第3章 その11 霊樹の妖精
第3章 その11 霊樹の妖精
「お姉さん、ここから外の大きな木が『見え』ますか?」
「ムリだね。ここから対象までいろいろとジャマなものが多すぎるよ」
・・・・・・この島の中央にある霊樹の白骨化の原因がわかればなんとかなると思ったんだけど・・・・・・あれ?
「・・・・・・地下の大きな根っこは、あの霊樹のものですよね?」
「そうだと思うよ」
「霊樹は白化はしてるけど、白骨化はしてなかった。そうですよね?」
「・・・・・・そうだね。ボクも混乱してうっかりしてたよ」
「霊樹は白化。それ以外の地上の生き物は白骨化」
「ニワトリが先か、タマゴが先か。古典的だけど不動の難問だね」
・・・・・・白化が先か、白骨化が先か?いや、案外答えは簡単なんじゃないか?
「お姉さん,
ここはかつて霊樹の国で、島の中央の大木が一種の防護壁を展開して竜酸雨から護ってたんですよね」
「・・・・・・前回の調査報告にそんな推論があったはずだね」
「なら、防護壁がなくなったから、地上の生命が死んで、その後白骨化したんじゃないです
か?」
「弟クンは白化が先で白骨化が後って考えたんだね」
「そして・・・・・・白骨化の原因は僕にはわかりませんけど、白化ならわかりそうです」
白化なら前世の知識に残ってた。
原因はいろいろで、植物の種類によっても異なるんだけど・・・・・・確か・・・・・・栄養素の欠乏の典型的な症状のはずで。
その栄養素とは、土壌のミネラル。鉄とかマグネソウムとか亜鉛とか。僕は自分の魔法知覚を広げようと思って、考え直した。実は僕は、魔法知覚よりこっちの方がわかりやすい。歴代魔王の体の一部で合成された僕の全身の中でも、アルビエラ母さんがくれた右手が一番親和性が高いからだろう。その右手に魔力を集中し、そのままトンネルの地面に突っ込んだんだ。割れ目から薄い色の光が漏れる。これは母さんの魔王斑、桃の花章の光だ。
土壌の成分分析を始める。ミネラルは・・・・・・あれ?問題ないんじゃないかな。土壌として、他になにか白化の原因ってあったっけ?右手を通してさらに探る。
「あ、窒素がほとんどない!?」
窒素は肥料にもよく使われる、植物の生育に必要な成分だ。昔は酸素とかと比べて「役立たずの空気」なんて言われてたけど、最近じゃあ、生命生成の根源、アミノ酸とかも窒素化合物の一種だって・・・・・・。
「ここの白化の原因は窒素不足か!」
ならやりようがある・・・・・・ここの霊樹がまだ生きてるんなら、白化が治るんなら?
「なんとかなるかもしれませんよ、お姉さん!」
「まあ、その霊樹とやらがどれだけ力があるかによるんだろうけど・・・・・・やってみようか?」
窒素元素は、この胃世界の竜酸海の主成分、王水に含まれている。推進剤の窒素化合物もそこから練成した。だから、まあ、慣れっこだね。僕の練成炉にも常備してるし。
僕は地中に埋めた右手から、大量の窒素を送り込んだ。僕の魔力と一緒に。足りない分は島の周囲の竜酸海から練成した。我ながら、練成魔術って便利だなあ。なんて思ってたら
「弟クンの練成魔術は、ますます即物的で俗物的になっていくねえ。お姉さんは悲しいよ」
呆れられたのかな?でも、お姉さんには悪いけど、世界の真理より今、この世界を救いたい。僕は小さい男だね。
そのまま、主観時間ではけっこう長い時間が経った。ジナさんたちが絶賛防戦中なので客観時間ではそうでもなかったかもしれないけど、お姉さんがストーンサーバントを練成しては、何度かジナさんたちを交代させてたから、やはり長かったのかもしれない。
座り込み長く集中していた僕の肩を誰かが揺らした。
「弟クン・・・・・・やっと気づいたか。すごい集中ぶりだったね」
「お姉さん?」
「見たまえ」
お姉さんが指さす先では、白化してた大樹の幹が、元の木の色に戻っていた。即効過ぎるけど、窒素だけじゃなくて魔力を送ったせいかな。
安堵で思わずへたり込みそうになった僕です。
「この土地は長いこと大きな樹に護られた閉鎖空間だったから、土壌の成分に偏りができてたんだろうね」
つまり・・・・・・僕の行った処置でよかったって意味らしい。
「でも白骨化の方はこれから・・・・・・」
お姉さんの声が途切れる。ガラガラガラ・・・・・・なにかが一斉に崩れる音がする。
「へっ?」
「あれ?」
「まだ両断してないのに勝手にスケルトンが壊れてくよ」
防戦中のジナさんたちからそんな声が挙がる。よく見れば、鎧の隙間から見える素肌があちこちケガしてる。足元には白い骨の山があった。こんなになるまで戦ってくれたんだ・・・・・・。
「すみません」
一瞬、ジナさんの顔に怒気が浮かんだ。あれ、なんか間違えた?
「・・・・・・おめえも大概だよな」
ジナさんが僕を軽く小突く。殴られるかと思ってたけど拍子抜けだね。
「いまさら気にすんな」
「任務」
「魔王ってホントにわかってないよね」
そっか。言葉じゃなくて、ちゃんとお礼をしなきゃダメだよね。つまりはボーナス!僕はブラックな経営者じゃないんだから、社員(?)の頑張りには正しく報いなきゃいけない。
う~ん。オリハルコンの武具以外だと、何が喜ばれるんだろう?やはりお金かな。
「・・・・・・僕、貧乏だから、お礼は資源とかでいいですか?」
この後の調査で宝石とか貴金属とか、陶貨の原料とかが見つかったらそれでもいいかもしれない。
「バ~カ」
ばき。今度こそ殴られちゃった。しかもけっこう痛い・・・・・・なにが悪かったんだろ?
「弟クン、遊んでないで、早く外に出ようよ。霊樹とやらがどうなったか早くこの目で見たいんだ!」
「はいはい」
お姉さんも前向きだよね。僕はお姉さんに引きずられてトンエルを出ることにした。
外では大きな木が枯れていた。天をつくような大樹が、島全土を覆うような枝葉を茂らせる大樹なのに。
「白化の解除、間に合わなかったのかな」
「・・・・・・どうだろう?」
お姉さんはメガネを外していた。あの、双眼鏡より分厚いメガネを。目を大きく開いて大樹を、おそらくかつて霊樹だったものを凝視している。
「う~ん・・・・・・やはりよく見えないな」
自分でメガネを外して、それはどうなんだろう?
「あー弟クン以外は後ろを向くように」
なぜかお姉さんがそんな変なことを言い出して、意外なくらい素直にジナさんたちは回れ右した。
「どうしたんです、お姉さ・・・・・・ん!?」
「これくらいで驚かないでくれたまえ。海底で言っただろ、ボクの正体を」
つながらない。お姉さんは、アルビエラ母さんのつくったホムンクルスで、その魂は神祖リエラさんの魂の一部で、ある意味僕の、魔王たちの合成体といえる僕の体の、試作品で。
だけど・・・・・・そんな聞いた話と、今のお姉さんの姿がつながらない。
「お姉さん・・・・・・その姿は・・・・・・」
「ボクはキミのお姉さんだよ。これくらいフツーじゃないか」
お姉さんが、どんどん成長している。そして・・・・・・脱ぎ捨てたローブの下には、翼と尻尾の生えた魔族の体があった。こめかみには、それまでなかったツノまで伸びてきた。
「・・・・・・アルビエラが自分の複製をつくって終わる訳ないだろう?彼女はリエラをよみがえらせたかったんだから・・・・・・」
「そ、それじゃあ」
「これは魔族として生まれ変わった場合のアルビエラの体。その理想形態だ」
二十歳くらいになったお姉さんの額が割れた。ぴょこ・・・・・・縦長の目が現れた。
「普段の目は近眼でね。この目が一番よく見えるんだよ」
「・・・・・・お姉さんは改造人間だったんですね!」
「そこ、喜ぶところなんだ?まあ、気味悪がらないのはさすがは弟クンだね」
背中の黒い翼が、お尻の上に尻尾が、こめかみにはツノが。ここまでならジナさんたち魔族っ子と一緒なんだけど、さすがは神祖さんの転生体。三つ目!こういうギミックを隠していたとは!
「さてと。とはいえ、ボクはいろんな意味で試作品で失敗作だ。この姿では長くいられない」
「やはりそうなんですね!3分ですか!」
「サンプンが何かはわからないけど、消費する魔力がボクの魔力量を超過するまでかな」
お姉さんの額の目が金色に輝く。枯れた大樹がその光に照らされて、やはり金色に包まれた。
「なんか浮かんで来ましたよ」
「・・・・・・霊樹の妖精だね。でもちゃんと実体化できないくらい弱ってる」
言われて見れば。金色の光の中にかすかに緑色の人影が見えなくもない。
「・・・・・・もうムリだね。互いに保たない」
金色の光は止んだ。お姉さんはその場に、へたり込み、一瞬で元の姿に戻る。十歳児だから、僕は少しだけためらって、ローブで包み抱き上げることにした。
「あー弟クンから魔力が流れ込む・・・・・・いい魔力だね~」
まるで温泉につかったみたいな声だね。
「これはキミの妖精がクセにする訳だ・・・・・・五臓六腑に沁みるよ~はあ~ん♡」
「変な声出さないでください!」
弱ってるお姉さん相手だし、見た目十歳児だけど。
「ベタベタさわるのもやめてください!」
なんか逆セクハラされてる気分だ。されたことないけど。
「ジナさん!もう大丈夫ですからお姉さんをお願いします!」
「わかった」
「なに?」
「あ~!あのおっきな木、枯れちゃったよ~」
僕はジナさんにお姉さんを押しつけ、振り返る。シアラさんが言ったとおりだ。大樹が崩れる。せっかく白化から治したって思ったのに、どうして?
島を覆う巨大な傘がバラバラ落ちてくる。大樹も崩れる。ここも危ない。
振り向いた僕の目に緑色の光が見えた気がした。なんか言いたそうだ。頭下げてる?
僕を見た緑の光が、瞬いて消えていった。シャボン玉みたいに。おそらくは長い間ここを守っていた妖精なのに、こんなあっさりと消えてしまう。はかないな。
僕たちは落下物を避けるようにトンネルに戻った。もの落下音と衝撃が次々と起こる。そして最後に、一度、大きな、たとえようもないくらい大きな音と衝撃が襲った。
きっと、これが世界の終わりの音なんだ。ここは霊樹に護られて生きながらえた世界だったけど、その霊樹が白化して、護れなくなって、白骨化して、今、完全に最後の刻を迎えたんだ。
トンネルの床に座り込んで衝撃に耐えながら、僕は無力感を感じていた。ここも直に海底に沈む。そしてここの魂も竜酸の中でムリヤリ浄化されて転生するんだろう。
そんな世界竜の護る秩序の中で、僕には何もできなかったな。来た、見た、負けた。
「弟クン」
目覚めたお姉さんが僕を呼んだ。
「弟クン!」
「・・・・・・どうしたんです。大きな声を出して」
「なんだい、弟クン。元気ないね」
「・・・・・・何か用ですか?」
「キミも見たはずだ。ならまだできることがあるじゃないか」
お姉さんのビジョンが僕とつながった。緑色の人影は僕に頭を下げたっけな。
「なんで僕なんかに頭をさげたんだろう」
多分、あれがこの国を護ってた霊樹の妖精の最期だ。僕なんかに何を伝えたってムダなのに。
「やれやれ。キミねえ。キミはここの人間じゃない。そもそもここに来たのはこの土地をレクアのために有効活用するためじゃないか。だったら資源として割り切ればいいだけなのに、なんでそんな顔してるんだい」
・・・・・・僕がどんな顔してるかはわからないけど、初期の目的を考えれば、僕はまだなにも達成していないし、逆に何も失っていないとも言える。だけど・・・・・・一つの世界の最期をまたも看取ることになってしまった。これはただの感傷なんだろうか?
「キミは何をしたかったんだい」
「・・・・・・僕はこの土地も救いたい。そう思ってしまいました」
「なぜだい?キミにとってここは無縁の土地で、ここはレクアの資源になればいいんだろう?だったら、白骨化の再発さえ収まればそれでいいはずじゃないか」
「でも、僕はこの土地の精霊に随分お世話になったし、あの霊樹の妖精の姿も見てしまいました。彼女らはここでなきゃ生きられない。レクアの一部にするとしても、この土地は護りたいって思ってしまいました」
ひょこ。足元から土精霊たちが顔を出した。なんか用って顔してる。その頭をなでる。
「・・・・・・やれやれ。お人好しだねえ。その分じゃ、これから調査する島の精霊やら妖精やらを全部なんとかしそうだね」
できることならそうしたい。無知で無力な僕だけど、今、この瞬間は本気で思う。
「・・・・・・だけど、ここももう終わりですよね。霊樹が完全に崩れた今、この土地は竜酸に直にさらされ、空からも海からもどんどん溶かされて・・・・・・あの岩塊みたいになる」
せっかくこの土地の妖精を白化から戻せたのに、もう手遅れだ。もうすぐこの土地は竜酸水に沈む。そしたら無数の霊魂が泡に包まれ、ついには浄化されていく。生物にとっては浄化も転生も悪いことじゃないかもしれないけど、精霊たちはどうなるんだろう?妖精たちは?人間が人間に生まれ変わるよりも精霊や妖精が生まれ変わることは難しいそうだ。だって彼女らは土地固有の存在なんだから。
くいくい。土精霊たちが座り込んだ僕の服の裾を引く。よく見れば、レクアから僕について来た精霊たちとは少しだけ色が淡い。これだけ近づいて凝視してやっとわかるくらいだけど。
「ん?どうしたの?・・・・・・なにか僕に伝えたいの?」
土精霊に続いて、風精霊が肩に乗ってきた。水精霊が膝の上に乗って、火精霊が頭の上に座ったみたいだ。
「キミ、ホントに精霊やら妖精やらに好かれてるよねえ」
「魔力のせいでしょう。この土地のマナは急速に失われてるはずです。だから僕の魔力に・・・・・・あれ?」
魔力をほしがる精霊が僕の魔力に集まってくる。それはわかる。だけど・・・・・・ここはいつ白骨化したんだろう?僕たちが見た限りでは地上の生命はことごとく白骨化してた。スケルトンだけじゃなくて、グールやらゾンビやらもキレイに肉が溶けて、スケルトンと見分けがつかないくらい。けっこう長い時間が経ったんじゃないか?それにしては精霊たちは元気だ。元気過ぎる。そして数も多い・・・・・・。
くいくい。再び土精霊に裾を引っ張られる。僕は落ち着いて、土精霊と話すことにした。
話すと言っても、精霊たちの自我は強くない。僕の船の機関助手やってる火精霊なんかは例外な方だ。いや、僕の練成炉に住み着いてる精霊たちもけっこう自意識が強いな。慣れてくれば、精霊の様子もわかってきた。
「え?・・・・・・地下?ついて来て?」
だから、ハッキリとした言葉じゃないけどそういう気がしたときは、だいたいそう。僕は素直に少し地味な幼女姿の土精霊を追うことにした。なぜか他の精霊たちがついてくるけど。
少し歩くとまだ残ってた根っこのところに着いた。
「・・・・・・え?これをたどっていけばいいのかい?」
根っこを追って大本に向かえってことらしい。とはいえ、僕は土精霊みたいに壁抜けはできないし・・・・・・あ、トンネルつくればいいのか。僕は根っこの周りを練成炉に放り込んでいた。とはいえ、根っこの向かう先、なんか地上じゃなくさらに地下じゃないか?
「まだ追うのか?おめえももの好きだな」
「ヘンタイ?」
「精霊好きなんだね。ロリコンで」
違います。大事な調査なんです・・・・・・多分。
「・・・・・・ここだね」
白化が解けた根っこが何重にも囲んでた一画に、それはあったんだ。そこだけは地中なのに空洞になってて、たくさんの精霊たちが集まってた。そして、中央には緑色の光が。
「ここ・・・・・・だよね?」
僕を先導してた土精霊もついて来た他の精霊たちも、ここに集まってた精霊の元に飛んでいった。
「さっきの霊樹の妖精に似てるけど・・・・・・そうか!?そういうことだったのか!」
お姉さんの発作だ。
「いいから、弟クン!キミはちゃんと責任とりたまえ!」
「はあ?」
僕、なにかやらかしたっけ?
「光の中心にはキミの魔力が残ってる!霊樹の妖精はキミの魔力を借りて滅びる前に我が身の分身を残したんだよ!」
・・・・・・妖精が僕の魔力を得て?何を言ってるんだろう?
「・・・・・・外道だな。おめえ、ついに妖精に手を出したのか」
いやいや、身の覚えがなさ過ぎです、ジナさん!
「ヘンタイ」
だから、僕はなにもしてないですよ、クレシアさん!
「魔王って魔力ではらませるんだあ、恐~い」
シアラさん、逃げないで!
「まあまあ、弟クン。妖精とはセンシティブでスピリチャアルな存在だからね。あえて生き物とは言いがたいけど・・・・・・だけど魔王と妖精ならそういうこともあるんだよ」
・・・・・・理不尽だ。
「不覚後だね、弟クン。いいかい、キミはこの世界の後継者を創るのに一役買ったんだよ」
「・・・・・・事前承諾してないんですけど」
しかも、肝心なそういう行為もないまま!?それってなんか割り切れない!
でも・・・・・・この地の妖精が、守護者が蘇るんなら、それはこの土地が滅びないってことだ。僕なんかでも、少しは役に立てたってことかもしれない・・・・・・それだったら、僕のささやかな「疑惑」くらいガマンできる。
緑色の光の珠は、いつしか強く輝きだして。たくさんの精霊たちが輪になって踊り始めた。なんか、雰囲気だけならインファント島みたいな感じです。そして、たいして待つこともなく、珠は強い光を放ってはじけた。さすがに僕も目がくらんで。
「パ~パ」
緑がかった髪と肌の幼女が僕に抱きついてた。わ~これ、ジアンじゃないか!?
「この子は私の分身です。あなたの精は受けていませんが、あなたの魔力を頂きました」
「パパァ」
「・・・・・・ですから、この子をお願いします・・・・・・違う世界の魔王よ」
あれ、でも、この子の声に上乗せした副音声が聞こえる!僕はそっと緑がかった髪をなでた。右手から伝わるのは・・・・・・意志の残滓。いわゆる残留思念なんだろう。
「パパ~パパ~」
「そして、できることならば祈ってください。私とともに、この世界の魂たちが救われることを」
無邪気に甘える子をもう一度なでて、僕は目を閉じる。一つの世界が終わっても、僕にはその再生のためにできることがあるんだ。だから祈った。地上の白骨が、かつて生命であった者たちが、いつかどこかで、自然な流れの中で生まれ変わることを。
それがこの胃世界をつくった世界竜の意志に沿うかどうかはわからないけど、沿わなくてもいいから救われて欲しいって、ひたすら祈った。
「パパァ?」
「・・・・・・ありがとうございます。そしてさようなら・・・・・・胃世界を救う魔王さん」
その思念を最期に、右手が感じていた、暖かくもか弱い気配が完全に消えた。
「パパってば」
「はい!・・・・・・ってやっぱり僕がパパなのかい?」
「そうだよ、パパ」
あー・・・・・・なんか、いたたまれない。幼女に抱きつかれてパパって。身に覚えのある行為をすっ飛ばして、結果だけ「パパ」って。納得いかない。こんな簡単にパパになれるんなら、僕は前世で魔法使い候補生になってなかった。
「パパァ・・・・・・あたしのこと、キライ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・君の名は?」
「パパがつけて・・・・・・イヤ?」
生まれたてなのに、見た目十歳にもならない幼女なのに、ちゃんと言葉が言える。しかもけっこうずるくないか?こんな顔されたら、僕にイヤとかキライとか言える訳もない。
「ロリコン」
「ん」
「やっぱりね~そうだと思ってたんだ~」
雑音に耳を塞いで、僕はこう言った。
「君はミリーだ。僕の娘で、この土地の守護妖精」
あらためてミリーの髪をなでる。
「パパァ~」
うれしそうな顔を見れば、まあ、娘も悪くない。ちょっと耳がとがってるのは妖精とか魔族の特徴なんだろう。そして・・・・・・地表を見上げる。お姉さんも一緒だった。
「うん。イヤな気配は消えたね。キミと先代霊樹の祈りで浄化されたみたいだ」
僕の魔力とこの地の妖精の最期の願いが一致したんだ。
「本当ですか・・・・・・よかった」
「パパのおかげだよ。ママもそう言って逝ったよ」
「そっか」
僕はもう枯れてしまった根っこに向かい、深く頭を下げた。なんだか暖かい波動を感じた気がする。そして・・・・・・そこに確かにある、新しい芽を見つけた。これがミリーの本体なんだろう。この子が先代のように地表を覆うようになるまで、まだまだ先は長いな。
でも、僕と目が合って、にぱあって笑うミリーはかわいいし。
「まあ、老後の楽しみができたと思うことにするさ」
憧れのスローライフだ。さっさとレクアを救って、あとは勝手気ままに暮らすんだ。合成体の寿命が何年保つかなんて知らないし、いいじゃないか。
「弟クン。まだ調査は一つ目が終わったばかりなんだけど、余裕じゃないか」
お姉さんが呆れてるけど、僕なんかがここを救う役に立てた。だからちょっとくらい娘を甘やかすくらいは見逃して欲しいね。




