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第3章 その9 地底行

第3章 その9 地底行


 将来的に一個の島国レクアを胃世界から脱出させるための実験船がこの船だ。だからまあ、自慢のロケット推進で空を飛ぶことまでは試験する予定だった。

 ただ・・・・・・着地する試験は想定外だった。見落としてました・・・・・・。

 で、みんなが着地の後遺症から全快するまで一休みしてから、船から降りる。メンバーは、予定通り、僕、お姉さん、ジナさん、クレシアさん、シアラさんの5名だ。

「へ。これ、いいじゃんか。モーリにしてはいい仕事したな」

「ん」

「こんな装備なんかもらって、これだけで来た甲斐あったよね~」

 魔族っ子たちには、僕が用意したオリハルコンの装備を渡してる。長剣ロングソード短剣ダガー籠手ガントレット、胸当てと胴鎧、脚絆だ。盾じゃなく籠手にしたのは、魔族が魔術で戦う時にジャマにならないようにだ。魔術用の短杖ワンドは籠手に内蔵できるよう改造した。で、今回はさらに雨合羽を用意した。ホウサン系ガラスと極薄オリハルコンの。軽装の宇宙服みたいな外観だ。う~ん、ファンタジーにはミスマッチだな。

 でも、島を覆う白い傘も雨漏りがひどい。酸っぱい臭いはガマンできるけど、竜酸に当たって火傷なんかしたくない。こんなこともあろうかと、調査の前に用意しておいた。

「なんだい、これ?」

「変」

「動きづらいよ。思ったほどじゃないけど」

誰もほめてくれないけど。でも竜酸雨にあたるよりはマシって納得はしてくれた。

 船から渡し板をかけ、穴から陸に降りる。お姉さんと精霊たちがつくってくれた穴は、もう陸のドッグみたいな状態だ。

 幸いにして、空から落ちる竜酸雨の多くは、島を覆う傘みたいなものが防いでいる。でもやはり雨漏りしてるから雨合羽は正解だ。竜酸臭は風精霊にお願いして浄化してもらう。

 それでも完全ではなく、酸っぱい臭いの中、甲板から降りる。

降りる順番はジナさん、クレシアさん、僕、お姉さん、シアラさん。見渡せば、周りには白い草のようなものが敷き詰められて、白い絨毯みたいに見える。そして、その上に・・・・・・白い木の枝みたいなものが無数に散らばって、なんとなく気味悪い。なるべく踏まないように歩く。

カサリ、クシャリ。カサリ、クシャリ。

白い草みたいなものはよく乾燥していて、僕に踏まれる度に砕ける。草ってより、枯れ葉みたいだ。これはこれで、なんかイヤな感触で落ち着かない。枝やら草やらで地面は埋まり、足の踏み場を探すのにも苦労する。みんなは気にしてないみたいだけど。

そのせいか、後ろのお姉さんに追いつかれて服の裾を握られた。

「どうしたんですか?」

 双眼鏡より分厚いメガネがアヤシ過ぎるのに、顔がマジだ。あ~この島、やはり物騒なのかな?

「弟クン・・・・・・『見て』ごらん」

 早速魔法知覚を働かせたお姉さんが口元を緩めながら、僕を促した。

「はい・・・・・・」

 で、僕が集中し始めた時、それが来た。あるいは、起きた。あちこちに散在する無数の死白い枝が、岩がみるみる集まり、形になっていった。

「ふむふむ・・・・・・大腿骨に骨盤、背骨、上腕に頭蓋骨。数えだしたらきりがないけど、206個の人骨が全部そろってるねえ?」

 いやいや、そんな人体の骨格標本だけじゃない。あるものは、人の、あるものは四足獣の、あるものは・・・・・・蛇とかトカゲとか鳥とか、カエルとか、もうわけわかんない。それが数え切れないだけ押し寄せてくる。なんか、白い圧力?

「ほ~あれはすごいよ!人の頭蓋骨に獅子、鷲の羽、蛇の骨・・・・・・キメラの一種だね!」

「お姉さん、こいつらから生命の息吹を感じません!」

 未熟な僕の魔法知覚が感知した。こいつら、生きてないんだ!?

「キメラスケルトンと命名しよう!合成生物のアンデッド化なんてすごいぞ!」

 ・・・・・・ようやく気づいた僕の声はお姉さんにスルーされ

「・・・・・・モーリ、今さら気づくのかい?そんなの、誰にだってわかるよ」

「おバカ?」

「アンデッドだよ。なに自慢げに叫んでるのよ」

 魔族っ子たちに罵倒された。彼女たちは、僕とお姉さんを囲んでとっくに防戦態勢だ。でも振り向きざまに僕を見る目はやはり冷たい。

「ごめんなさい!」

 ・・・・・・この世界に来て始めて見たリアルアンデッドだから、わかりませんでした。


「おお。これは、す、ご、い!なんと樹人トレントのスケルトンだああ!」

 骨の軍団に取り囲まれ、次々と襲われる僕たちだちだけど、お姉さんは相変わらずだ。白くなった幹に枝、葉をもったまま近寄る白い樹を見て驚喜してる。狂気?まあ、そうかも。

「う~ん・・・・・・トレントスケルトンか・・・・・・いや、スケルトレントンと命名しよう!」

 いや、むしろ絶好調じゃないかな。戦況には寄与しない絶好調だけど。幸いなことにスケルトンたちは非武装だ。武器も防具もない。

「おらあ!」

 だから、ジナさんたちのオリハルコンソードで一刀両断だ。

「軽い」

「すごい切れ味で、しかも防具もとっても頑丈だよ!」

 無数のスケルトン相手に三人が骨の山を築いている。スケルトンたちの動きは鈍く単調でしかも連携もしないでバラバラに来るから、余裕だそうだ。さすが、魔族の精鋭たち。

「とはいえ、このままじゃキリがねえぞ・・・・・・モーリ、なんとかしろ!」

 多勢に無勢は胃世界でも鉄則か。一騎当千でも限界はある。未だケガ一つないジナさんたちも、体力的にはいつか限界が来るし、時々やってくる大物相手に魔力やら集中力が切れたら大変だ。ジナさんたちが砕いた白骨が積み重なって山みたいだね。

「なんとか、ですか・・・・・・」

 肉体労働を任せてる分、頭脳労働はしなきゃいけないのか?これでも調査団の団長だしね。でもなあ、警告もなにもないまま戦闘に入ったからには、襲われてる理由すらわからない。

「お姉さん、なにかこの状況から脱出する手はないですか?」

「おお、あれはスネークスケルトンだああ!長いからスネルトンを命名しよう!」

・・・・・・顧問兼副団長なんだけどな。任命した僕が・・・・・・いや、違うな。お姉さんは調査にはうってつけの人だ。問題は現在絶賛戦闘中という状況には適応していないだけだ。

「・・・・・・だから、まず戦闘を中断させる。そしたらジナさんたちも休めるしお姉さんも正気に(?)戻る。で、落ち着いて作戦を考える」

「なにグダグダ言ってやがる!」

「早く」

「真面目に考えてよ~」

 いや、真面目なんですけど。

「ええっと、除霊とか対魔とかって術式は・・・・・・ない?」

 そういえば、レクアで読んだとういうか呼んだ書物精霊「トンデモ術式大全」にしか載ってなかった気がする。神聖魔法とかいう分類もなかったよな。

 ジナさんたちの魔法はダメ。僕は術式が使えない。覚えてる時間はなかった。僕ができるのは練成だ。練成とは物質や生命をより高次の存在へ導くことで世界の真理に到達する学問だけど、前世の錬金術と違うのはここでは魔術を使って実践できることだ。すなわち練成魔術・・・・・・なるほど。多種多様のスケルトンたちも、壊され積み重なり高くなった白骨の山を遠回りして近寄る。これだな。

「んじゃ、そういうことで」

 僕は周囲の骨の山を練成炉に放り込み、組み上げた。そして形になったら、一気に展開する!


「・・・・・・弟クンの練成魔術は真理への到達からドンドンと遠ざかってる気がするよ」

「・・・・・・すみませんね」

 僕の練成魔術の師匠はお姉さんだ。お姉さんからすれば僕の練成は即物的で世俗的なんだそうだ。まあ、世界の真理を目指すのは、僕がこの世界を救って魔王を引退してからにしたい。

 できあがった骨の城壁は、つくった僕でもけっこう不気味だ。急いだせいではみ出してる骨はなんの動物だろう。これで人骨で椅子でもつくって座ったら、僕なんかでも魔王に見えるんじゃないかな。

 白い壁の向こうでは今もスケルトンたちが暴れてるけど、当分は持つだろう。

ゲンナリしてるジナさんたちは、文句を言いたそうだけど、ひとまず飲み込むことにしたらしい。役に立つならガマンするのは、若いのにさすがは軍人さんだ。今は水を飲み装備を点検している。

「さてお姉さん、これからどうしたらいいんでしょう?」

「やれやれ、弟クンはそんなにボクが頼りなんだ?キミも大概シスコンだよね」

 ぶっ・・・・・・ようやく新種スケルトンの命名ブームから脱するのを待ってお姉さんに相談したのに。しかもシスコン扱い?しかもシスコンって聞いてジナさんたちの視線が・・・・・・。

「おめえ、ロリコンかと思えば、シスコンだったのか?」

「スケベ」

「誰でもいいんだ?だけどこんな子ども相手にシスコンってヘンタイだね」

 まあ、見た目十歳児のお姉さんを「お姉さん」と呼ぶのは、常識の外って自覚はあるんだけど、事情を知ってるジナさんまで妙な目で見始めてるのはやめてほしい。

 ここは完全アウエーか?僕たちの周りを囲む白い骨の壁が檻みたいだ。いや、僕の横にはみ出してる頭蓋骨のくぼんだ穴がなんか恐い・・・・・・。

ああ、僕は僕の家に帰りたい。あの狭いけどエスリーがいろいろお世話してくれるあの家に。できれば耳かきもしてほしい・・・・・・。

「弟クン、今度は現実逃避かい?結論を早く言いたまえよ」

「・・・・・・はい」

 あ~あ。まあ、こんな状況じゃ仕方ない。

「んじゃ時間がないから結論を。この島を覆う骨の傘・・・・・・その中央に行きましょう」

 この島は、かつて「霊樹の国」と呼ばれていた。おそらく、この胃世界にあって長らく持ちこたえた理由は、その霊樹が護っていたからだろう。まあ、外れたとしても何らかの力が、少なくとも呼ばれる理由はあるはずだ。今も、骨のようになりながらもあの傘は竜酸雨から島を護っているのだから。

「この島の資源を調査すること。これが僕たちの目的です。ならばその中枢にある霊樹を調べることは必須です」

 ま、当たり前過ぎる結論だけど、初志貫徹が一番だよね。

「それはそうなんだけどねえ、弟クン。この状況じゃ難しいんじゃないかな。それこそキミの討滅妖精に一掃してもらってからじゃないと手に終えないよ」

 骨の壁から手が伸びた。僕が驚くより先にジナさんがボキってへし折ったけど。

「おい、何かするんならさっさと始めやがれ!・・・・・・なんか考えてるんだろ?」

 とっさに振るった暴力には不似合いな、静かなジナさんの声がなぜか僕をいっそう落ち着かせてくれた。

「・・・・・・いつもすみません、ジナさん」

 ホント。ここ最近彼女に助けてもらってばっかりだ。いくら隊の懲罰任務だからって、こんな危険な目に遭わせて、頭を下げるしかない僕です。

「そこはすみませんじゃね~だろ?」

 なのになんで僕は怒られてるんだ?ちゃんと謝ってるのに。

「あ、はい」

 そうだよね。

「・・・・・・申し訳ありません」

あやまるんならちゃんと敬語ですよね。で、言い直しあらためて頭を下げた僕です。

「バ~カ」

「バカ」

「本当にバカなんだね~今の魔王って~」

 なのに。けっこう冷静にバカにされた。

「・・・・・・弟クンのどうしようもない部分はさておいて、結論の途中だよ」

 お姉さんもなにげにひどい。だけど。

「ええっと、エルダさんなんか呼んだらこの島最後の日ですよ。それじゃなんのためにここに来たかわかりません」

「じゃあ手詰まりかい?」

「いいえ、自力でたどり着きましょう」

「どうやって?けっこう危険だよ?」

ガンガン、バキバキ。少しずつだけど着実に骨の軍団が壁を崩している。見上げるほど高くつくった骨の壁だけど、それを上回る巨大スケルトンと目が合っちゃった。まだ遠いけど、ここに来るまですぐだね。

「あれはジャイアントスケルトンと命名しよう!」

 それは意外に普通にありそうだけど。

「練成炉、展開!」

 お姉さんの発作をいったんシカトして、僕は作業に入った。お姉さんに言わせれば、即物的で世俗的な僕の練成魔術だけど。


「・・・・・・弟クンの練成魔術は、本当に即物的で世俗的で、世界の真理からどんどん遠ざかるねえ。ボクは悲しいよ」

 ほら、言われた。

「モーリ、ここ、歩いて大丈夫なのか?」

「はい、土を圧縮してますから強度的に問題ありません」

 僕は足元の土を圧縮し、地底トンネルをつくったんだ。土精霊にはその手伝いを、水精霊には圧縮した際に出る水分の除去を、火精霊には灯りを、風精霊には空気の循環をお願いした。ここの精霊たちは地上の生命がいなくなったせいか元気なかったけど、僕の周辺に集まるや元気になっていそいそと働き始めた。誰もいなくなって退屈だったんだろうな。

 でも・・・・・・地底って、なんかそそられるね。このまま地底大陸アバンなんかに行けないかな。おお、ファイアマ~ン!なんで裏番組がサザエさんだったんだろう・・・・・・。

 おっと。目指す方向にまっすぐ伸びた地底トンネルを僕らは進む。少し進んではトンネルを伸ばしていく。ここの精霊たちは働き者だ。時々僕のそばに来て魔力を浴びてるみたいだけど。

「みんな、ありがとう」

「・・・・・・お前、精霊には普通に言えるんだな」

「は?」

 ジナさんが不満そうだ。なんだろ?閉所恐怖症なのかな?

「弟クン、向こうに霊樹があるみたいだよ・・・・・・生きてるかは怪しいけど、かすかな気配は感じる」

「はい」

 危険な骨の軍団も、さすがに地底トンネルまで来られまい。まあ、来たら、トンネルに埋めるだけだけどね。固めたトンネルは歩くのにもちょうどいい。地上から見た時思ったけど、レクアと比べても大きくはなかった。歩いても1時間もしないで着くだろう。

「おっと・・・・・・なに?障害物?」

 僕の前を歩いてた土精霊が前方の様子を教えてくれた。

「根だね。随分太い。おそらくは、目標の霊樹とやらの根っこだろう・・・・・・妙にぼやけてるけど・・・・・・うん、よく『見れば』島中に張り巡らされてるみたいだね」

 魔法知覚で見渡したらしい。さすが、お姉さんだ。

「根は生きてるんですか?」

「・・・・・・さすがにスケルトン化はしていないみたいだけど・・・・・・ビニョーだね。だけど帰るなんて言わないでくれよ。ここまで来たんだからちゃんと調査しないと」

 ジナさんたちはさっさと帰りたそうだけど、まあ、中途半端な調査はダメだ。ついでにこの島の地質調査もしてるんだし。

「ああん?こんなアンデッドだらけの島、まさかこれも資源だって言うんじゃねえだろうな」

「イヤ」

「危なくて資源どころじゃないと思うよ」

 危険なのはわかるし、気味悪いのも確かだけど。

「それでも調査は必要です。少なくてもレクアにとって、農牧地になる可能性がありますから」

「こんな場所でかよ!?」

「はい、ここの土壌は意外に良質みたいですよ、ほら」

 土精霊たちが追い払ってるのは、ヒュージウォームだ。スケルトン化も地中には及んでないらしい。ウネウネ、テラテラとのたくる2mほどの巨大ミミズが硬いトンエルの底に潜っていくのはなかなかシュールだ。

「うげえ」

「いや」

「気持ち悪いよ~帰る~」

 黄金宮のトラウマのせいか、ジナさんの顔がヤバイ。適齢期の娘さんのする顔じゃない。他の子たちもなかなかな顔だ。魔族の精鋭が、いいのか?

「ダメですよ、ジナさん、クレシアさん、シアラさん」

 このトンネル作りだって、実は僕のレクア強靱化計画に不可欠な実験になる。そんな簡単に帰れません。なんて言ったら、地底トンエネルの仲は悲鳴と怒号で一杯になった。一応調査団の団長で魔王なんだけど、誰も一顧だにしてくれない。

 まあ、土の圧縮で強化してるから、崩れたりはしない。それだけがせめてもの慰めだね。

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