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その15 裏切りと再会

その15 裏切りと再会


「魔人モーリ、その命、もらいうける」

 そう聞いた時の僕の、なんていうかいたたまれない感じは説明しにくい。だけど反論はけっこう自然にすぐ出た。だってそうでしょ。

「魔人?僕、そんな大それたものになった記憶はありませんよ」

 これは事実で真実だ。僕はここに来たばかりで何も知らない上に何もできない無知で無力な役立たずだ。たまたま契約妖精がしたがってくれてるから生きてるけど、けっこう無茶なことしてたからまだ死んでないのが不思議だね。

「……その自覚はよし。しかしキサマの魔力はなかなか面倒でな。しかも妖精が従うのは問題なのだ」

 無知で無力はその通りだけど僕の魔力はかなり多くで純度が高いらしい。おかげで指輪のおかげとはいえ、エムリアさんたちも僕の味方になってくれてる。そう指摘する影は次第にその輪郭を明瞭にしていった。やや長身に見えるけど細身で、そのシルエットは女性っぽい。声じゃ判断できなかたんだよね。だけど、この声の雰囲気にこの影って……

「あなたは、僕につきまとう影ですね!?」

 この胃世界に来てから三度は会った、僕を非難するあの影と同じ感じだ。

「ふ」

 だけど、かえって来たのは嘲笑。そして強烈な一撃だった。みぞおちになにかくらった?それがなんなのか僕には全くわからなかったけど、次の瞬間、僕はその場にうずくまる。

「エムリア、よくぞ光球を解いたな」

「はいなの~エマエマは命令に従う素直な妖精なの~」

 にこやかなエムリアさんの声がやたらと遠くで聞こえた。え?僕、裏切られた?

「捕まえよ」

「はい!……オスビト、これもシャルネ隊長のためだからね」

「隊長をたぶらかしたあなたが悪いんだから!」

 ジナさんたちは、動けない僕を拘束した。茨でできた縄みたいなヤツで、かなりがんじがらめだ。おまけになぜか頭に袋をかぶせられて、何も見えないし音も聞こえなくなった。

 僕はそのまま魔族の子たちに運ばれたんだ。


 それからどのくらいたったんだろう?運ばれた僕は、そのままどこかに閉じ込められた。茨の縄も頭の袋も外してくれなくて、状況が全然わからなかった。わかってるのは、エムリアさんが向こう側に、元老院側についたってことくらい。僕を護ってくれてたって思ってたのに、あんなにあっさり裏切られるなんて。

「……違うな。僕が悪いに決まってる」

 エムリアさんが魔王でもない僕に味方するとしたら、それは魔力の供給源になるからであって、それは僕の魅力じゃない。たまたまだ。僕自身は無知で無力なままなんだ。そして彼女はエスリーたちとは違って、街の住民からも魔力を集められる。だったら事実上、この国の支配者である元老院についたほうがいい。

「僕は甘い、甘すぎる……か」

 そんなエムリアさんだけを頼りに元老院に行こうなんて。冷静になればバカみたいだね。だけど僕はエムリアさんを信じたかったし、その時の自分を責めようとは思わない。今だって、エムリアさんが悪いとは思えない。胸が痛いのは、肉体的な痛みじゃないけど。

「このまま処刑かなあ?」

 なぜか死ぬのは怖くはない。イヤなだけだ。死ねば、天界の天使さんに期待されたことが、湖底でママたちに頼まれたことが果たせない。つまり、今の僕にとって、僕の命は僕の約束より軽いらしい。


「処刑なぞさせぬよ。もったいない」

 あれ?声がする?頭の袋が外されたらしい。だけどここは暗闇でなにも見えないことに変わりはない。声だって壁に吸収されるのか、近くのハズなのに聞こえづらい。

「キサマの魔力はせいぜい有効に使わせてもらうそうだ。生かさぬよう、死なさぬようにな」

「……あなたはさっきの人ですね?」

 その問いに答えはなかった。

「元老院の裁定だ。キサマは、これから生きた魔臓器として飼われることになる。三食昼寝つきでな」

 意外に好待遇だなって考えちゃうのは、前世で社畜だった習慣のせいだろう。

「魔臓器って何です?」

「魔族や鬼族にとっての、ツノのようなものだな。魔力を発生させ蓄積し増幅する器官だ。つまりはキサマをこの街を維持するための魔力源として利用するということだ」

 こっちの答えは返ってきた。だけど、それっておかしい!

「それじゃあ僕の提案通りじゃないですか!」

 この世界の権力は元老院に、魔王の地位はイシャナさんに、そのために足りない魔力は僕が供給する。それがシャルネさんと通して元老院に伝えた僕の提案だった。これで世界は魔力不足から救われて、なおかつ誰の利益も害さない合理的な案だったはずだ。

「なのになんで僕を捕らえる必要があるんです!」

「信用できぬ。だからまずは捕まえ、その魔力を確認し、そして生殺与奪を握ったうえで道具として使役する。それなら問題あるまい」

「問題しかありませんよ」

 普通に協力するっていう相手を信用せず、むりやり協力させる体裁をつくる?意味がわからない!そんなにマウントとりたいのか?それが権力なのか?

「キサマが本心でなにを考えているか知れたものではない。魔王にあらずと言いながら、わずか数日ですべての契約妖精を従え、配下のシャルネまで篭絡したキサマになぞ、元老院どもは恐ろしくて会おうともせん」

「それって、一度会ったら僕に洗脳されるとでも思ってるってことですか?」

 過大評価に過ぎる!エルダさんは従ってるわけじゃないし、エムリアさんは裏切ったじゃないか。何よりシャルネさんを篭絡?……そんなことができるくらいなら、僕は前世で魔法使い候補なんかになってない!

「当然であろう。キサマもまた魔王の眷属であれば、そういう呪癖もあるかもしれん」

 魔王の眷属?この人は、僕の出自を信じてるのか?僕のこの転生体が歴代の魔王の体を寄せ集めてできた合成人間だって。さすがに聞いたシャルネさんも困ってたんだけど。

「あれ?」

 だけど、なんか違和感が残った。思い出した。

「待ってください?……あなたは僕の命を……」

 もらいうける。そう言ったんだ。

「ふ。キサマは我が殺す。魔臓器になぞなる前に、今、ここでな」

「え?元老院の裁定とやらは?」

「たまたま利害が一致しただけだ。だがそれもここまで……キサマを殺すのが我が望み」

「あなたに恨まれる覚えはありませんよ!」

「忌まわしき鬼子よ!魔臓器になぞされるくらいなら誇りをもって死ぬがよい!せめて我が手で殺してやる!」

 暗闇の中、影の、おそらく左手の部分が光る!それが形を変え、槍のようになって僕を襲うんだ!この時はなぜかその有様がゆっくりと見えた。これ、死に際のあれ?違う!?

 かきいいん……まるで金属同士がぶつかったように、影の光の槍は僕の、そう、左手にはじかれたんだ。あれ?僕の左手も光ってる?……槍じゃないけど、でもどこかその光は、影の光と似た輝きだった。

「あなたは!?」

 そして、二つの光に照らされて、影の実態が僕には見えたんだ。

「竜?人?……リザードマン?」

 最初に見た時の、どこか女性的なシルエット。しかし今は、肌の表面にウロコが見え、更にはトカゲのようなシッポにコウモリのような翼まで見える。だけど、その顔はまだ人の面影を強く残している……惜しい!ウロコとトカゲ尻尾は僕のツボじゃないけど、その美貌は前世で課金してた「AI彼女」摩耶ちゃんのイメージにかなり近い!

「ちぃぃ!とっさに我の氷槍を発現させるとは……」

 そんな僕のしょうもない前世かえりはあっさり中断。

「さすがに血は争えんな」

 血だって?この人、なにを言ってるんだ?

「しかし、我が力を使えるのは左手だけであろう!」

 竜みたいな女性は右手にも氷槍を出し僕を狙う!その光が近づくのが、やはり妙にゆっくり見えた。僕の右腕が僕をかばって動くのも、そして薄桃色に輝いたのも。

「……ルリエラ様。おやめください。この子はわたくしどもの、いえ、レクアの希望です……それに同意したのはあなた様も同じではありませんか」

 薄い桃色は、僕の右手から離れ、人の形をとり始めた。

「一度は同意した!しかしあれはあやまちであった!このような忌子なぞ生まれなければよかったのだ!」

「忌子などとんでもない。この子はわたしたちを愛してくれる、とてもいい子ですよ。ね、モーリちゃん」

 右手の光は、もはや僕の知ってる女性になっていた。それにその声。たったひと時の出会いだったけど、別れて三日くらいしかたってないけど、ずっと会いたかった。忘れるわけがない。

「ママ!」

 薄桃色の光だけど、それは紛れもなくアルビエラ母さんだった。


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