第1話 オープニング
注意)本編14話は、同名の短編と内容が同じです。番外編を一緒にしたくて、連載形式で出し直しました。
短編を読んだ方は、番外編だけお読みください。
「君、アシュリー=ダルトンだね。話があるんだけど」
カフェテリア前の学園の廊下。お昼休みの人通りも多いこの場所で、あろうことか、隣国からの留学生である第五王子が声をかけて来た。当然、行きかう人は何事かとこちらを振り向く。
この王子は、金髪に碧眼、品よく整った容貌で背も高く、誰がどう見ても、ザ・王子様という、非常に目立つ外見だ。
それに比べて私は、黒髪のおさげに瓶底眼鏡、見方によっては貧相な体つき。おまけにただの男爵令嬢。王子様が声をかけるには程遠い人物像だ。
違和感だらけの組み合わせは、余計に人々の興味を煽る。
ちなみに、ハニーピンクの髪に、ふわふわツインテール。愛らしい水色の瞳に、桜色の唇。薔薇色の頬。守ってあげたくなるような華奢な体に、軽やかな足取り。
――これが本来の私の姿なのだけれど。
この人物と私は表向きは接点がない。
表向きは。
私は、じっとりと背に冷たい汗がにじむのを感じながら、平静を装って、低い声を出す。
「はい、何か御用でしょうか? 実は、今、先生に頼まれた資料を急いでお持ちしなければならないので少し急いでおります」
私は、咄嗟にこの場を離れるための嘘をでっちあげる。
「そうなんだ。じゃあ、放課後、個人談話室の桐の間に来てくれないかい?」
「申し訳ありません。放課後は――」
彼は、一歩近づくと、私の耳元に顔を寄せて低くつぶやく。
「逃げると、君のためにならないよ? なかなか面白いことをしているみたいだね」
「――はい、わかりました」
彼の言う面白いこと、とは多分、「あれ」の事だ。
ということは、彼女が先走って失敗したか、あるいは裏切ったということだろう。
あれがばれるのは、非常にまずい。
私ではなく、仲間たちの一生がかかっている。
私は、逃げられないことを悟り、彼の申し出に頷くしかなかった。