その10 続 貧乏魔王の錬金術 中編
その10 続 貧乏魔王の錬金術 中編
「えーない?ミスリル鉱石って、もうレクアにないんですか?」
せっかくミスリルの鍛造方法を身につけ、ようやく少しは練成魔術師として社会貢献できるかもって思ったら、僕たちはあっという間に戻ってた。グルグルグールル師の店舗を改めてみて、「そういえばダンジョンに入った記憶が曖昧だったけど、ここが入り口だったのか?」って今さら思った。
「レクアの鉱物資源が枯渇しているのはご存知でしょう?」
まあ、そう思ったから資源調査を計画し始めて、僕自身も原材料不足の一助になればと練成魔術を学ぶことにしたんだけど。
「それではさっきの鉱床はなんなんです?」
ジナさんが慌てて抜いた剣は、鉄剣に戻ってた。
「修行のためにお師様がおつくりになった仮想迷宮とでもお思いください」
バーチャルダンジョン?マジか。アルビエラ母さん、そんなものまでこさえていたのか?さすがは魔王の一人。魔力がないとか随分嘆いてたくせに、すごいな。
「・・・・・・ですが、もしもこの後、国外の資源調査でミスリル鉱石が発見されれば、身についた御業は必ずやお役に立つでしょう」
・・・・・・資源調査の件は極秘事項だ。ジロリ。僕は今一つ信頼のおけない街妖精をにらんだんだけど、僕の視線なんて全然効き目なしだった。わかってましたけど。
「じゃあ、他の技術を教えてもらえませんか」
そこで、また僕はダンジョンにいた。なんだか唐突過ぎ。だいたいこれでも僕は魔王で、その魔力量だけはけっこうあって、そのおかげで他人の魔法の影響はかなり受けにくいんだけどな。今度の迷宮は、周りに鉱床は感じないけど。
「これがバーチャル?リアルだなあ・・・・・・」
前世じゃあ余裕がなくてバーチャルにも手を出せなかった。まさか胃世界でバーチャル初体験とはね・・・・・・でも、魔王のママがこさえたものだから、もちろん電子的なものじゃないだろうけど。
「あーあ・・・・・・なんだってあたいまでこんなとこに来ちまったやら」
「本当ですよ。ジナさんは帰った方がいいですよ」
「・・・・・・バ~カ」
なぜか同行してるジナさんは不機嫌だ。そりゃそうか。来た道もわからずここにいるのに帰ってと言われりゃ困るよね。僕は本当に考えなしだ。
「すみません」
「だから、なんでもすぐあやまんな、バ~カ」
返す言葉もない。そのまま僕は少し気まずくなって前に進む。随分きつい傾斜だ。露出した壁は岩石で、地面は普通に土だった。さっきまでと違って、何かの鉱床とか鉱物を含んでるという訳でもない。
「なあ、それでお前は何しにここに来たんだ?」
気まずいのは僕だけだったか?ジナさんは何もなかったように話しかけてきた。
「・・・・・・そうですね。ミスリルみたいな特別な金属の鍛造は、いつか役に立つかもしれませんけど、今のレクアですぐに必要な技術という訳じゃありません」
「・・・・・・鉱石がなけりゃ精錬もできねえってか」
「はい。ですから、特別な鉱石に頼らず、それでいて、今の窮状を緩和する素材をつくれる。そういう技術がほしいんです」
「随分具体的だな。はっきりした目的とかあんのかい?」
「・・・・・・ガラスです」
「ガラスぅ?」
レクアの街には、ガラス窓がない。街の人が水や白湯と飲むのは陶器のカップだ。だけど、ガラスそのものは、僕んチに出いりしてくれる御用聞きイシュダンさんでも知ってたし、一般にまでは普及はしてないけど、それなりに出回ってはいるらしい。
「・・・・・・そんなもの、なんに使うんだよ?」
「ガラスは酸に溶けません」
ガラスと言っても、いろいろあるけど、僕が量産したいのは「ほうけい酸ガラス」だ。耐熱・耐酸、おまけに耐衝撃性に優れる。硫酸、硝酸、酢酸、塩酸。いろんな酸があるけれど、一番危ない王水だってガラス瓶で保存できる。このレクアが浮かんでる竜酸・・・・・・世界竜の胃酸にだって耐えられる可能性が高い。
そして、その原料は砂だ。基本的で一般的なソーダ灰ガラスに、ホウ砂を混ぜればいい。
厳密には、ソーダ灰ガラスの原料は、二酸化ケイ素を含んだ石英を砕いたケイ砂、草木を燃やしてつくるソーダ灰(今は塩から造る無水炭酸ナトリウム)、それにチョークにも使う炭酸カルシウムの石灰岩を砕いた方解石だ。そして、干上がった塩湖でとれるホウ砂を混ぜる。ガラスの製造には製鉄並の高温が必要で、昔は膨大な森林資源を費やしたものだが、僕の練成炉で行えそうなことはミスリルの鍛造で実証できた。
ホウ砂はともかく、ありふれた原材料で、製法もわかってて。
「ですから・・・・・・この竜酸の海から脱出するには、おそらく大量のガラスが必要になります」
はっきりと人に言えるほど自信はない。明確な計画ができてる訳でもない。だけど、例えば街の家の窓や屋上にガラスを入れられたら?ガラスで大きなスクリューをつくれたら?
今は僕や住民の魔力に頼ってる光壁が不要になり、その魔力を別のことに使えれば?
「・・・・・・レクアを動かすことも可能かもしれません」
あんぐりと口を開けたジナさんの顔をまともに見る勇気はなかった。これはまだ妄想の類いだ。話するんじゃなかった。
「お前、すげえバカだな・・・・・・」
ほら、やはりバカにされた。
「あたいは練成魔術なんだから、アダマンタイトとか言うのかと思ってたんだけどな・・・・・・ははは。おもしれえじゃねえか」
笑われた。わかってる。荒唐無稽だ。練成炉すらまだ覚え立てなのに。まだまだやることがあるのに。
バン!バン!バン!立て続けに背中を叩かれた。痛い!魔族のジナさんは見かけによらず怪力だ。
「ハハハ。魔王モーリ!いいじゃねえか。お前、本気でここから脱出するって、この世界を救うって覚悟してたんだな!」
バン!バン!
「痛いですよ」
「気に入った!」
ドカン!
「うわ」
ゴロゴロゴロ・・・・・・。それはもう叩くって言うより突き飛ばすって感じで、僕は下り坂を転がり落ちた。遠くで聞こえるジナさんの声が愉快そうだ。
「あたいは気に入ったぜ、魔王モーリはガラスの魔王か?!」
すごく弱そうな僕には、まあ、それなりに似合ってる気もするけど、そんなきれいなもんでもない。背中がひりひりして痛いだけだ。そして僕は・・・・・・転がった先でたどり着いた。
どて。
なんか柔らかいものにぶつかって、回転は終わったんだけど。
「黄金とは、物質ではなく、究極の真理を求める意志のことだ!」
僕がぶつかったその人は小揺るぎもせず、僕に朗々とそう訴えた。なんだろう、こんな勢いでぶつかられたのに、怒りもせず、痛がりもしない。ある意味、心底ぶれない人だろうけど。
「ようこそ!キミはキミの真実にたどりついた。いや、それはまだほんの入り口だろうが、究極の真理はその向こうにこそあるとボクは信じる!」
「ママ!?」
そこにいるのは、そう、僕にぶつかりながら仁王立ちのまま、なにやら高尚な演説を語ってるその人は、アルビエラ母さんだ。
「ママだと?ボクはキミなんかを産んだ覚えはないぞ!そもそも未婚だ!」
演説から一転、逆鱗モードに入ったその人は・・・・・・。
「言われてみれば、確かにお若いですね」
ママの見た目は前世の僕と同世代のアラサーだったけど、この人は・・・・・・十代じゃないかな?多少ずれても二十歳過ぎくらい?それにママはこんなに問題ありそうな言動ではなかった。もっと落ち着いて気品があって優雅だった。何よりママはこんなブッソーな目で僕を見たりしない。
「乙女に向かって暴言を吐くお前は何者だ?」
詰め寄る女性は、白い長衣を着ている。前世の白衣を思い出せるような。
「ええっと・・・・・・僕は魔王モーリ。当代の魔王になったモーリと言います」
「魔王?・・・・・・しかしキミは・・・・・・魔族じゃない。それどころか自然発生生物でもない?」
うわ、一目で正体見抜かれました。言ってる本人も魔族じゃないけど。人に見えるけど。
「実に興味深い・・・・・・キミ、ちょっと解剖させてくれ!」
その手には、突然鋭利な刃物と薬品投与器が出現した!あれ、メスじゃないか?もう片方は注射器か?中になに入ってるんだろう?いや、絶対知りたくない!少なくても身をもって体験はイヤだ!
「待って待って!助けて~!」
僕は母さんそっくりの若い娘さんに思いっきり迫られ、逃げ出すことにした。




