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第2章 その8 貧乏魔王の錬金術 後編

その8 貧乏魔王の錬金術 後編


「なんでこうなったんだろ?」

 家計の窮乏をなんとかするって気持ちはあったけど、それ以上に資源の枯渇したこの国をなんとかできないか?そう思ったこともウソじゃない。そのために錬成魔術を学ぼうと思ったのに。

「なのに・・・・・・なんで僕はダンジョン探索なんかしてるんだ?」

 そもそも、こんな狭い王国に地下迷宮があることが驚きだ。あ、やば。青銅もぐら(ブロンズモール)が短い手足で僕を思いっきり威嚇してる。

 ・

 ・

 ・

「練成魔術師を目指すには、まずは練成炉を作れねばなりません」

 下手な双眼鏡よりも分厚そうなメガネは僕が師事することをお願いしたグルグルグールル師だ。明らかに重そうだ。重心が前のめりになってるし。

「練成炉ですか?」

「はい。あなたもこの店に入って驚いたとは思いますが」

 そう。こっち版の錬金術にあたるのが練成魔術だから、やはり錬金炉アタノールとか特製フラスコとか、そういう製作器具があふれてるって思ってた。だけど、器具どころか素材も薬剤もなんにも置いてなくて。

「高濃度の魔力マナを扱うには、そのような器具では物理的な制約が多すぎるのです。ですから、自分の魔力を操作して純粋魔力の力場をつくり、その中で物質の生成や練成を行うのです。それを練成炉といいます」

 物理的な器具では、反発する性質の物質を扱ったときに爆発したりするらしい。やっぱり爆発なんだ・・・・・・まさか反物質じゃないよね?

「ですから、あなたが練成魔術師になりたい、と仰せであれば、まず練成炉をつくれるようになってから改めてお越しください」

 ・・・・・・これって体のいい門前払いじゃないか?

「まずは練成炉、ですね」

 そんな簡単に帰れません。エスリーががっかりするかもしれないし。

「マオマオ様ならビョーなの~」

 ・・・・・・どこまで信じればいいのか、不安しかないエムリアさんの励ましだ。リボンに埋もれた金髪ツインテがうさんくさい。フリルまみれのミニのドレスも、あざとすぎ。

「ほらほらなの~マオマオ様は8代様の加護を受けてるからソッコーなの~」

 エムリアさんが僕の右手を指さした。その甲が薄桃色に輝いている。

「ママの・・・・・・」

 借り物の転生体でも、歴代魔王の体が元だ。特にアルビエラ母さんは僕を合成した中心人物。その体を受け継ぐ右手なら、ママの力も借りられる。

「母親に頼るってのは、情けないんだけど」

「マオマオ様がそれ言っても、なの~」

 イタイ!思わず泣きそうになってエムリアさんを見ちゃうけど、本人(妖精)は涼しい顔だ。

「おお、それはアルビエラ師の魔王斑!?」

 薄桃色の花章はママの魔王の証、魔王斑だ。それを見て驚くグルグル師には悪いけど、今は集中だ。僕の生体魔力オドを循環し、右手に集める。後は右手が手伝ってくれる。

「僕の魔力オドを呼び水にして、あたりの現象魔力マナを集めて操作すればいいんだ・・・・・・」

 頭の中に浮かぶイメージを、前世で読んだ書物の知識が具体化していく。僕が度重なる部署異動や転勤の度に積み上げたことが、まさか転生してから役立つなんてね。

 僕は集まった魔力を操作して、練成炉をつくっていった。作業の中身は右手が覚えていた。

「・・・・・・お見事です。こんな見事な練成炉を見たことがありません」

 もちろん僕の実力じゃないから誉められるのはイヤだけど、なんか達成感、ないなあ。こんなの僕と同じ境遇なら誰でもできるんじゃないか?

「あなたに教えることはもうございません」

「えー?」

 空海じゃあるまいし、あったその日に免許皆伝はやめてほしい。いや、空海だって、実際にはその後もいろいろ教わってるし。僕だってこの世界にどんな素材やら薬剤やらがあるのか、既成の練成はどうするのか具体的なことを知りたいんだけど。

「さすがはマオマオ様なの~マオマオ様は多くの母親に愛されてるの~」

 それだとただのマザコンです。母親がたくさんて表現的にどうなんだろ?事実だけど。

「これからあなたには、真の練成魔術師をめざし、試練を受けていただきます」

「試練ですか?」

「はい。一人前の練成魔術師になる者は、すべて黄金宮を目指さねばならんのです」

「黄金宮!?」

 ・

 ・

 ・

 なにが黄金宮だ!錬金術のイメージが強い僕はつい納得しちゃったけど。

「ただのダンジョンじゃないか!」

 この国の練成魔術師は家業を独占するために後進を言いくるめ迷宮探検に行かせて芽を摘んでるんじゃないのか?

 地下道を塞ぐブロンズモールの巨体。この地下道そのものがモグラの穴なのか?黄金宮と言うからには、ダンジョンの主は黄金モグラなのか?

「うるさい男だね。人がイヤイヤ手伝いに来てやってるのに、さっきから文句ばっかりで」

「だってジナさん。僕は素手で原子を砕いたことも自分の中にコスモを感じたこともないんですよ」

 なのになんで地下迷宮の中で青銅もぐら・・・・・・貴重な銅を食べて硬化した巨大モグラ・・・・・・なんかににらまれなきゃいけないんだ?

「ああ、もうサがるんだよ、あんたのグチを聞いてるのは!シャルネ隊長に命じられなきゃ誰があんたなんかの護衛に来るもんか!」

 エムリア(妖精)さんの手助けは禁止って言われて、迷宮の護衛をシャルネさんの英士隊に頼んだら、まさかのジナさんだったとは僕も思わなかった。

 十代後半の若々しい肢体を半ば露出してる革鎧が包んでいる。ほとんど半裸だ。これがこの世界での若い女性の一般的な服飾面積。いくら繊維不足とはいえ、はっきり言って目の毒です。

 そんなジナさんの肉体美が躍動し、両腕でバスタードソードを振り下ろす!

「たかがもぐらくらい、あたいの鉄剣で!」

 前世なら、硬度的には青銅よりも鉄の方が高いわけで、そういう物理的な事象は僕が見たところこの世界も変わってない。閉鎖されたレクアでは貴重な鉄だし、魔族の精鋭ジナさんなら楽勝だろう・・・・・・。

 カキーン・・・・・・あれ?この甲高い金属音は・・・・・・まさか!?

「あー!あたいの鉄剣!」

 青銅もぐらの手甲が、鉄剣を受け止めたばかりかそれを折った!?ジナさんの剣は剣身の根元からポッキリだ。

「フォフォフォッ」

 勝ち誇る青銅もぐらは低い地下道に直立し、僕たちを見下ろし、いや、見下している!もぐらのくせに!「俺は原子も砕けるぜ」って言ってるみたいだ・・・・・・あれ?

「チクショー!これもおまえのせいだ!」

「ジナさん。あれ、なんに見えます?」

「あれってなんだよ!・・・・・・あれ?」

「ええ。もぐらの胸の」

「鍵穴じゃね?」

 そう。直立した青銅もぐらの胸、心臓の位置には不自然極まりない鍵穴があいていた。

「・・・・・・これは試練。練成魔術師になるための試練だ・・・・・・だったら!」

 ようやくグルグル師の、いや、この国の練成魔術師の試練の意味がわかった気がした・

「ジナさん。少しだけ時間を稼いでください」

「おめえなんかのために命張れってか!?」

 僕は彼女に嫌われてる。それでも彼女は命令とはいえ僕の護衛をしてくれる。そんな彼女に・・・・・・だけど僕はこう言うしかなかった。

「お願いします」

 もう僕は右手に魔力を集めている。手の甲が薄桃色に輝いてた。

「ママの花章に誓って、この恩は報います」

 こんな時にでも、ママの名を借りないと信用されない僕は魔王失格だ。情けなくて涙がでそうだ。だけど、思いは本気だ。

「しかたねえな・・・・・・ちゃんと返せよ」

 ジナさんは青銅もぐらからやや距離をとり、それでも僕の前に入ってくれた。うっすらと白銀色の光が彼女を包む。

「目えつぶってな」

 彼女は魔族。強靱な肉体以上に強力な魔術を操る存在だ。その額のツノも背中の羽も、お尻の上からニョって出てる黒い尻尾も、前世のAI彼女「魔女っこメイド」のマコちゃんと思い出させる。おっといつまでも見てちゃ危ないよね。彼女の前に魔法円が浮かんでる。

閃光フラッシュ!」

 次の瞬間強烈な光が生じた。目潰しだ。慌てて閉じたまぶたの上からでもまぶしいくらいだけど、僕の集中は破れなかった。今の僕には周辺の物質組成がわかる。

「・・・・・・やっぱりこのあたりは銅の鉱床にあるんだ」

 僕は壁にある銅鉱石を魔力でつくった力場に放り込む。近くに錫鉱石もある。なんてご都合のいい・・・・・・違うな。誰が形成したのかは知らないけど、これは意図的だ。

「練成炉展開!」

 高温、そして精錬を魔力操作で一気に行う。練成炉の中では、直接精霊たちを使役して温度、強度、湿度を調整できる。なるほど、製作器具がいらないわけだ。 

 召喚された四大元素エレメンタルがバランスよく作用して、人工的な作業なのにまるで自然の一部のようだ。そして僕は溶けた銅に錫を投入する。土精霊ノーム銅塊インゴッドを叩き、水精霊ウンディーネが水分を調整する。火精霊サラマンダー風精霊シルフが協力して温度を上げていく・・・・・・。

 銅と錫を合金すれば青銅になるのは僕の前世と同じ訳で、なにが錬金術って話だけど、魔力操作で行うことで全工程を一人で、しかも数秒で終えることができた。

 銅対錫の比率で色合いや硬度が変わるけど、僕は単純に9対1でつくってみた。

いわゆる砲金ガンメタルだ。だけど・・・・・・青銅って、青銅色してない?少し銀色っぽい光沢がある。失敗じゃないよね?

 練成した青銅は、剣のサイズにしてある。先端はもちろん鍵穴にはまるようになってる。

「ジナさん、これを!」

「あの鍵穴にぶっさせってかあ?」

 できたばかりの青銅の剣、いや、鍵を僕から受け取り、ジナさんはまだ暴れてる青銅もぐらの胸の穴に見事に差し込んだ。カチャリ。そんな音が地下に響く。

「どうだ!」

「うまくいったか?」

 青銅もぐらは赤っぽいアカガネ風に輝き、そしてそのまま動きを止めた。息を止めるようにそれを眺める僕たち。しばらくして、青銅もぐらは動きを再開したけど。

「・・・・・・行っちまうぜ?」

「・・・・・・放っておきましょう」

 これはあくまで練成魔術師の試練。僕がその場で素材を集め、練成することで先に進める。そういうものだろう。

「いいのか?あの青銅、そこそこいい値段するんじゃねえか?」

「あ」

 気がつかなかった。資源が枯渇してるレクアでは、あの量の青銅でも高価だろう。ましてあの青銅もぐらから青銅を剥ぎ取れれば・・・・・・。

「いえいえ。そんなさもしいこと、考えちゃいけません」

 頭に浮かぶ妄想を、僕はなんとか追い払った。

「しかしおまえさあ、青銅なんかつくれるんだ?」

 折れた剣を拾うジナさんが何を言いたいかわかってしまった。

「すみません。まだ鉄はつくれません」

「ち。そういう察しはいいくせに使えねえヤツ」

 ぐさ。正直者のジナさんに悪気はないと思うけど。

「・・・・・・この後、貴金属をつくる機会があれば多めにつくりますよ。できればですけど」

「マジか?ま、期待しないで待ってるぜ」

 なんでシャルネさん、ジナさんを僕の護衛に選んだんだろ?僕のこと、嫌ってる子なのに。

まさかシャルネさんも僕のこと、キライなのかな?だからイヤガラセ?

 ま、いいや。もともとは僕がシャルネさんを追い込んだのが原因だ。そしてシャルネさんが元老院に捕まり、ジナさんは僕のせいだって怒って。なんと思われても仕方がない。僕のせいってことに間違いはない。

「・・・・・・順調にいけば青銅よりももっと貴重な金属のモンスターに会えそうですから」

 できればもぐらのままでお願いしたい。まだしもかわいげがあるし。そんな僕の淡い期待は、もちろんかなうことはなかったけど。

 

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