その4 終末のエルダ
その4 終末のエルダ
「エスリー、光球を解いて」
「いやなの。解いたら旦那様が危ないの。どうせエルダは勝手に出られるの」
「その魔王にもなれぬ人族に、この世界を守るということを見せてやるのだ。過保護は魔王のためにならない」
「……エスリー。僕は見たい」
絶対見る!だって、怪獣退治をナマで見られるなんて、前世じゃ絶対無理だったし!
「エルダさんはどうやって怪獣を倒すんです?まずは巨大化したり!変身だってしますよね!手から熱戦とか目から怪光線とか出しちゃったり!或いはレ〇みたいにシブ~く格闘だけでやっちゃうみたいな!」
「旦那様、近いの。エルダが困ってるの」
「モーリ様がなにを仰せなのか、愚鈍なわたくしにはさっぱりわかりません……」
「あなたは何に期待してる?」
3人から冷たい視線を浴びる僕は、ゴアゴン〇ンから冷凍攻撃を浴びてる気分です。
「そもそもモーリ様!巨大化などして怪獣と戦われては国土の被害が大きすぎてレクアは一瞬で滅んでしまいます!」
それを言われるとその通りなんだけど。それでも巨大化路線に進むのが男のロマンなんだ!崩れる建造物!倒れる電柱!ひび割れたアスファルト道路に、そこから飛び出すマンホール!そんな灰燼と化していく街の中で死闘を繰り広げる巨大な勇姿!燃える!
シル〇ー仮面だって等身大ヒーロー路線から途中変更をしてるし、戦隊ヒーローだってバトル〇ィーバーから巨大ロボ戦が導入されて今では常態化している!
「いいえ!何を仰せかは理解しかねますが、国土を、いえ、国民を守る者として、巨大化なぞ絶対に認めません!エルダ様もご承知ですよね!」
すっかり軍人さんに戻ったシャルネさんは頑固そうだ。いや、かっこいいんですけど。
でも、ろくな武装もせず魔術だけであんな怪獣の群れに立ち向かわされるなんて、この世界の兵士さんはGA隊並みにブラックそうだ。
「だったらどうやってあの怪獣を倒すんです?まさかこのまま戦うんじゃないですよね?」
「いつもなら『矮小界』ですけど」
「そうだ」
ミクロ?ええっと前世で国際交流部門に異動したとき、なんかの資料で読んだっけ……原英語のミクロは新英語のマイクロで……つまりはF〇のミニマム!?
「自分以外の敵を小さくしちゃうってことですか?」
「そうだ。そうすれば倒すのは容易で周辺被害も抑えられる」
……そりゃあ、セ〇ンみたいにやってくる宇宙人や怪獣がみんなお行儀よく荒れ地に攻めてきてくれるわけじゃないだろうけど。
「魔法って抵抗とかされないの?」
「竜酸菌ごときに抵抗されたら、討滅妖精の名が泣く。真祖様に会わせる顔もなくなる」
「竜酸菌って?」
「あの怪獣のことです。あのサイズですと、正式にはクロタカブ竜酸菌になります」
「……消化によさそうな名前ですね」
「はい。世界竜の中の異物を消化しやすくするために働く体内生物の一種と考えられています」
消化されるのは、こっちみたいだけど。
「とはいえ、マナドロップだけでは『矮小界』には魔力が足りないな」
「え!じゃあやっぱり巨大化するの!」
「……なんでうれしそうなんです、モーリ様?」
「旦那様は一種のご病気なの?エスサイズよりエルサイズの方が好きなの?」
Aにも届かない自分と、エルダさんのそれを比べてるエスリーだけど、エルダさんだって細身で、そういうんじゃないと思う。シャルネさんにだってほど遠い……いや、僕はオッパイ星人じゃないぞ。普通に好きだけど、その大小にはこだわらない主義です。そもそもアクション主体の特撮ヒロインに巨乳は似合わないし!
「巨大化なんかしない。このままで十分だ」
「…………あ、そうですか」
この国の存亡にかかわる戦闘ってわかっちゃいるんだけど、僕にはまだ転生した実感がないのか、現実感も薄い。そのせいだろうか?目の前の光景が素直に入ってこない。どこかテレビの中みたいに感じてしまう。それも液晶じゃなくてブラウン管の……。
「急がないと。外にはまだ戦ってる鬼がいるかもしれません。無駄死にはさせたくないのです」
そういえば、あのフレダンとかのことをすっかり忘れていた。しかしシャルネさんは、あいつにけっこうひどいこと言われてたのに……寛大な人だね。
「エルダは遅らせてるつもりはない」
「そうなの。エルダは悪くないの」
……痛いです。
「エスリー、大丈夫だからこの光の壁を解いて」
「はいなの。だけど旦那様はエスリーから絶対に離れないの」
「わかった。シャルネさんも無茶しないでください」
「……自重いたします。モーリ様に言われるのはいささか心外ではありますが」
部下を先に逃がして一人残ったシャルネさんに言われるほど、ムチャをしたつもりはないんだけど。
エスリーの『魔力壁』が解かれ、暗い空の下で大きな怪獣たちが……クロタ株竜酸菌……が、一斉に動き出す姿が見える。地上に降りた竜酸菌は鈍重で、おかげでまだ湖岸から離れていないけど。湖岸の果てには、大きな白い壁のようなものがかすかに見えた。
「あそこに行かせたらきっと被害が大きくなるんだろうな」
それにしても竜の顔をもつ亀形怪獣は、10体以上いた。鬼族が何体か倒していたと思ってたけど。
「思ってたより多いですね」
「もう回復したのでしょうか」
「そうだ。竜酸菌は回復が早い。なまじな傷はすぐ回復される」
そう言ってエルダさんは空を見上げた。どんよりとして何も見えない空を。
「光壁の修復を急げ。さもなくば、あの竜酸菌どもを倒しても、すぐまた別の外敵がやってくる」
自分より体長で10倍以上、体重なら100倍でもきかないような巨大な怪獣が10体以上いるというのに、もうすべてを倒したかのように話すエルダさん。なんかのフラグがたちそうでイヤなんだけど。第二、第三のゴ〇ラとかってやめてほしい。
「……しかし、元老院はルリエラ様の養い子であるイシャナ様ではまだ若すぎると……」
「ふん。元老院なぞたかが魔王の輔弼機関のはず。そんなものにいいようにされて、それで国が滅びては真祖様に申し訳が立たない」
「……返す言葉もございません。当座は国民の魔力負担を多くして切り抜けるつもりと聞き及んでおりますが」
「……魔力だけなら、そこの魔王未満の方がよほど有望なのだが」
「え、僕?」
「そうなの。旦那様の魔力は今までの魔王様たちと比べてもとても濃くて、とても多いの」
エスリーはスキンシップが好きのか、今も僕の腕を抱いたままだ。実は少し恥ずかしいけど僕が危ない場所に行かないよう捕まえてるつもりと思えば仕方ない。
「そうだな。自然放出魔力だけでもエスリーなら充分間に合いそうだ」
「あの、エルダ様。できれば竜酸菌と戦い傷ついた鬼たちを救出したいのですが」
「……巻き込まないように努力はする」
あまり努力しないような宣言とともに、エルダさんはつぶやいた。
「エルダのLは、Lightning(雷光)のL」
と。そして僕はおそらく生まれて初めてリアルに腰を抜かした。
空から稲妻が、轟音とともに落ちてきた。その数は……数えきれません。しかも一つ一つの稲妻は大きくて、空から地まで伸びた柱のようでもあり、その太さは怪獣一体がまるごと飲み込まれるほどでもあり、それが次々と光っては消え光っては消え、その空間一帯に断続的な雷で満たされた。そして、その光で湖岸の向こうにある白い大きな壁が照らされる。
「……あれは?」
少し震えてる自分の声が情けない。だけどこんな中で声が出ただけマシだと思う。
「湖の祭殿です。この国で一番大事な施設」
「そんなところをいきなり攻められてるの?」
「……魔力の枯渇が深刻なのです」
「祭殿も湖も、元老たちには守る気がないの」
「それは……」
次の瞬間、それまでの閃光も轟音も子どもだましに思えるような稲妻が奔る!稲光に照らされたエルダさんの顔は、なにか怒ってるみたいだったけど。
「エ、エルダ様!?」
「鬼たちを救う気、あります?」
「ん?」
そこで思い出したらしい。
数秒間続いた光と轟音の暴力の後、世界は静寂で暗黒だ。あ、これ、目がくらんだってやつ?失明とかじゃないよね?
少しだけ不安だったけど、エスリーに捕まれてる腕から暖かい何かが伝わって、僕は安心した。
「うん、僕は大丈夫」
僕は立てるし、目も耳ももうオッケーだ。動揺はまだしてるけど。
「フレダン殿!雄士隊の鬼たち!誰か生きておられませんか!」
シャルネさんは慌てて走り出した。あの落雷の近くじゃ無理じゃないかな、と思わなくもなかったけど。
「僕も生存者を捜しに行こうかな」
「やめておけ。まだ終わってない」
「え?」
エルダさんは向こうを見たままだった。
「きゃあ」
「シャルネさん?」
まだ生きてた?あんなものすごい雷撃で、あのフレダンのサンダーブレードなんか子どものいたずらみたいなものに思えるくらいだったのに、怪獣たちは動き出した!シャルネさんが危ない!
『魔力槍!』
ぶしゃ。白銀の槍が竜酸菌の口に飛び込む、向こうから貫通した。……意外に危なくないかもしれない。
「……いやいや、でも、やっぱり危ないよ。なんで助けないの!?」
「旦那様以外を?」
「なぜ?自ら赴いたのに?」
とても不思議そうに見つめられた。そういうところは、そっくりだ。二人並ぶと仲のいい姉妹にしか見えない。そうなのかな?いや、そんなことじゃなくて!
「だって、せっかく助けたシャルネさんが死んじゃうかもしれないじゃないか?」
「旦那様が助けたいの?」
「あの魔族は役に立つのか?」
なんだろう?さっきまで会話してた相手が死のうと関係ないみたいなこの無関心さは?
「助けたいし、シャルネさんはこの国に必要な人だよ!」
戦闘力も判断力も、僕を見逃してくれようとした人柄も、全部が、いや、そういうことじゃなくて!助けられるのに、助ける理由を聞くのは、ここが異世界だからか、或いは妖精と人は考え方が違うからか?
「助けたいと思うなら、戻ってこさせろ。今から本当の戦闘が始まるぞ」
「え?」
さっきのはなんだったの?準備運動?あのとんでもない轟雷が?
「言っただろう?巻き込まれるな、と」
エルダさんは討滅妖精。冷静そうな言動に惑わされてたけど、敵を討ち滅ぼす以外のことは気遣い一つできないらしいと僕は遅まきながら気づいた。
「シャルネさん!そこ、危ないから逃げて!できればここまで!」
「しかし!生存してる者がいるとすれば……」
この怪獣に囲まれた中、まだ鬼たちを捜すつもりらしい。真面目なのか、自分の命が軽いのか?ブラック体質に汚染されてるんだろうけど、気持ちはわかる。
「あなたが死んでは、二次災害になるだけですよ!」
救出する側が死んだら意味がない。二次災害がなにかはシャルネさんはわからなかったみたいだけど、それでも了解して離れた場所に移動した。
「しかし、あのエルダ様の凄まじい攻撃の中、生き延びているとは……さすがは竜酸菌です」
竜の体内生物は、かなりタフらしい。
クロタカブ竜酸菌たちは、コンガリ焦げ目をつけながらも、なんとか生きながらえ、一か所に集まり始めた。あれ?なんか人間ピラミッドじゃないけど怪獣が、怪獣の上に怪獣が乗る。
なんだか組体操みたいにどんどん積み重なって……怪獣ピラミッドって言えばいいのか?
「……ヒロタカブなの」
「そのようだな」
「すみません。僕にわかるように話してください」
さっきまではシャルネさんが気を使って教えてくれたりしてたけど、あの人がいないと全然わからない。
「旦那様。集まった竜酸菌はまとまって一つになるの」
「巨大化だ」
巨大化は僕の好きな言葉だ。だけど!敵が巨大化するんかい!
「クロタカブがまとまって、あれはヒロタカブなの」
「200mくらいにはなりそうだ。少し大きいな」
200!それは立派な超巨大怪獣に分類されるべき大きさだ。
「あの辺りには鬼族の戦士が生き残ってるかもしれないです。できれば注意してほしいんですけど」
離れた場所から、生存者がいないか見まわしているシャルネさんの姿が見える。
「エスリー、ご主人様の仰せだぞ」
討滅以外に興味がないのか、エルダさんはエスリーに丸投げだ。
「……仕方ないの。エスリーのエスはセーバーのエスなの」
「セイバーじゃなくてよかったよ」
アニメは詳しくないけど、ここでエク〇カリバーとかやめてほしい。
「旦那様がお望みなら、エスリーのエスはセーバーのエスにもセイバーのエスにもなるの」
エスリーが僕の腕をつかむ手が強い。僕なんかを助けてくれるエスリーの気持ちがとてもうれしいけれど、その責任は重大そうだ。
「ありがとう。でも今は生きてる人を守ってくれるかい?」
「はいなの」
その間にも、竜酸菌が竜酸菌と融合し、みるみる巨大化していく。こいつら、怪獣のくせにわかってるなあ。同じ怪獣が集まって巨大化するのは、タ〇ウのアリンドン系列だろうか?
あそこまで大勢じゃないけど。しかし死にそうになったら野生動物なら逃げるのに、体内生物とやらはそうじゃないらしい。死ぬまで戦わされるなんて、怪獣もブラックだね。
「だけどエルダさん、あんな大きいの相手に大丈夫?」
巨大化しなくて、とは口に出さない。期待がこもっていない、とは言い切れないけど。
「まとまってくれた方が一撃でケリがつく」
……体格差はまともに論じるのがバカバカしいレベルなんだけど。
エルダさんはゆっくりと歩き始める。もちろん向かう先は怪獣がタワーのように積み重なったその場所だ。
「……大丈夫なのかな?」
「旦那様は心配性なの。エルダのエルは……ラストのエルなの」
「え?これで最後ってこと!?ダメじゃん」
「いいえなの」
怪獣は、ヒロタカブ竜酸菌となり、その大きさは大き過ぎてよくわからないけど、東京ドームくらいはありそうだ。黒くてゴツゴツしてて、やはり竜の顔をした亀みたいだ。それが身動きするだけで周辺の砂浜は大変動で、戦う前からもうひどいことになっている。
そんな巨大な存在の前でエルダさんは埋もれてしまったかのようだ。だけどエルダさんは恐れる様子もなく、ただ拳で殴った。普通に、当たり前に。
それで大怪獣は崩壊した。まとまった竜酸菌の固そうな皮膚が剥落し、肉も骨もゴミのように崩れて消えた。
冗談みたいだった。
「エルダのLはLast(終末)のL。討滅妖精とは外敵にとっての終末だ」
わざわざ振り向いて言ったのは、さっきのエスリーとのやり取りも丸聞こえで、僕に教えてくれてるらしい。
「さすがはエルダなの。辺りのマナを消費せずに、怪獣のオドで自壊させたの」
「自壊?」
多くの個体が集まってつくった合体怪獣は、オドの流れとやらが不安定なので、そのベクトルを全て自分の体内へのダメージに向けたらしい。コワ……。
「エルダにしては珍しい、環境への配慮なの」
世界を守るSDGSは、この世界でも不可欠らしい。
「別に配慮したわけじゃない。ただ自分のオドも辺りのマナも足りないなら、相手のオドを使うのが一番楽なだけ」
「ええっと、オドとかマナとかって全然わかんないんだけど」
「旦那様。さっきからの戦闘でこの辺りの魔力の枯渇がいっそう進んだの。エルダが気をつけないと、それはこのレクアの終末になるの」
マナってあれか!?平成のガ〇ラが復活したりレ〇オンを倒すのに莫大なマナを使ったおかげで、地球環境がおかしくなってその後怪獣がドンドン出現……って感じなのか?あれはやばい!世界を救うために世界を危うくするっていう、究極のマッチポンプだ!働くほど苦しくなる、ブラック企業も真っ青だ。
「じゃあオドは?」
「生けるものすべてに流れる力なの。生物の体内で発生し循環するから生体魔力とも言うの」
「……じゃあ、生き物にある魔力がオドで、それが世界に流れて集まるとマナになるの?」
「だいたいそうなの」
「だいたい?」
「大きな魔力を持つ個体は、既に一個の世界をたりうる。例えば真祖様や竜のような」
「魔王様のオドは、世界のマナに近いの」
まだいろいろ聞きたいことがあったけど、エルダさんは僕たちのところに戻るや、こういった。
「では」
では、ってなに?
「……義理は果たした。ここまでだ」
「どっかいくってこと?エルダさん」
「そうだ」
「どこに行くの」
「この国のすべてがわたしの住処。それが国妖精だから」
そんな説明じゃわかりません!そもそも国を守ってるのに家もないってどんなに待遇悪いだ?ブラック過ぎ!どっかの路地裏で寝泊まりしてるエルダさんの姿を想像して義憤にかられた僕だけど。
「うぐわあああ!」
この声で我に返った。
「フレダン殿!よくぞご無事で!」
あ、生きてたんだ。タフだなあ。ここからでも元気そうだけど、ぼんやり光ってないか?
「エスリーのエスはセーバーのエスなの。旦那様のお言いつけなの」
「エスリーが守ってくれたんだね。ありがとう」
……なんて会話してたら、もうエルダさんは消えていた。
「エルダさん……」
僕はなんとなく空を見あげて言ってみた。飛んで去ったわけじゃないと思うけど。
「旦那様、心配いらないの。どうせ魔力が足りなくなったら顔を出すの」
そんな、お腹が減ったら帰るだろうみたいな言い方でいいんだろうか?
フレダンさんが生きてたんで、他にいないか、僕も捜しに行った。だけど、生きてる者はいなかった。さすがに暗くなった僕を見かねてか、シャルネさんが教えてくれた。
「モーリ様、自力で逃げた者もいるようです」
って。おそらく半数くらいは逃げただろうとも。それはそれでいい知らせだと思うんだけど、言ってる彼女の顔色はよくなかった。フレダンに治癒魔法を使い過ぎたんだろうか?
でも魔法でケガが直せるってすごいよね。使えるシャルネさんもすごいけど。
「それはよかったです。でもどうしてわかったの?」
「数を数えましたから」
痛ましそうなシャルネさんの表情で気づくべきだった。だけど平和に慣れてる僕は、何も考えてなかった。数、それは遺体の数だってことに。
原型すらとどめない、その、かつて生きていたモノを見て、情けないことに僕は吐いた。
それは、これが現実の戦いでテレビの中じゃないって僕に実感させるのは充分すぎる光景だった。
「これが、この世界を守るってこと?エルダさんが本当に見せたかったのは、コレ?」
……僕には、何もできなかった。ただ、二人の妖精に助けられただけで、それだってアルビエラ母さんが渡してくれた指輪とマナドロップのおかげで。
「ホント、僕は無力だね」
こんな僕をなんで転生させたのか?こんな僕の魂をなんで召喚したのか?そして、こんな僕になにができるのか?世界を救うなんて冗談にしてもデキが悪い。
「旦那様、エスリーと一緒にお家に帰るの」
「そうですね。モーリ様にはいろいろとご事情がおありでしょうし、エスリー様のお家ならば後日わたくしの方から出向きます」
「おい!事情を知りたいのはこっちだ!このフレダンを軽く扱うことは許さんぞ!」
……とても意外なことに、この3人の言葉で一番救われたのは、フレダンさんの言葉だった。空気を読まない人がいると、自分のことばかり考えていられなくなるからね。
「旦那様は心配されるより罵倒される方がお好きなの?」
絶対違うから!なんか期待しているみたいなエスリーがコワイ。
僕はぎゃあぎゃあ騒ぐフレダンをシャルネさんに預け、エスリーに連れられて家に向かうことにした。そこは歴代魔王の住処だそうだ