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第2章 その16 魔王の失楽園

その16 魔王の失楽園


「・・・・・・なんでこんなことになったんだ」

 ようやくできた僕のオアシスなのに。僕は一人屋上でただずむしかなかった・・・・・・クシュン!・・・・・・寒い。身も心も寒い!

 僕は、この数日間で試作したものをイシュダルさんに見てもらうことにした。その中で興味をひいた品を持ち帰ってもらい、後日感想を教えてもらうことにしたんだ。

 青雲堂で知り合ったイシュダルさんは僕にとってこの街で唯一同性で人族の知り合いだ。

 そのうえ、僕が魔王であることをウスウス察していても内緒にしてくれてる。世間知らずの僕はどうしても頼ってしまう。

 ・・・・・・で、そういう話の流れで、両親が労役にでかける午後、彼の子どもたちを預かることになってしまった。彼らご夫婦、特に若い奥さんにしてみれば、娘さんが日照不足で成長に問題が出ていることが心配なのは当然だ。そんな中、イシュダルさんチの家妖精が僕に預けましょうなんて言い出したらしい。

「それにしたってなんで僕の家なんかに?」

「バー様がね、旦那のお家なら安心だって言うんでさあ」

 ・・・・・・イシュダルさんチの家妖精は、彼のご先祖様からず~っとお世話になってる老婦人だ。ひょっとして察しのいい家妖精たちには、僕の正体がばれてるのかも。

 なんて思いながらも、僕も承知したわけだ。困ったことにイシュダルさんは、子どもを預けるという口実で、僕んチに食べ物を置いていく。火炎大車輪状態の家計を察して気を遣ってくれてるんだろう。いわば、保育のアルバイト委託だ。

 まあ、これは仕方ない。お兄ちゃんのエステルくんはしっかりしてるし、妹のエランちゃんのお世話に慣れてる。妹さんは、おそらく日照不足によるクル病のせいで、左足が不自由だ。

 だから光壁の光量を強くしている時間帯はできるだけ屋上で遊ばせていて・・・・・・。

「なに、なに?」

「おじさん、この水たまりなんだい?」

「・・・・・・」

 ・・・・・・まあ、僕がオジサンなことにいちいち不満はない。ないったらない。

「おじさん?」

 エステルくんは、前世なら就学間もないくらいの男の子だ。つまりは7才くらいだろう。エランちゃんは4才で、レクアの習慣によればこれは幼名。5才になる前につけられた名前はただの呼び名で正式な名でないらしい。

 僕は子どもが苦手だから、よくわからないけど、4才にしては小柄だし言葉もそんな話せないみたい。エランちゃんは興味シンシンに、浴槽を見てる。いや、自慢じゃないけど、最初のは黄金色むきだしで落ち着かなかったから、改良してある。岩を置いたり貼り付けたりして、今では立派な岩風呂だ。風情がでたなあ。見とれるね。おっと。

「ああ、ええっとこれはお風呂といって、心と体の健康にとてもいいものなんだ」

 気をつけないと、自慢げになってしまいそうだ。

「ええ?じゃあ、これエランの病気にも効くの?」

「もちろん!」

 そのために準備しておいた。まず、光量の強い今の時間帯、屋上の露天風呂に入るということは日光浴にもなる。そして、今日のお風呂はカルシウム泉だ!お風呂だけでは不足だろうから、カルシウムとかリンとかを調合し入浴剤として入れておいた。さらにはオヤツに干しキノコを食べることでビタミンDを強化。僕の付け焼き刃の知識だけど、改善はすると思う。

「いいかい、お風呂はね、癒やしの場所なんだ!いや、それだけじゃない!心の渇きを潤すとともに毎日の疲れをとり、さらには健康にしてくれる素晴らしいものなんだよ!」

「・・・・・・おじさん、こわい」

「こわい」

 つい力説してしまった僕に、二人ともヒいてるけど、まあ、大丈夫だろう。僕はさっさと自らお風呂に浸かることにした。別に引き受けた子どもの相手よりお風呂を優先した訳じゃない。ただ、まずは大人が見本を見せないと・・・・・・ホントですよ。

「あ~いい湯だな~」

 閉ざされた胃世界なのに、明るいうちから露天風呂に入れる。生きててよかったなあ~。

僕の好みのややぬるめがいい。

小火精霊ファイアフライちゃん、いい仕事だよ。エライ!」

 湯加減をみてくれる小精霊に、今日も感謝だ。

「あ、せーれー?」

 エランちゃんは普通に精霊が見えるらしい。魔法都市でいろんな妖精や精霊を使役しているレクアでも、精霊そのものが「見える」人は少ない。


 で、数分後。

「きゃははは、おふろ、おふろ!」

「こら、エランそんなにはしゃぐと危ないぞ」

 幼い兄妹はお風呂で遊ぶのに夢中だ。子どもは苦手だし、お風呂で騒ぐ子どもは嫌いだったけど、まあ、これくらいで怒ったりしない。僕も転生して少しは大人になったね(?)。


 ここまではよかった。計画通りだ。そう、僕のお風呂伝道師としての。ただし。

「あれ?」

 至福のため息をついて何度目か。見上げた空に、ナゾの光りが見える。このレクアは竜の胃の中の世界だ。太陽も月も星すらない。今、見えてる青空だってかつての青空を再現しただけの投影だ。

「なのに、光・・・・・・まさか!?」

「どうしたの?」

「おじさん?」

 驚く僕に、子どもたちが不安になったんだろうか?僕は一瞬迷って答えることにした。

「君にも~見え~ぇる?」

「なにが?」

「おうた?」

 ・・・・・・ですよね~。

「いや、エステルくん、エランちゃん。あそこ。光ってるの見えるかい?」

 ウル○ラの星か、はたまたネ○ュラの星か。その裏番組の巨○の星には興味ないけど。

 ネ○ュラの星は渋いよね~。番組タイトルがヒーロー名じゃなくて敵の名前って言うのも渋いし、主人公が務めるのが公害Gメン。レクアの環境改善に協力してほしい。

 まあ、いろいろあって、番組名も後半から変わるし主人公のいる組織も怪獣Gメンに改変されちゃったけど。

 なんて考えてたのが悪かったのか?

 数秒後。

どばあああああん・・・・・・。空の光は光壁とあっさり突き破って、僕の露天風呂に落下した。

「きゃははは」

「エラン、大丈夫か?」

「・・・・・・なんであなたが空から落ちてくるんです?」

 もちろん、それは新手の宇宙怪獣でも隕石でもない。

「うむ。もともと我らは湖の妖精で」

 それ、前回も聞いたから。違う人(?)からだけど。だいたい僕はもう相手を見てもいない。

「なんだ、無礼ではないか?あなたは会話する相手に背を向けるのか?」

「なんでもう裸なんです、エルダさん!」

 そう。資源調査団を派遣する準備に、その予備調査を依頼して国外に派遣していたエルダさんだ。だけど帰国早々、いつもの水兵さん風の軍服は着ていない。落下、っというか着水前に変身したらしい。どれだけ温泉に入りたいんだよ?

「あ~エルエルなの~エムエムはうれしいの~エスエスも来るの~」

「エルダ、久しぶりなの」

「なんで3人そろってるんです!?」

 情けないことに僕はエステルくんとエランちゃんをお風呂に残して全面撤退することにした。だって、見た目小学生のエスリーだけならまだしも・・・・・・前世なら充分アウトだけど・・・・・・中学生アイドルじみたエムリアさんに高校生くらいのエルダさんまでお風呂でくつろいでいる中にいられる訳がない!あのナゾ魔法でももうムリです。

「あれ~」

「おじさん、なんで逃げるんだ?」

「旦那様は気難しいお方なの」

「それたぶん違うの~」

「あなたのお国は随分と窮屈そうだ」

 妖精の常識を持ち込まないでほしい。いや、レクアじゃあ、人族も衣服面積が少ないからそうかもしれないけど。

 ・

 ・

 ・

 それ以来、僕は自分のお風呂に入れない。すっかり露天風呂を気に入ったエルダさんが居座るようになったからだ。今日も屋上に家庭菜園の作業しただけで撤退せざるを得ない。

 クール系美少女のエルダさんがお風呂でくつろぐ姿は珍しいけど、すぐに目をそらす。

「エルダさんがずっとお風呂に入ってたら、僕は入れないじゃないですか」

「入ればいいだろう。別にわたしは気にしないぞ。あなたがわたしをさけるだけで」

「若い娘さんと一緒に入れるほど僕の常識は柔らかくないんです」

「細かいことを気にするのだな。それでも魔王か」

「・・・・・・すみませんね。こんなんで」

 なんて会話が数回。エルダさんには・・・・・・エムリアさんもだけど・・・・・・人と同じ意味での住居がない。レクアの有事以外は所在不明だ。まさかホームレス生活なんてしてないとは思うけど。だから、僕んチの屋上に居座ること自体は悪いことじゃない。追い出すつもりなんてさらさらない・・・・・・ただ、僕がお風呂に入る時間くらいは浴槽からあがってほしい。

「仕方ない。では条件をだそう」

「条件ですか?」

 お湯に肩までつかったままのエルダさんだけど、そのままお湯の上に仁王立ちした。まあ、ナゾ魔法がイイカンジで湯気ってるけど、僕は再び背中を向けるしかない。

「話しかける相手に背を向けるとは、失礼な男だな」

「どっちがですか!」

 我ながらいろいろ大人げない気がするけど、気を遣ってるのはこっちです。

「・・・・・・条件を言おう。資源調査団の準備ができたらあなたが湯に入る間は出てやろう」

 レクアに枯渇する資源を得るために竜散海にまだ浮かんでるはずの他の島を調査する計画だ。

「あなたが頼んだので調査とやらをして来たのに、戻ってみれば調査団もその後の資源回収計画も未だ動かず・・・・・・正直拍子抜け。裏切られた思いだ」

 正論だ。正論過ぎて、ぐうの音も出ない。

「・・・・・・ごめんなさい」

「なんとかして調査を始めることだ」

 エルダさんからはもう大まかな情報を聞いて、地図もつくった。だけど、調査団の結成は難しい・・・・・・。お金がない、人手がない、各種道具もなんにもない。おまけに僕は貧乏だ。

「お金か。人の世は面倒なことだ。だがわたしには関係ない。いや、その、あなたの貧乏とやらが原因で世界が滅んでは後悔してもしきれないぞ」

 いたたたた!思いっきり痛いところをつかれました。

「だから急げ。あなたがこのオフロとやらをガマンできなくなるくらいには急ぐべきだ」

 ・

 ・

 ・

 こうして僕はせっかくつくったオフロから追い出された。なのに、エルダさん以外にも、エムリアさんもエスリーも、エステルくんにエランちゃんまで時々オフロに入ってる。

うう・・・・・・悔しいよお。

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