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第4章 その3 魔臓器の日々

第4章 その3 魔臓器の日々


 あの日、降参した僕はエムリアさんに転移させられて、そのまま軟禁された。あれから何日たったんだろうか?

 僕は与えられた部屋の中を改めて見回した。3畳ほどの面積は、僕んチの寝室と変わらないからそこに不満は・・・・・・ないわけじゃないけど、まあ、ガマンできる。むき出しの石壁が圧迫感たっぷりだったあの寝室と比べれば、謎の壁紙(?)がはられていてスッキリしてるし、寝台の無駄な天蓋で頭をぶつける心配がないことなんかはむしろいい物件だって思えるくらいだ。

 だけど自由がない。窓はおろか、扉も鉄格子すらない、ここから出られない作りだ。これで散歩もできないのはツライ。

 食事や飲み物は一日二回で、朝食は雑穀の粥、夕食はふかしたアルビャーモと決まってる。もちろん、バターどころか塩もついてない。水は一日水差し一瓶だけ。かろうじて部屋に付属トイレはついてるけど。

 もちろんお風呂なんかないし、こんな場所でこんな生活をしてるから、出がけにエスリーが着せてくれたきれいな青のスーツが滑稽だ。室内には、無地の簡素なシャツとハーフパンツが置いてるけど、僕はこのスーツを脱ぐ気にはなれない。

 困ったのが、僕がここで唯一身につけた力、練成魔術が完全に封じられていることだ。せめて練成炉が展開できればいろんな開発ができるのに。

 おまけに机も椅子もないし、紙やらペンやらももらえない。レクア脱出計画のためになにか思いついても、それを記録したり検証したりするのが不自由で仕方がない。

 魔臓器生活が三食昼寝つきのスローライフという期待は、まあ、僕の願望っていうか妄想の一種だから仕方ないけど・・・・・・なんか獄中死を期待されてるっぽい。

 そして、何より予想を裏切られたのは、誰も会いに来ないことだ。僕は、僕を幽閉した人物、あるいはその協力者とか部下とかに会えると思っていた。僕よりはるかに偉そうな魔族の首席オーマークさんとか、柔らかな物腰で躊躇なく寝返りそうなウーシュさんとか、或いは鬼族の誰かさんでもいい。僕なりに懐柔したつもりだけど何か見落としがあって、それを偉そうに、冷ややかに、馬鹿にされながら下剋上された理由を指摘される覚悟ができていた。それを聞いた後で善後策を、と考えていたんだけど・・・・・・僕を軟禁した相手は、僕そのものに興味がないのか?僕の魔力にしか興味がないみたいだ。・・・・・・まあ、そこはだけは予定通りの、この「魔臓器」待遇だ。心配なのは、僕の魔力をそこまで重要視してないかもしれないってことだ。だから、その相手にとって僕はこのまま死んでもいいし、死んだ方がいい存在なのかもしれない?ま、ありそうなのはそっちか。ちぇ。

 もともとレクアは暗い。この部屋には精霊もやって来られないから火精霊灯はないし、わざわざ高価な油をともしてくれる訳もない。ここに来てしばらくして、僕は自分でも意外なくらい夜目が効くことを始めて知った。でも時間はわからない。食事以外に、時間の経過をする術がない。これが思った以上にツライ。集中して考えるしかすることがないのに、時間感覚が失われるせいか、集中できない。外のことが不安で仕方がない。

 エスリーはどうしてるだろう?彼女が僕を呼んだ声が耳から離れない。ミリーやコニーデちゃん、せっかく僕についてきてくれた妖精や精霊たちはどうなったんだろう?お姉さんやジナさんたちはどうしてるだろうか?エルダさんは・・・・・・まあ、彼女が僕を見放すのは当然だろうけど。

 レクアは大丈夫なんだろうか?140年以上の間、世界竜の胃で耐えてきたこの国も、もう限界が近い。食料・水、資源に魔力、労働力にそもそも人口、いろんなところに深刻な問題を抱えている。いつ何がきっかけで滅亡が始まってもおかしくない。街の人たちは僕なんかがいなくても気にしないと思うけど、僕が不在の中、僕の計岡はどうなってるんだろう?僕じゃなくても、誰かがこの国を救ってくれるなら、ミリーたちを守ってくれるなら文句はない。正直に言えば、なくもないけどガマンはできる。 

 それでも黒い不安がこみあげる。

 このままの状態が何年も続いて、ついにはレクアも、あの島たちもみんな竜酸海に沈んでしまったら・・・・・・僕、何しにここに来たんだろ?


「マオマオ様~元気なの~?」

 ・・・・・・困った。ここに来る唯一の存在が実はエムリアさんだ。扉もないここに、壁をすり抜けて入ってくる。さすがに非常識だ。エルダさんと戦った時の、いつもより短い衣装のまま。どうやらこれが彼女の新ユニフォームらしい。僕じゃない「ご主人様」から与えられたのか。

「別に」

「あ~!?マオマオ様~エマエマに冷たいの~せっかくエマエマが会いに来てるのにぃ~」

「エムリアさんは僕の魔力を奪いに来てるだけでしょう」

 この軟禁部屋は、魔力を通さない。だから僕は練成炉を展開できないんだろうって思ってる。だけど、それでは僕の魔力を送る仕組みも使えない。そのせいだろう。エムリアさんが毎日ここに来ては、直接僕から魔力を奪っていく。しかも、以前より随分多く。

「ほら、どうぞ」

 僕はエムリアさんに向けて、「フェアリーリング」をはめた指をさしだした。抵抗する気はない。だって僕が魔力を渡さないと、街の住人が負担する魔力が増えるかもしれない。

 何より、僕の魔力を元にエムリアさんがエスリーや妖精たちに魔力を分ける。そう聞いた。僕が魔力を分けなければ、エスリーたちが飢える。これ、つまりは人質だ。

「マオマオ様~これじゃ味気ないの~」

「ちぇ」

 思わずしてしまった舌打ちが狭い室内に響く。

「それに最近のマオマオ様のマリョマリョ、少し薄くなってきたの~だからこんなんじゃおいしくないの~」

「うるさいな」

「マオマオ様、オコ~?どこか痛いの~?おつむ~?ぽんぽん~?」

「いいから、早く魔力を奪って行っちゃってよ!」

 僕を裏切ったくせに、なにも事情を教えてくれないくせに、エムリアさんは今も僕に対する態度は変わらない。

「マオマオ様~」

「そんな目で見ないでよ!」

「マオマオ様~・・・・・・」

「あ・・・・・・」

 エムリアさんが、僕の額に手をあてる。わざわざけっこうな背伸びをして。

「ちょっと、エムリアさん・・・・・・」

 さすがに見た目少女にされるのは恥ずかしい。しかも自分のおでこを僕の額にくっつけようと無理無私な背伸びをしてる。そのせいで・・・・・・近い。アイドル衣装の女の子が近い!一部あたってるし!

「離れてよ」

「じっとしてるの~マオマオ様~」

 僕はこの子が苦手だ。会ったその時からそうだった。

「なのになんでエムリアさんはなれなれしいんだ!」

 この子はずっとそうだった。僕が面倒くさがっても塩対応でも、いつも僕にからんできてた。距離感がないだけなのか?

「だってマオマオ様はいつもエマエマを許してくれるからなの~」

「・・・・・・なんだって?」

 思いがけない言葉に、僕は密着した彼女から離れることも忘れその顔を間近に見た。

「・・・・・・マオマオ様~お顔コワコワ~これじゃ、マリョマリョもらえないの~」

「・・・・・・ぐ」

 僕が魔力を与えないと、住民の負担が、そしてエスリーたちが・・・・・・。当たり散らしたいなにかをこらえる。顔が恐いなんて言われたのは、初めてだ。

「ごめん・・・・・・エムリアさん、おとなしくしてるから、好きなように魔力、持って行って」

 自分でも意外なくらい平坦な声が出た。いろいろ納得いかないけど、それはいつものことだ。僕はいったんエムリアさんから離れて寝台に腰掛けた。後は彼女に任せるつもりで。

「・・・・・・マオマオ様~スキにしていいの~?」

 問題ありそうな発言にも、なげやりにうなずく。

「マオマオ様はいつもエスエスに甘いくせに、エマエマには冷たいの~だから今日はエスエスみたいに全身からマリョマリョもらうの~」

 さすがにエスリーとは違うだろうって言いかけて、僕はなんとか黙った。見た目が幼女メイドのエスリーと比べ、エムリアさんはジュニアアイドル路線で肌露出も多めだ。そもそも家妖精のエスリーには僕の魔力は直接吸収するのは危険らしく、体温や汗と一緒に自然放出される余剰魔力で与えていた。だから必要なのは長時間のスキンシップ。はっきり言えば、ハグ状態だ。子ども相手だから許されるか、むしろ非難されるかはともかく、そういう事情にくわえ、彼女自身、家妖精で僕のお世話係という以上に甘えたがりだったし、家事を一つ済ませる度に言い訳つけては僕に甘えるように魔力をもらってく。そんなエスリーを思い出し、なんだか微笑ましくも悲しくなって、僕は目を閉じた。

「・・・・・・あれ?」

 なんか重い。妙に柔らかい。僕は回想を打ち切られて目を開けると、座った僕の膝にエムリアさんが向かい合わせる形で抱きついてきた。

「ちょ・・・・・・」

 さすがにこれはアウト。レッドカードだ!エスリーと比べ、見た目通り、エムリアさんはあちこち育ってる。まだ人族で言えば成長期だろうけど、今現在でも、それなりだ。

「マオマオ様~ムダな抵抗はやめるの~エスエスにはいつもこうしてるのに、エマエマには指からとか、ヒーキなの~」

「エムリアさんには必要ないだろ!そもそも直接魔力もっていってもいいんだから!」

 まさかのイロジカケか?いや、僕を軟禁した相手が少しでも常識もってるならよりにもよってエムリアさんを僕へのカードには使わないだろう。

「すぐに終わらせてよ。その代わり、好きなだけ魔力をもっていっていいから」

 僕はやや強引にエムリアさんから逃げ出し、その顔に指をつき出した。ほとんど光のない部屋なのに、フェアリーリングがかすかに光る。それをじっと見るエムリアさん・・・・・・なんだ?いつもと様子が違うぞ?

「エマエマはマオマオ様のエフエフにはなれないの~?」

 エフエフ・・・・・・前にも言ってたっけ。もちろん某有名ゲームでも前輪駆動車でもない。

「ファーストフェアリーだっけ?僕に気に入られたからって、何かいいことあるわけじゃないし、意味ないんじゃないかな?」

 差し出した僕の指をとらず、エムリアさんは僕を見た。リボンにまみれた金髪ツインテだけど、その顔はエスリーより幼く見えた。いや、言動だけならいつもそうなんだけど・・・・・・。

「・・・・・・エマエマはいつも便利な妖精だから、誰にでも好かれる妖精だから・・・・・・だけど魔王様たちにとって一番頼りにされるエルエルや一番身近にいるエスエスじゃないの」

「・・・・・・エムリア・・・・・・さん?」

 街の住民に人気があって(おもに男性に圧倒的なヤツ)、元老院にも頼りにされて(そのせいで魔王と元老院の間を行き来してる)、街中の家妖精や精霊たちを管理して(街のインフラを一手に握る役人いらず)、そして街を守る光壁を張って(あのエルダさんの凶悪攻撃すら防げる)、戦っても強い(素手で鬼族の精鋭部隊を無力化してた)エムリアさん。なんでもできて、誰にでも必要とされて。なのになにが不満なんだ?

 この子がなにを言ってるのか、なにを悩んでるのかがわからない。だけど、うつむいたエムリアさんが発したある言葉が、便利な妖精って言葉が僕の中で妙に響いて。

「そんなこと自分で言っちゃいけないよ、エムリアさん。誰かのために頑張って認められてるんなら、それはエムリアさんが頑張った証拠じゃないか」

 柄じゃない。自分でも思う。だけどなぜか言ってしまった。

「でもでも~エマエマはいつもみんなに便利だから、誰かの一番にはなれないの~今までの魔王様たちもゲロゲロもエマエマが便利だから使ってるだけで、街の人たちもエマエマが役に立つから喜んでくれて、でも~」

「でも?」

「便利じゃないエマエマは、きっと誰にも必要とされないの~誰からも好かれないの~」

 自分の居場所が見つからなくて。だから誰かの役に立ちたくて。誰かに認めて欲しかった?・・・・・・そんなのはエムリアさんだけじゃないよね。

「そんなわけない!エムリアさんは・・・・・・かわいいし明るいし人なつっこいし」

 僕、なにを言ってるんだ?苦手だって思ってるエムリアさんの、僕から見れば苦手要素を羅列して。いや、かわいいのは苦手じゃないけど。

「マオマオ様~ウソウソなの~ウソはダメなの~」

 にらまれた。いつもはひとなつっこくて、さっきまでは泣いてたエムリアににらまれた。

「・・・・・・ウソじゃない。確かに僕はエムリアさんが苦手で、誰にでも愛想振りまいてムダに賑やかで距離感もない空気読めない子だって思ってるけど」

 この子と僕は、まだどこかつながってる。だから本心でない言葉は通じないけど。

「マオマオ様、やっぱりエマエマが嫌いなの~」

「嫌いじゃない!」

 本心なら、伝わるんだ。だからこれも僕の本心だ。苦手だけど嫌いじゃないんだ。

「だってエムリアさんが明るく振る舞ってるのは、苦しい生活をしてるレクアのみんなに必要なことじゃないか!みんなに好かれようって盛り上げて、そういうエムリアさんだから、街のみんなは救われてたんだって思う。だからみんなエムリアさんが好きなんだよ」

「・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・便利だから」

「便利でもいいじゃないか。でもエムリアさんは便利なだけじゃない。みんなに必要な人なんだ」

 前世でも現世でも、僕にはなれなかったけど。ああ、そうか。だから僕はこの子が苦手なんだ。

「マオマオ様は?」

 複雑な感情が入り乱れて、言葉に詰まる。でも、僕はそれを整理して言葉を紡ぎ出していく。

「・・・・・・言ったろ。嫌いじゃない。僕こそ、エムリアさんに助けられてばかりで、便利扱いしてたかも。でも・・・・・・」

「でもぉ?」

「たとえエムリアさんが使えない妖精でも、絶対に嫌いじゃないって思う」

 前世の僕は、転勤と異動ばかりで、使えないヤツだって思われるのが恐かった。だから必死で頑張った。それは報われなかったかもしれないけど。

「エムリアさんはみんなに愛される妖精だよ。自信もっていい。だから元気出してよ」

「マオマオ様~じゃあ、エマエマをエフエフにするの~?」

「え?・・・・・・それとこれとは話が違うんじゃないかな?」

「・・・・・・マオマオ様はズルズルなの~ズルズルな妖精たらしなの~」

 妖精たらしってなんだ?まあ、僕の魔力に妖精や精霊たちが集まって来るけど、悲しいことに僕の人間性とはあまりに無縁だって思う。

「だから妖精相手でもたらしこんだりできてたら、僕、もっともててるよね」

「それはマオマオ様がヘタレで情けないからなの~」

「ひど」

「きゃははは~なの~」

 せっかく柄にもないことを言ったのに、当の相手から笑われた。ひどい。でも・・・・・・さっき泣いてたエムリアさんが今は笑ってるから、いいや。だいたい僕は妖精と人間の違いもよくわからない。妖精相手でも、女の子を元気づけられたんなら僕にしては上出来だ。

「明るくなくて泣いてるエマエマでも、マオマオ様はちゃんと許してくれたの~どんなエマエマでも、きっと許してくれるの~だから~・・・・・・エマエマはマオマオ様のエフエフになりたいの~」

 裏切った相手に、それはないんじゃないかな?年頃(?)の女の子(?)がこんなに無防備に甘えるのはずるいんじゃないかな?だけど、抱きつくエムリアさんから、今度は逃げられなかった。

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