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その18 この胃世界の片隅で

その18 この胃世界の片隅で


 僕の正解とルリエラさんの正解が一致したと思ったんだ。だからルリエラさんは、僕を攻撃する動きを止めたんだって。

「死ね!」

 甘かったです。僕の左手が勝手に動いて防いでくれなかったら、今の尻尾の一撃は僕の頭を吹き飛ばしてた!

「死ね死ね!」

 あんなに太い尻尾は重たいはずなのに、それを自在に操るルリエラさんは、どれだけ竜の姿に順応しちゃったんだろう。

「我を元の姿に戻す?イシャナの魔王就任をやめさせる?どれだけキサマはうぬぼれておるのだ!」

 そして尻尾攻撃の合間を縫うように、魔術攻撃がとんでくる。

「何も知らぬくせに!」

 何本もの氷の槍だ!魔術の詠唱も魔法円の顕現も省略して、いきなりその効果が具現化するなんて!?

「何もできぬくせに!」

あれで魔力が全盛期からほど遠いって?どれだけ魔王ってすごいんですか!?

「その知恵を、己のセイカイとやらをせいぜいあの世で誇るがよいわ!死ね!死ね死ね!死んでしまえ!」

「あなたは死ね死ね団ですか!」

 古い特撮作品の中でも、割と有名な悪の組織だ。学生時代にDVDで一度見たきりだけど、名前のインパクトにそぐわず、この組織はけっこうリアルなんだよね。

 偽札をばらまいてインフレにするとか、外国の要人を暗殺して日本のせいにするとか、

現代でも使えそうなイ~ヤな作戦だ。

「うわっ!」

 みっともなくも地べたに転がって回避する僕の頭上を氷の槍が通り過ぎて、そして、石壁にぶつかっては大穴をあけていく……。

「あれ?」

 怖気を震わせるその光景に、僕の頭の中でなにかがひっかかったんだけど。

上から尻尾が振り下ろされるのを見て、大慌てで再びごろごろ。

「ちぃ!相変わらず、かわし方まで無様なヤツよ!」

 ルリエラさんは、半ば以上竜化してるのに、まだ美貌が残ってる。だけど、なまじそうだからその形相はいっそうコワイ!

「僕、そんなに怒られることしました?」

「しれっと言うな!無自覚に人の弱みにつけこむ、その性根が許せぬのだ!」

 ぶうん。振り下ろされた尻尾は、僕のすぐ隣にぶち当たって地割れを起こす。広がる地割れから離れようと、必死に転がりまくる僕は、もう二足歩行動物じゃないね。

「このイモムシが!」

「仰せの通り」

 彼女から見てもそうらしい。エスリーからもらった白い長衣はもう土埃にまみれてるし。あ~あ、ほんとにイモムシなら、口から糸攻撃とかできるのになあ……それ、モ〇ラの幼虫だって。その気になれば、直立した竜みたいなルリエラさんはゴ〇ラのシルエットに似てなくもない。よく見れば小さいけど背びれあるし。ミニモ〇ラ対美女ゴ〇ラ……往年の東方D級映画にもならないね。

「……あ」

「バカか、キサマ」

 そう。この状況で小さな背びれまで見えるってことは。

「わざわざ己から近づくとは、いよいよ覚悟が決まったか」

「そんな覚悟なんてしてません」

 僕はここに死にに来たんじゃない。せっかく転生したのに、こんな死に方はイヤだ。アルビエラ母さんを悲しませて、天使さんには怒られる!

「覚悟もなしに、死ぬのはつらいぞ」

「覚悟したってツライですよ」

 今度は横なぎに迫る尻尾を、僕は初めて意識して左手で受けた。その衝撃に全身がしびれて、一瞬息がとまったけど。

「キサマァ!」

 狙い通り、僕は僕の望んだ結果をつかんだ。つまり、ルリエラさんの尻尾を。

「すみませんけど……初めてなんで、うまくいかなかったらごめんなさい」

 まるでDTみたいなセリフだ……そう思ったけど後の祭りだ。いろんな意味で事実だし。

「その汚らわしい手を離せ!」

 ルリエラさんが力を籠めると、その尻尾は僕を空に高く舞いあげた。そこから見えた景色は、石壁に囲まれた空間。観客はいないけど、まるで決闘場みたいだった。だけどその向こうには……何も見えない。

「離すもんか」

 僕は右手でも尻尾をつかんだ。そして……魔力を流し込んだんだ。


 竜化……それは世界竜の魔力と同化した魔王が、その魔力を消費しつくした時に起きる現象だ。僕の右手がルリエラさんの一部に触れたことで、彼女の生体情報が読み取れる。アルビャーモを読んだ時みたいに。いや……僕が僕を読んだ時みたいに。

 ・

 ・

 ・

 暗くて狭い廊下を歩きながら、僕はようやく決意を固めたんだ。

「自分のことを一番知りたくないのは自分なんだけどね……」

 右手を額に当てて、意識を凝らす。怖くないと言えばウソになる。だけど。

「知らぬは一時の恥。知ろうとしないことこそが一生の恥……かな?ま、大方のことは聞いてるし、今さらだよね」

 そう思って、僕は自分自身をジャガイモでも観察するみたいに調べることにした。どうせ僕は錬金術のホムンクルスで、西行法師の反魂術の被造物で、フランケンシュタインタインのミスクリーチャーでフレッシュゴーレムみたいなもんだから、そう思えばいいわけだ……思い込めば思い込むほど暗くなったけど。

右手から流れる波動は、きっとママの魔力なんだろうけど、それが額から全身に広がる。

海中でソナーをうったような、そんな反応が各部位から返ってくる。

「ふう……」

僕の体には12種類の生体魔力があった。しかしそれは、大きな一つの意志に、つまりは僕の意識に同調している。だから僕は僕の体として、この体を制御できている。

「あ~あ……これじゃあ、合成人間どころか、エルダさんに倒された合体怪獣と一緒だね」

 思ったより冷静な僕だけど、でも自分の体は予想通りというか、期待以下というか。あの時の竜酸菌同様、僕の生体魔力もかなりの危険なバランスで成り立っていた。今の僕も、誰かに魔力操作されたらあんな風に、あっさり灰燼になって滅びるんだろう。

 でも、12の部位もそこから発生する魔力も、今は確かに僕の意識でまとまっている。

「要するに僕がしっかりしてればいいのかもね」

 一つ一つの部位には、元になった、つまりは僕に体の一部を提供してくれた人たちの意識とつながってる。さすがは魔王。こんな姿になっても、今もまだ本体と同調してるらしい。でも……。

「3つの意識が特に僕に順応してる。特に……右手のが」

 ママだ。アルビエラ母さんの提供してくれた部位が一番僕になじんでる。その次くらいに左上腕部と腰部……。

「あれ?」

 一番拒否反応が強いのは左手。でも……。

「あ!?」

 ……何かを訴えたがっていたのも、左手だ。だから僕は冷たい石床に座り込んで、右手を左手に直に当てて、深く読み込ことにした。

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「お前……戻りたいのか」

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 振り回される尻尾に必死にしがみつく僕だけど、さすがに尻尾ごと地面やら壁やらにたたきつけられた状態で魔力を集中なんかできない。なにしろ初心者だし。

「ええい、しぶといヤツめ!エムリア!来い!そいつを引きはがせ!」

 えー、ここでそれはないわー。それでなくても、僕、圧倒的に不利なのに。

「呼ばれたの~飛び出たの~ルリルリ様のお呼びとあれば、ビョーで参上なの~」

だけど、あの音楽こそ流れないけど、謎のスポットライトを浴びながら登場したエムリアさんは、相変わらずの場違い感満載だ。リボンに埋もれた金髪ツインテールにフリルまみれの超ミニのドレスは完全にジュニアアイドルみたいだけど、全然僕の趣味じゃないし!いや、この際、僕の趣味はどうでもいい。

「エムリアさん、僕と契約してくれたじゃないですか!」

 魔法少女じゃないけど、エムリアさんの衣装は少しそっち寄りかもしれない。

「でもでも~エマエマと魔王様との契約はまだ有効なの~」

「かわいく言ってもごまかされませんよ。これ、二重契約ですよね!」

 芸能事務所なら契約打ち切り。夫婦なら重婚だね。

「ふん。魔王と妖精との契約は魔力で結ばれた神聖なものだ。キサマのようなできそこないなどが入る余地なぞないわ!」

 現役時代はエスリーやエムリアさんに充分な魔力を与えてなかったくせに、都合のいい時は……なんだかネグレクトしてる親みたいだね。

「いやいや、僕はちゃんと魔力をあげてましたよ!フェアリーリングだってしてますし!」

 左手じゃないけど。

「エマエマ、こまっちゃうナ~♪」

 仮面ラ〇ダーのレギュラーやってた有名歌手の歌みたいなセリフだけど、誰がだまされるか!あの時代、ラ〇ダーの地方ロケは山〇リ〇ダ様ご一行様として歓待されてたとか。そういえば、今の僕の恰好は、ガ〇ラ3で仲〇由〇恵さんが演じてたちょい役とほぼ同じ姿だ。

「さんざん振り回されて、あの後、見るも無残な姿で殺されちゃんだよな~」

「マオマオ様~そんなこと言ったらエマエマがいけない子みたいなの~」

 尻尾と一緒に持ち上げられた僕の隣で、宙に浮きながらエムリアさんはぶりっ子してる。

いや、これもう死語かな?こんなポーズやってるアイドルなんて80年代くらいだろ?

「エムリア!そんな戯言に付き合ってはならぬ!早く我の命に従うのだ!」

「はいなの~」

「エムリアさあん!」

「マオマオ様~ごめんなさいなの~でもエマエマ、魔王様との契約に逆らえないの~エマエマたちはそういうマナ的な存在なの~」

「僕の魔力、吸ったじゃないですか」

「う~そうなんだけど~ちゃんと魔王になってないマオマオ様と、先代魔王様のどちらに従えばいいのかわかんないの~」

「ならばどちらにも従わなければよい」

 え?……いつの間に?エムリアさんに並んで、やっぱり宙に浮かぶその姿は、エムリアさんを少しだけ年長にした、でも少し冷たい表情で水兵さんの軍服姿してた。

「エルエルなの~すっごくおヒサなの~」

「エルダさん!?」

 この人、ってか、人じゃなくて妖精だけど、出現の仕方が自然っていうか地味過ぎっていうか、エムリアさんとは逆の意味で心臓に悪いんだよね。

「討滅妖精だと!?どうしてこの閉鎖空間に来た!我は呼んでなどおらぬぞ!」

「先代魔王と、今だ選ばれぬ魔王かもしれない者。その立ち合いの場であればわたしが見届けるべきだと思う。どちらにも従う義理はないがな」

「そうなの~?でも~エマエマはエルエルみたいに割り切れないの~」

「エムリアは相変わらず気が多いな。だが、その男を害すればエスリーに一生口をきいてもらえないぞ」

「それはイヤなの~エスエス、ああ見えて執念深いの~」

 そこでエムリアさんは少し離れたところに降りた。その隣にはエルダさんもいる。

「そう言うわけだ。我らの助力なしでケリをつけてもらおう。ルリエラ殿、そして、モーリとやら」

 二人の従属妖精が傍観にまわったのは、悪くはない。正直に言えば味方になってほしいけど、でも、向こうにつくよりはよほどいい。

 僕はルリエラさんの竜みたいな尻尾を握ったまま、ようやく集中できる態勢になった。

「ルリエラさん……もう一度言います」

「キサマ!?」

 僕をにらむ、その赤い目が怖いけど、ここで退くわけにはいかないよね。

「……僕があなたを元の姿に戻します。そして」

「やめよ!なにを思いあがっておるのだ!キサマに我の思いなぞわかってたまるか!」

「あなたをもう一度イシャナさんに会わせたいんです」

「言うなあ!」

 ルリエラさんの口が裂けた。直立した姿が、どんどんと変わっていった。ウロコがいっそう厚くなり、翼が大きくなり、手足の形も、胴の形も変わっていって。

「キサマァ……死ね!」

 かつての面影を残していた顔も、もうない。

 ルリエラさんはもはや、完全な竜と化した。

「これが我の真の姿よ。これも8代殿の実験の一部かもしれぬ。真祖様も竜と魔王の一体化を目指しておった……今のあの女はその弟子のようなもの。錬成魔術を極めし魔女だ」

 近づいてくる竜は、なぜかその異形のままきれいな人語を操る。それがかえって不思議だった。そしてその息はとても冷たく、僕の周りの空気を凍らせていったんだ。

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