、魔族を頂点とするこの国の仕組みは許せないんだろう。逆恨みだな。生かされただけで感謝しろって。
「うちがなにもせんといても、向こうはん、もう魔族狩りを始めてますし」
「そう言えば、あなた様はすでに鬼族に拘束されたのではなかったのですか?」
「シャルネはんもそう思わはったん?そいなら上々です……捕まったんはなあ、うちの身代わりや」
前々から一種の影武者を用意していたらしい。
「……ウーシュ家は用心深い上に世俗にも長けているんだ。そこで昔、アルビエラに自分の身代わりをつくってもらっていたわけさ」
「え?じゃあ、捕まったのは」
「うちのホムンクルスです。ホムンクルスとはいえ、ええ子やったんです。向こうはんに身バレせんうちに救い出さんとかわいそうなことなるに決まってます」
……ウーシュ家は練成魔術にも詳しいのか。で、お姉さんとも密かにつながりがあった?アルビエラ母さんの治世から、いや、それ以前からいろいろ動いていたんだろうな。
「ウーシュ家は、得体の知れない家だと思っていたが、まさかホムンクルスまで用意してたのか?待てよ?それでは昔、我が先代様とともに会ったあなたはホムンクルスだったのか?」
「さあ?どないですやろ?」
ウーシュさんは、イシャナさんの問いをさらっとかわし、うっすらと微笑んだ。つくづくこの人を敵にしなくてよかった。
「そんなんでなあ。うちはうちの身の安全と、かわいい身代わりはんのためと、あとは、まあ、この国をあん馬鹿に任せたら末法の世や思うてます」
ウーシュさんの「馬鹿」って、すごいイヤな響きだ。ジナさんが僕を罵る時の「バカ」とは全然違うね。
「そういうことなら、我もあなたの同席を認めよう」
「イシャナはんに認めてもらうなんて光栄やわあ」
……全然光栄なんて思ってない気がするけど、蒸し返すのはやめよう。
「そいなら、イシャナはんはどないしてこの場に来たんです?」
一番理由がわかりやすいんじゃないかな。先代魔王の養女、危ないよね。
「モーリはんと結婚しまへんかいう元老院の薦めを断っておいて今さらの未練です?」
「ぶっ!」
聞いてないんだけど!
「当たり前だ!誰がそこの惰弱なオスビトなどと!」
もともと嫌われてたからそういうショックはないんだけど。どうやら僕の留守中にいろんな動きがあったらしい。やはり資源調査は早まったかなあ。でもいろいろ成果もあったんだよ。あれ以上遅らせたらミリーの島を始めいくつもの島が沈んただろうし。
「せやかて、そないでもせんと次代の魔王はんが誰になるかわかりまへんしなあ」
「いやいや、僕は政略結婚なんてしなくてもイシャナさんを後継者に指名するつもりでしたよ!言ってましたよね!」
「でもなあ、人の心は移ろいやすいもんです。男心に秋の空言いますし」
「僕を浮気ばかりの男みたいに言わないでください!」
浮気以前にモテたことが皆無ですけどね!
「モーリはん、ええですか。今はそうお思いかもしれまへんけど、そのうち大事な人ができなさって」
ウーシュさんはなぜかわざとらしくシャルネさんをちらっと見て。
「そんお人との間にかわいいやや子が生まれたとすれば、その子を跡継ぎにしたくなるのが人の情いうもんです」
ウーシュさんは僕を見た後、なぜか今度はイシャナさんに一瞬だけ視線を向けた。
「いや、僕は血縁の情と統治者の責任は別だと思いますから安心してください!」
「そ、そうです!モーリ様は公私の別をわきまえた分別あるお方です!」
で、なぜか顔を赤くしたシャルネさんが僕を弁護してくれる。で、さらに謎のことに、恐ろしく真面目になったイシャナさんがシャルネさんにこう言い出した。
「……我は先代の私情によって生まれた者。シャルネはそう思っていたのだな」
シャルネさんの赤い顔が一気に真っ青になった。なに?なにが起きたの?
「決してそのような!今のはただ」
「よい。そう思われても仕方がない……グルグルグールル師もウーシュ家当主も、それぞれの事情と思惑をうち開けたのだ。この会談に参加するからには我もそれなりのことを話さずばなるまい」
イシャナさんはたいそう真剣だ。もともとシャルネさんよりも生真面目すぎた、言わせてもらえば少々狭量なくらい頑なな人柄だったけど……何を言い出すんだろう?
「我が母は先代魔王ルリエラ様だ」
なんだ、みんな知ってることじゃん……って、気を抜いたのは、僕だけみたい?シャルネさんの顔が青ざめてるし、ウーシュさんの笑みが消えてる。何が起こったんだ?
「ふ。実の母が、という意味だ。そこのボンクラ以外はみな察していたようだが」
え?え?え?……え~っと、王家の血筋が7代目のマリエラちゃんの夭折で途絶えた後、魔王は次代の後継者を選ぶにあたって最も魔力の高い魔族を養女として育てるって……確か8代目のアルビエラ母さんの頃からそういうしきたりになってたはずだけど。じゃあ、ルリエラさんは実の娘を養女と偽って後継者にしようとしてたってことか!?僕はシャルネさんに目を向けて……頷かれた。
「ちなみに父は……いない、と思っていた」
……いろいろ突っ込みたいけど、そういう雰囲気じゃない。僕は、僕たちは沈黙を保ち、イシャナさんの告白を促した。
「……ルリエラ様が……母様が一度我に会いに来てくださったのだ。わざわざ湖底から……」
ルリエラさんには、イシャナさんとちゃんと話をして欲しいってお願いをしていた。どうやら僕が知らないところで会ってくれてたらしい。
「そこで始めて知った。我が父のことを。我が父は……鬼王に連なる者」
元王太子と人族の女性の間に生まれた子。その男児は鬼ではなく人に生まれた。元王太子はできそこないと思い、その赤子の処分を命じた。
「……鬼族や魔族の家に人族が生まれることはないって聞いてました」
「ない、そういうことになってるってことさ。少ないけど皆無じゃないんだ」
無知な僕にオ姉サンが教えてくれた。一種の劣性遺伝みたいなものだとすればあって不思議はないんだけど……生まれた子がどうなるかを考えると暗くなる。
「ちなみにその元王太子がなんで鬼族になったかって言うのは、神祖の失態だね。あの時、肉親の多くを粛正した神祖は父王に頼まれたんだ。正式に王位を譲るから、これ以上の粛正はやめてほしい、と」
お姉さんにはリエラさんの記憶はほとんどない。それでも多少とも残ってる。そして時にその意識は湖底にいるはずの本体とつながるらしい。
「神祖はん、最大の過ちやなあ。助命したばかりか自分の王位を認めるいう兄はんについ鬼族への練成を許可しなはった……大甘なことです」
それで元王太子は鬼族となり、今まで生きて幽閉されていたのか。
「イスカ家とアーム家が面倒みることになりましてなあ。以前えらいグチこぼされました」
イスカ家とアーム家とは、人族代表の元老だ。イスカ家は男性が、アーム家は女性が代々の当主を務める。で、彼らが元王太子のお世話係も担当してたらしい。鬼王の許に人族の女性を引き合わせたのはアーム家、その子を処分するよう命じられたのがイスカ家。
「その子は処分された。ただ、そのイスカ家の処分が、鬼王の思惑とは異なっていた」
鬼王と人族の子。たとえ鬼に生まれなくとも、その血統だけで価値がある。そう思ったイスカ家は、その子を誰にも知らせず大事に育てた。そして、魔王に引き合わせた。
「え?じゃあ、イシャナさんって鬼王の孫なの!?」
不機嫌そうに頷かれた。でも、驚いてるのは僕だけだった。
「我は魔王と鬼王の血をひきし者。血筋を重んじる愚者どもにはいい玩具であろうが」
己の魔力に限界を感じていたルリエラさんもまた、レクア王家の血筋の子を産み、次代の魔王にすることでレクアを守ろうとしたんだ。でもそのことはまだ秘密で。ちなみに鬼王の息子はもう死んでしまったそうだ。う~む……いろいろ考えさせられる。
「だからオスビト。それにウーシュ。我を支配のための玩具にしようなどと決して考えるな」
「そんなことしませんよ」
なんて即答した僕と違って、ウーシュさんは少しの間答えなかった。みんなの視線が自然と集まってから、艶然と微笑む。
「玩具はいややいいます?なら……ご自分が支配するんはどうなんです」
「ウーシュは我に、鬼王を打倒し新たな魔王になれ、というのか」
「うちだけやありまへん。魔族の総意。そう思うてください」
僕は鬼族だけじゃなく魔族たちにも見限られていたらしい。この発言を理解する間、再び部屋は重い沈黙に支配された。
沈黙を破ったのは、イシャナさん自身だ。さっきとは違い冷静に質問を返してる。
「そこのオスビトはどうするのだ?仮にもきさまらが公認した魔王であろう」
「モーリはんです?こんお人はええ人思います。ですがレクアにとって、所詮はは真っ赤な他人はん」
ウーシュさんがこの会談に参加してるのは、僕に味方する訳じゃなく引導をわたすためらしい。僕へ向けた視線に、僕は前世で僕に異動を言い渡した上司を思い出した。僕は……やっぱりダメなのか。今年もまた転任なのか……まだここでの結果が出てないのに。
「ええですか、モーリはん。魔王になるゆうことは、このレクアを治めるいうことです。ですが、うちにはモーリはんにレクアへの情を感じまへん」
「そんなことはありませんよ。僕だって!」
僕はいつでも、どこでも、頑張った。ここでもレクアのみんなのためになる計画までつくって、頑張ったんだ。
「ええ、ええ。モーリはんが言うことやること、正しいことばかりや。きちんと資料を集めてきちんと考えて、先の資源調査もこん後にやる予定の計画もみいんなレクアのためなるとうちにもオーマークにもわかってます」
わけがわからない。僕が正しくて、それを理解してくれるんならどうして僕を見限るんだ!?なんで!?
「そんな困った顔なさらんでもお教えします。他の方々にも重要なことですし」
充分な間をとってから、おもむろにウーシュさんは話し出した。
「そもそも魔王とはうちら魔族の王です。魔族が支え、その魔族を代表してこのレクアを治めるお方でなければなりまへん」
「待て、ウーシュ。それは我とて知っている。しかし先代様の亡き後、その魔王を置かずに我の即位を先延ばし、その挙げ句に先代はじめ歴々のお方にそこのオスビトを推され、認めざるを得なくなったのはキサマら元老院ではないのか」
「あらまあ、イシャナはん、モーリはんの弁護なされるとは、やっぱり?」
「そんなはずはなかろう!」
「論点をずらすのはいけないよ、ウーシュ家当主。今さら遊んだりせずに、さっさと結論を言いたまえ」
オ姉サンの冷静な指摘にウーシュさんも仕方なさそうに話を続ける。
「……モーリはんを支えよう思う者は、レクアにはおりまへん。鬼族があないにたやすく煽られるんもそれ故です。魔族かてそう。誰か別の者が魔王の位を欲しがったら、魔族はその者を認めかねまへん。つまり縁のないお人を王にするのは、王位を危うくするだけです」
家柄か実力か。継承の方針は極論すればこの二者の綱引きだ。だけど実力という判別しがたい基準よりも家柄の方がわかりやすく支持されやすいというのは、現代ですら通用する。民主国家ですら大物政治家は世襲が当たり前で、それはかの超大国ですら例外じゃない。
そして、僕は王家どころか魔族でもないしレクア人ですらない。だいたい僕の治世は道半ばだ。まだ結果を出せてもいない。だから、異邦の僕よりふさわしい者がいる……そう考える者が存在する限り、僕の在位は不安要素でしかない。ウーシュさんはそう判断した、ということらしい。
「アルビエラは魔族じゃなかった。それでも魔王になった」
「グルはん、あんたかて、いえ、あんたが一番おわかりのはずや。あん時はあん時。今は今です」
「まあね。そもそもレクア生まれでないアルビエラを魔王に推薦したのは元老院だ。そうでもしなければ当時は魔王の位を巡ってレクアは四分五裂になるところだった」
王家の直系が7代目で途絶えた直後、王位継承争いは傍流を担ぎ出すことで混乱を来し、数人の魔族に鬼族や人族までそれぞれの候補者を立てて内乱寸前にまで至ったそうだ。だからこそ、当時はもっともレクア王家から遠く、かつ内政改革に多大な成果を上げたアルビエラ母さんに支持が集まった。
「うちらとて、あんお方の功績は認めざるをえんかったんです」
「後ろ盾のないアルビエラを傀儡にして権力を奪い去ろうといろいろやってたくせに」
「……私の母アルシャイアはいつもその両者の間で苦労していたと聞いております」
アルビエラ母さんは魔族の後ろ盾もなく魔力も乏しい身でありながら、その政治手腕と練成魔術や故郷の遺産で現代まで続くレクアの体制をつくりあげた。いわば中興の祖だ。だけど湖底で会った時は、随分疲れた感じだったな……。娘とは折り合いが悪かったって。
「昔話はやめろ。それより結論を早く言え」
僕の廃位の背景にある昔話に、イシャナさんが見切りをつける。
「そうでしたな……一つには、モーリはんと鬼王はんを比べた場合、まず王家の直系やないいう点で不利です。正統性がありまへん」
「向こうだって廃嫡されてるけど?」
「そいでも鬼族は支持してます。鬼族から初の王様が出るんですから」
「鬼族と魔族の権力争いか。で、弟クンを魔族は支持しない訳だ」
「ええ。こうなってしまえば魔族としては同じ魔族から魔王を選びたい思うてます」
「さっさと我を即位させていれば、そこのオスビトも鬼王とやらも出る幕がなかったのに。元老院どもの無様なことよ」
これを聞いても微笑みを絶やさないウーシュさんは一種の化け物だと思う。
「そいで、二つ目です。モーリはんには、情が感じられへんのです。うちにはこっちに方が問題思います」
情がない?昔、少し仲良くなった友達から誰にでも優しいねって言われたんだけど。
「薄情ってことですか?」
「ええ人過ぎて、私欲がなければ気概もない。こういうお方は一端ムリやと思えばすぐに諦める……違います?」
「違いますよ!」
僕はつい大きな声を出してしまった。でも……ウーシュさんの指摘に、妙な悪寒が背中を走る。
「違いまへん。モーリはんは女子はんにもお金にも興味ない。権力にも近寄らへん。まるで聖人や。そしてレクアを救ったらすぐに退位しなはるいう。鬼族や一部の魔族はそれならええいうてましたけどなあ」
「ダメなんですか?」
「うちからすれば、執着もないけど、責任もないお人や。情が薄うてコワいわ」
……5年でレクアを胃世界から脱出させる。その後はイシャナさんに譲位する。そして僕はスローライフを夢見てた。それがいけないのか?
「モーリはんにあるんは、正解や。物知りで頭ええ思う。そして、正しい結論を出して、まっすぐ行動する。でもなあ、みんながみんな、モーリはんの正解についていけへんのです」
いけないのか?正解を出して、そこに向かったらいけないのか?それに、僕は僕の考えをちゃんとみんなに説明したのに。
「でもなあ、一番コワいんは……モーリはん、そこまでやってるんに、自信ないんや」
ここまで聞いてた時は、まだ疑問が残ってた。だけど……この言葉が、僕の足元を大いに揺らがせた。このレクアに150年以上生きて、元老院にいた人の言葉が。
「自信がないから、みんなにわかってもらうまで待つことができまへんのや。だからさっさと自分で外に行なさる。就任して、すぐにです?自分で正しい思うなら、もっとみんなに話すべきや。わかるまで待つべきや」
ウーシュさんとオーマークさんはわかってくれたと思ってた。他の元老院は面従腹背だけど、別にいいって思ってた。何より急ぐべきだって。
「でも!待ってたら、せっかく残ってた島が、資源が消滅しちゃうかもしれないんですよ!」
実際のところ、発見し曳航してきた資源島は12にのぼる。でも、あれ以上遅れていたら、いくつかの島は竜酸海に溶けていただろう。
「モーリはん。資源は大事や。けどなあ、足元をかためんうちにいなくなる王様なんて、足元を掬われて当たり前や。そないなこともわからへんのは、モーリはんには情がないからや。自信がないからや」
僕には私欲がないから、人の気持ちがわからない?僕には自信がないから人を説得する前に自分で動いてしまう?……正解だ。大正解で、反論が浮かばない。誰か、なんとか言い返して欲しい。オ姉サン!?シャルネさん!?……だけど二人とも無言のままだった。
「そないなお人を信じて鬼王と、鬼族と戦うなぞムチャなことはできまへん」
たったこの数分ですっかりカラカラになった僕の喉から、ようやく乾いた声が出た。
「だから、僕を退位させて、イシャナさんを即位させるんですか?」
「そうです。モーリはんも引退が早まって、気楽になれます。あの計画も、イシャナはんとうちら魔族で達成しますさかい、安心しててください」
その笑顔には、一片の悪意も感じられなかった。




