その19 13体いる
その19 13体いる
周りが不自然に暗い景色。そこだけ明るい中央にはママが、アルビエラ母さんがいた。だけど、その右手はウロコで覆われて、鋭い爪があった。竜の前足みたいだ。よく見れば、薄い布の下から透けて見える右半身は、ところどころウロコみたいなものがあったんだ。
「8代殿、これでよろしいのか」
まるで僕が発してるみたいな位置から聞こえた声は、ルリエラさんの声みたいだ。
「ありがとうございます、ルリエラ様」
僕の方の向かってママが答える。やはりそうなんだ。きっと、これは僕の記憶じゃない。
「こら、マリエラ!大人しく協力するのだ!」
「いやだよお、リリエラ。僕は帰る~」
リリエラちゃんが、そっくりな童女ともめてる。ああ、双子のマリエラちゃんか。話には聞いてたけど、湖底に行ってもひきこもりのままなんだね。
「少しだけガマンするのだ。そうすれば最初に子どもを抱かせてやるぞ」
「子どもなんて、バカで無神経だからキライだよお」
あー僕も苦手な方だから共感できちゃうけど、見かけが子どもそのもののマリエラちゃんが言うのはどうなんだろ?
「大丈夫ですよ、マリエラ様。わたしたちの子と言っても、中には大人しい魂を入れますから」
「そうだぞ、マリアラ。アルビエラがちゃんと選定したらしい」
「えーだって体は僕たちの体の寄せ集めなんじゃなかったのお?なのに中身は別なのお?」
「ええ。自然なままの体ではありませんし、万が一でも魔力暴走などがあっても大変ですから、体を制御する魂は、ちゃんと条件付けで召喚いたします」
ママが言うことは、なんだか寄せ集めのジャンクパーツでつくったパソコンに、フリーソフトの手ごろなOSをダウンロードしたみたいだ。いや待てよ?魔王のパーツは高性能なのに、中身はそれに釣り合っているのか?
ますますイビツに思える。思ったのは、きっと僕だけじゃない。
景色が暗転する。
再び浮かんだ景色の中は、やはり湖底のはずなのに、なぜかその辺りだけは水じゃなくて別な液体で満たされているのか。そこだけ半透明な薄桃色の空間だった。
光が屈折して、その姿が鏡のように反射して……不安そうなルリエラさんの顔が浮かぶ。あれ?今よりは、まだ竜化が進んでないね。その横顔は一見冷たそうだけど、かなりきれいだ。
「く!」
苦痛に耐えて、その人は溶液の中に放った。自分の左手を。投げられた先には、肉塊があった。人の形に見えなくもないけど、それはやはり肉塊だ。そこにルリエラさんの手が向かう。吸い込まれた。
「痛くないかい?」
ルリエラさんに声をかけたのは、ルビウエラ母さんだ。いや、あちこちから黄色い歓声が聞こえそうなくらいの超イケメンなんだけど。見かけも、多分性格も。
「ええ、平気です。ルビウエラ様」
「他人行儀な呼び方だね。わたしは寂しいよ」
「……あなた様を母と呼ぶのは、自らも湖底に帰した今でも抵抗がございますから」
ほら、ルリエラさんの話し方いつもと違うし、声もなんだか華やいでるし。
「わたしがキミを育てたんだよ?あんなこともこんなことも知ってるのに」
「いやですわ。幼いころのことはおやめください」
「……そして、キミの娘のことも」
「ルビウエラ様!」
「わたしにも責任がある。キミ一人に背負わせたりはしない」
「ルビウエラ様……」
なんだろ?この自分の親のイチャラブシーンを見せられてる気分だね。どっちも母親だけど。でも……娘ってあのイシャナさんだよね?
「だから、この子がその一助になればいい、そう思っている」
「はい」
ふたりは手を握り合って、その溶液の中の醜い肉塊を眺めていた。そしてルリエラさんの左手は、既に再生を始めていた。
再び、景色が暗転する。
だけどそこは湖底の、同じ場所だった。さっきまでの薄桃色の溶液は、今は濃い金色に変わっていた。
「ああ、もうすぐです!」
「おおおお……」
ママの、アルビエラ母さんの声が響くや、その場の空間が震える。そこにいた魔王たちの声で。ある者は人の姿をとどめ、ある者は一部竜化した姿をさらし、そして竜化が進んだ者はその姿を隠すためか黒い影柱と化していた。12体の魔王は、溶液を中心に円を描くように立っている。初代リエラさんがおそらくあの太く大きな影柱で、そこから時計であれば6時の位置から、リリエラちゃん、マリエラちゃん、アルビエラ母さんと並び、僕のまだ知らない母たちが、影たちが続く。そして……マリウエラ母さん、ルリエラさん。あれ?ってことは、12時の位置にはリエラさんじゃなくてルリエラさんが来てたんだ。円の起点はわかりにくいね……違う!違うぞ!?ずれてるんじゃない!一つ多い!……13体いる!起点の影はリエラさんじゃなくて、別な影なんだ!
「……そして起点は終点でもある」
この声は誰だ!?……僕はこの声を知っている。
「生まれいずるこの子に、皆様の祝福を!皆様!魔力を注いでください!」
肉塊は既に成人する大きさと育っていた。
その場の魔王たちが、黄金の、白銀の、虹色の、青銅色の……各人の魔力の色を輝かせ
魔力を注いでいく。そして最後の影が注いだのは……黒い魔力。
「黒とは万色を重ねし全色」
黒い影はゆらめきうそぶく。僕はこのゆらめきを知っている。
「影は全ての光を映す鏡」
続いた影が初代魔王のはずのリエラさんなのか?
「闇は光を飲み込み、光は闇を払う」
二代め魔王はシエラさん……の影。
「それは異にして同である」
三代め魔王キエラさん、の影。
「故に我らも個にして全」
四代めビエラさん……この人は一部、竜化してるけど、おおむね魔族だった。
「全にして個」
五代めカリエラさんも。
「一にして十三」
六代めの童女魔王がリリエラちゃんだ。ようやく知った子と一致する。そして、幼いけど魔族のままの姿だ。
「十三にして一」
七代めはリリエラちゃんの双子の妹マリエラちゃん。
「始まりは」
八代めアルビエラ母さんだけど、セリフ短!……首謀者ってホントかな?
「終わり」
九代めはミカエラさん。知らない人だけど、この人が母さんの養女なんだよね。ってことは、シャルネさんの義理のおばさん?
「終わりは」
十代めのビビウエラさん。電撃系の魔術が得意らしい、そんな名前だね。
「始まり」
「……我らが体よ、目覚めよ」
で、十一代めが、イケメンのルビウエラ母さんで。
「異界の魂よ、我らが体に転生せよ」
……十二代めルリエラさん。僕の視点は今、この人と重なっている。
「我が魂よ、我が元へ参れ!」
再び黒い影が唱える。そう、僕はこの声もこのゆらめきも知っている。
そして、中央の肉塊がみるみる人になったんだ。でも、まだ僕は目ざめていない。
「ぎゃああああ!」
僕が、いや、ルリエラさんが悲鳴を上げた。
視界の中の手が変化していく。その左手は、さっきまでのママみたいな、竜の前足に、少し遅れて右手まで?
濁った悲鳴が続く!ルビウエラ母さんがルリエラさんを支え、異常を知ったママも青い顔してやってきた。だけど、ママの様子はさっきと違い、随分竜化が収まってる。反対にルリエラさんの竜化が急速に進む!
「ルリエラ様!」
「ルリエラ!」
ママとルビウエラ母さんが両脇で支えてくれるけど、全身に激痛が走り、もう立っていられない……いや。二本足でなければいいのか。
ルリエラさんの全身に竜化が進む。これは今まで隠していたのか、それとも……この儀式のせいでいっそう進んでしまったのか?
ルリエラさんは尻尾の重みでバランスを崩し、そのまま四つ足で立った。背中には背びれが、翼が生える。
「grrrrru……」
そして円の中央に目をやった。うげ!?肉塊が、竜になってる!あれは僕じゃなかったのか!?それとも、僕も本性はああなのか?竜の目が開かれ、ルリエラさんと見つめあう。
大小二体の竜が見つめ合う……僕は覚えてないぞ、こんな記憶は僕にはない!?
忘れたのか、或いはこの竜は僕じゃないのか?
「ア、あルビエら……ハかっタな!」
ルリエラさんから憎しみと怒りがこみ上げる。
「最後の魔王である我の魔力をもっとも多く捧げさせることで、あの化け物は覚醒し、我の竜化がいっそう進むとは」
真っ青なママを、血で濁った視界が赤く染める。
「この外法使いのよそ者め!」
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僕は、魔法で拡張された閉鎖空間に戻った。僕の左手は竜化して、右手にツメをたてていた。でも右手はまだルリエラさんの尻尾をつかんだままで。
「……キさまァ!ソのテをハなせえ」
今のルリエラさんの姿は、竜の姿のままだった。
「これが……僕を産んでしまった、あなたの姿なんですね」
左手のツメは、深く右手をえぐっていた。
「外法の落とし子め!」
あの記憶が正しいのか?僕も実は竜なのか?そして……ママがなにかを企んでルリエラさんを完全に竜化させたのか?
「キサマがマオうになるなゾ、ダレがミトめるものカ」
だけど……初めて会った時から、僕はあの人を信じてるんだ。
「違う!ママがそんなことするわけがない!」
これがあの影が言う、洗脳か精神支配かは知らないけど。




