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第2章 その17 再びの元老院

その17 再びの元老院


「・・・・・・あのね、弟クン」

 僕は今、街外れのグルグルグールル師のお店に居る。せっかくできたお風呂からエルダさんに追い出され、奮起した……って言っていいかどうかは自信はないけど、勢いってすごい。

「これをホントに一晩で書いたのかい?」

「そうですけど?それが何か?」

 もちろんここに来て以来の構想が下地になってはいるが、今の僕では試せないアイデアばかりで、だからこその、この計画なんだけど。

「・・・・・・よくもまあ、相談相手もいない中、こんなモノを考え出したねえ」

「あ、だからお姉さんに僕の相談相手になってほしくて」

「ボクに?魔王の相談相手かあ、王国宰相みたいだね」

 宰相?・・・・・・それはいけない。お姉さんはいい人だけど困った人でダメな人だ。具体的に言うと理想と現実を天秤にかけたら理想に走り妄想を爆発させる側の人だ(人じゃないけど)。おまけに見かけは子どもだし店から出ない引きこもりな練成マニア。そんなお姉さんを世情に詳しく現実的判断を求められる宰相に?

「・・・・・・お姉さんには宰相なんて低俗な雑務は似合いませんよ。今のままご自由な立場のまま、世界の真実を目指してください。で、その片手間に僕の個人的な顧問ということで」

「なるほど。そうだね。ボクもそのほうがいいよ・・・・・・アレ?なんかほっとしてないかい?」

「いいええ!そんなことはありまスん!」

「ス?」

「いえいえ。それより、僕の計画の、今はこの段階なんですけど!ぜひ意見を!」

「・・・・・・キミね、いかにもゴマカシに入ってるの、ミエミエなんだけど」

 返す言葉もない僕です。


 それでもちゃんと資料に目を通してくれるお姉さんだ。ちなみに資料の羊皮紙なんかは高価なんだけど、お姉さんが大量に譲ってくれた。厳密には僕が試作した文房具と交換だったけど。

「・・・・・・ふむふむ・・・・・・弟クン、基本的によくできた計画だと思うんだけど」

 読むの早い。しかも高評価!?

「致命的に欠けた部分がある」

 違ったか。

「どんなとこです」

「・・・・・・キミね、本当に無関心なんだね」

「はい?」

「お金にも権力にもさ」

「そんなことありませんよ!」

 そこは力説したい。だって元社畜でもプロジェクトの基本は資金と会社上部の承認だってくらいはわかってる。つまりはお金と権力。そこに配慮しないプレゼンはない・・・・・・はずなんだけど。

「だって、キミ、ムシしてるだろ?・・・・・・あいつらを」


 …………世捨て人みたいなお姉さんにすら、一目で指摘された僕の欠点。もはや欠陥と言っていい。どうやら僕は前世と同じ失敗をしかかってたみたいだ。いや、違うな。前世は覚悟も準備もなしに無自覚に始めて失敗した。それで挽回すらできなかった。

「やはり僕は……死んで治ったほうのバカみたいだな」

 今の僕には覚悟がある。何より欠点を教えてくれる人がいる。準備は今からすればいい。


 で、僕はここにいる。

「ようこそ、モーリ様」

「テネスさんでしたね。よろしくお願いします」

 大理石をふんだんに使った、前世の世界なら世界遺産級の豪壮な建築物。そして、その前にたたずむ、ナイスミドルな家妖精……そう、ここは元老院だ。

「皆様、すでにお待ちしております」

 僕が訪ねる件は、家妖精ネットワークですでに連絡済みだ。なんていうか、ファンタジーだよね。

「では、まずこちらにて」

 さりげなく、とても自然に持ち物をあらためられた。さすがはプロだね。しかし、テネスさんがみとがめるようなものはもちろんなにもない。紳士の彼にもかくしきれない、呆れたような視線はどうなんだろう?視線があっちゃった。

「いえ、随分と落ち着いていらっしゃる、と」

「はは。ありがとうございます。まあ、妙なものを持ち込んだくらいでどうにかなる方々じゃないくらいはわかってますから。そもそもどうにかする気も僕にはありませんし」

 向こうはともかく。

 魔術の行使を阻害する腕輪をはめられる。これだって無意味だ。そもそも僕は魔術は使えない。だから何も言わない僕を、なぜか感嘆した目で見るテネスさん。絶対勘違いしてるね。

「……こちらでございます」

 で、奥の間に、元老院の間に通される。以前はエムリアさんの転移で……それも相当強引なヤツ……だったからちゃんと通ったことがない。

「レクアの街とは大違いですね」

 もちろん僕の家とも。磨き抜かれた白亜の石に、施された精緻な彫刻。ところどころに置かれた見慣れぬ動物の彫像は、おそらくはこのレクアが外の世界にあった時の生物なのだろう。狛犬みたいなものかもね。

 そして……奥まった廊下に飾られたのは、12枚の肖像画だ。ママたち、歴代魔王の。つい見入ってしまう。

「モーリ様の肖像画は、ご退位なされてから描かれることになります」

 僕が足を止めた理由をどう思ったやら。まだ飾ってないってことは実は僕の即位を公認してないって意思表明ってか?

「あ~そういう心配はしてませんよ」

 やるべきことを済ませたら、すぐやめるつもりだし。やめたらイシャナさんに譲って、僕は悠々自適のスローライフだ。憧れる。

 ぎぃいいいいい。

 重い石扉が開く。それは伏魔殿が開く音だ。地獄の釜の蓋が開くのとは、僕的には大して変わらない。


「―――ようこそ、魔王モーリ」

 明らかに歓迎してない声が響く。

「元老院一同、お待ちしておりました」

「我らは魔王の補弼機関でございます」

「魔王の招集とあらばいかなる用件であれ、ただちにはせ参じます」

 続くいずれの声も、全部が全部、敬意どころか誠意も熱意ない。それでも僕は抵抗なく言えた。

「元老院のみなさん。即位したばかりで未だ何の功績もない僕の招集に応じてくださって感謝しています」

 あ、でも、僕は誠意はあるよ。たとえ僕の足元をすくいたがる相手でも、僕は交渉相手を下に見ることなんてしないから。


 元老院を構成するのは、4人の魔族と3人の鬼族、そして二人の人族だ。このうち、魔族とは貴族で全員女性、鬼族も貴族だけど全員男性だ。当然だけど、魔族だけでも鬼族だけでも子孫はつくれず、しかしながら魔族と鬼族の間にもなぜか子どもは生まれないそうだ。そこで、人族だ。

 魔族は人族の男性を、鬼族は人族の女性を配偶者とすることで子どもを得る。魔族の子は魔族で、鬼族の子は鬼族だそうだ。つまり、僕が召喚した書物精霊が正しければ、魔族の家に鬼族や人族が生まれて迫害される、とかその逆のパターンとかはないらしい。

 で、貴族階級の魔族や鬼族の配偶者となるにふさわしい男女を、ここにいる人族代表が選定している。レクアの歪んだ種族カーストはこうしてできたわけだ。

 ちなみに、カースト最上位は歴代魔王を排出した魔族だ。僕がここに入った時に「歓迎」の声を上げたのが全員魔族だということもその一例だ。

 

 鬼族1位のグランデ家当主は、額の一本角がやや赤みを帯びている。

「それで、モーリ様。今日はいかなるご用命で?」

「まったく。就任早々の挨拶もさけた小心者の新米が今さら我らを招集するとはな」

「さぞかし困ってるのであろう。なにしろ魔王とはいえ一文無し……日々の食事にも困窮しているそうだ」

「まあ、お小遣いねだりに来たいうなら、頭の一つでも下げてもらわないけまへんなあ」

 聞こえてるのは今の僕の聴力のせいか、わざわざ聞こえるように言ってるのか。じわじわと僕を威圧してるんだけど、今の僕は「営業モード」だ。言うなればメンタルアーマー装着済み。

「まずは手元に配った資料をご覧ください」

 つい敬語になるのは営業モードの副作用だけど。

「……紙?」

「いや、羊皮紙ではないぞ」

「布でもありまへんし」

 渡された資料を読む前に、その光沢が気になったらしい。、

「あー、羊皮紙も繊維も貴重品ですから、この場ではもったいなくて使えませんよ」

 本当はこういう場では「投影」術式とか使いたいんだけど、僕は魔術が使えないからなあ。「投影」……プロジェクターなら楽だったんだけど。雰囲気でるし。

 首をかしげる元老院一同の疑問は無視して、僕は本題に入ることにした。

「まずはみなさんへの説明をさせてください」

 単色で描かれた絵図とその詳細な説明が一枚目だ。しかしその目的は別。

「これは、僕の契約妖精であるエルダさんが調査した内容を記したものです」

「討滅妖精が?」

 見た目十代後半の女の子だけど、僕の知り合いの中でも、レクアの国外に行けて無事に帰ってこられる人材というか存在は彼女しか思い当たらない。パワハラとかって思ってないみたいだけど、意外そうではある。

「その海図は、世界竜の胃の中。すなわち竜酸海の様子を描いたものです。もちろん未だ不完全なものではありますが」

 以前イシャナさんが召喚してくれた「エルキアドルの世界の書」みたいに、書物精霊が語ってくれたら僕が説明なんてしなくてもいいんだけどな。あの臨場感には絶対負ける。案の定、普通に資料を見せられ聞かされてる元老院の、メンバーの大半は不満そうだ。

「ただ、大がかりな調査が行われて、あれから約50年。その間のレクアの位置の変化、他の島々の変容などを比較することでこの世界の様子をより詳細に知ることができました」

 魔族1位オーマーク、同じく2位ウーシュ家当主はさすがだ。この資料の価値、そしておそらくは僕の本題にも気づいてる。

「この竜酸海にもある種の海流が存在すること、そして、レクアのように魔法による障壁のない土地がどれくらいの早さで消化されるのかの実態、そして……他の島の資源について、エルダさんは予備的ながらも調査してくれました」

 資源、という言葉を聞いて、魔族3位、鬼族1位、そして二人の人族が反応を見せる。現金だなあ。

「ご想像の通り生存者および動植物については期待薄です。ですが……精霊についてはごらんの通りです」

「お待ちくださいな」

「……はい、ウーシュさん」

 正確にはウーシュ家当主だけど、家名はともかく個人名は知らない。しかし家名を呼ばれたことで、彼女の細長い目に怪しい光りがともったように思える。……このウーシュさんは恐い。あのエムリアさんが「一番面倒くさい」というだけある。

「モーリはん、まさか精霊を資源思うてます?」

「はい」

 ざわざわ。そんな意外なことだろうか?

「あんなあ。精霊は地つきのもんです。もしも生き物もいない土地で生き残った精霊はんがおったとして、それがよそん土地に移るわけないやありまへんか」

 やはりそうなのか。そういう疑念は僕にもあった。例えばエスリーやエムリアさんだ。家妖精のエスリーは、基本的に僕の家から出られない。だからあんなに心配性なのに僕が家から出てもついて来られない。街妖精のエムリアさんもだ。この街の中ならどこにでも存在できるという非常識な妖精のくせに、やはり街からは出られない。でもね。

「それについては、次の問題と重複するんですが……生き延びた精霊や土地に眠ったままの資源、居住者がいなくなった街の資産などについては一括してレクアに移動させるつもりなんです……土地ごと」

 ウーシュさんのおかげで、話が早い。頭がいい交渉相手って助かるなあ。ウーシュさんとオーマークさん以外が思いっきり首をかしげた中、僕は言い切った。

「これは単なる資源発掘計画ではありません。竜酸海の中に残った島はすべて移動させレクアに連結させます。そうすればその土地の精霊も資源も、土地そのものも利用できるわけです」

 出雲の国じゃないから国を引っ張るわけじゃないけどね。

「つまりは国土倍増計画というべきものなのです」

 他の元老たちが理解できるよう、少し間をおく。そして続ける。

「この計画は、後に続く国土強靱化計画、そして最終段階の脱出計画のための足がかりなんです」

 他の元老たちが唖然とする中、オーマークさんが恐い顔をし、ウーシュさんがうっすらと微笑む。相手の予想を超え、かつ期待させる流れ……狙い通りかな。

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