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第4章 その10 レクアの平凡な家庭にて 後編

第4章 その10 レクアの平凡な家庭にて 後編


 目覚めてから焦った。悪霊封じの魔法円もなく何よりエスリーがいてくれない場所で眠るなんて!いや、もっと早く気づけよ僕って思ったんだけど、昨夜はお酒のせいかなんとなく平気だったんだよな。うん、平気だろうって思ってた。

「モーリ様、お目覚めですか?」

「はい。昨夜はお世話になりました」

 もう大慌てで飛び起きる僕です。なにしろここは居間だし、フラオさんの背後には若奥さんもいるし、急がないとね。

「今朝はおかゆですよ。蒸しいもと麦がゆ、どちらがお好みですか?」

「『栄養補給サプリ』じゃないんですか?」

 食料不足のレクアでは、朝食は家妖精の魔術で代替というのがこのブラックな国の常識だと想ってたんだけど?

「あら、家妖精のサプリは家の者にしか効きませんわ」

 そうなのか?じゃあ、調査船団の朝食が僕だけサプリでお姉さんたちは自弁だったのも、僕以外には冷淡なエスリーの船員いじめじゃなかったのか。

「じゃあ、フラオさんにお任せします」

「そうですか。では蒸しいもにさせてもらいますね」

 昨夜もいただいたけど、余り物とかじゃなくて、わざわざ用意してくれるらしい。

 

 僕が身支度を終え、フラオさんが居間の寝台を片付けた頃(土精霊に命じて現状復帰させた)には、

「おはようでさあ、旦那あ」

「おはようございます」

「おじさん、おはよー」

「おはよ」

「うん、おはよう」

イシュダルさんもエステルくん、エランちゃんも居間に来ていた。少し緊張してるみたいだけど?自宅で?

「ばあさま、いいぜ」

「今日の分、いただくわ」

 魔力供与儀式か。見ていいのかな?なんて僕が考えたのは、エスリーへの魔力供与がけっこう恥ずかしいからだ。今でこそ少しは慣れたけど、12歳前後に見えるエスリーをハグするのは、未だに人に見られるのは恥ずかしい。お姉さんはともかくジナさんたち魔族っ娘たちに相当冷たい目で見られてたし。とはいえ、アレは僕の魔力を直接受け取れないエスリーへの、余剰魔力による供与だから、普通の家妖精と家族とは違うんじゃないかな?なんて興味があったわけで、そのまま失礼のないよう見ることにした。

「じゃあ」

 で、別に僕の存在を気にする訳でもなくイシュダルさんはフラオさんの手を取った。互いに握り合って目を閉じるとうっすらと光った。僕の不完全な魔法知覚でも、二人の間に魔力が流れるのが感じられる。……それが思ったより長い時間続いた。

「ふう」

 イシュダルさんがげっそりしてる。続いて奥さんも魔力供与を行って。

「実は最近、また魔力の負担が増えたんでさあ」

 お腹を押さえながら教えてくれるイシュダルさん。きっと腹痛がきついんだろう。

「2割に減らしたんだけど?」

「へえ。ですが、先日鬼王様が」

 数日前の布告によれば、また4割に戻ったとか。ち。あの野郎……。奥さんが片手で頭を抑えてる。偏頭痛らしい。これはもう持病なんだとか。

「おばあ」

「僕も」

 続いてエステルくんとエランちゃんがフラオさんの手をとったのには驚いた。

「子どもですよ!?」

「へえ。ですがお達しで」

「1割だけなんですけどね……」

 5歳未満児は未だ正式な子じゃないというのに1割の、10歳未満児は2割の魔力負担。二人は苦々しい表情を隠せない。魔力供与中の子どもたちより苦しそうに見えるくらいに

「成長期の子どもから魔力を集めるなんて……」

 集めてるフラオさん自身も辛そうだ。家妖精とはいえ、家族同然の身であれば、口には出せずとも精神的に苦痛なんだろう。

 家族から集めた魔力は、家の中心に置かれた黒い石柱から家妖精ネットワークを通しレクア中枢に送られる。いつもなら、その魔力を扱うのは街妖精のエムリアさんだ。今もきっとそうだろう。鬼王との契約に従い、街中から魔力を集め、その魔力でレクアを守る光壁を展開したり、街を維持したりするために精霊たちを動かしている。

「モーリ様に、そんなお顔をさせてしまいました」

「見苦しいもんをお目にかけやして」

「すみません。すぐに朝食を」

 ……謝りたいのは僕だ。僕が無知で無力で、国を乗っ取られたからレクア中どこでもこんなことになっている。


 魔力を消耗したせいか、エランちゃんは朝からもうぐったりしてる。4歳児には1割でもつらいんだろう。しかもエランちゃんは病気のせいで虚弱児だ。エステルくんは7歳くらいだしお兄ちゃんのプライドなのか元気そうにふるまってるけど……顔色は悪い。

「はいはい、みんな元気出して……サプリだよ」

 そこで朝食代わりの「栄誉補給サプリ」術式が振るわれる。家族みんなに拡大してるからには、フラオさん自身もそれなりに魔力を負担してるみたいだ。それでもサプリの後はみんな少しだけ元気になったように見える。

「モーリ様、お待たせしました」

「……はい」

 フラオさんが手に持ってるのは、思った以上にいい匂いのする陶器のお椀だけど。

「みんなが魔力を負担して苦しいのに、僕だけが、しかも貴重な食料をいただくなんて」

 蒸しいもなのに、中身は昨夜のとは違う。皮付きの小ぶりなジャガイモが何個も湯気をあげている。新ジャガだろうか?

はっきり言って相当に心苦しい。後ろめたい。しかもお椀を見てる子どもたちの視線が痛すぎ。

「え~っと、食べる?」

「「いいの?」」

「いけません!お客様のお食事をいただくなんて二人ともお行儀悪いです!」

「「「ええ~?」」」

 なんか、二人とも怒られてかえって申し訳ないことになってしまった。


 そんなわけでいただいたフラオさんの蒸しいもだったけど、とてもおいしかった。今度作り方をエスリーに教えてほしい。そう思って、落ち込んだ。まずは、エスリーたちを取り返さないといけない。一秒でも早くだ。あんなヤツにエスリーやエムリアさんやエルダさんを、僕の妖精たちを好き勝手されてたまるか。

「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」

 せめて僕の魔力をお返しに、と思ったけど思いっきり拒否された。「モーリ様の魔力はわたくしごときでは到底消化できません」……まあ、そうか。僕の魔力は家妖精にとってショックで死にかねない。自重しよう。だからお礼は……練成炉の中の試供品、ファインセラミック製のナイフだ。オリハルコンじゃないけど切れ味は充分で、なによりさびない。

 

 その後、イシュダルさんは「御用聞き」に出かける。背中に1mはありそうな大きな行李を背負ってる。僕も見たことがある姿だ。っていうか、イシュダルさんが御用聞きで僕んチに顔を見せてくれなかったら僕は飢え死にしてたかもしれない。

 御用聞きとは物資も労力も自由時間も限られたこの街でとても重要な仕事だ。もっとも僕がそれに気づいたのはもちろんイシュダルさんのおかげだ。代々家業として御用聞きをしてる彼はとても顔が広く、いろんな業種や階級の人ともつながりがある。だからこそ、必要な人へ必要な品を過不足なく届けることができるし、手元に品物がない場合でも心当たりを当たってくれる。

 あるときは困窮した病人に配給外の食料を届け、あるときは人族代表の元老にまで名品を紹介する。そしてまたあるときは、誰にも知られない違法入国者にこっそり支援してくれたりもする。まあ、最後のは僕なんだけど。

「しかし、なんていうか、イシュダルさんも商売あがったりですね」

 僕なんかにまでかまってれば、お金なんか稼げないだろうに。なんて思ってたけど。

「いいえ、ウチの主人はああ見えてやるべきことはきっちりできる自慢の御用聞きですよ」

 なんて若くてきれいな奥さんにのろけられた。そう言って奥さんは僕と子どもたちを屋上に連れて行った。

「子どもたちから教わったんです。カテーサイエン」

 屋上の半分くらいはじゃがいも畑になっていた。今は畝に小さな芽が出始めてる。ジャガイモと言ってもレクアの主力品種は練成しまくったアブビャーモだから前世の男爵とかメークイーンと比べてもずっと早く育ってたくさんとれる。

「おじさんチの屋上をマネしたんだ」

「おいも、おいも。おいものおせわ」

 屋上の家庭菜園は確かにレクアに広めようと思ってたけど、僕の中ではオフロとセットだった。でもオフロの布教は大変だし、先にこういう形で広まるのは悪くない。

「モーリさんがお留守の間に、もう収穫があったんですよ。思ったよりたくさん。今朝のおいもは収穫したばかりのおいもです」

 朝食の新ジャガは先日ここで収穫したものだったのか。で、もう新しい種いもが芽を出してる。強化した光量のおかげか家妖精のフラオさんの精霊使いが上手なせいか。 

「そういえば、今年は麦も豊作だったそうです。これも明るい空のおかげですね」

 そうか。僕の国土改造計画はまだこれからだけど、もうそれなりに成果がでてるんだな。そう思えば少しは自分のやったことに自信ができる。子どもたちと一緒に楽しく働いた。まあ、そんな作業ないし、水やりなんかはフラオさんが水精霊にさせてたしすぐ終わったけど。

「ありがとうございます。わたしはこれからご近所さんのお手伝いしてきますので、しばらくの間子どもたちをお願いしますね」

「最近、嫁はアルビャーモのカテーサイエンをご近所に広めてるんですよ。まあ、ウチの新しい家業ですね」

「そんな大仰なものじゃありませんけどね」

「それでもみなさんのお役に立って、ウチの家計も助かってるんだからたいしたもんです」

 家妖精のフラオさんからすれば、家主の奥さんは「嫁」扱いかあ。ホント、姑だね。でも仲は悪くなさそうだけど。

「正午前には戻りますから、その間はウチにいてくださいね」

 ちなみにレクアじゃあ、子どもといっても遊ぶ余裕はなかった。だから「子どもの相手」を頼まれても、それは遊ぶということじゃない。でも、正直、僕は僕でそろそろ動きたい。何より、ここにいちゃ迷惑がかかる。

「モーリ様。嫁の言う通りになさってくださいまし。午後の労役を始める時間が過ぎれば、人通りもなくなりますし、動かれるにしてもその時間までお待ちになるべきです」

 フラオさんに全部見透かされてた。この街じゃあ、正午から一時間くらいが日光浴と昼寝の時間で、それを過ぎたら大人はみんな労役に出かける。その後は、街も静かだ。子どもたちは外出なんかしないで、掃除とか子守とか、家妖精を手伝ったりしてる。全部家妖精がするには魔力がもったいないそうだ。僕んチではエスリーが全部してたけど、あの子が特別なんだろう。

 そういう訳で、残った時間はエステルくんとエランちゃんと一緒に掃除や洗濯をして、帰宅したイシュダルさん夫婦とも一緒に、正午からは屋上でお昼寝をした。

 屋上の一部にお昼寝用の干したワラを敷いて、なかなかイイカンジだ。

「イシュダルさん……僕、少し誤解してました」

 レクアの生活はブラックだ。休日もなければビールもない。食材に乏しく娯楽もない。こんな胃世界生活の中、街の人たちはもっと苦しくてツライんじゃないかって。

「……旦那ぁ。うちには、ホントはもう3人子どもがいたんでさあ。でも、こんな街じゃあ子どもなんかすぐに……」

「エステルの上と下に一人ずつ。エランにも弟が……でもみんな5歳になる前に……本当のことを言えばエランもムリなじゃないかって覚悟してたんですよ。だからわたしたち夫婦もエステルもしばらく笑えてなかったんです。モーリさんと青雲堂でお会いするまでは」

 エステルくんが気を利かせたのか、子ども二人は少し離れた場所で寝息を立ててる。子どもが育つのは大変なことだ。僕の前世の世界でも、医学の発達やら経済的な豊かさやらがある段階になるまで乳幼児の死亡率はかなり高かったはずだ。まして、太陽もないこんな場所だ。

 だけど、そんな事実を知ってても、僕はこの場でイシュダルさん夫婦にかける言葉も出ない。口を開けては閉じて、ホント情けない。なのにイシュダルさん夫婦は言ってくれた。

「ですが旦那のおかげでさあ。もうすぐ新年。エランは5歳になります」

「エステルだって、もうじき8歳。最近じゃあずいぶんと頼りになるんですよ」

 僕がしたことは全然たいしたことじゃないし、動機だって、多分一種の自己満足だ。

「旦那。旦那はエランに未来をくれたんでさあ」

「ウチの家族に希望をくださったんですよ」

 こんなことを言われたら困る。浮かべるべき表情がわからない。

「モーリ様。恐れ多いことですが、おそらくは街の人族の多くもそれを感じ取っているんです……明るくなった空、魔力負担の半減、そして今年の豊作。怪獣だって随分被害が少なくなって」

 フラオさんの話は相当大げさで、しかもそれは明らかに魔王の業績に対する評価のはずで。ホント、困ったな、返す言葉がみつからない。

「だから……旦那あ。また飲みましょうや」

 なにがだからなのかはわからないけど、でもその言葉には素直に頷くことができた。

「なにがだからです、あなた!」

「お酒なんか贅沢しちゃいけません!健康にも悪いんですから!」

 だけど……イシュダルさん一家不和の元になっちゃいけないな。やはり困った。


 1時間ほどのお昼休みはすぐに過ぎた。昼食はないけど、光を浴びて休んで午後の労働に向かう貴重な時間だ。

「みんな、時報ですよ」

「ああ、んじゃ鉱洞に出かけるとすっか」

「私も農場に出かけます」

 子どもたちとキスを交し留守中のことを言いつけるイシュダルさんたち。まあ、留守の間はフラオさんもいるし大丈夫なんだろうけど、それでも心配なのが親なんだろう。

「旦那も、ムリしないでくだせえ」

「どうかご無事で」

 だけど、二人は僕の心配までしてくれた。僕がこの後何をするつもりかきっと気づいてる。そのせいだろうか。

「おじさん、もう行っちゃうの?」

「え~」

 子どもたちまで心配そうだ。子どもに心配される魔王ってなんなんだろうね、まったく。

「おじさん、危ないことしたらだめだよ」

「いい子にしてね」

 せめて大人扱いしてほしい。まあ、この街じゃあ何もできない僕は子どもとたいして変わらないけど。

「ありがとう、二人とも……今度またウチにおいで」

 今はいけない。僕の家はエスリーもいないし敵が見張ってる。だけど、この一件が片付いたら。

「そのうち、ここにもオフロをつくってあげるからね」

「大きいヤツ?」

「ホント?」

 僕んチの屋上露天風呂はこの子たちにもお気に入りだった。二人は温泉伝道師の僕にとって最初の信者だ。そして、僕を初心に戻してくれる恩人でもある。大事にしよう。

「うん、約束だ」


 全世帯にオフロを造るのは断念した。家妖精と精霊の負担が大きすぎるからだ。だけど、そう、コニーデちゃんの火山島をレクアに連結したら島中温泉カスタマイズだ!そして街に休日の制度をつくって、全市民を招待してやる!今から楽しみだ。

「そのためにもあんな暴君、さっさと失脚させてやる!」

 前世じゃケンカ一つしたことがない僕だったけど、この件に関してはもう覚悟が決まった。今回はむしろ好戦的だな。

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