第4章 その6 僕の復活劇
第4章 その6 僕の復活劇
真っ暗で寒いだけの空間で、何かがぼんやり見える。光の点が円を描いている。光は、先端に炎をともすロウソクのようでもあり、だけどその光は円を囲むロウソクごとに全部違う色で、12色のクレパスを立てた円盤にも、あるいは12色のロウソクをたてたバースデーケーキにも、12色のLEDを点灯させた電飾の時計のようにも見えた。
「再び、終点は起点となる」
声がする。僕が一番嫌いな声だ。だけど・・・・・・僕の話し方と比べて違うせいか、もっとイヤな声に聞こえてしまう。
「今こそ、真の復活の時・・・・・・黒への再生だ」
その声とともにはっきり見えた。いつの間にか光が近い。ロウソクが人の形に見えた。
僕がいた。黒い服をまとった僕だ。両のこめかみにツノをはやした僕だ。でも・・・・・・僕じゃない。僕にはあんなものはない。額に目なんかない!なのに、見ていただけの僕の意識が痛む。僕の眉間が痛む。
「黒は万色を重ねし全色」
おそらくはどこも痛くない僕が言う。僕にはもちようのない威厳のある声が朗々と響く。
それに続く声で、ロウソクが、クレパスが、電飾が人の影となってゆらめく。
「影は全ての光を映す鏡」
僕はこの景色を知っている。
「闇は光を飲み込み光は闇を払う」
これはルリエラさんが見た景色だ。彼女と意識が同化していた僕が見た景色だ。
「それは異にして同である」
だけど、あの時の景色はルリエラさん目線だった。
「故に我らも個にして全」
今は違う。
「全にして個」
僕はどこにいる?どこからこの景色を見てる?
「一にして十三」
声は僕の周りをぐるぐる回り、つられて僕の意識も回転するように不安定だ。
「十三にして一」
そして・・・・・・声が一つ続く度に
「始まりは」
僕の意識は薄くなる。
「終わり」
もう随分とぼんやりになって。
「終わりは」
・・・・・・眠い。
「始まり」
そして再び起点は終点となり、終点は起点となる。それが円環である。滅びであり再生である・・・・・・。あれ、声の言うことが言う前にわかる。
「「……我らが体よ、目覚めよ」」
そして12の声が唱える。それに続くもう一つの声。
「我が魂よ、新たな我に転生せよ」
でもこれは知らない。ここは「異界の魂よ、我らが体に転生せよ」だったはずだ。
知ってる声たちが知らない言葉をさらに続ける。
「「我らが魂よ、我らが元へ参れ・・・・・・」」
そうか・・・・・・僕の意識が回るわけだ。だって、ここに居る12人は、魔王じゃない。全部、僕だ。12人の僕に、僕の意識が入れ替わるように次々と憑依してたんだ。
そして、僕の視点は固定された。12人の僕が見つめる、その中心に。円の中心にいたのが、あの僕だ。僕が一番嫌いな、威厳はあるけどどこか酷薄そうで、ツノがあって、額に目がある僕だ。12人の僕は12色の、魔力を注ぐ。しかし、その色は重なり、次第に混じり合い、いつしか黒くなっていく。黒い光が円を覆う。
そこにいたのは黒い僕だ。
「我こそは真の王・・・・・・ようやく本来の体を得たぞ。幽閉されて140年余り。いずれ朽ちていく身かと思っていたが・・・・・・よくぞ我が身を生まれ変わらせてくれたな、妹とその末裔どもよ」
そして僕の意識は完全に寒過ぎる暗黒に飲み込まれていく。
「虚弱で暗愚な異界の魂よ、我が体から疾う疾うに去れい!」
そんな僕に追い打ちをかける僕の声。
「そうか・・・・・・この体の持ち主って、元々は僕じゃなかったんだ」
12体の魔王の合成体という、潜在的に強力だが不安定なこの体を制御するために、っていうよりむしろ抑さえつけるために召喚されたのが僕だったのか?
「ふ・・・・・・今頃気づいたか。いや、まだおったのか?この寄生虫め」
僕は寄生虫か。世界竜の胃世界で見た、竜酸菌やらダイカイチュウやらと同類なのか。
コイツの暴走を抑えるために後付けされた、あ-そっか。キ○イダーの良心回路みたいなもんか・・・・・・不完全な。だから僕はいつも非力で、苦しんで、自分と戦ってばかりで。
なんか、この胃世界とつながってるって思ってた僕のなにかが、今、ぶつって切れた気がした。
「僕、ここでも利用されてただけなんだな」
天使さんが僕を送ったのも、ママが僕を選んだのも、僕が便利で都合がよかったからなんだ。ま、そうだよね、僕なんか。
「・・・・・・もう、どうでもいいや。前世で便利使いされた僕は、転生してもただの消耗品なんだ」
異動と転勤なかりの日々。それでも腐らずに、どこの支社でもどの部門でも成果をだそうって頑張ったのは、そこで必要とされたからだったのに。だからムリして誰よりも頑張ったのに。
「異動先ですぐに人間関係つくって、早く仕事覚えて、成果を上げても・・・・・・どうせまた異動か転勤」
自分の企画を引き継いだ人がすごい成果を上げて社内表彰されたって聞いて。
「僕の手柄じゃないけど、うれしかったな。お祝いメールの返信来なかったけど」
ならここでもそうか?これも引き継ぎか?僕がいなくなっても、僕のやったことが残るんなら?
「お前・・・・・・僕の体を奪うんだから、僕の計画も引き継いでくれよ」
「・・・・・・ああ。我とて亡国の王になりたくはない」
黒い僕は冷然と笑う。僕なんかよりよほど魔王らしい。
「お前の体もお前の計画も、ちゃんと我が引き継ごう」
ならいいかな?これでレクアが救われるんなら、僕はちゃんと頑張った。僕の計画が、ちゃんとレクアを救ってくれる。それが僕じゃなくてもいいや。
「だから安心して去れ。惰弱で暗愚な異界の魂よ」
12体の僕に囲まれた黒い僕は、その手で僕を追い払う仕草を見せる。
「はいはい。所詮僕はいつでもどこでも誰にでも便利な人ですよ」
もう、いいや。この世界での僕の役割はもう終わり。いろいろ調べて考えて、下準備が終わったら、はい、それまでヨ。いつものことじゃないか。転生しても便利な僕。
僕は目を閉じて、全てから解放されようと力を抜いた。暗闇が僕を包む。
「はあ~やっと楽になれる・・・・・・」
過労死したあげくの転生で、この閉ざされた胃世界に来た僕だけど、僕は思ってたよりずっと疲れていたみたいだ。ここは暗くてくさくて窮屈で、おいしいモノもお酒もお茶もなくて、お風呂すらなかったブラック世界だ。そんな中で、誰にも望まれもせず、ただ魔力が異常に余ってることを利用するだけで、ついに魔王になってしまった。
だけど・・・・・・魔王として、この世界を救おうと頑張ったけど、やはり力不足というか、人望がなかったというか・・・・・・知ってたけど。やはりこうなったか。
「なにしろ僕は何かをやり遂げられたことがなかったからな~」
前世では転勤と異動ばかりで、自分で立てた企画すら見届けられたことがない。そんな半端な僕だから、いつまでここで生きられるかも不安だったし。だからこそ脱出計画も5年って超短期にしたんだけどなあ。5年どころか、最初の1年もたずに脱落か。
「ま、下準備は終わったし、後は計画通りやってくれれば、僕がいなくても大丈夫だよね」
だったら、もういいや。眠いし。
「マオマオ様~こんなとこでおネムはダメダメなの~」
なのに。体を揺すられる。やっと眠れたのに。
「マオマオ様~」
やっと楽になれるのに、うるさいな。
「マオマオ様~今おネムするのはダメダメなの~向こう側に行っちゃうの~」
僕を揺する手は諦めない。なんでだ?もう僕を放っておいて欲しい。僕の本性があんな情けないヤツで、しかもそんなヤツに僕は押さえつけられて動けもしなかった。そして何より、アイツは僕の計画を引き継ぐって言ったんだ。もう、僕、いる意味なくね?
「ダメダメなの~気持ちをしっかり保てば平気なの~だからマオマオ様は起きられるの~」
「おい、街妖精。なんでキサマごときがここに現れるのだ?」
やれやれ。ここでさらに乱入者か。僕、眠りたいんだけどなあ。
「・・・・・・オニオニ様・・・・・・ごめんなさいなの~」
「キサマ、その呼び名は止めよと言ったであろう!」
ぷっ。思わず吹いちゃった。オニオニサマ?あんだけエラソーでカッコつけてたアイツも、この子にあっちゃカタナシだね。
「あ~マオマオ様~笑ったの~もう起きる~?」
「馬鹿者!ソヤツはもうこの体を我に譲り渡してこの世を去るのだ。起こしてはならぬ!」
「・・・・・・でもぉ、オニオニ様~」
「だからそれはやめろ!」
ぷ。ぷぷぷっ・・・・・・困ったな。さっさと眠りたいのに、このやりとり面白すぎ。僕の前じゃあんなに酷薄そうなアイツが・・・・・・。まあ、叱ったくらいで治るほど、この子の習性は尋常じゃないし・・・・・・この子?
「でもでも~エマエマは、マオマオ様にここにいて欲しいの~」
エムリアさん?僕を起こそうとしてたのはエムリアさんなのか?・・・・・そうだ、わかってた。この話し方といい、僕への距離感のなさとか、空気読めなさ感とか、エムリアさんしかいないってわかりきってたじゃないか。だけど、エムリアさんは僕を裏切ってるのに、なんで今さら僕にかまうんだ?
「マオマオ様~起きるの~」
「きさま・・・・・・主の意に逆らうか!」
え?なんかすごい音がしたぞ?
「契約者の意向は絶対なのだ!従属した妖精ごときが我が意に逆らうな!」
まただ。また、大きな音がした。つい目を開けると、エムリアさんが殴られてた。
「くうう・・・・・・オニオニ様~痛いの~マオマオ様は困っても怒ってもそんなことしないの~」
「あんな惰弱なモノと我を比べるな!」
「でもでも~エマエマはマオマオ様が~」
「キサマ、今になって契約にさからうのだな。ならば・・・・・・うっとうしい妖精め!その便利さゆえ使ってやっていたが」
「マオマオ様は~エマエマが便利じゃなくても嫌いじゃないって言ってくれたの~」
エムリアさんはバカだ。僕は泣いてる彼女になにもしてあげられなかった。ただ、人に好かれるために便利使いされてた前世の自分を哀れんでただけだ。なのに。
「あの惰弱な偽王をまだ慕うか!もうよい!キサマも滅ぶがよい!」
黒い僕が、エムリアさんに向かい左手を掲げる。エムリアさんが苦しんでる。
「きゅう~・・・・・・」
って。妖精はマナと誓約に従う存在だ。マナを交わした契約は、その存在そのものを縛る。僕との契約より優先される契約があれば、それに従わざるを得ない・・・・・・なんてどうでもいい!
「やめろ!このパワハラ上司!」
「き」
さっきなんかキレてたものなんか、どうでもよくなった。
「お前はエムリアさんの契約者なんだろう!だったらエムリアさんをもっと大事にしろ!」
「な」
練成してる時みたいに、時間がゆっくり感じる・・・・・・なんてことは、この時思ってる暇もなかったけど。
「エムリアさんを大事にしないお前は!絶対レクアの人も大事にしない!そんなお前が僕の計画を引き継ぐなんて、誰が信じるか!」
いろいろ言ってるけど、実際にはなにも考えてなかった。僕はヤツを殴り倒してたんだ。自分でもいつの間に起きたのって呆れちゃうね。よっぽど嫌いだったのガマンしてたんだね。前世じゃケンカ一つしたことないのに、なんだかなあ。
「マオマオ様~オッキなの~」
「エムリアさんのバカ!」
「ええ~?バカはマオマオ様なの~エマエマはマオマオ様を助けたの~エライの~」
いろいろ言いたいことがありすぎる!でも・・・・・・頬を張らしたエムリアさんに、なにも言えない。僕は彼女を背後にかばって、倒れたソイツに向き合って。
「あれ?・・・・・・いない?」
「マオマオ様~ここはマオマオ様の中なの~」
背後からエムリアさんが教えてくれるけど・・・・・・「僕の中」って意味不明だ。
「だから、マオマオ様の心の中なの~オニオニ様はマオマオ様の体が欲しくてマオマオ様の心を追い出すためにここに来たの~」
・・・・・・普通ならできないんだけど、僕自身がここから出て行こうとしてたからアイツが簡単に入ってこれた。でも、ギリギリのタイミングで僕がアイツを追い出したから、もういない・・・・・・ってことらしい。
「なるほど」
「マオマオ様~わかったの~?」
「エムリアさんのわかりにくい説明を理解できるって僕もなかなかだなって」
「マオマオ様~なにげにひどいの~せっかくエマエマが助けてあげたのに~」
・・・・・・・・・・・・困った。助けてもらったのは確かだろう。それを認められないほど、僕は小さい人間じゃないぞ。だけど、そもそも僕がこんな目に遭ってるのは彼女のせいと言えなくもない。だいたい事情がわからなすぎる。絶賛困惑中の僕なのに、空気を読まないエムリアさんが僕を引っ張って集中させてくれない・・・・・・。
「って、エムリアさん、どうしたの!なんか、見え方がおかしいよ!?」
「マオマオ様~エマエマ~契約違反なの~だから、消え消え~」
「だめだ!消えちゃダメだ!」
だけど、エムリアさんは、はかなげに笑うんだ。そんなの、この子に似合わない!エムリアさんは、僕にとっては少しウザイけど、レクアのみんなにとって、その明るさが救いになってる存在だ!
「絶対消えちゃいけないんだ!」
「・・・・・・マオマオ様~優しいの~」
「だいたい契約違反ってなんだよ!不当な契約なら破棄したっていいんだ!だいたい違反したら死んじゃうなんて罰則厳しすぎだ!それだけで不当契約だ!」
「妖精はマナと誓約で存在するの~だから誓約を破ったら存在できなくなるの~」
「イヤだ・・・・・・」
なのに、エムリアさんがまた薄くなる。僕の世界で、僕の妖精が。
「マオマオ様~それが妖精の定めなの~」
「イヤだ」
少しずつだけど間違いなく、エムリアさんの色素が、質感が薄くなる。
「マオマオ様~エマエマ頑張ったの~契約に逆らうの、大変だったの~」
僕に伸ばされたその細い手を、僕はしっかり握った。少しでも僕の魔力だかオドだかが彼女の力になって、消えなくなればいいって。
「なんで僕なんかのためにエムリアさんが・・・・・・」
笑うエムリアさんが、僕の視界でにじんで見える。
「マオマオ様~?泣いちゃダメなの~泣くのは悪い子なの~」
なのに、エムリアさんは握られてない方の手で、僕の頭をなで始めた。
「バカだよ、エムリアさん・・・・・・僕なんかのために」
自分が消えそうなのに、こんな僕を慰めるなんて。
「だからひどいの~マオマオ様~エマエマ、頑張ったのにちっとも誉めてくれないの~」
なにか言い返したかった。だけど、うかつなことを言い出せば、きっと僕は泣く。
「・・・・・・エムリアさんはどう誉めて欲しいの?」
だから息を整えて、やっと言葉を絞り出した。
「フツーでいいの~」
「エムリアさんのフツーはわかんないよ」
「ホントにひどいの~じゃあ、マオマオ様~」
「なんだい?」
「あのあの~なの~」
聞いた僕に、少しためらってエムリアさんが答えた。
「エマエマの頭、撫でて欲しいの~ナデナデして、頑張ったね~って誉めて欲しいの~」
もう消えそうなエムリアさんが、恥ずかしそうに。ずるいよね、ことわれないよね。
「エムリアさん・・・・・・ありがとう」
いつもならためらうのに、僕はそのままきれいな金髪ツインテをリボンごと撫でた。
「僕のために頑張ってくれて、本当にありがとう・・・・・・僕の大好きなエムリアさん」
「えへへへ~なの~エマエマ、マオマオ様のエフエフ~?」
甘えてくるエムリアさんをそのまま抱きしめて。もうこれが最後なのか。うっとうしくてなれなれしくて、だけど・・・・・・明るくて元気でかわいい僕の妖精と。目を閉じたエムリアさんの唇が近い。
……僕の動きはそこで止まってしまう。
「旦那様、そこまでなの!」
「エマ、主をだますのもいい加減にしておくことだ」
だって暗い空間の上から、何かがすごい憩いで落ちてくるのが見えるたんだ。




