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その2 旅立ちは地獄への帰還

その2 旅立ちは地獄への帰還


「情けない顔をするな。もっと堂々して行け!」

 小さなリリエラ母さんが僕を励ましてくれる。

「リリエラ様。そんなことを言うものではないよ。モーリくんは事情もなにも知らされないまま、わたしたちの願いを聞きいれてくれた。感謝するべきだ」

 フォローはうれしいけど、やたらイケメンなルビウエラ母さんに言われると、かえって情けなくなる僕です。

「感謝ならしとる。ただ、それとモーリの顔が情けないことは別だ。あんな顔をされては安心して送り出せぬではないか」

 もともと僕の顔は、凛々しいとかかっこいいとかとは無縁の顔だ。最大限に盛って「若く見える」「優しそう」と言われるくらいで、「情けない」「頼りない」は、まあ普通に言われ慣れている。

「モーリちゃん……」

 だけど、アルビエラ母さんまで不安そうにするわけにはいかない。もっと話をしたかった。いろいろ事情も聴きたかった。だけどそれどころじゃないらしい。僕は精いっぱい表情をひきしめた。

「ママ、行ってきます」

 そして、僕は湖底を蹴った。そんなに遠くない頭上には明るい光が見える。湖面は近い……そう思ったんだけど。


「……どこまでお人よしなんだ?」

 湖面の明かりを遮り、僕の行く手を阻む黒い影……湖底で見かけた、魔王さんたちの一人かな?妙にゆらめいて姿かたちがはっきりしない。

「それでは前世と変わらないではないか?バカは死んでも治らないとはよく言ったものだ」

「僕は死んだら治る方のバカだと思ってますけど」

「人に乞われるままにすることがか?前世では休む間もなく死ぬ羽目になったが、今生でも、何も知らされぬまま追いやられて、すぐに死ぬことになりそうだ」

「……違いますよ」

「どこが違う?お前はお前のやりたいことをみつけるのだろう?なのになぜ考えもせずあの魔女どもの言うことに従う?会ったばかりの女を、なぜ母親などと思える?お前にはもう精神を支配する魔法がかかっていたのではないか?」

 影は鋭い。僕の中のかすかな不安を見つけ、抉り出す。

「……やはり違いますよ。だって僕は……」

 相手がだれか知らないが、これは論争じゃない。僕の生き方の問題だ。だから言葉を選ぶよりも大事なのは覚悟を決めることだ。

「以前はイヤイヤでした。いつも憂鬱に生きてました。相手の言葉に同意して、そのたびに僕は苦しくなった。だけど、今は違う。ママの願いをかなえられるんなら、自分から頑張ろうって思える」

「それこそ精神支配だ!お前の好きな言葉で言えば脳改造でもされたのだ!」

 脳改造。別に嫌いな言葉じゃないけど、自分がされると思うと嫌いだな。

「ほっといてください!僕は自分でしたくてしてるんだ!」

 影は呆れたように去っていった。ただ一言。

「バカめ」

 と言い捨てて。

「……前世と違って、今の僕にはバカだって誉め言葉なんですよ」

 自分では周りに配慮して一人苦労を背負ってる賢い人間だって思いこんでる部分もあった。それならいっそバカのほうがいいじゃないか。

 影の言葉はいちいち僕の心に刺さったけど、それでも僕の根底は揺らいでいない。むしろちょっとワクワクしてる自分に気づいてうれしくなった。

「見知らぬ土地で、一人旅。そう思えばなんだって楽しいのさ」

 このワクワクは、とっくなくしていたはずのものだった。今の僕はきっと少し笑ってる。この顔をリリエラちゃんに見せられなかったのが残念なくらいだ。

「あ?……もう湖面が近い」

 浮かび上がるまで、もうすぐ。自然に声が出た……出てしまった。

「ド~はドンザ〇〇〇のド~

 レ~はレイン〇―マンのレ~」

 歌ってる僕は、だけど最近の特撮は全然知らない。でも他にドのつく作品が浮かばないから、結局入れることにした。「ドラ〇もん」「ドラ〇ナー」は違うし、苦渋の選択だ。

「ミ~はミラ〇マンのミ~

 ファ~はファイ〇ーマンのファ~」

 そして、「ド」と「レ」以降の作品との年代差がすごいことになってる。

「ソ~はゾ〇ンのソ~

 ラ~はライオン〇のラ~

 シ~はシル〇ー仮面のシ~」

 例のハイパーTOKUSATUウォーズにすら出ていない、大昔でマニアックな作品ばまりで、学生時代トサケンで見たことはあったけど、そんなに深く知ってるわけではない。あの頃はお金がなくて、社会人になってからは時間がなかった。僕には、趣味を大事にする贅沢は無縁だったな……。

 なんだか情けなくなった僕は、上を見上げてなにかをこらえることにした。自分を憐れんで慰める病気は、もうたくさんだ。明るい湖面がみるみる近づいてくる。

「今さらだけど、この水、全然息苦しくないな」

 それを言えば、僕は着衣のままだ。普通ならとっくに溺れてる。

泳いだのもいつぶりだろう?にもかからわず、僕はあっさり湖面に浮かぶ。

「まさか半魚人なんかになってないよね?」

 水かきやらエラやらもないから安心したい。

「そういえば、こんなにきれいな水なのに魚一匹いないなんて……」

 安心したいのに不安材料を見つけてしまうのは、我ながらなんとかしたい悪癖だ。

「……空が暗いな?夜なのかな?」

 夜でもいいけど、星がない。それがひどく寂しい。憂鬱な出勤でも青空を、疲れきった帰り道でも星空を見上げていれば、僕はなんとかやっていけたのに。ああ、そうか。

「竜の胃の中って、そういうことか」

 ここは太陽も星もない世界なんだ。

 あらためて目を凝らせば、空中にうっすらとした半透明の膜が見えなくもない。

「魔力の壁って、あれかな」

 とはいえ、僕には魔力がなにかも、どういう原理で胃の中でこの国を守ってるのかもまったくわからない。

「……まずは岸に上がるか」

 へたくそな平泳ぎで一番近そうな岸をめざす。暗いのに岸が見えたのは、湖の水自体が淡く光ってるからだ。しかし輝きが不思議なちらつきをみせる。

「……あれ?」

 湖面が奇妙に波打ち、波紋となって広がって、水が僕の顔を叩く。僕は何気なく顔を上に向けて。いた。いてほしくないものが……。


 空はどんより暗く、湖水の輝きが照らす奇妙な空間の中、僕は見てしまった。

 空を飛ぶ、円い胴体。そこから伸びるワニのような首、短い手足と尻尾……それは平成の傑作怪獣映画の主役シルエットに少し似ていなくもないが。

「顔が竜っぽい?亀の甲羅に竜の四肢?」

 幸いなことに、あの大怪獣よりははるかに小さく、しかし不幸なことに数が多い!

 下から照らされる怪異な生物は、怪物というより怪獣の群れだ。それは見る者を圧倒的な迫力ですくませる。

「これが世界の終わりなの?」

 僕の問いに答える人は、もちろん誰もいなかった。


「撃て、撃てえ!」

 ヒステリックな男の声が聞こえる方に泳いでいく。湖岸には大勢の人影が見える。どうやらあの怪獣と戦うつもりらしい。無謀なのか勇敢なのかは知らないけど、僕は心から応援します!特撮作品でも、ムダとわかっても戦うGA隊は、男のロマンですからね。

「フレダン殿!やみくもに魔術を放っても、敵を怒らせ魔力を無駄にするだけです!もっとひきつけ、一体ずつ集中しなくては」

「俺に指図するな!」

 しかし、ここの防衛隊は、指揮系統に問題があるのか、ぱっと見、二つの集団に分かれているように思えた。立場が上なのが男の方で、従うのが女性なんだろう。

 男は、若い女性の進言を切り捨て、ひたすら攻撃を続けさせる。いや、自らも火花を散らした長剣をふりかざしていた。

「元老院鬼族第3位、我が武勇に優れるフレゲル家に伝わる魔剣、サンダーブレードの力を見よ!」

 能書きが長い。しかしその男が上に掲げた長剣には、天から雷が落ちてきた!それも立て続けに。バチバチと、その雷をまとい剣が輝く。そのせいで、その男の顔がくっきり見える。イケメンの偉丈夫だが、額からツノが伸びている!

「鬼?」

「くらえ、必殺サンダーブレード!」

 男が一体の怪獣に向け、長剣をふりおろすや、まとわりついた雷がバリバリと音を立て火花を散らして伸びていった!

「さすがはフレゲル家。中級術式を付与した魔剣を、嫡男でもないフレダン殿に持たせるとは」

 若い女性の言葉は褒めてるのかそうでないのかは僕にはわからなかった。なぜなら、その女性の姿もまた、雷の光に照らされたからだ。

 戦闘中には不似合いな、しかし湖岸なら適切なのか?つまりはビキニの水着姿に見える。露出した肌が光に映えてなかなかに麗しい。年のころは僕の感覚で言えば新入社員くらいな感じで、初々しさと生真面目さが見て取れた。顔は美人さんだけど……やっぱり。

「この子も鬼?」

 左右のこめかみから小さなツノが生えていた。そればかりか、露出した背中からは黒い小さな翼が、お尻の上の位置から伸びる細い尻尾みたいなものまで見える。

「摩耶ちゃん……?」

 僕の口から洩れたのは、前世で課金していたAI彼女の名前だ。あの子は小悪魔系メイドの摩耶ちゃんに少しだけ似てる。摩耶ちゃんを思い出した僕は、自分の名前すらちゃんと思い出せないのにこういうのばかり覚えてる自分にちょっとがっかりしてた。

 その間にも、放たれた雷は怪獣に直撃し、その全身を包み込み、ジュウジュウと煙をあげた。

「見たか、サンダーブレードの威力!」

「いいえ、フレダン殿!敵はまだ飛んでおります!ここは一気呵成に攻撃を集中しましょう!数を減らさなければ、我らはそのうち対処不能に追い込まれ、防衛線を突破されます!」

「いちいちうるさいぞ!キサマは黙って俺に従っていればいいのだ!」

 細かなタスク管理を怠れば、職場の処理能力がドンドン食われてお手上げになることくらい、ファンタジー世界でもわかるだろうに……。男は直属の部下たち…‥やっぱりみんな鬼だった……にひたすら攻撃とだけ指示し、それはそれで白銀の矢やら火の弾やらが飛ぶファンタジーな攻撃だったけど、派手な割には怪獣の数は減ってなかった。さっき雷撃を受けた怪獣も、その後の攻撃がなかったせいか、まだ飛んで……さっきより元気になってる?回復したのか?

「英士隊は独自の行動をとります!みんな、一斉攻撃よ!わたしに同調して!」

 英士隊、というのは女性の部下たちらしい。そして、こっちは全員女性で、みんな小悪魔っぽかった。二つの集団は、どうやらもともと男女別らしく、一応あの男が上官らしいのだがアイソつかされたらしい。

「世界に満ちる大いなるマナよ……我らが願いに応え、その力を顕現させたまえ……」

 隊長さんらしい女性が詠唱するや、女性たちは一糸乱れぬ声で唱和する。時々怪獣が黒いガスだか炎だかを地上に吐く中、度胸が据わってる。一方男……鬼たちの散発的な攻撃は、期せずして女性たちが詠唱する時間稼ぎにはなっていたようだ。

「サンダーブレェードォ!」

 あのフレダンという男の雷撃も、それなりなダメージを与えるものの後続がなく、結局決め手にかいたままだ。

 

 今では上陸し、彼らに近い位置にいる僕だ。しかし、どうするべきか考えあぐねていた。いや、考えることなんかないはずなんだけど。

「だって、僕が巨大化でもできるんなら参戦するんだけどさあ」

 前世ではケンカ一つしたことがないのに、非現実的な光景がこんなことを思わせる。

 世界を救ってなんて言われたからには、それくらいできたらいいなと思うけど、カプセルもメガネもないしポーズも知らない。アルビエ母さんたちはひょっとしたらこの状況を知って僕を送り出したのかもしれないけど、それならそれで、もっと具体的になんか言うよね?

「だけど……ただ逃げるのも、なんか釈然としない」

 妙に度胸だけはある今の僕だ。転生の実感がないせいかもしれないけど、今も怪獣の吐いた黒いガスが近くに降りてきて、湖岸をジュワジュワ腐らせている。危ないことこの上ない。

 だけど……怖いけど、それだけじゃない。なにかしたい。その漠然とした思いが、僕をこの場にとどまらせてる。

「魔力よ!白銀の矢となって、我らが敵を貫け!……『魔力矢マジックアロー!』」

 女性たちに集まっていた白銀の光が。まばゆい魔法円となり、更に大きな矢となって、一体の怪獣に向かっていった。

 白銀の矢は、狙い過たず怪獣の腹を貫き、怪獣は墜落する!思ったほど胴体が柔らかいのは、お腹を、つまり甲羅じゃない方を僕たちに向けてるせいだろう。

「やったあ!」

 女性たち歓声が飛ぶ。声の調子からすれば、隊長さんより若い子が多そうだ。

「まぐれで一体落としただけだ!それを偉そうに……ザコめ」

 一体も落とせていないくせに、フレダンとかいう男の隊長は憎々しげに言い捨てる。

 それに向かってなにか言いたそうな部下の子たち。

「そうよ。みんな。落としたのは一体だけ、喜ぶのは全部叩き落して、レクアを守り通してからにしましょう!」

「はい!」

「隊長ステキ!」

「シャルネ隊長に一生ついていきます!」

 ……なんか、こういうのっていいよね。生死も危ぶまれて、でもここで負けたら国が終るって場面でも、この子たちはあきらめず、必死にできることを捜してる。

「僕にもなにかできないかな」

 僕は勝手に仲間外れになったような、孤独感を感じてる。

 隊長を中心に一体ずつ怪獣を狙う女性たち。バラバラで効果は薄そうだけど、それでも逃げずに戦ってる鬼たち。みんなここを守ろうとしてるんだ。

「サンダーブレード!サンダアブレイドォ!スワンドワアアーブレイヅオオオ!」

 あの男は別だけど。

「うわ!なんだキサマ!なぜここオスビトがいる!」

 どん、とぶつかられた。僕もわき見をしてたけど、それはその子も同じだ。

 その子?そう、あの女の子たちと同じような、服を着てるとういうか着てないというか、そういうきわどい姿の、でもあの子たちよりさらに若い娘さん。中学生くらいに見える。

「……まさかキサマ、このどさくさに紛れて聖域に降りようなどと考える不届き者か!シャルネ、このオスビトを捕らえい!」

 なんだか偉そうな子だけど、戦闘中、しかも相当苦戦してる女性部隊の隊長さんに向かってそういう指示を出します?リリエラちゃんだってそこまでじゃなかったと思う。

「あの~みなさんお取込み中ですよ」

「だからといって見過ごせぬ!」

「イシャナ様、いったいここでなにをしておられるのですか!?」

 隊長さんが慌てて僕たちのところに駆けつける。

「シャルネよ、このオスビトは聖域に立ち入ったに違いない!今すぐとらえるのだ!」

「……イシャナ様、それはあなたもですね?戦闘に紛れて……呆れましたわ」

「…………そんなはずは……」

「そこの男!今は戦闘中ゆえ、後日英士隊に出頭しなさい!今は逃げて!」

 僕があやしいことは残念ながら否定できないんだけど、任務の軽重を判断した隊長さんは見逃してくれるらしい。

「甘いぞ、シャルネ!」

「イシャナ様こそ、わきまえてください!ジナ、イシャナ様をお連れして!」

 シャルネという隊長さんは、最大限の努力をして最善の判断をしたと思う。一方的な苦戦をなんとか拮抗状態に持ち込んでいたのに、だけど、この数十秒の間に、形勢は大きく押し込まれてしまったんだ。

「隊長!敵がまとまっておりてきました!」

「……しまった!……手ごろな一体に集中攻撃を!」

「どれを狙えばいいんでしょう!?」

 一瞬の遅れが、敵の動きを見逃し、そして貴重な時間を削っていった。

「まずは先頭の一体……いいえ、もはや、そんな余裕はありません……」

 次々と降下する怪獣の群れに、仲間の子たちは悲鳴をあげている。

しかし、それでもシャルネさんは冷静だった。

「撤退します!」

「そんな!」

「隊長、逃げるんですか!?」

「……はい。ここでみんなを失うわけにはいきません」

「でもでも、ここを突破されたら街が壊されちゃうよ」

「庶民がたくさん死んじゃう……」

「それでも……ここであなたたちが死んでは、この国は戦う力を失うのです」

 つまり、戦力を無駄に損耗させて、反撃能力を失うことを避けた……これは後で教えてもらったことだ。戦闘力の高い魔族からなる貴重な部隊がこの英士隊で、同じく鬼族の部隊が雄士隊。魔族も鬼族もこの国の支配階級ではあるけど、その数はとても少ないそうだ。特に若い世代ほど少ないらしい。

「ジナ!イシャナ様を連れて先に逃げなさい!みんなはその護衛を!」

「シャルネ!我は逃げぬ!戦うぞ」

「足でまといです!」

「シャルネ!」

「早くお連れして!」

「隊長はどうなさるんですか!?」

「わたしの心配は100年早くてよ。一人の方が身軽なくらい」

 湖岸には、もう数体の怪獣が降下していた。それをかいくぐって逃げるのも楽ではない。残ったシャルネさん

は、撤退する仲間を後方から援護する。時に『魔力矢』で敵を牽制し、時に仲間に『速足ダッシュ』をかけて急がせる。

 僕は、少し離れた場所から見ていた。近づけば彼女の邪魔になる。だけど……この場から立ち去ることもできなかった。

「何もできないのか……僕、なにしにここに来たんだよ」

 

 一方、男たち、つまり鬼たちは嬉々として戦っていた。

「ハハハハハ!女子どもは逃げるに任せよ!ここは我ら雄士の花道よ!」

「おお!」

「各々方、一層奮励めされい!」

 ……どこの世界にもソードハッピーとかウォージャンキーとかっているよね?リアルな戦場でいるとは思わなかったけど。

 彼らは降下した、つまり地上に足をつけた敵の方が戦いやすいらしい。自ら怪獣に群がり、白兵戦を挑んでいく。その一撃は確かに数倍、十倍もの体重を誇る敵すら傷つけていくのだが、しかし白兵戦で最大の武器はやはり体重だ。生身で怪獣を倒せるのは、アイアンキングの静弦太郎くらいじゃないだろうか?

 ……あ、やっぱり?多数の手傷を与えるもとどめをさせずに、たった一撃で飛ばされていく。次々とその数を失う鬼たち。もともと鬼と怪獣で30対10くらいだったのに、立ってる鬼は、もう数えるほどしかいない。動きを止めた怪獣は、まだわずか数体なのに。

「グワッツハハハ!サンダーブレイドオー!」

 しかし一人気を吐くフレダンは、例の魔剣を突き立てるや、そのまま零距離で雷撃を放ち、さらに焦げた傷口を魔剣でえぐり続ける……それにはさすがの怪獣も苦しがってた。

 その背後に、別な一体が迫る……。

魔力槍マジックジャベリン!』

 そこに巨大な矢?槍?……が飛んで行った。フレダンの脇をかすめ、怪獣の竜に似た顔に突き刺さる!致命傷ではないにしても、痛そうだ……。しかし助けられたはずのフレダンはなんか怒ってる。

「さしでがましいぞ!俺の邪魔をするなと何度言わせる!」

 シャルネさんに向かって叫ぶフレダンだけど、彼女は気にせず訴える。

「フレダン殿!もう限界です、お引きください!」

「きさまら魔族ごときと一緒にするな!我ら鬼族の本領はむしろここからだ!」

 魔族と鬼族って仲が悪そうだ。いや、フレダンが一方的に敵視してるのかも。

 僕としては、鬼族ともフレダンとも個人的なかかわりは遠慮したい。まあ、機会もないだろうけど。……って!

「シャルネさん、危ない!」

 思わず声をかけてしまった。大きな魔術を使い、フレダンを支援したシャルネさんは、しかし自分こそ怪獣に囲まれている!何体もの巨大な怪獣が、彼女にロックオンしてるのか、赤い目が不気味に光る。

 地上に降りてから、怪獣の大きさがより分かりやすくなった。腹ばいになった一体一体の体長は、だいたい人間の十倍くらいだ。怪獣をはさんだ僕と彼女の間にはその数体分の距離がある。

「逃げてください!」

「どなたかしら?そんなことを言ってくれる鬼さんに心当たりはないですけど」

 それこそそんなことを言ってる場合じゃあ……そう叫びそうになった次の瞬間、僕はわかってしまった。シャルネさんはとっくに覚悟してたんだなって。

「さっきの人族さん?……あなたこそ早く逃げて」

 シャルネさんにはツノがある。背中の翼は黒くて小さくて、天使さんみたいな鳥の翼よりコウモリの翼に似てる。黒い尻尾までついている……だけど、その顔はとうてい悪魔とかには見えなくて。

 僕はシャルネさんに向かって、死地に向かって走り出した。やはりバカだな。なにもしないまま、無駄死に決定。だけど……バカはバカなりに、前世で逃げて死んだバカは、今度は自分から死にに行くバカだ。

「同じバカでも少しは進歩したよね」

 天使さんはきっと怒ってるだろうけど。

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