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その17 先代魔王 対 魔王もどき

その17 先代魔王 対 魔王もどき


 せまい密室で僕を拘束していた茨は、なかなか痛くて頑丈だ。だけど、急速に険悪さを増していく中では、もうかまっていられない。

 そりゃそうだ。もともとルリエラさんは僕の命をもらいうけけるって宣言してたんだから。たまたまアルビエラ母さんが出現というか、その意識が実体化していろいろ話始めて中断してただけで、ルリエラさんが僕を殺す予定に変更はない。

 縛られた椅子ごと床に倒れた僕だけど、振り向いてゾ~ッとしたね。

「壁に大穴あいたよ」

 よけなかったら、即死決定だった。ビョーサツってヤツ?

「ルリエラ様!」

「8代殿にはすまぬが、その魔人、いや、魔王のできそこないを生かしておけるほど、我は寛大にはなれぬ」

 魔力を費やした魔王はその魔力はもう全盛期には程遠い。しかしルリエラさんは竜化した己の体を存分に使ってる。

「竜の姿に変じた醜き我だが、キサマを殺すにはちょうどよいわ!」

 長く太い尻尾が自在に動き、それこそ人外の射程と威力で振るわれる。さすがのアルビエラ母さんも僕にはよくわからない原理で実体化はできても、半ばは光のままだから物理的な攻撃をジャマするのは苦手らしい。もともとママは魔法が得意じゃなかったみたいだし。

「うわ!ひえ!おっと!」

 だから僕は椅子のまま床に転げまわって尻尾攻撃をかわし続ける。不幸中の幸いか、ここは狭いし壁は厚いしで、尻尾はいちいち壁やら天井やらに当たって動きが遅くなるからなんとかなってるけど。

 バラバラバラ……当たって砕けた石壁から破片が落ちてくるくらいは、許容できる。

「ちょろちょろと見苦しい!それでも魔人か!」

「そんなものになった覚えはありませんよ!……わ!?」

 話かけられて応答したのがいけなかったのか、尻尾が壁に当たって動きが変わり、変則的な軌道になったのをよけきれなかった!

 ガキン!

 だけど、たまたま僕の左手に当たって、衝撃はともかく痛くはない?……ってか、僕の左手、さっきから僕の意志とは無関係に動いてるし、なんか硬質化してないか?そういや、さっきもルリエラさんの魔法の氷槍を防いだよな?

「お上手よ、モーリちゃん!」

 ママが褒めてくれるのはうれしいけど、なんかタイミングとか褒め方とか考えてほしい。ママも大概、自由な人柄だね。やっぱり元魔王だけある。

「ち。さすがは……」

 と言いかけて口をつぐんだルリエラさんだけど、その目が赤い。怖い。

「ああ、もう!こんな茨で縛られてなきゃ逃げられそうなのに……」

 軟禁用の密室というよりは監禁用の牢獄だけど、ルリエラさんの攻撃であちこち穴は開いてる。崩れた壁や天井がミシミシってコワイ。さっさとここから逃げた方がいろんな意味で安全だろう。だけどこの態勢じゃどうにもならない。

「あら、モーリちゃん。妖茨が気になるの?」

「当たり前だよ、ママ。おかげで自由に動けないし立てないんだから……外してくれるの?」

「ええ。気がつかなくてごめんなさいね。モーリちゃんが妖茨を気に入って遊んでるって思っちゃって」

 そんなはず、あるわけない。僕は縛られたりイジメられたりするのが楽しくて転がってるわけじゃないぞ。

 薄桃色に輝くママは、その光を伸ばしてあっさりと妖茨とやらを切断してくれた。そしてそのまままたたいて、光は人の形をやめて僕の右手に、あの花章に吸い込まれたんだ。

「この方が逃げやすいでしょ」

「うん」

 どういう原理で湖底にいるはずのママが、僕の右手に宿ってるのかわからないし、それを聞いてる余裕もない。だから自由になった僕は急いで開いた穴から逃げ出した。逃げ出す先?そんなことはどうでもいい。

「逃げるな、卑怯者!」

 いやいや、僕は確かに臆病者で愚か者で卑怯者だけど、ここで逃げなきゃいつ逃げる?

 唸りをあげて飛来する尻尾の一撃をかろうじてかわし、僕は一目散に逃げだしたんだ。暗い石の廊下に。そして、異形の姿のルリエラさんは追ってこなかった。人目が気になるのか、走るのが苦手な体形だからか?まあ、期待はしてましたけど。


 で、毎度のことながら迷子になった。ジメジメして酸っぱい空気に、狭くて暗い廊下は、前と後ろしかわからない。もしも僕が暗所恐怖症とか閉所恐怖症とかだったら深刻なダメージを受けてるね。

「ママ……聞こえる?返事してよ」

 何度か右手の花章に語りかけた僕だけど、シ~ン……。頼みのママも、あれ以来沈黙のまま。まあ、いいや。なんでも母親にたよってちゃ、また天使さんにマザコンとか言われそうだし。

「しかし、ロリコンとマザコンとトサケンのどれが一番社会的に許容されるんだろうね」

 待てよ?僕はトサケンって言ってもそれは学生時代の一時期で、だから現役の特オタじゃあない。マザコンって言われたとしても、アルビエラ母さんは見た目ほぼ同年代だし、ロリコンって言われてもエスリーは実年齢不明だし……全部該当しないんじゃないか?

「いけない。こんな考え、不毛だね」

 まったく。要するに僕はこんな方面でも中途半端なんだね。指をなめて上に立てる。風を感じる……出口はこっちかな?何度目の交差地点を、古典的な方法で選んで、そして、ようやく前方に明かりを見つけた。床はいつからか上に傾いてるように思えた。

「お腹すいたな」

 子どもみたいな感想が出る。でも、ここに来てから「栄養補給サプリ」はしてもらったけど、ちゃんとした食事は一回もしてない。グ~……。

「あー、これ、思いださなきゃよかったヤツだ」

 よけいに空腹感が増すってば。

「考えるんなら、ルリエラさんと元老院だ」

 どうすればいい?何が正解なんだろう?僕は互いの利害を考えて一番のアイデアを出したつもりだったけど、相手に信用されず交渉以前。それならエムリアさんを味方にして強引に打って出たけど、ルリエラさん登場で、あっさり裏切られて、このありさま。

「ママが助けてくれなきゃ死んでたし」

 そのママとも、今は交信不能。ま、そんな便利なモンじゃないんだよね。

「あ……」

 そして、今さら気づいことが一つ。

 交渉をシャルネさんに頼み、荒事をエムリアさんに頼み。

「僕、結局は全部、他人を当てにしてるんだな……」

 僕自身は無知で無力なままで、それに変わりはないって現状だ。

 暗闇が、密かに僕をしめつける。胸の奥までなにかにつかまれるような、そんな苦しさに歩みを止める。

 僕は右手で自分を殴った。思ったより痛かった。

「自分を慰めるな!自分を甘やかすな!そして……いつでも自分のできることを捜せ!」

 かわいそうな自分に沈んでるだけじゃ、ブラックな環境は変わらない。変わらないままだから、前世で僕は死んで、今、こうして途方暮れてる。

「だけど……僕は救うんだ。この世界を」

 この、狭くて暗くて、酸っぱい空気や竜酸だまりだらけのこの世界を。

「天使さんに言われたから?ママに頼まれたから?」

 僕の頭に浮かんだのは、青雲堂で見た景色。あの時の親子連れ。その時隣にいた女性。

「違うね。僕はここに、大人でも夏休みがとれる国をつくるんだ。シャルネさんだって必ず助ける。だからこれは僕の戦いだ!」

 最善の解決策を見つけてみせる。見つけたつもりだったけど、どこかに間違いがあった。いや、僕が信じるに足りない相手だったからだ。

「だったら僕の価値を上げればいいんだろ?」

 僕は、魔王のできそこないらしい。だけどその魔力だけは何もできない今でもかなりのものらしい。

「その魔力は世界を覆う?魔人モーリ?」

 ルリエラさんが言ってたじゃないか。それは侮蔑かもしれないけど、魔臓器とやらにしか使い道がないかもしれないけど。

「僕の魔力とやらで、なにかができるんなら……」

 僕は暗くて狭い廊下を歩き続ける。


 それから少したって。

 目の前には扉がある。金属製だ。ここじゃ、木も金属も貴重だけど、さすがに使わなきゃいけないところでは使ってる。

 頭の中のどこかで、開けちゃいけないって警報が鳴っている。だけど、無視。

 ぎいいい。いやな音と手ごたえを残して開いた扉の向こうには、相変わらずの暗い空と広い石畳の空間。

「待っておったぞ」

 そして竜人と化したルリエラさんの笑顔だった。

「おや、今度は逃げぬのか?」

 僕の後ろで扉が閉じるのを見て、意外そうなルリエラさんだ。

「逃げて状況が改善するんなら逃げるんですけど」

「諦めがよいのだな。いや、よい覚悟だ。いささかながら見直したぞ」

 舌なめずりでもしそうなルリエラさんだけど、その舌先が割れてるのはいただけない。いや、ウロコとか太過ぎの尻尾がなけりゃ、かなりの美女なんだけどな。

「あきらめたわけじゃないです、ルリエラさんとちゃんと話をするべきだって思ったんです」

「話?……キサマは何でも話で解決すると思っておるのか?」

「はい、と言いたいんですけど」

 人には感情がある。利害とか合理性だけで解決するんなら、世界の悩みも随分減るだろうに。ま、僕もけっこう最近までわかんなかったけど。

「やっぱり一度死んだら賢くなるもんですね」

「キサマは、セイカイとやらにこだわって、現実を見ない愚か者だな」

「あー……そこはこだわりますね。正解を見つけて」

 と言いかけて、僕は違和感を感じて言い直すことにした。

「いいえ、正解をつくっていきましょう。僕とルリエラさんの正解を」

 答え合わせなんかじゃない。互いの答えこれからつくる。そして……

「……僕の答えは、レクアを、シャルネさんを、あなたを救うことです」

「我を救うだと!この痴れ者があ!」

 太い尻尾が飛来する。しかし僕は避けなかった。みるみる迫るトカゲの尻尾が僕を横殴りにする!

 かきいいん……。

「やはりって思ってはいたけど、けっこう怖かったですよ」

 僕の左手が、防いで、いや、はじき返してくれた。その手は固く、ウロコみたいなもの覆われている。

「ルリエラさん。あなたも魔王。つまり、あなたの一部も僕の体に使われてる。そこはどこなんだろうって……ま、すぐにわかりましたけどね」

 ひょっとしたら、ルリエラさんがここで待ち伏せしてたのも、そのせいかもしれない。彼女にはなんとなく僕の位置がわかるのかもね。

「だからなんだと申すつもりだ?まさか突然我がキサマへの母性愛に目覚めるとでも思ったか!」

 その腕から氷の槍が実体化し突き出される。もちろん情け容赦のカケラもなかった。

 だけど僕の左手からも、不格好ながら氷塊がつくられ、槍を遮った。

「ですよね~。僕もルリエラさんを母さんと呼ぶには、抵抗ありますし、そこは互いにスルーで」

 アルビエラ母さんみたいに自分から呼んでほしそうならまだしも、同年代相手にないよね。

「その口を引き裂いてやる!この忌まわしき出来損ないめ!!」

 ルリエラさんの目は、またも赤く、殺意に満ちている。よほど胎児の段階の僕はおぞましかったんだろうな。ま。今だってイケメンには遠いけど。

「そうです。僕は醜いできそこないで、でもあなた方の一部からできています」

「黙れ!」

 接近したルリエラさんの鋭い右手のツメが、僕の腹部をえぐる。いや、一応よけて、服と脇腹を少しだけもっていかれたけど、まだ大丈夫。

「だけど、ルリエラさん……今、僕は人の姿をしてますよ」

「それがどうした!」

 裏拳、じゃないけど、一度よけたつもりが、返すツメで背中をやられた。爪先から僕の血が糸をひくのが見える。

「あ、赤かったんだ」

 正直ほっとした。痛いけど。

「なにを喜んでおる!」

「別に痛くてうれしいんじゃありませんよ」

 変な方向に誤解されたみたいで、薄気味悪そうに見られちゃった。だけど、攻撃の動きは明らかに遅くなった。ラッキーだ。

「ええと、つまり竜化したあなたの一部も今、僕の一部である限りは人の姿を保っていられるということです」

 そして、ようやく本格的に動きが止まってくれた。

「……なにを言いたいのだ」

「あなたの姿も僕の魔力を流すことで元に戻る可能性があります」

 だから、間髪入れず言いきった。だけど、これは彼女の正解じゃない。それはわかっている。その程度には、僕は賢くなったはずだ。

「そして元の姿に戻れたら、イシャナさんとちゃんと話をしてください」

 これが正解だ。そして、これが僕の正解でもある。

「魔王には僕がなります。だけどイシャナさんはあなたの遺志を継いで自分が魔王になるつもりです」

 完全に棒立ちになったルリエラさんに、僕は最後の一言を足す。

「イシャナさんを説得するのは、あなたの役目です」

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