第4章 その4 妖精がたり
第4章 その4 妖精がたり
暗くて窮屈な僕の軟禁部屋だ。
「エマエマたちは、元々、湖の周りで暮らす人や動物たちのオドが集まってマナになってできた精霊なの~」
ようやく落ち着いたエムリアさんが、語り出した。僕の妖精の扱いについてどうこう、から始まって。いや、僕、妖精をたらしこんだりしてないから。そんな人聞き悪いことができてたら、前世で魔法使いルート、進んでなかったから。過労死してなかったら間違いなく達成してたルートだけど。そういや、前世の母国にも「妖精」って人種がいたらしいけど、そっちは詳しくない・・・・・・ん?
「精霊?妖精じゃなくて?」
「そうなの~だけど、だんだん集まってくる人族の、暮らしや安全への願いがオドに残って願いになって、そんな人たちの意識と交流するようになったの~」
「・・・・・・人の願いが魔力にこもって?その願いを共有するために人の意識や姿をとるようになって?」
「そのうち妖精になったの~」
つまり今の姿は人族と交流するための一種のコミュニケーターなのか?全部の妖精がそうとは限らないけど、少なくてもレクア建国の礎になった湖は、集まる人の願いを聞いて、その願いをかなえるために、今の、人の姿をとったのか。
オド。生物の根源の力。そこに生命の思いがこもって、人の願いが集まって。
マナ。世界の根源の力。様々な現象を起こす力。
何代、何十代にもわたる生命の思いが湖に集まり、精霊になって、さらに人の願いをかなえるうちにその意志をもった妖精になった。
「でも完全に今の姿に、特に三柱に固定されたのは、リリリリのせいなの~」
リリリリってなんだ、黒電話か?・・・・・・ああ、リエラさんか。神祖の。リリエラちゃんだったら恐すぎ。
「でも、なんで今、そんな話を僕に?」
「・・・・・・エマエマたちの元々の契約者は・・・・・・」
「リエラさん?・・・・・・まさか、今回、僕を捕まえてるのってリエラさんが蘇って!?」
「違うの~でも~・・・・・・言えないの~」
リエラさんじゃない。安心です。だって、この国の現在の形をつくった初代魔王が復活したら、アルビエラ母さんが僕なんかを転生させた意味がないじゃない・・・・・・あれ?
「じゃあ、神祖リエラさんの後を継いだ歴代の魔王って、契約者じゃないの?」
「リリリリの後をちゃんと継げたのは・・・・・・マリマリまで・・・・・・」
マリマリ?
「マリエラちゃん?リリエラちゃんの双子の妹の童女魔王の?」
僕にとってはあの子も母さんなんだけど・・・・・・。でもエムリアさんが苦しそうだ。声が途切れ途切れだ。よく見れば、顔色も青白い。
「エムリアさん、もういいよ」
「だからアビアビの頃に~・・・・・・」
アビアビ?・・・・・・アルビエラ母さんか?だったらアルアルだろ?いや、まあ、いい。
「いいんだ、エムリアさん。話しちゃいけないんでしょ。もういいから」
きっとこの子の今の主に制約されてる。妖精とはそういう存在だ。むしろもっと早く気づけ、僕!
「だって、リリリリの血統は~・・・・・・」
「いいから!この話は禁止!」
僕との契約はもうかなり効力薄いだろうけど、まだ効き目は残ってるらしい。だから強く命じる。それでエムリアさんもやめてくれた。呼吸も戻って。
「・・・・・・マオマオ様は甘いの~」
でも上目遣いはやめて。それでなくてもさっきから少し近いんだから。
「はいはい。どうせね」
自分を裏切った妖精相手でも、むごいことどころかムリなことだってさせたくない、甘ちゃんですよ。いいんだ。僕はこのブラックな世界でもホワイトな雇用主でありたい。さもなきゃ過労死した前世が報われなさ過ぎる。
「でもでも~優しいの~」
あーもう。この妖精は。ずるいよね。だけどすっかり消耗してるエムリアさんに邪険にできるほど、僕は・・・・・・なんだろ?薄情?冷淡?違うな・・・・・・もっと魔王らしさを表現する言葉があるんだろうけど。まあ、言ってしまえば、僕には魔王要素がなさ過ぎるんだろう。
で、しばし経って。
「マオマオ様~お腹すいたの~」
これだ。自由すぎ。だいたいさっき、僕から自然放出される余剰魔力をたっぷり吸収してたくせに。やはりエスリーより魔力の容量が大きいんだろう。まあ、この街を守る光壁を展開してもらわなきゃいけないし、エスリーや妖精たちにも魔力を分けてもらうんだし。
「エムリアさん・・・・・・はい。これでいいよね」
僕は再び右手の人差し指を、「フェアリーリング」の指をさしだした。
「エマエマは・・・・・・」
顔を上げてくれたエムリアさんはそう言いかけて、でも口を閉じた。
「エムリアさん。お腹すいてるんでしょ。贅沢禁止」
ハグ以上に非能率的で贅沢な魔力吸収ってどうするのかは自信ないけど、エルダさんなら・・・・・・口からとかだったな。拒否したら、額かち割られたあげく、血、もっていかれたけど。さすがにエムリアさん相手にも口移しはアウトだ。指、一択です。なのにエムリアさんは不満そうに口を開いては閉じて。
「これが能率いいんでしょ?ほら、早く」
僕は指を近づけた。それを追う彼女が寄り目になった。
「ぷ」
ちょっと面白い顔になってた・・・・・・あ、なんか今、にらまれた?でも、閉じてた口が大きく開いた。
「ガブリなの~」
「うぎゃ!」
指にかみつかれた!痛い!意表を突かれ過ぎた!
「むあおむあおしゃまはおとうあしくうっしゅるの~」
「げ、血が出てる!だめだってば!」
僕の血肉は危険だ。ある種の魔物や妖魔にとってはごちそうで、エスリーが一口なめただけで成長しちゃったレベル。平気だったのはそもそも規格外のエルダさんだけで、それだって契約するときの一回、少量だけ。使用上の注意の範囲内だ。でも、いくらエムリアさんが強力な妖精でも、僕の血はやばい!どんな影響が出ちゃうか!かんでる彼女の口元からフェアリーリングの光がもれてる。それを見て、僕は慌てて引っこ抜いた。うわ、血とよだれでなんかHぃ。前世から引き続き魔法使いルートの僕には刺激が強過ぎ。
「今日のところはこれで満足してあげるの~次はもっとたくさんもらうの~」
口を拭うこともせず、そのままエムリアさんは壁をすり抜けて姿を消した・・・・・・。
「疲れた」
僕は指の血を・・・・・・拭おうとして、そのまま放っておくことにした。まあ、拭くハンカチもないし、この服で拭ってこれ以上汚すのもイヤだしね。で、そのまま寝台に倒れ込んで・・・・・・あ、寝台に血がたれそうになって慌てて人指し指を口に含む。
「なんか甘い・・・・・・わ、これって間接・・・・・・って中学生か!?」
見た目中学生のエムリアさんにつられてか、僕のメンタリティまでだだ下がり。僕には大人の威厳もなにもないけど、せめて良識と冷静さはなくしたくない。だけど、頭の中のエムリアさんを追い出すことは難しかった。
「エムリアさん、変に成長したりしないだろうな?お腹、壊したりはしないよね?」
少し大人になったエムリアさんが「マオマオ様~お腹痛いの~」って泣いてる絵が浮かんで、僕は大きなため息をついた。




