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その11 続 貧乏魔王の錬金術 後編

その11 続 貧乏魔王の錬金術 後編


「待ちたまえ!ここで逃げるような覚悟のない者には、黄金の扉は開かれないぞ!」

 僕を追いかけるママそっくりな若い子は、鋭利なメスを閃かせ、おそらくは注射器から謎の薬液をぴゅっと出して、そんなことを言うけれど。

「解剖なんかされたら、開くものも開きませんよ」

 ってか扉が開いたって、生きて通れないし。

「安心したまえ。扉とは比喩に過ぎん。真理にたどり着ければ、己の生死など取るに足りぬことだ。それくらい錬成魔術を目指す者ならわかるだろう?」

 わかりたくないです!練成魔術師が、こんなマッドな専門職クラスだったって知ってたら目指そうなんて思わなかった。地下迷宮を駆け上がり逃げ出す僕です。

 しかし。僕の前を遮る手、手、手!地面からにょっきり生えた手は、地精霊ノームたちかな?僕に実感はなかったけど、エスリーが言うには、一応エムリアさんもだけど、僕は精霊たちに好かれてるらしいんだけど、こうも公然と妨害されるとやっぱり疑っちゃうね。

 どて。捕まっちゃった。で、あっさり追いつかれた。

「ははは!ここの精霊たちはボクのしもべなのだ。たとえ魔王といえど畏れるものなぞいないぞ!」

 これでもその魔王なんですけど。確かに精霊さんたち、しっかり僕をつかんで離さない。

「ほうら、おとなしくしたまえ。安心しろ、痛いのは最初だけだね~」

 ぴゅ。注射針の先から飛び出た薬液が、身動きできない僕のほおに当たって、なんかヤラシイ。

 でも、その背後からゆっくり近づく半裸の姿が見えた!

「ジナさん!」

 さっきはちょっと気まずかったけど今はこんなに頼もしいです! 背中の翼とお尻の尻尾が歩く度にちょっとゆれるのがいいよね。

「・・・・・・ええっと、おジャマかな?」

 なんでそんなビミョ~な顔してるのはわからない。こんな僕の護衛なんか不本意だろうから、わかるんだけど、その顔はおかしい。

「なんでそこで遠慮してるんです、ジナさん!助けてくださいよ」

「だって、なんかさっきからお前、楽しそうだし」

 おそろし理不尽な言葉だ。どこからみればそう見えたのか、時と場が許せば思いっきり問い詰めたいです。

「楽しくないですよ!」

「ボクは楽しいぞ!ジャマするな!ボクは世界に隠された真理に挑戦し続ける学徒だけど、だからこそそれを妨げる無知蒙昧な輩の排斥に躊躇はない!」

「ママとおんなじ顔でそんなぶっそうなこと言わないで!」

 ずっと若そうだけど、間違えても不思議じゃない。だからこそイヤだ。

「さっきからボクを母親と間違えるキミは、なんなんだ!?」

「・・・・・・だから、魔王モーリです」

「ホントに~?まるで弱いじゃないか?」

「だよな~。あたいもなに言ってんだ、コイツってよく思うよ」

 ・・・・・・さっきガラスの魔王とか言ってくれたのに。まあ、冗談だったか。わかってましたけど。

「僕を、僕の体を創ってくれたのが・・・・・・魔王アルビエラ。ママって呼ばせてもらってるんです」

「・・・・・・なるほど。キミはボクの弟だったか」

「弟?」

 今にも注入されそうな注射器の中身にひやひやしてたけど、その動きがとまったことに気がつかなかった。それだけ、この言葉は衝撃的だった。

「ボクは練成魔術師アルビエラの被造物。俗に言われるホムンクルスの一種だ」


 やや落ち着いたホムンクルスさんは、地精霊の拘束を解いてくれた。

「さすがに弟みたいなキミを解剖するのは・・・・・・うっ、それはそれで真理のために肉親を犠牲にする学徒の鏡という設定に心惹かれるものがあるが・・・・・・」

 飛び出した岩を成形して応接セットをつくってくれるのはいいけど、その合間にもなんか自分に負けそうなホムンクルスさんは危なくて目が離せないです。

「コホン。まあ、キミの話を聞いてからでも遅くはないか」

「それ、僕の話によってはやっぱり解剖する流れなんですか?」

 油断できそうにないな。ジナさんは面白がってるけど・・・・・・正直ホムンクルスと聞いてイヤな顔してた。きっとレクアには一種の差別があるんだろう。

「ええっと・・・・・・あなたのお名前は?」

「ホムンクルスに名はない。創造主にして師アルビエラも、ボクに名前はつけなかった」

 僕は転生体だ。だから僕の魂は前世の僕で、だからママは普通に呼びかけてくれたけど・・・・・・ホムンクルスって体ばかりか魂も造られた存在、と定義されてるらしい。なんかイヤだな。

「・・・・・・んじゃあ、お姉さん。僕は」

 だからまあ、お互いの関係性で呼びかけたんだけど。

「オネエサン・・・・・・」

「おいおい、モーリよお」

 ホムンクルスさんに呼びかけた僕をやはり妙な目でみるジナさんだけど、それ以上にホムンクルスを自称する娘さんがなんかおかしい。

「ああ、オネエサン。なんだ?この響きの良さは!?」

 あ、なんだか浸ってる?そういえば、アルビエラ母さんもこんなトコあったよね。外見はともかく奇矯な言動でヒいてた僕は、少し安心した。

「じゃあ、これからもお姉さんって呼ばせてもらいますね」

「ゼヒ!」

「・・・・・・いいのか?魔王のあんたがホムンクルスを姉扱いなんて」

 こういうのはキライだ。僕だって、自然な生物じゃない。たまたま、前世の魂が入ってるだけの合成人間。ホムンクルスと大して変わらない。

「・・・・・・何より、同じ場にいて、こうして意志を通わせられる相手を、少しの違いで上下をつけるのはおかしいって僕は思うんです」

 ある意味じゃあ、先に生まれた彼女は年長者で敬う立場だし。

「だからお姉さんです」

「キミってヤツは!」

 ガバ!感極まったか、お姉さんが僕に抱きついてきた。年頃っぽい女の子に抱きつかれるのは、前世でもなかった経験で、かなり動揺した僕ですけど。

「なんてことだ!キミはすでに真理の一面に到達してるのか!素晴らしい!」

 あ~なんか急に残念な感じになっちゃった。感動とか感激とかの方向性が常識とは違う人らしい。意志・・・・・・通じてないかも。

「へ~・・・・・・相変わらずだな、あんたは」

 呆れたようなジナさんだったけど、でも後は何も言わなかった。


「それでな、弟クン」

「はい、お姉さん・・・・・・」

 何度もこのやりとりをした後。

「キミがこの迷宮に入った目的はなんだい?」

 ようやく本題です。ジナさんなんか飽き飽きしてアクビばっかり。若い娘さんがそんな大口あけていいんだろうか?

「やはりそうなんだろう?師アルビエラが遺したという究極の真理に手を伸ばそうとした、つまりはキミは僕の同志だ!弟クン!ともに真理の果てを目指そうじゃないか!」

 どうしよう?・・・・・・この世界を救うという目的がない訳じゃない。だけど・・・・・・目先のお金が必要ということもあるし。

「ああ、黄金の扉の先には、いったいどんな真実が隠されているんだろう!?どうだ、わくわくしないか!オネエサンと弟クン、二人でどこまでも行こうじゃないか、真実への旅へ!」

 このテンションについて行けるような動機かと言われれば、大いに自信がない。それに・・・・・・気になる発言だ。

「あの、オネエサン・・・・・・」

「なんだい、弟クン!」

「ええとですね。その言い方だと、オネエサンもママの遺した究極の真理にはたどり着いてないってことですよね?」

「そうさ。道遙かなれば旅楽し。ボクにとってまだまだ未知の世界は果てしない!だからこそ」

「待って待って!・・・・・・オネエサン」

「なんだい、弟クン」

 かなり盛り上がってるお姉さんだけど、幸いなことに僕の「お姉さん」という呼びかけには反応してくれる。一種のパブロフなんだろうか?

「僕がここに入ったのは、練成魔術師としての修行ですけど、それだけじゃないんです」

「うん?」

「・・・・・・もっと具体的なことなんです」

「グタイテキ」

 僕の常識じゃあ、具体性がない計画とか行動はよくないんだけど、真実の学徒とやらは違うらしい。いきなりお姉さんがトーンダウンした。

「つまり、レクアの窮状を改善するヒントを得るためで、それに・・・・・・資金調達のためです」

 資金調達なんて、すごい文飾だ。もちろん、この後の資源調査団の資金でもあるし、内政改革を始めるための元手で、最終的にはこの世界を救うための計画資金だ。

 だけど、僕んチの家計をなんとかしないとレクアを救う前に僕が危ない。切羽詰まってるのは、レクア以前に僕んチだ。

「・・・・・・弟クン、キミも所詮は俗徒なんだね」

 ママそっくりで、さっきまであんなに盛り上がってたのに、そんな残念な目でみないで欲しい。

「師アルビエラもまた、魔王としての俗なる身と、真実を求める学徒たる身の矛盾に常に悩んでたけど」

「ママが?」

「うん。でも師は魔王としての道を選んだ。選ぶしかなかった」

 僕なんかを創ったことを考えれば、必ずしもそうじゃなかったって気もするんだけど。

「だから、師はボクを創った」

「お姉さんを?」

「そう。自分自身は魔王としてこの世のために。しかし自らが求めた道の果てを追い続けるために、己の分身としてボクをね」

「だからお姉さんはママにそっくりなんだ」

「だから、ボクも師も、師の子に憎まれた」

 ママは実の子とはうまくいかなかったって嘆いてた。こういうことだっただろうか?そして、お姉さんがこんな地下迷宮の奥にいる理由なんだろうか?

「そりゃ仕方ねえって。ホムンクルスはそういうモンだし」

 ジナさんが言うのは、おそらくレクアの常識なんだろうけど、僕はそういうのは好きじゃない。

「そういうもの。僕はその一言で、ママの無念やお姉さんの境遇を納得も理解もしたくありません」

「ち、お前は口だけはいつも一人前だな」

 その言葉こそ今の僕を言い当てた真実で、僕は一瞬うつむかざるを得なかった。

「そうです。僕は無力です。だからここに来ました」

 だけど、真実を受け入れたからこそ、ようやくお姉さんに向きあえた気がする。

「そうか。だったらオネエサンとしては、弟クンに少しくらいの手助けはするさ」


 僕はこの世界での「ホウケイ酸ガラス」の製法と、その原材料を求めた。とはいえ、普通のガラスの原料は容易のはずだ。ただ、ホウ砂だけは怪しかった。

「ふうん。世界竜の胃酸に耐える素材として、ガラスねえ」

 この世界は信じがたいほど巨大な竜に飲まれた小さな島だ。だから常に魔力の障壁・・・・・・光壁・・・・・・を張りめぐらせ維持していないと、あっという間に崩壊する。消滅と言うより消化だね。で、近い将来、ここから脱出したい僕としては、まず世界竜の胃酸である、竜酸から守るための物質が欲しい。

「悪くない着眼点だね。さすがは弟クン。おそらくその、特殊なガラスなら竜酸にも耐えるだろう。まだ何に使うか決めてないからには強度とかも考慮するべきだが、強度的にもまず問題ない」

 ホウケイ酸ガラスは、耐熱、耐薬品、耐衝撃に優れている。普通のガラスにホウ砂を混ぜることと製鉄並の高温が必要だから、普通に製造するには今のレクアでは難しい。そのため練成魔術を学んだ、というのは言い過ぎなんだけど。

「だけどね、弟クン。悪くないけどベストでもない。どうせ練成魔術師を目指したんだから、最高の素材を求めるべきじゃないか?」

 100%善意だって思うけど、ムダにハードルが上がった気がする。

「でもお姉さん。ガラスですむんなら一番安価で大量に作れるはずですし、それで」

「だからいいかい。常に最悪を考えたまえ。たとえ大部分がガラスですむとしても、中心になる部分はすまないかもしれない。それにここは生き物の中なんだよ。何があっても不思議じゃない。住民の安全を考えるなら、最高の素材を手に入れるべきだ」

 ・・・・・・反論できない。ここで会った、竜酸菌とかダイカイチュウとかいう、いわば巨大怪獣をみた今となっては、最悪なんて言葉でも言い尽くせない。

「じゃあよお。ガラスよりいい素材、しかも金になるモンを教えてくれるんだろ?」

 それはそうかもしれないけでど、でも。

「ジナさん、言い方!」

「なんだよ、金が欲しいんだろ?なにカッコつけてんだ、貧乏魔王」

 ぐさ・・・・・・。ぐうの音も出ません。

「で、黄金迷宮ってんだから、やっぱり黄金か?」

 食いつき過ぎなジナさんに、お姉さんは涼しい顔で言ってのけた。

「黄金とは不変の暗喩だよ。なにがあっても錆び付かない、永遠の存在、それが真実なんだ」

 お姉さんの説明に、明らかに失望したジナさんだ。

「だから、オネエサンとして弟クンに手助けできるのは、これだけだ」

 その言葉とともに、僕はお姉さんに突き落とされた。いや、精神的に、じゃなくて物理的に。僕の座ってた椅子は、僕を座らせたまま、足元に開いた謎の空間に落ちていったわけだ。

「かわいい弟クンには、真実に続く試練を提供しよう!」

 ・・・・・・かわいいって思ってくれるなら、もっとわかりやすい愛情表現がいいです、お姉さん。言葉には出せない。だって、悲鳴しか出なかったから。

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