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第4章 その11 秘密の会談 前編

第4章 その11 秘密の会談 前編


 未だレクアの地理に不案内な僕です。かくまってくれたイシュダルさんチから一人歩き出せば、ほ~ら、アラサー迷子のできあがり。これが見知らぬ街なら仕方ないけど、ここで暮らすようになって結構経った、しかも一応は自分が支配してた街でのことだからかなり恥ずかしい。とはいえ、建物はみんなおんなじ立方体で壁の色も装飾、看板の類いもみんな長年の竜酸雨で溶けてるから見分けがつかない。街の住人が迷わない方がおかしくないか?

「!」

「あ、こっちじゃないの?」

 そんな訳で、風精霊シルフに道案内を頼むことにした。そう、行き先は僕の義理的なオ姉サンこと、練成魔術師グルグールグルル師のお店だ。この風精霊ちゃんは、今では僕の練成炉アタノールに住み着いてるけど、もともとはそこの子だった。

 最初は童女っぽくて小風精霊エフェメラみたいだったけど、今じゃすっかり立派な風精霊だね。練成炉の中って精霊の生育にいいのかな?

「あ、こっち?」

「!」

「ホントにありがとう。君がいなかったら完全に迷子だよ」

「!」

 はっきりとした言葉じゃないけど意思は通じてるような気がする。宙に浮かぶ20センチくらいの透明で(僕には半透明くらい)羽根の生えた少女。そんな相手と会話する僕は、いくらこの魔法都市でも変人に見られかねない。しかし幸いにして人通りがほとんどない。そりゃそういう時間まで待ってから出てきたんだからそうなんだけど……なんか無性に腹が立つ。

 以前エムリアさんと来た時は、もっと人が歩いてた。せっかく活気が戻ってたはずなのに……そう思えば、指名手配されてる身なのに誰にも見つからないことが悔しい。

「ここだっけ?」

「!」

「じゃあ、先に行ってオ姉サンに僕が来たって知らせてくれる?」

「!」

 見覚えがまったくない。同じ景色が多すぎ。とはいえ、目の前に扉があるし、まあ大丈夫だろう……って、思った僕はいきなり物陰から口を塞がれ腕を引っ張られた。

「もがもが(僕なんかを襲ってもお金も食べ物もありませんよぉ)」

「バ~カ。顔くらい隠しやがれ」

「もがもが(ジナさん)?」

「ジナさんじゃねえ!相変わらず危機感のねえヤツだな」

 目深にフードをかぶってツノは見えないし、ローブをまとった全身もいつもの半裸じゃないから背中の翼もお尻の上の尻尾も見えない……いや、期待してる訳じゃないですけど。

「そんな目立たないツラでも誰かに見られたらどうすんだ。死にたいのかよ?マジでバカ」

 なんて毒づかれてるけど、まあ、これはいつもの挨拶みたいなもんだろう。フードから覗いた彼女の口元が少し緩んでる。あれ?ひょっとして、僕の悪口言うのってジナさんにとって一種のガス抜き?いやいや、僕の身柄の安全が彼女の任務だから確認できて安心したんだろう。別行動をお願いした時もさんざん怒られたし。

「ついて来い。裏から入るぞ」

 人通りのない路地裏にあるお店の入り口から、さらに少し歩いて、別の店に入っていくジナさん。慌てて後を追う。そんなに用心してるのか?なんの変哲もない、っていうか、僕には他の店との見分けが全然ついてない店に僕も入った。

 で、そこにはもうお姉さんが待ってた。僕を案内してくれてた風精霊を片手に乗せてる。

「元々はボクの精霊だったのに、すっかりキミになついちゃって。この精霊たらし」

 お姉さんは、見た目十歳児くらいで双眼鏡くらい分厚いメガネを描けたアヤシイ人だ。人じゃないけど。ホムンクルスだけど。

「お姉さん!良くも悪くもお変わりなく」

「まあ、たった一日かそこらで代わり映えもあるはすないけど。キミの方がよほど心配だったよ」

「あ、魔王」

「世間知らずのくせによく生きてここまでこれたね~」

 クレリアさんもシアラさんも無事みたいだ。二人はジナさんの同僚で、やはり魔族だ。言葉数が少ないほっそり体型がクレリアさんで、童顔なのに大人体型なのがシアラさん。英士隊というこの国の防衛組織の一員とは思えないね。みんな十代だし。

「挨拶はその辺にしようぜ。まずはいったん奥に行こう」

 それでも、この三人の魔族っ子では十代後半のジナさんが一番年長ぽく見える。年長じゃなくて先任って言うんだっけ。クレリアさんとシアラさんに至っては十代半ばにしか見えないからな。

「そうだね。このご時世、いつ誰が盗み聞きしてるか心配だよ。亀にミミあり少女はメアリー」

「……ですね」

 なにをどう突っ込もうか考えてムダなことをやめた。一緒に調査船で過ごした時間のおかげで、それくらいには僕もオ姉サンの習性がわかる。それが成長か諦念かは言えないけど。


 実は、調査船……エスリーたちに名付けられたモーリ号なんて自分じゃ恥ずかしくて絶対に呼ばない……でエムリアさんに拉致される前に、僕はオ姉サンやジナさんたちと相談を済ませていた。この先どうなるかわからないから別行動で事情を調べて欲しいって。

 おかげで、彼女たちはあの後、無事レクアに上陸できたわけだ。

「弟クンはそんな簡単にまとめてるけど、街妖精の光壁をごまかして潜入するのはボクでも相当に面倒だったんだよ。少しはオ姉サンをねぎらってほしいね」

「あー気づきませんでした。どうもすみません」

「まあ、街妖精は絶賛誘拐中だったから、そのスキでなんとかなったんだけどね」

 仮にも弟と呼ぶ僕の拉致事件をそんなラッキーみたいに言わないでほしい。


 狭い廊下に隠し通路やら、入り組んだ建物内をオ姉サンについて行く。

「こんな作りになってたなんて……オ姉サン、やっぱり以前から後ろ暗かったんですね」

「まあ、ボクはホムンクルスだし見た目もこんなだ。用心は必要だ!くらいはわかってるよ」

 レクアでは、ホムンクルスは差別されてる。いや、それ以前に見た目十歳児の店主なんて怪しすぎ。ホント、今までのウン十年間、よく無事だったなあ。

 で、地下通路を通ってはしごを登る。このブラックな立地でどんだけ用心してるやら。おそらく魔術やらも阻害してるんだろうな。はしごの上はさらに通路があって。

「まるで迷路ですね。これなら黄金宮の中にでも入った方がいいんじゃないですか?」

「弟クンはあそこにいるボクの分身に会いたいんだね。まあ、向こうの方がお姉さんっぽくて甘えたいんだろう……このマザコンめ」

「やめてください」

 ジナさんたちにはロリコン呼ばわりされた挙げ句、オ姉サンからはマザコンか?しかしあっちのオ姉サンはこっちの実体よりさらに壊れてる人だ。いくらママそっくりの美人さんに育ったからって、アレに甘えられるほど僕は達人じゃないぞ。

「でも黄金宮あそこには用事もないのに、しかも大勢を入れたくはないな」

「大勢?」

 目の前は行き止まりだ。そこにお姉さんが細い腕をつく。ぎい……石扉が偽装されてた。

 足元では土精霊ノームが開けるのを手伝ってる。この建物には精霊はいるけど妖精はいないらしい。僕んチだと扉の妖精とか書物妖精とかもいるんだけどな。

「ふう。入りたまえ。みんな待ってる」

 扉の中は、まあまあの広さの白壁の部屋だ。窓はないけど火精霊灯りがちゃんと働いてる。空気も乾燥してないしイヤな臭いもしない。水精霊や風精霊が働いてるんだ。

 部屋の中央には大きなテーブルがあって、そこに集まっていた人たちが、一斉に扉を、つまり僕たちの方を向いた。

「モーリ様!よくぞご無事で!」

 その一人が椅子から立ち上がって僕を歓迎してくれた。

「シャルネさん!?」

 生真面目で初々しい銀髪美人さんだ。僕なんかに好意的な数少ない女性です。魔族だから例によって半裸ですけど。背中の翼がパタパタ、お尻の上の黒い尻尾もブンブン。素直に喜んでくれるのを見ると、僕もうれしくなってしまう。

「シャルネさんこそ無事でよかったです。魔族はみんな拘束されたかもしれないって」

「ええ。ですが英士隊とともにいち早く逃げ延びることができました……このお方のおかげです」

 このお方。僕はそちらに目を向ける。

「え?」

 なんでこの人がいるの?昨日拘束されてた映像、見たんだけど。

「あらまあ、シャルネはん、以前から魔王はんと仲ええなあ思うてましたけど、あんじょうそういうことやったんですなあ」

「え、これは違うのです。わたくしごとき年増の嫁き遅れ軍人がモーリ様と」

 いつも思うんだけど、大学出たての新入社員にしか見えないシャルネさんが嫁き遅れって、ここの婚活事情はどんだけブラックなんだろう?イシュダルさんの奥さんが同世代っぽく見えるけど、でも奥さんはそれなりに成長した子がいるし、う~む……恐すぎる。

「ええです、ええです。それにシャルネはんもまだまだ若うございますから」

 で、こっちは年齢不詳の妖しい美女だ。こんな人に若いって言われるのもシャルネさん的にどうなんだろ?

「ウーシュさん、そういうのは後にしてもらっていいですか?今は危急の時ですし」

 僕なんかと恋仲と疑われたシャルネさんがかわいそうだし、いろいろ聞くことが多すぎる。僕は敢えて表情を変えずに軽く仲介することにした。

「イシャナさんもそれでよろしいですね?」

「うむ。キサマにしては上出来の仕切りだ」

 十代半ばの偉そうな魔族は、イシャナさんだ。先代魔王の養女で僕も次の魔王に指名する予定。もっとも彼女は僕がキライで会話中にすぐ怒る。

 なんか、ここ、魔族率高いなー。

「隊長!わたしたちは周辺警護に入ります!」

「任せて」

「お久しぶり~。任務は無事にこなしたよ~」

 で、ジナさん、クレリアさん、シアラさんは敬愛するシャルネさんに再会できてうれししそうだ。自ら次の任務を申し出た。いや、僕の護衛という苦行から解放されてはりきってるのかもね。僕、セクハラもパワハラもしないけど、上司としては失格だし。待てよ、妖精たちと仲良くしてたのを一種のセクハラを思っていたのかもしれないな。よく罵倒されたし。

「三人とも、よくぞモーリ様をお守りしてくれました」

「あーそれは任務なんで」

「そ」

「でも魔王って自分の身の安全とか無関心だから、そこはけっこう大変だったよ~」

「こいつ、そういうトコ、まじでバカ」

「そ」

「でも新装備もらえたのはよかったかな~」

「そ」

 なんて言いながらも魔族っ子たちは周辺の警戒に赴いていった。姦しいのが去って一瞬室内に静寂が訪れたタイミングでオ姉サンが口を開く。

「では弟クン。今さら紹介する必要はないだろうけど、お互いの事情やら思惑もあるのでそのあたりから一通り説明していこうか」

 この会談はオ姉サンの仕切りらしい……アヤしすぎ。


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