その9 続 貧乏魔王の錬金術 前編
その9 続 貧乏魔王の錬金術 前編
なんていうか。
あの後、出現した白銀もぐらはこけおどしだった。しかも本当の意味での白銀じゃなかった。白銀色だけど。そう、組成を分析すると、錫の比率が多い、白銀色の青銅だった。あー道理でこのダンジョン、銅と錫の鉱床にあるわけだ。
青銅って、その合金の比率で色も変わる。知識としては前世で読んだなんかの本にあったんだろうけど。
「やはり百聞は一見に如かずですね」
「ああ?百文は一剣に如かずだろ?」
うわ?僕の翻訳機能、バグってないか?熟議より実力行使っていろいろ問題しかない。
「だいたいよお、あんた、なにしにこんなトコに潜ってるんだよ?」
ぎょっとして見つめた僕の目を見返すジナさん。
「言ってませんでしたっけ?僕の修行のためですけど」
「修行って、魔王のかい?」
ジナさん、僕が魔王って気づいてたんだ。以前よりむしろ雑に扱われてるせいでてっきり気づいてないって思ってた。
「なんだい、おかしな目で見やがって」
「いえ・・・・・・いいえ。魔王というより練成魔術師の修行です」
「あ、そ」
自分から聞いておいて、この薄い反応。やはりジナさんは僕を嫌いらしい。それなのになんで護衛なんて引き受けたんだろう?
「練成魔術って、金になるんだっけ?」
「まあ、そうらしいです」
僕んちの家計は火の車だ。サラマンダーどころかイフリートがこぎ回ってる。エスリーがいくらやりくりしたって、無から有は生み出せない。それこそ「空中元素固定装置」でもない限りは。そういえば、庵野監督の実写版「QTハニー」、あんなに話題になったのになんでヒットしなかったんだろう?ハニメーション、前世で見ておけばよかったな。
「だけど、お金目当て・・・・・・だけ、じゃありませんよ。これでも魔王ですから」
つい「だけ」を強調してしまうのは、自分でも少し情けないからだ。お金だって普通に欲しい。
「ふうん。まあせいぜい頑張りな」
やはり塩対応だ。自分から聞いてきたのに。
途中を思いっきり省略すると、三層目の奥で遭遇したのは、期待に違わず黄金もぐらだ。でも・・・・・・やはり黄金色の青銅だ。ただし錫の含有費が少ない。そういう意味じゃ期待に合わない。いやいや、だから黄金目当てじゃないんだってば。
「こんチクショー!」
布面積の少ないジナさんが背中と尻尾を震わせながら剣をふるう。いけないいけない。つい見入ってしまう。僕は雑念を振り払って右手に意識を集中する。
ダンジョンは鉱床の中にあるし、三度目ともなれば練成炉を展開し、その中で銅と錫の比率を変え鋳造することも一瞬だ。
「ジナさん!」
「あいよ」
ジナさんは僕から黄金色の青銅カギを受け取り、黄金もぐらの攻撃を避けながらその胸の穴にさしこんだ。もぐらは全身を黄金に輝かせるや動きをとめた。
「あーなんかもう、楽勝だね」
「うん、ルーティンみたい」
もはや単純労働の域だ。
「だけど・・・・・・今までのは練成じゃない」
練成魔術師としては、物質の組成を分析し、練成炉が展開できた。そして、練成ではないけれど周囲から元素をとりよせて鋳造なんかはもう一瞬だ。
「なんだ、さすがは魔王って誉めて欲しいのかい?」
・・・・・・誉められることのない僕としては誉めて欲しいというのは本音だけど。
「いえ。だって、本番はここからですから」
「ああん?黄金宮で黄金もぐらを退治したんだから攻略終了じゃね?」
動きを止めたもぐらは、黄金の胸当てを落とし、そこから去って行った。
「終わったんなら早く帰ろうぜ。これ、いい値で金になるんだろ?」
もぐらが落とした胸当てを拾おうとするジナさんだけど重そうだ。
「まあ、この世界では貴金属も不足してますから」
貴金属だけじゃないけど。閉鎖されたレクアでは俗に言う卑金属だって貴重だ。鉛を黄金に変えたとしても、採算がとれるかどうか微妙なレベル。今更ながら錬金術ではこの世界の資源不足を解消するのは無理らしい。そのための練成魔術なんだけど。
僕はもぐらが去った先を見つめる。暗いはずなのに、今の僕にはしっかり見える・・・・・・。
「銅鉱床はここまで。ここからは・・・・・・なにこれ?」
かすかに青を帯びた銀?いや、だけど銀じゃない?
「・・・・・・ジナさん、すみませんが」
「ああん?」
「先に進みます。もう少し付き合ってください」
自分を嫌ってる相手に頼み事をするのは勇気がいる。しかも僕なんかの、無力な男の護衛だ。イヤだろうし、危険な仕事だ。だけど・・・・・・僕には他の選択肢が見えなかった。
「・・・・・・まあ、いいさ」
なぜかジナさんはあっさり引き受けてくれた。イヤミくらい覚悟してたんだけど。
階層を降りると、そこには見たくもないものがうねってた。
「ウゲ」
ジナさんが乙女らしくもない呻きを挙げるのは仕方ない。僕だってできることなら前言撤回したいって切に思う。
「ミ」
「言うな!おぞましいその名を口にするな!」
「口に出しても出さなくても、あいつら消えたりしてくれないですよ」
細長く肌色で前と後ろの区別もつかない、しかし本来のソレよりは相当に大きい。
「ヒュージアースウォーム・・・・・・」
「あー素直に巨大ミミ」
「言うなあ!」
あ、ジナさんキレちゃった。持参した鉄剣を振り回してるけど、目がどっかイっちゃってる。あれ?そういや、あの剣、さっき折れてたよね?
かきぃ~ん・・・・・・狭いダンジョンに金属音が響いた。
「あ」
「また折れましたね」
「ああ~!」
しかも単に折れたんじゃない。断面が黒く腐食してる。あの一撃だけでか?
「くそう・・・・・・食らえ!」
ジナさんは魔族だ。身体能力も人族と比較にならないけど、魔術の才能はさらに段違い。
「魔力矢!」
定番の攻撃術式も、その威力は人族の魔術師の比ではないはずだけど。
「はじかれた!?なんで!?」
「・・・・・・あいつ、このあたりの鉱物を食ってますね」
よく見れば、表面の肌色を透かして青みがかった銀色が見える気がする。
「コウブツ?」
「初出は指輪物語。特定の場所でしか採掘できず、ドワーフ族でなければ精錬できない」
ジナさんが、バカを見る目になってる。そうでしょうよ。
「真銀ですよ。あいつは真銀を食ったミスリルミミ」
「アースウォーム!」
「・・・・・・ヒュージミスリルウォームとでも命名しますか」
どうしてもミミ・・・・・・という言葉は聞きたくないらしい。僕よりもキライなんだろう。
「それだ!」
「なるほど。さっきの黄金もぐらで満足してたら、魔法金属の精製術にはたどり着けない。そういう仕組みで試されたみたいです」
僕が目先の金策に奔走してるだけなら、失格だったかな?
「ジナさん。下がって」
幸いなことにヒュージミスリルウォームは動きが遅い。ジナさんは露骨に安心して下がってくれたし、僕も大きく距離をとる。右手に魔力を集めると、甲に薄桃色の花章が輝き、それを前方に放つ。
「練成炉、展開・・・・・・」
空間に、この次元には存在しないはずの僕の練成炉が空想視できる。まばゆい白銀色はもう純粋魔力の色だ。
「ミスリル鉱石・・・・・・採集」
ダンジョンのこの階層は、ミスリル鉱石の鉱床の中にある。魔力の操作で力場を形成し、そこに選別した鉱石を放り込む。それを魔力の圧力で砕き、選別し、高熱を加える。意外に楽ちんだ。僕の右手は、もともと錬成魔術師だったアルビエラ母さんの右手だ。だから、手が覚えてる。おまけに必要な魔力は尋常な量ではないはずだけど、幸いなことに僕の魔力だけは歴代魔王の折り紙つきだ。
「なんだそれ!?」
「あれ?精霊たち?」
僕の周りに、いつの間のにか精霊たちが集まってた。土精霊はともかく、こんなダンジョンにも関わらず、火精霊に水精霊、閉所恐怖症ぎみの風精霊まで。魔族のジナさんにも見えるらしい。
「こんなに集まるなんておかしいだろ!しかも小精霊以外なのも混じってるし!」
通常、使役されるのは小精霊までなんだって。でも、エルダさんとかエムリアさんなんかは高位の精霊を自然に使ってるみたいだし、全然実感ない。
「そんな怒らなくても」
「怒ってねー!呆れてるだけだ!」
どう見ても怒ってるけど。翼も尻尾も大騒ぎだし。
「あ、手伝ってくれるんだ。ありがとう」
他の精霊たちより年長の精霊たちが、炎を起こし、風を送り、拳でなぐって、水で冷やしてくれる。その工程、すべてに精霊特有の魔力が注がれて。
「あれ、でもこれって鋳造じゃなくて鍛造になってない?・・・・・・あ、これでいいんだ?」
ミスリルの精錬は凝縮した魔力での鍛造が基本らしい。
だけど・・・・・・なんだろ?精霊たちの集う場の中央に、なにもないけどなにかがありそうな、不思議な感じがする・・・・・・。あえて言えば・・・・・・虚無がある、みたいな?
「ぎゃー」
乙女の悲鳴としては大いに問題しかないが、ジナさんが叫んでる。
「来んな!こっち来んなあ」
しばらく集中していた間に、ヒュージミスリルウォームがずいぶん増えてる?しかもジナさんの前にまでやって来てる。ジナさんは魔力矢を連射してるけど・・・・・・。まあ、効き目ないね。ミスリルは硬い上に魔法にも強いらしい。
ニョロニョロのたくって近づいてくる巨大なウォームは、僕だって好きじゃない。
少し急いで成形し、調整する。
「・・・・・・できました。ジナさん、これで」
「なんだそれ!まさか!」
「はい。ミスリルソードです。サイズはジナさんの鉄剣と同じにしてます」
「ミスリルってこんな短い時間でできるもんなのか?」
前世のカップな麺とさほど変わらないけど、それを言えば某「光の巨人」が怪獣を倒すくらいの時間だし、「鉄王」なら1分だ。赤いだけあって3倍速いのか?
「へっ。意外に軽くて扱いやすいぜ」
「あ、でもジナさん向けにバランス直しただけで、重量だけなら鉄より重いですよ」
ぶんぶん振る舞わすジナさん。その度に動く翼と尻尾っていいよね。
「こら、イヤらしい目で見るな!」
「え?あ、ごめんなさい」
僕の感覚では魔族は半裸族なのに、しかも僕は特段、そういう箇所を見てないのに、少々不本意だ。それでも反射的に謝る。
「なんでもすぐに謝るな!」
「ならどうすればいいんですか!」
「自分で考えな!」
ジナさんは僕を無視してウォームの群れに飛び込んでいった。どうなんだろ?しかもさっきまであんなにイヤがってたウォーム相手に・・・・・・僕の相手よりあっちの方がマシってこと?
「どうだあ!さっきまでのウラミ、思い知りやがれ~!」
・・・・・・ああ。そっち。暴風と化したジナさんは、一太刀でウォームを切断していく。でもね。
「んぎゃ~!なんで動くんだあ~」
真っ二つになったウォームは、しかし前後がそのままジナさんに近寄ってくる。さすがにミ・・・・・・はしぶとい。ジナさんは切った時に飛び出した粘液にまみれて泣きそうだ。
「・・・・・・そっか。切るんじゃなくてぶったたいた方がいいのかな?」
「バカ!あんなの叩いたらやばい液が飛び散るじゃねえか!」
「洗えばいいじゃないですか。水妖精が洗ってくれますよ」
「だからあんたは人の気も知らないって言うんだ!」
僕ほどいろいろ気を遣ってた男も珍しいんだけどなあ。それはもう、前世で過労死するくらいには。
「んじゃあ、火精霊に焼いてもらった方がいいんですか?」
「そっちだ!ただし焼くのはあたいじゃねえぞ!」
「それくらいわかりますよ」
どうやらジナさんは、僕を相当無神経なヤツだと思ってるらしい。」
「手伝ってくれてた火精霊さんたち。あれも焼いてくれる?」
「でも待った!あたいの魔力矢をはじいたヤツだぞ?しかもあんた、魔法使えねえだろ!」
「はい。でも精霊たち、なんだか僕のお願いきいてくれてるみたいだし」
僕の周りの精霊たちが一斉に頷いてくれる。
魔力を提供して精霊たちに動いてもらう。魔術は使えないけどそれでみんな言うこと聞いてくれるから・・・・・・魔術と変わらないんじゃないかな。
「違うから!あんたの魔力消費、多過ぎだから!」
魔術のための術式、すなわち呪文詠唱や動作、魔杖などの補助具もなしに魔術を使うとその成功率は下がるし魔力効率がかなり下がるんだって。魔族でも無理らしい。
「まあ、僕の魔力はムダに多いし、それくらいなら」
「あんた!そ~ゆ~とこがおかしいんだ!」
魔力の多さを鼻にかけてるみたいに思われてるんだろうか。これもジナさんに嫌われてる理由なんだろう。
まあ、仕方がない。前世でもこういう人間関係がイヤで、だからいろいろ気を遣って、みんなのために休日勤務とかを引き受けたりもしたんだけどな。
「・・・・・・とりあえず下がってください。そのままだとジナさん、ウォームの粘液まみれになっちゃいますし」
「うげえええ!」
ジナさんがヒュージミスリルウォームの囲みを突破してきたときには、その数は倍くらいなってた。大きさは、まあ、半分だけど。
僕はジナさんの安全を確認して、火精霊にお願いした。結果的にウォームは完全に焼け、イヤな匂いを風精霊に散らしてもらい、死骸は土精霊に埋めてもらう。おまけに水精霊にジナさんを丸洗いしてもらった。
「ミスリルをまとったウォームをこんな簡単に?」
水浸しになったジナさんは頭が冷えたのか、穏やかな表情だ。いや、ミ・・・・・・がいなくなったからかな。
「そりゃ、ミスリルを鍛造できるくらいの高温で焼けばね」
「・・・・・・なんか、初めてあんたが魔王だって実感できたよ」
そういうジナさんだけど、この後も僕に対する雑な対応は変える気がないらしい。ま、その方が気楽だし。




