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June:PART2

テストから数日、とうとう結果が返ってくる。

りお達の周りではギャーギャーと騒ぐクラスメートでいっぱいだ。

点数だけでなく順位も一覧表になっている。

「数学が一番悪いし!」

「+−×÷ができればそれでいいんだよ」

など、とにかくめちゃくちゃなことを叫ぶ者もいた。

「いやぁ、先生は嬉しいよ!なんたって、俺のクラスに一位と二位がいるんだから!」

満面の笑みで担任はいう。

「一位はなぁ…」

『ちょ、ちょっと待って!』

結果の表をファイルの中に丁寧にしまっていたりおの手が止まる。

「一位は、真中だ!さすがだな!…あ、悪い、真中…」

事前に公表しないようにいっておいたにも関わらず、けろっと忘れている担任。

悪びれた様子もなく、ぺろっと舌を出して笑っている。

『…はぁ』

いつものことで、りおはもう慣れてしまった。

「で、二位は山倉だ!いやー、お前らのおかげでうちのクラス平均トップだぞ!」

「…!おい!」

陸斗が珍しくあわてて立ち上がった。

「あ……。ま、まぁ、失敗することはよくあることだ!悪いなぁ、山倉!」

『…いっぺんシメんぞ、コラ』

陸斗の表情はあからさまに怒りに満ちていて、生徒達はビビりまくっていた。

その一方で陸斗の話題があちこちで持ち上がっている。

『先生ってば全然こりてないし…。ま、あたりまえかぁ。みんなは知らないもんね、陸斗が頭いいこと』

りおは隣にいる陸斗を見る。

放つオーラからして不機嫌Maxという感じだ。

『先生もアホだなー。陸斗の怒り買うなんて』

クスクスとりおは小さく笑った。

するとコンッとりおの机がゆれる。

陸斗が軽く小突いたのだ。

『笑ってんじゃねーよ』

『あはは、ごめん』

目で話をする二人。

陸斗の表情もいつもと同じくらいに戻る。


授業が終わり、休み時間のことだ。

「ねぇねぇ」

りおがロッカーにものを取りに行って席に戻ってみると、二人組の女子が陸斗に話しかけていた。

『あら、めずらしい』

「山倉君、二位とかすごいね!かなり意外なんだけど!」

いわゆるギャルといわれるような、クラスの中でも目立つ子達だ。

かっこいい類に入る陸斗に前々から目をつけていたのかもしれない。

「………」

陸斗は何もいわない。

ただケータイをいじっている。

「ねーねー、メアド教えてよ!」

「っていうか、今日遊びに行かない?」

「………」

やっぱり無反応な陸斗。

『もっと、笑ってあげればいいのに。…でも陸斗はすごい。嫌なものをちゃんと嫌だって示せる。私にはできないことだから。……よし』

りおは立ち上がると、囲まれている陸斗の背後から肩をたたいた。

「先生からクラス委員、呼び出しですよ」

「……どけ」

りおの言葉に陸斗はいって席を立つ。

「えー!いっちゃうの?!今までみたいにサボればいいじゃん!」

「…うるせーよ。どけっつったろ」

陸斗は乱暴に椅子を机にしまった。

りおは先に廊下に出ていた。

陸斗もその後を追う。

廊下に出て少し歩き人気のないところで二人は止まった。

「……よくもまぁ、あんな嘘がつけたもんだな」

「あ、やっぱりばれてる?だって、陸斗嫌そうにしてたから。それはもうあからさまに」

りおはクスクスと笑う。

「でも陸斗、これから大変かもね。女の子は怖いから」

そういってりおは陸斗を見る。

陸斗の表情は本当に嫌そうで、どこか遠くを見ていた。

「別に怖かねーよ、あんな奴ら。そんなことよりも、俺は……」

「ん?」

りおと陸斗の目が重なる。

なんだかとても不安そうな、そんな目をして陸斗はりおを見ていた。

『…俺が一番怖いのは…』

「陸斗?」

「……何でもねーよ。そろそろ戻るか」

「もう平気?」

「俺は平気だ。心配すんな」

「そう?じゃ、いこっか」

りおは笑顔でそういうと歩き出す。

「……ありがとな、りお」

陸斗はそんなりおの頭をたたく。

「…?どういたしまして」

二人して戻ると、りおの席に先程の女子が座っていた。

陸斗が戻ってくるのを待っていたのだ。

『あいつら』

陸斗はズカズカ進んでいくと、りおの席に座る女子に向かっていう。

「俺の前から消えろ」

『あー、陸斗ってば、私のことなんかどうでもいいのに』

陸斗の言動が自分のためであることが、りおは嬉しかった。

「えー、お話しよーよ!ねー、真中さんイス借りてていいでしょ?」

「あはは」

りおは肯定も否定もしない。

「ほら、真中さんもいいってさ!」

『いや、いいなんていってない』

その直後だ。

すさまじい音がした。

「何度もいわせんじゃねーよ!俺の前から消えろっつってんだよ!」

陸斗が自分の椅子と机を蹴飛ばした。

『キレさせちゃった』

りおは視線を女子達に向ける。

一瞬その場で固まっていた女子二人は、顔を見合わせると手にしていたケータイをしまい、りおの席から立ち上がった。

「山倉君って、そういうの様になっててカッコイイよね!」

「もうすぐ授業始まっちゃうから、またあとでメアドとか教えてね!」

そういって自分たちの席に戻っていく彼女たちに舌打ちし、陸斗は教室から出て行ってしまった。

『バカな子達』

りおは陸斗の蹴飛ばした椅子と机を丁寧に元に戻す。

『でも、人はちょっとした出来事であんなにも態度が変わるんだ。大事なのは変わるためのきっかけ…』

できるものなら、りおも変わりたかった。

そのためのきっかけがほしかった。

もっと他人と本気で関わっていけたなら、少しずつでも変わっていけたなら。

『そう思い始めたのは、陸斗に会ってからだって知ってる?ねぇ、陸斗』

そっと陸斗の机をなでてりおは思う。

その表情はとても穏やかだった。


次の授業から陸斗はサボっていた。

一人屋上で空を見上げる。

流れながら形を変える雲。

その雲に姿を隠したり現れたりする太陽。

まぶしさに目をつむる。

視界は闇の中。

『いつからだ…?いつから俺はこうなった?“あいつら”といた頃の俺はどこにいっちまった?』

閉ざしたのは瞳か心か…――。

『真っ暗で何もわからねー』


ふと陸斗は目を開けた。

『…俺…寝てた?今何時だ?』

ポケットの中のケータイを見る。

時刻は五時を回っていた。

その日の授業はとっくに終わっている。

「……人のこといえねーよな、俺」

陸斗に表情はなかった。

誰も、りおさえも知らないところで陸斗の心は陰っていった。

教室へ向かう廊下。

すれ違う人はいない。

部活専用の部室棟があるため、文化部でも高等部の棟内に残る生徒はほぼいないのだ。

『教室開いてなかったら、カバン置いて帰るか。大したもん入ってねーし。……あれ?』

薄暗い廊下にその教室は目立つ。

一つだけ明かりのついた教室。

陸斗の教室だ。

扉をゆっくりと開けると、目に入ってきたのはたった一人教室に残っていたりおだった。

一人窓の外に目を向けている。

「……り…お…」

「陸斗?おかえりなさい」

りおが優しく笑って迎えてくれた。

「…ただ…いま」

「どうしたの?具合悪いの?平気?」

陸斗の顔を見るなり、りおは焦って駆け寄った。

「え?あ、あぁ、別に何でもねーよ。それより、なんでお前まだここに…。……俺を…待っててくれたのか…?」

「うん!」

心から安心したようにりおは笑う。

陸斗はなんだかひどく泣きたくなった。

『“ただいま”なんていったのいつ以来だ?りおは…他の誰でもない俺を待っていてくれたんだ……』

「陸斗?」

「……ありがとう。ありがとな、りお」

涙は見せない。

その代りにあふれた“ありがとう”の気持ちと言葉。

今の陸斗にとっては精一杯の言葉。

そんな陸斗の気持ちをくみ取ってか、りおは微笑むと陸斗にカバンを手渡した。

「帰ろう、陸斗」

「…あぁ」

二人は歩きだす。

『陸斗が何を思って沈んでいるのか、私にはまだわかってあげられない。けど、陸斗が私を理解しようとしてくれているように、私も返してあげたい。今の私にできることをやっていきたい』

りおは隣を歩く陸斗を見上げてそう思った。

この日は梅雨が明けたことを、朝のニュースでやっていた。

つまりはやっと晴れてくれるわけで、傘も必要なくなるわけで…――。

「…そのはずなのに、どーしてこう」

「いわゆる夕立ちだろ?すぐにやむさ。向こうの空は明るいから」

下駄箱を出て、校門へ向かう途中、突然の雨にちょうど時計台の下で二人は立ち往生していた。

「虹…出るかもね」

空を見上げてりおがいう。

「…お前、この時計台の伝説知ってんのか?」

「え?この時計にもあるの?どんな」

りおは視線を陸斗に向ける。

陸斗はまだ空を見上げていた。

「時計の鐘が鳴っている間に虹を見ると願いが叶うんだと。……お、やむぞ」

陸斗がそういって、屋根の下から手を伸ばす。

すると、雨はゆっくり上がっていった。

「陸斗!あそこ、見て!虹!」

りおは陸斗の袖を引っ張って、空に大きく架かる虹を指さす。

「タイミング悪いなぁ。次に鐘が鳴るまで三十分もあんじゃねーか」

「陸斗には何か願いがあるの?」

「…え?…そりゃー、まぁ」

陸斗の頬が少し赤くなる。

「…そーいうお前はよ」

話をそらすように陸斗は聞き返す。

「私?私の願い…かぁ。何だろ、れおがもっとマジメにやってくれますようにとか?」

「なるほどな」

陸斗はクスクス笑った。

「あとはぁ、陸斗」

「あん?」

「陸斗が心から笑えますように。幸せになれますように。……なんてね」

「……りお」

りおは笑う。

まっすぐ陸斗を見て笑っていた。

自分のことではなく、誰かを大切に想う。

そんなりおをれおも陸斗も守っていきたいと想っていた。

「…だとしたら、誰かさんが心から笑って幸せになる。それが俺の願い。…なんて、な」

「誰かさんて?」

「さー、誰でしょー?」

陸斗はいたずらに笑って歩き出した。

「ねー、誰のこと?」

りおもその背中を追う。

自分を追ってくる足音を聞きながら陸斗は思う。

『いつか俺も、りおのように誰かを大切にできるんかな。…けど、りおは他人の事考えすぎだな。もっと自分の事優先してもいいのによ。なぁ、誰かさん?』

陸斗にとって大切にしたい“誰か”は昔からいつでもそばにいた。


「ここまででいいよ。遠回りでしょ?」

二人で歩く帰り道。

いつの間にかあたりまえのようになっている隣。

「別にいいよ。待たせちまったし、どーせ帰ったって俺一人だし」

「じゃあ、また食べてく?夕飯」

陸斗の顔を覗き込みながらりおはいう。

フッと陸斗が赤くなって顔をそむけた。

「だから、どーしてお前はそう…。それにあいつがいんだろ?」

「れおなら夕食友達と食べてくるってメール入ってたから」

「あ、そう。って、そうじゃなくて…」

「…だって、だってさ」

急にりおの表情が暗くなる。

「さみしくない?一人で食事するのって…。私はまだれおがいてくれるから。でも、今日みたいに、一人で食べるのはすごくさみしい。陸斗はそう思ったことない?」

「………」

陸斗は知っている。

淋しさも、苦しさも、孤独も。

けれど、それに慣れてしまってわからなくなっていた。

『…何か今日の俺は変だ。感傷的になりすぎてるのか、痛いところつかれてるのか。…俺らしくもねー』

「陸斗?」

「…へいへい。行ってやるよ。ごちになります。ただし、うまいもんな」

「はーい。おまかせください」

二つの影が並んで歩く。

夕日が少しずつ西の空に沈んでいく。

「もうすぐ夏だね」

「まぁ、六月だしな」

「そうじゃなくて」

「わかってるっつーの」

二人は笑った。

優しく、優しく。


気付くかどうかは人それぞれで、きっかけはどこにだってあるのかもしれない。


雨と一緒に色々なものが流れ落ちた六月は少しだけ痛かった。


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