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第3章 その2 竜酸海で大怪獣は決闘するのか

第3章 その2 竜酸海で大怪獣は決闘するのか


「ふう、いい湯だなあ」

 まるで前世のユニットバスを彷彿させるような狭い浴槽だけど、狭い船室の一画にむりやりつくっただけのことはあるね。

「湯船が狭けりゃ天井も狭い、洗い場がなければ脱衣所もない・・・・・・これはこれでいいや」

 家の屋上につくった露天風呂とはいろいろ比べられないけど、あれはエルダさんたちに占有されて以来使えなかったし、だったら狭くても一人でくつろげるこのお風呂でも充分だ。狭いのは前世で慣れてるしね。

元のアイデアは海軍名物海水風呂だけど、もちろん竜酸海を進むこの船ではそのままじゃムリ。熱源はボイラーじゃなくて、この船のロケットエンジンそのもので、利用する水だって、燃料の推進剤を竜酸海から練成する時にオマケで生成する水を使ってる。純水だから飲用水にもしてるけど、一部はお風呂に使ってる訳だ。

 つまりは単純泉です。効能は、ストレス解消や神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、痔疾、慢性消化器病、冷え性など。ちなみに水温は温めです。温度計とかはまだつくれないから体感で38度くらいかな?・・・・・・ま、ホントは温泉じゃないから単純泉じゃないんだけど・・・・・・気分です。

「・・・・・・そのうち入浴剤なんかもつくりたいんだけどな」

 前世で行けなかった温泉地をせめて入浴剤だけでも再現したい。我ながらスケールの小さい望みだ。ま、僕個人の願いなんてそんなものだ。

 ガラガラ。そんな自己分析にたどり着いたとき、狭い浴室の扉がスライドした。まさかエルダさんの襲撃か?こんな狭い癒やし空間すら奪われるのか・・・・・・そんな思いがよぎったけど、現れたのはエルダさんより頭一つ以上低い、小柄なメイド服姿だった。

「旦那様、またお一人でお隠れなの」

「エスリー、脅かさないでよ」

「エスリーのエスはサブデューのエスなの。もう船内のお掃除を終えたの」

 この船は制圧しました、と宣言するエスリーだ。出港してまだ何日も経ってないけどね。

「だから旦那様。次のお仕事を言いつけてほしいの」

 家じゃあ自分で判断できるけど、船内ここじゃあ勝手が違うか。

「じゃあ、お姉さんにそろそろ食事の用意をしてって伝えてくれる?」

 船内の調理はお姉さんことグルグルグールル練成魔術師にお願いしてる。食料・・・・・・ほとんどじゃがいも・・・・・・の大部分もお姉さんの練成炉に保管してもらってる。だけど、エスリーは少し不満そうだ。

「旦那様、エスリーは旦那様のお世話をしたいの」

 というより、甘えたそうかな?

「この状況で、それはやめて」

 魔力の補給が欲しいんだろうけど。なにしろこの子は家妖精だけに燃費が悪い万能型だ。だけど僕は入浴中。お風呂で女の子にお世話されるなんて、前世の良識が許さない。ま、浴槽以外は足の踏み場しかないし・・・・・・ここで魔力供与ハグはジアンだ。かなり飼い慣らされた僕でもアウト。

「じゃあ、早くお風呂から出て欲しいの」

 あ~あ。久々のお風呂だったのに、ここでも僕は一人でくつろいじゃいけないらしい。

「はいはい」

 侍女メイドにせかされる主なんて情けないけど、僕だから仕方がない。エスリーに扉を閉めるよう促して、僕は名残惜しくお湯を抜く。正直言えばこのお湯だって濾過すれば飲めるんだけど、竜酸水の主成分である王水から練成すれば簡単だし船外に投棄してる。

 浴槽の中で風精霊と火精霊に乾かしてもらう。精霊を働かせ過ぎるのは申し訳ないしエスリーに叱られるんだけど、これくらいは許容範囲だ。もはや収納空間としても使える練成炉から普段着を出して着る。で、未練がましく浴室を見る・・・・・・狭いのは許せるけど、この色はなんとかしよう。なにしろ船の素材はほとんどがオリハルコンだ。だからお風呂も黄金色。これじゃ成金だって。目にも悪そうだし。塗装するか、上に別の素材を貼り付けるか?

 ガラガラガラ。扉をスライドすると、そこにはまだ僕の家妖精が立ったままだった。手に持った白い服を僕に手渡す。

「旦那様、お着替えなの。お洗濯物はエスリーに預けてほしいの」

 エスリーは家妖精らしく世話焼きさんだ。僕にかまいたくてしかたないらしい。反面、他の船員にはよそよそしい。せめてお姉さんとは仲良くなってほしいんだけど。

「はい、んじゃ、お願いします」

 僕は着たばかりの服を着替えることにした。こういうところで素直に言うことをきいてあげないと、お説教が始まったり逆に甘えたがってとまらなくなったりしてしまう。面倒ではあるが、かわいいから僕は怒れない。つくづく飼い慣らされたなあ。

 で、僕が着替えるのを見届けてから、エスリーはおもむろにこう言うんだ。

「ところで旦那様、敵の襲撃なの」

「・・・・・・・・・・・・そういうことは早く言って!」


 狭い廊下を駆け抜けて・・・・・・走るほど長くもないけど・・・・・・慌てて船室に駆け込んだ僕だ。

「モーリ、おせえぞ!」

「ほんとほんと」

「ヨユー?」

 ジナさん、クレリアさん、シアラさんの魔族っ子たちは、英士隊のメンバーで僕の護衛だ。なんだけど、僕への態度がザツ。まあ、魔王って言っても僕だから仕方ないけど。

「敵の種類と数は!?」

焼酸菌しょうさんきん厭酸菌えんさんきん痰酸菌たんさんきんだよ」

 ・・・・・・この世界は山脈より巨大な竜の胃の中、すなわち胃世界だ。だからその体内生物が巨大怪獣みたいなことになっている。昔、特撮研究会トサケンだった僕には、まあ、許せる設定だけど、その怪獣たちが見るに堪えない。僕の怪獣愛が許さないレベルだ。

「・・・・・・で、どれがどれなんです?」

「ああ、あの火をまき散らしてるのが焼酸菌だ」

 ジナさんが教えてくれたのは、暗い胃空間に浮かぶ円筒形で、確かに全身からなんか燃えてる。ジナさんは、ダイカイチュウの時以来、何度か僕の護衛を命じられてるからここじゃ一番話しやすい人なんだけど、性格はキツメ、ってか僕にだけアタリが強い?魔族でも希少な金髪種だそうで、魔術も剣術も得意で将来の有望株だったのに・・・・・・僕なんかと関わったせいで、最近冷遇されてるんじゃないかな?今回の護衛も、以前元老院の指示で僕を捕らえようとした懲罰としてシャルネさんから命じられたからで、他の二人も同じらしい。だから僕はシャルネさんにイヤがる子を護衛を命じるなんてかわいそうですって言ったんだけど、怪訝な顔された。あれはなんだったんだろう?

「あれ、見たくもない、いや

 ・・・・・・名状しがたい、この世ならぬものがうごめき、それが宙に浮いてる。ショ○スか?いや、ショ○スは浮かないよな?教えてくれたのはクレリアさんだ。見かけは十代も半ばくらいだけど言葉数が少なめ。

「バッチ~のが浮いてるよ」

 ネバネバしてるっぽい粘液に黒っぽいゴミみたいなのが混じってる。巨人が痰を海に吐き捨てたらこんなものか?あれ、竜酸で溶けないのか?顔を思いっきりしかめながら説明してくれてるのはシアラさんだ。この子も十代半ば位の顔立ちだけど・・・・・・体型的には船内で一番オトナだったりする。

 魔族っ子はもちろん半裸族だから、背中の翼がパタパタしてるのは見てて楽しいんだけど、話してる内容のせいか話してる相手が僕なせいかみんな顔をしかめてる。

 甲板から見て、右のやや高い空をブンフン飛んでるのが焼酸菌で、左の低空にブワブワ浮いてるのが厭酸菌、正面の竜酸海にブヨブヨ浮かんでるのが痰酸菌。

「ここに来て最初に会った竜酸菌は相当マシな部類だったんだな~」

 この怪獣たち、映像化不可能だね。視聴者が見たら吐くし、子どもなら泣くかも。

「あれ?怪獣が3体?・・・・・・これって『南○の大決闘』いや、『○海の大怪獣』のシチュか?」

 『大決闘』は言わずと知れたゴジ○映画の8作目で、モス○とエビ○が出てくるけど、作中の主敵は怪獣じゃなくてイン○ァント島民を強制労働させて重水つくってる「赤○竹」って秘密組織だよね。 で、『大怪獣』の方は、ゲソ○とかガ○メとかカ○ーバとか、ゴ○ラとは無縁の怪獣ばかりで、生物感あふれる新怪獣とその操演が評価された意欲作だ。

「確か3体とも宇宙生物がとりついて怪獣になるんだったっけ?」

 僕の特撮歴は浅いから、細かいことは覚えてないんだけど。なにしろ学生時代はお金がなくて社会人時代は時間がなくて。

「ウチウ?あんた、なに言ってんだい?」

 ここは世界竜の胃の中だ。宇宙なんて知らないジナさんの反応は当たり前だけど。

「さすが、弟クンは物知りだね」

「お姉さん?」

 エスリーよりもさらに小柄な彼女をお姉さんって呼ぶと、クレリアさんとシアラさんがいつも妙な顔をする。いい加減慣れて欲しい。

「この世界の有り様を追究することはボクの最優先だからね。地上時代の知識なんか初歩だよ、弟クン」

 双眼鏡より厚いメガネで隠れてるけど、ママによく似たお姉さんだ。まあ、ママの生殖細胞から生まれたホムンクルスだけど、レクアじゃあ差別されるんで正体は内緒だ。知ってるジナさんもとりあえず黙ってくれてる。副長兼顧問って聞いて不満そうだったけど。

「旦那様、このまま進むと痰酸菌と衝突するの」

 エスリーが僕とお姉さんの間に込んできた。会話的にも、物理的にも。

「・・・・・・エルダさんは?」

 この船の・・・・・・なぜか僕の名前がつけられたけど僕は絶対そう呼ばない・・・・・・操舵手兼航海長兼掌砲長兼掌帆長で切り込み隊長の、要するにほとんど主戦力のエルダさんだ。

 副長兼調査団顧問はお姉さんで船務長兼従卒がエスリー。ジナさんたちは船内での役目はなくて軍艦に乗ってる海兵隊員か、強いて言えば警備兵か?で、言うもおこがましいが僕が船長兼調査団長だ。組織として、無理矢理役職をつくればそうなる。で、その主戦力がいない?

「討滅に行ったの。それは楽しそうに」

 あ~・・・・・・さすがはエルダさん。形式上僕に臣従しているとはいえ、いちいち戦闘許可をもらうつもりはないらしい。ま、体内生物相手に防衛上、戦闘は不可欠ともいえる。GA隊じゃあるまいし、いちいち行政上の手続きを踏む必要もないわけだ。

「旦那様、エルダの光壁が消えるの。だからこれからはエスリーが光壁を担当するの」

 この船はマジカルファインセラミックであるところの、胃世界オリハルコン製だ。耐衝撃性、耐熱性に加え耐酸性にも極めて優れており、主成分が王水の竜酸海でも溶けることはないけど・・・・・・まあ、竜酸雨の嵐はイヤ過ぎる。あの酸っぱい臭いはもうゴメンだし、浸水でもされたら面倒くさい。

「んじゃ、エスリーにお願いするよ」

「はいなの。旦那様、そこに座ってほしいの」

 エスリーは狭いキャビンのソファを指さした。なんで、と思わなくもなかったけど素直に座る僕。

「んしょ、なの」

 そしてエスリーは僕の膝に当たり前のように座った・・・・・・横座りから向かい合わせになって。

「あのう、エスリーさん?」

「旦那様、しばらくおとなしくしてるの」

 そのまま目を閉じて僕に抱きつくエスリー。そしてジナさん、クレリアさん、シアラさんの冷たい視線。「スケベ」とか「ヘンタイ」とか「ロシコン」とか無言の罵倒が聞こえる。なんだかいたたまれないんですけど。そしてとどめはお姉さんだった。

「弟クン、年下妖精趣味は個人の自由だけど、さすがに発情するタイミングに問題があると思うよ」

 メガネの奥の見えない目が笑ってるのが僕にはなぜか見えた気がする。

「こ、これはですね。家妖精のエスリーは魔力容量が小さくて不足する魔力を僕から補充するために必要な体勢なんです」

 付け足せば、エルダさんやエムリアさんならともかく、エスリーに直接僕の魔力を供与するのは過剰供給になる危険があるらしい。だからエスリーの主食は、体温や汗と一緒に僕から自然放出される余剰魔力だ。スキンシップ多めになるのは仕方ないことで、一緒に寝てもらってるのも、エスリーの魔力補給のために必要なんだ。

「おやおや、弟クンの理論武装はたいしたもんじゃないか」

理論武装いいわけじゃないです!」

 なんて言ってる間に、まばゆかった光壁は一瞬だけ消え、代わりに淡い光が船を包んだ。

 そして同じ輝きがエスリーの髪から放たれていた。僕を護るくらいならともかくこの船を包むくらいだからエスリーはかなりムリしてる。少し苦しそうだ。

「いつもごめんね・・・・・・」

 僕は小さなエスリーを抱きしめ、淡く光る髪をなでた。心なしか、表情が和らいだ気がする。

「スケベ」

「ヘンタイ」

「ロリコン」

 今度ははっきり肉声が聞こえたけど、ま、聞こえないことにしよう。


 淡い光壁を透かして、前方の景色が見える。向こうは地獄だ。この胃世界そのものが過酷すぎるのに、今は局地的に雷光群が荒れ狂ってた。エルダさんだ。「終末のエルダ」とも言われるあの討滅妖精が暴れているんだ。稲妻に照らされた怪獣たちが影絵のようになっている。僕は、会ったばかりで見るに堪えないあの怪獣たちに少しだけ同情した。

「うわあ、なんだこれ!怪獣よりあの稲妻の方がこええよ!」

「助けて~」

「死ぬ・・・・・・」

 光壁で竜酸は防げても、波の揺れは防げない。狭いキャビンを右に左に転げ回るジナさんたちは大変だ。ソファやテーブルは固定してるから僕やエスリーはなんとかなってるけど。ジナさんたちを助けようにもさすがに今はムリです。

「あれが討滅妖精の力なのか。すごいね~」

 いた、一人だけ平常運転の人が。人じゃないけど。ホムンクルスだけど。

「1体の妖精が持てる魔力上限を圧倒的に超えてるよ。どういう存在なんだろう。実に興味深い」

 いつの間にか、ロープで体を結わえつけ、甲板に出て絶賛観戦中のお姉さんだ。双眼鏡より分厚いメガネが野球観戦中のオペラグラスに見えなくもいないけど。

「お姉さん、危ないですよ!」

「なに言ってるんだい、弟クン。これを見ずして世界の真理に到達するなんてできないじゃないか。船をもっと前に出したまえ」

 なんていうか、ブレないな。我ながらあの人を顧問にしてよかったんだろうか?

「・・・・・・今、この船は操舵士も航海長も留守ですよ」

 全部エルダさんだし。

「仕方ないな。この件は後で協議しようか」

 何か言おうとして、お姉さんはやめた。今は観戦に集中したいらしい。

「おおおおおお!今の紫電はすごいな。あの色はどの精霊に準拠してるんだ?」

 上空のエルダさんは、白、青、緑など、様々な雷光を放つ。そして今の紫電はひときわ大きかった。

「あれ?稲妻って風の精霊の仲間じゃなかったんですか?四大元素的には」

 なけなしの前世の知識だけど、この世界でも大きな齟齬はなかった気がする。

「う~ん、大きな意味ではそうなんだけどね。だけどあの紫電は色も大きさも論外だけどその威力は計測不能だから、いろんな精霊が複合的に関わってる可能性がある!これは是が非でも解明しなきゃいけないよ!それこそが真実を探求する者の義務なんだ!わかるかい、弟クン!」

 あ~・・・・・・始まっちゃった。お姉さんも、これがなければいい人なんだけどな。人じゃないけど。その後はひたすら船外の景色にメガネを向け続ける。あのメガネに録画機能があっても不思議じゃないね。

 なんて言ってるのも実は大揺れの中だから、座ってる僕ですら舌をかみそうだ。僕はもう成り立たなくなり始めたお姉さんとの会話を諦め、膝の上のエスリーが落ちたりしないか支えることに専念することにした。実際のところエルダさんなら片手間の光壁展開も、この子にはかなり負担らしく、僕に抱きついてる腕が時折きつくなったりしてかわいそうだ。

「大変なのはこっちもなんだけどね」

 床で転がるジナさんがなんか不満げだ。他の子たちもうらめしそう。

「ごめんなさい」

 船室内を転がりまくってるジナさんたちを助けたいのはヤマヤマだけど、今手が離せません。半裸少女たちの惨状は見るに堪えないし、見てる余裕もないけど

「あ」

 今、ひときわ大きな稲妻が走って。

「海が割れました」

 僕にはしっかり見えてしまった。薄暗い竜酸海が巨大な黒い稲妻で真っ二つに裂けるのを。もちろんそこに向かうこの船は、割れた海面になだれ込む濁流に飲み込まれてしまった。

 だけど絶賛転がり中だったジナさんたちは見てる余裕もなく状況が把握できたないままだ。

 だから、その後、自由落下を始めた船がもはや絶叫マシーン並の加速度に達するまで悲鳴すら上がらなかった。

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