幼馴染みに『女の子ができた』と言ったら、挙動不審になった件
俺、榊涼太は、ごく普通の男子高校生。今日は休日だが、特に予定も無いので部屋でゴロゴロしていた。
「ゲームでもすっかあ」
身体を起こして、ゲーム機を起動する。最近はとあるFPSのゲームにはまっているのだ。
「ふふっ、今日は調子がいいな!」
一戦目から順調にキル数を伸ばしていく。よし、3キル目。負ける気がしねーぜ!
だがしかし。経験上、ここで調子に乗ると痛い目に遭う。あくまで冷静に、落ち着いてゲームに集中するんだ。逸る気持ちを抑えるために、一度深呼吸をする。よし、集中……集中……。
「(ガチャ、バン!!)おっすバカ涼太! 可愛い幼馴染みが遊びにきてやったよー!」
「ふおおんっ!?」
突然勢い良くドアが開き、やけに高い女声が部屋中に響く。直後、それに驚いた俺の情けない悲鳴も部屋中に響いた。
「あっはっは、何その声! そんなにビックリしたの?」
「うるせえな、部屋に入る時はノックぐらいしろよ! ていうかいつの間に家に入ってきたんだ!」
「たった今よ? 玄関の鍵開いてたから、入ってきちゃった! テヘッ♪」
「いや『テヘッ♪』じゃねえよ! 普通に犯罪だからな!」
高らかに不法侵入を自白したこのイカれた女の名前は、北山春佳。幼馴染みだ。
「ったく、せめてインターホンぐらい鳴らせよな」
「えー、ちゃんとピンポーンって言ったわよ!」
「お前が口で言っても意味ねーんだよ!?」
この通りちょっと頭のネジが外れているが、容姿はそれなりに整っているためにモテるのが腹立たしい。
「そんなことより! せっかく来てあげたんだから、相手しなさいよ」
「えー無理。今ゲームいいとこなんだよ。だから帰ってくれ」
今はこいつなど相手にしている暇はない。さっさとゲームに戻らねば。俺は春佳を軽くあしらって、コントローラーを持ち直した。
「むー、つまんない! 相手してくれないなら、部屋漁っちゃうからね! あ、エッチな本だ(ビリッ)」
「ちょっ、やめ……ってうおおおおっ!? 破る判断早すぎだろ!!」
コントローラーを投げ捨てて、急いでに本の元へ駆け寄る。しかし残念ながら手遅れだったようで、本に写る美しい女性のおっPは真っ二つに引き裂かれていた。
「くそぉ、お気に入りだったのに……!」
無残にも破かれてしまった宝物ともいえる本の残骸を抱いて、しくしくとすすり泣く俺。そんな可哀想な俺を見かねたのか、春佳はポン、と俺の肩に手を置いてこう言った。
「エッチな本破かれて泣くとか、キモいよ」
「このド畜生があああ!!」
ひどい、ひどすぎる。宝物を躊躇なく引き裂いた上に、シンプルに一番傷つく言葉で心まで抉って来るなんて。
「相手してくれない上に、こんな下品な本を持ってる涼太が全部悪いのよ?」
人の私物を勝手に破っておいてよくもそんなことが言えるな。
「うん……もういいから、頼む帰ってくれ」
いつの間にか、ゲームも敵にやられてゲームオーバーになってるし、春佳が来てからもういろいろメチャクチャだ。傷ついた心を癒すためにも、彼女には速やかに帰宅してもらいたい。
「やだよ~だ! あ、ゲーム借りるね!」
「おい」
俺の言葉など意にも介さず、勝手にコントローラーを持ってゲームを始める春佳。こういう自由奔放なところは昔から変わらないな。
慣れというのは恐ろしいもので、こんなことをされても許せるようになってしまった。前はよく喧嘩をしていたが、何回も繰り返している内に『こいつだから仕方ない』と思うようになっていった。
いつものことだしな、と割り切った俺はため息をついて、ゲームに熱中している春佳の隣に座った。
「なあ、春佳」
「ん~?」
ただ座っているだけじゃ暇なので、春佳に話しかけてみる。
「俺の叔父さん、この前結婚してさ。最近赤ちゃんが生まれたんだ」
「おっと、今のは危なかったな~。このFPSのゲーム、緊張感があってなかなか面白いわね」
「そんでさ。俺にも会わせてくれたんだよ。めっちゃ小さくて可愛いかったなあ」
「あ、撃たれてる! もう、敵はどこにいるのよ!?」
「女の子らしいぜ。叔父さん、娘が出来たって嬉しそうにいってたなあ……って聞いてるのか?」
「まずいわね、このままじゃやられる! 何とかしないと!」
「え、俺今一人?」
まるで空に向かって話しかけているかのように、俺の言葉は無情にもスルーされる。春佳は完全にゲームに夢中になっているようで、俺の話に返事すら返さず、完全に上の空だ。全く、人が話しているというのに失礼な。
「おい春佳。聞いてるのかって」
「うわーやられたー! ってどうしたの、涼太?」
「いやだから、俺の話を聞いてるのかって」
「え、あーうん。もちろん聞いてるよ!」
「本当だろうな?」
「う、うん」
ちゃんと聞いていたようには全然見えないが、本人がそういうなら信じるとしよう。
「えっと、どこまで話したっけ。あ、そうだ。女の子ができたってところまでか」
「………………え?」
春佳が持っていたコントローラーを落とす。
「おい、そのコントローラー結構高いやつなんだから、落とさないように気を付けろよ?」
「あ、ごめん。って、そんなことはどうでもいいのよ!」
うん、どうでもよくはないな。まあ俺もさっき投げ捨てたし、あんまり人のこと言えないけど。
「女の子ができたって、本当なの?」
「え? ああ、そうだよ」
あまりにも真剣な表情で聞いてくるので、少したじろいてしまった。変なやつ。
「ウソ、今までそんな素振りなかったじゃない……!」
「そりゃそーだろ」
甥っ子の幼馴染みに、赤ちゃんを作る素振りなど見せるわけがない。もし叔父さんが春佳に『そろそろ赤ちゃんを作るんだ、ウヘヘ』などと言った暁には、間違いなく縁を切っていただろう。
「(そんな、涼太に彼女ができるなんて。こんなことなら早く告白しておけばよかった……)」
「ん、何か言ったか?」
「いや。何でもない。良かったわね……」
「おう、そうだな!」
祝いの言葉とは裏腹に、なぜか春佳のテンションは目に見えて低くなっていた。
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」
「何だ?」
「その子とは、いつ出会ったの?」
いつ会ったかって、そうだな。叔父さんの家に行ったのが先週の土曜日で、今日は祝日の火曜日だから……。
「三日前だな」
「え、三日前!? そんな最近なの!?」
「ああ」
信じられない、といった表情でこちらを見る春佳。え、そんな驚くことか?
「(そんなポッと出の子に取られちゃうなんて……! 私は小学生の頃から高校までずっと一緒にいるのに。ずっとずっと、好きだったのに……)」
「おい、どうした春佳? 元気無いぞ?」
「う、ううん、大丈夫! ちょっと考え事してただけ」
何だ、そうだったのか。心配して損したな。
「その子、そんなに可愛かったの……?」
さっきよりもか細い声で、弱々しく話す春佳。こいつ、本当に体調大丈夫なのか? まあ本人が大丈夫って言ってるから良いんだろうけど。
「おう、めちゃめちゃ可愛いぞ! ちっちゃい顔に、ぷくーっとしたほっぺが堪らなくてさ! 肌も綺麗でしっとりとしてて、もう最高だよ!」
「へ、へえ~……。そんなに、良いんだ……」
あれ。春佳のやつ、何か泣きそうな顔してないか?
「(あんなに楽しそうに語るなんて、涼太、本当にその人のこと好きなんだ……。でも、私だって、肌の綺麗さなら自信あるのに。何で私じゃダメだったの……?)」
「おい、顔色悪いぞ。やっぱり無理してるんじゃないか?」
「だ、大丈夫だってば。心配しないで」
そう言う割には、さっきからだんだん顔色が悪くなってる気がするんだが。でも強がる意味もないか。
「その子他には、どんな特徴があるの? 例えば、髪型とか」
髪型? そんなこと聞かれても、まだ生後一週間ちょいだしなあ。
「髪は全然生えてないよ。うっすら生えてるだけかな」
「ええ!? その子ハゲなの!?」
「いやハゲ言うなよ!?」
生後間もない赤ちゃんになんてことを。
「(ええ、涼太って髪が薄い人が好みだったんだ。どおりで振り向かないわけだわ。毎日髪の手入れ頑張ってたのに、逆効果だったなんて……。)」
何だ? 春佳のやつ、自分の髪をいじりながらブツブツ呟いてやがる。今日はいつにもまして挙動不審だな。
何か悩みでもあるのだろうか。よし、ちょっと趣味が悪いかもしれないけど、春佳の呟きを少し盗み聞きしてみるか。
「もういっそ思いきって、私もスキンヘッドにすればいいのかな……」
うん、ダメだ。こいつが何に悩んでいるのか俺にはさっぱり理解できない。いや、髪型のことで悩んでいるのは分かるが、どうしてそこでスキンヘッドが候補に挙がるのだろうか。
春佳の髪はツヤツヤで綺麗だし、何も悩むことないと思うけどな。やっぱよく分からんな、女子という生き物は。
「あーもう、やっぱり納得できない! 涼太、その子と話をさせて。話したいことがいっぱいあるの!」
「いや無理に決まってんだろ」
赤ん坊との会話を可能にする能力など、俺には備わっていない。
「むー、何でよ。私に聞かれたくないような疚しいことでもあるの?」
「どうしてそうなるんだ」
え、何でこいつ、俺に頼めば赤ちゃんと会話できるって思ってるんだ? なんかめちゃ真剣な顔だし。春佳のやつ、どんだけ赤ちゃんと会話したいんだよ。
「(やっぱり、三日前に会ったようなポッと出の人に涼太を取られるのは納得できない! こうなったらもう、覚悟を決めて言っちゃおうかな……)」
今度は何か意を決したかのような表情を浮かべる春佳。スー、ハー、と深呼吸をしている。いいぞ、そのまま落ち着け。冷静になれば、生後間もない赤ちゃんとの会話は不可能という事実に気付けるはずだ。
「ねえ、涼太……」
「どうした? 落ち着いたか?」
「私じゃ、ダメかな……?」
「What?」
おかしい、話が全く見えてこない。いや待て、落ち着け榊涼太。まずは一旦、今までの会話の流れを整理してみよう。
お互いの言葉をだいたい要約すると、俺『叔父さんの家で赤ちゃん(女の子)が生まれたよ』→春佳『納得できない。その子と会話させてよ』→俺『いや無理です』→春佳『私じゃ、ダメかな……?』といった感じだろうか。
ふーむ。整理しても分っかんないや。
「だから……私も好きなの! 昔からずっと好き! どうしようもないくらい好きなの! こうなったら秘密にしておこうと思ったけど、やっぱり諦められない……」
は、春佳のやつ、そんなに赤ちゃんが好きだったのか? 知らなかった。こんなに頬を真っ赤に上気させるほどに、春佳が赤ん坊を愛していたとは。
ひょっとして、冗談ではなく本気で赤ちゃんとお話したいと思っているのだろうか。だとしたら俺も真剣に向き合わなければならないのだろうが、先程も言った通り、俺は赤ちゃんと会話する術は身に付けていない。力になれないのが残念だ。
「そうか。知らなかったよ」
「うう……ぐすっ。ごめんね、最低だよね私……」
「まさか、春佳がそんなに赤ちゃん好きだとは思わなかった」
「ぐすっ…………………………え?」
「長いこと一緒にいたつもりだったけど、そんな一面があったとはなあ。赤ちゃんが大好きだなんて、意外と可愛いところもあるんだな」
「待って待って、どういうこと!?」
何やら激しく困惑している様子の春佳。どういうこともなにも、そのままの意味だ。『春佳は赤ちゃんがめちゃめちゃ好きだった』という話。うん、おそらく俺は何も間違えていまい。
「何をそんなに取り乱してるんだ? 別に恥ずかしいことじゃないぞ、赤ちゃんが好きっていうのは」
「へ、赤ちゃんって? 何の話をしてるの?」
「ん?」
話が噛み合っていないのか、お互いの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。さては春佳のやつ、やはり話をちゃんと聞いてなかったな? 仕方がない、また一から話してやろう。俺は優しい男だからな。
俺は懇切丁寧に、今までの話の流れを春佳に説明してやった。すると、だんだんとまた春佳の顔が真っ赤に染まっていき、話が終わる頃には、頬をパンパンに膨らましながらこちらを睨み付けていた。
「まぎらわしいのよ、バカ!!(パァン!)」
「ふべらっ!?」
突然、春佳から謎のビンタが繰り出され、俺を襲った。え、今何でビンタされたの!?
「急に何しやがる!?」
「うるさい! 女の子ができたっていうから、てっきり涼太に彼女ができたのかと思ったじゃない!」
「は? 彼女なんていねーよ! ……言わせんな、こんな悲しいこと」
こんな休日に一人ゲームして過ごそうとしていた男に、彼女などいるはずがない。……いや違うよ? 別にモテないわけじゃないんだよ? 俺がその気になれば、女の子を惚れさせることなんて簡単じゃないです彼女欲しいなあ。
「(もう、変に勘違いしちゃったじゃない! まあゲームに夢中になってて、話聞いてなかったのが悪いんだけど。でも良かった、ホッとしたわ……)」
とてもご立腹な様子だと思っていた春佳だが、今度は胸に手を当ててホッと一息つく。一体何に安堵してるんだ? いつも一緒にいるのに、未だにこいつの気持ちはよく分からないことがある。
「って、待てよ? 春佳は俺に彼女できたって勘違いしてたんだよな? じゃあ私も好きってのは……」
「っ!? ち、違うわよ!(パァン!)」
「あべしっ!?」
何か重要なことに気付きかけていた俺だったが、それを遮るかのように、再び春佳のビンタが炸裂する。二度もぶった!? 親父にもぶたれたことないのに!
「わ、私帰るから! 今日のことは忘れなさい!」
そう言って春佳は、逃げるように部屋から出ていった。
「一体何しに来たんだあいつは」
一人取り残された俺は、ゲームを再開するべく、コントローラーを持って画面に向き合う。
ゲームを起動して戦歴画面を見ると、レートが少しだけ下がっていた。おそらくさっき春佳がプレイした時に、一人も倒せずにやられてしまったからだろう。
まあこんなことは日常茶飯事だ。今さらどうも思わない。それよりも……。
「春佳のやつ、俺のこと好きだったんだな」
そう思うと、今までの彼女の行動が可愛らしく思えた。
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