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May:PART2

数日後、体育祭当日。

りおや陸斗が参加する競技で最初に行うのは女子の大縄だ。

持ち手を引き受けている陸斗はりおの目の前にいた。

一番端で跳ぶりおとは何もせずとも目が合ってしまう。

『何でこっち側の持ち手なんだろう…。……まさか、私が端で跳ぶこと知ってたの?』

陸斗は笑みを浮かべている。

「このヤロー」

小声でりおはいう。

『そういえば、れおも持ち手やらされたっていってたっけ』

そんなことをぼんやり考える。

その時だ。

「よーい、スタート!」

先生の合図で各クラスいっせいに縄が回り始めた。

『あのヤロー!何で、りおの目の前で縄回してやがんだ?!あぁ?!』

その頃のれおはりお達C組の方を睨んで縄を回していた。

その事にりおは気づいていない。

大縄が終わって他学年の競技を挟み、次は男子の騎馬戦だ。

幸いにも陸斗達C組の対戦相手はれおのいるE組ではなかった。

相手のクラスは陸斗がいるというだけで、最初から引け腰になっている。

そして試合開始の合図から終了の合図が出るまではあっという間だった。

C組の圧勝で終わり、喜ぶ男子の横を陸斗が抜けていく姿をりおは見ていた。

『まったく、ホント他人に興味ないんだから』

りおはクスクスと笑った。

それから昼食をはさんで、学年種目である借り物競走だ。

「さぁ、お待ちかねの借り物競走です!男女のペアがまずは五十メートル、それぞれ色々な方法で駆け抜けます!そして高い壁を協力して越えましょう!男子は見せどころだぞ!そして、その先にある箱から紙を取り、そこに書かれたモノを持って残り五十メートルを二人三脚で走ります!」

やけにテンションの高い先生が実況している。

毎年この借り物競走では何かが起こる。

何組目か、次はいよいよりおと陸斗の番だった。

立ち上がって待つ二人の姿をれおはその列の後方で見つけた。

『おいおいおいおい、何であいつとペアなんだよ、りお!』

しかし時はすでに遅し、今さら聞くことなどできなかった。

「ねぇ、どうするの?結局、竹馬も一輪車も練習なんてしてないよ?」

競い合う各ペアの前には、竹馬、一輪車、台車がそれぞれ置いてある。

りおはそれを心配そうに見ていった。

「平気だよ。俺に任せろ」

そう陸斗がいった直後だった。

「よーい」

パンッというピストルの音を合図にりおの足は地面から離れた。

「え?」

一瞬何が起きたのかわからない。

「おおっと!C組のペアいきなりお姫様抱っこで走り出したー!しかも速い!もちろんお姫様抱っこも可だぞー!」

相変わらずハイテンションな実況。

そのおかげでりおは自分の今の状況を理解する。

「ちょ、ちょっと!」

「黙ってねーと舌噛むぞ」

陸斗はいって笑った。

『何考えてんだ、こいつ?!』

一気に五十メートル駆け抜けると、陸斗は壁の手前でりおを放り投げた。

「きゃあ!」

「よいしょっと」

壁の上にりおは着地し、陸斗がひょいと上がってきた。

「C組ペア、楽々と壁を登ったー!」

「何考えてんのよ!人を投げんな!」

「うっせーな、おめーが軽いのがいけねーんだよ」

「んな!私軽くないし!」

壁の上で二人はぎゃあぎゃあといい合う。

するとぴょんと陸斗は先に飛び降りて手を差し出す。

「ほらよ」

「…な、何?」

「手ぇ、かせよ。お姫様」

「ば、バカにするな!これくらい降りられるわよ!」

そういってりおも飛び降りる。

「へぇ、意外と危ないこともできんだな」

そして二人は手を取り合って、走りだす。

箱のところにたどり着いた時、他のペアは壁のところで苦戦していた。

男子はなんとか上がれたとしても女子には少々きついかもしれない。

りおは箱の中から一枚紙を引いてそれを開く。

「さぁ、C組ペア!一番に箱にたどり着いた!引いた紙に書かれているのは?!」

「……双子…」

紙に書かれた言葉を実況に促されてつぶやく。

「双子だぁー!そう簡単に見つかるモノではないぞー!っとしかし、これは何というグッドタイミング!君は真中りおさんではないか!ということは君自身ともう一人が答えだ!」

「…マジかよ」

「…っていうか、誰がこんなの書いたのよ。…とにかく、れおを探してゴールまで行かなきゃ」

二人が探しに行こうと振り返った時だった。

すごい勢いでれおの方から飛び出してきた。

実況を聞いてりお達が動く前にれおが動いたのだ。

「りお!」

「れお!……どうしたの?」

れおの顔はあからさまに不機嫌そのものだった。

「なんでもねーよ!あとはゴールするだけだろ?!」

「うん。陸斗、二人三脚の紐貸して」

「あぁ」

りおは陸斗と自分の足を紐で結ぶ。

「きつくない?大丈夫?」

「平気だよ」

二人は互いに支え合うと走り出した。

れおも二人に並行して走る。

「このペアは二人の息がぴったりだ!もしや、二人の間には運命の赤い糸が…!」

「「何いってんだ実況!!」」

りおとれおがはもる。

「さすが双子!いうことも決まってます!」

決まるとか決まらないとかそういう問題ではない。

もうゴールは目の前。

その時だ。

「いやー、ゴール直前で転んでしまうのってよくありますよねー!」

「きゃあ!」

「「りお!!」」

実況がいらんことばかりいっていたせいか、りおはつまずいてしまう。

それと同時にりおの左右にいた陸斗、れおの二人がりおを引き寄せる。

「大丈夫か?!りお!」

れおがいう。

「ったく、危ねーな。けがしてないか?」

陸斗も続く。

「う、うん。二人ともありがとう」

りおがほっとしたように笑ってみせた。

「これはー!!まるで、姫を守る二人のナイトだー!!」

三人の絶妙なバランスに、実況の先生は思うままにしゃべっている。

「またいってるぞ、あの実況…」

「普通姫さんはこんなことしねーよ」

もっともな意見をつぶやく二人を、りおは静かに見守っていた。

そして、態勢を整えてから三人は一緒にゴールテープを切った。

りおと陸斗の足を結んでいたひもを陸斗は取る。

「俺、紐戻してくる」

「あ、うん。ありがとう」

陸斗は小さく笑い返して紐の返却にいった。

「れお、わざわざ出てきてくれてありがとね。れおこの後でしょ?がんばってね」

「おう!そうだ、最後の選抜リレー、俺アンカー走るから応援よろしくな、りお!じゃな!」

「……え?マジで?」

さわやかに去っていくれおの後姿をりおは呼び止めることができなかった。

『…アンカー…、それって結構…ううん、かなりやばくない?』

体育祭最後を締めくくる、選抜リレー。

アンカーへのインタビューは毎年のお決まりだ。

「お!先程は見事なナイトっぷりを見せてくれた真中れお君!双子のりおさんとはとても仲がいいんですね!」

「まぁねー。っていうか、アンカー一人足りなくね?」

「んー?あぁ、ちょーっとけがしたらしくて、今手当てしてもらってるそうだ!だが、責任もって走るそうだから!これが吉とでるか、凶と出るかー!お!手当が終わったようだ!」

救護テントから歩いて来る人影。

れおはこの時初めて知った。

今この場にいないのがC組のアンカーであり、それが陸斗であるということを。

「では、全員そろったところで、改めてインタビュー!れお君今の心境を一言で!」

「…C組アンカーには絶対勝つ!」

「C組というと?これはまた何という偶然!先ほどの借り物競走でりおさんとペアだった山倉陸斗君!けがの方は大丈夫かぁ?では一言!」

「…まぁ、せいぜい頑張ることだな、E組アンカーさん」

嫌味たっぷりに陸斗はいう。

「これは、二人のナイトが一人の姫をかけてのバトルかぁ?!学園一、二の問題児!おもしろくなりそーだ!」

実況が長々とインタビューしている間にスタートの合図は切られていた。

いっせいに走り出す一番走者。

『陸斗、足大丈夫かな…。私が転んだせいだ……』

救護テントの下で、陸斗を見送ったりおだったが不安や心配は尽きない。

『心配すんな。大丈夫だから』

そういって笑いかけた陸斗を信じることしかりおにはできなかった。

「……おい!借り物競走では、よくもべたべたと」

陸斗にそういって食ってかかるれお。

「それより、下手に手加減すんなよ。あいつのためにも…な」

それに陸斗は冷静に答えた。

「…すべてお見通しか。さすがお前だ。…変わってねーな」

「テメーこそ。とにかく俺やテメーがどうなろーとあいつにだけは…」

「……わかってるよ」

れおの返事とともにアンカーはトラックに出た。

陸斗やりおのクラスC組は六組中三番目。

れおのクラスE組は五番目を走っていた。

次々にバトンが渡されていき、陸斗もゆっくりと走り出した。

そして、バトンは陸斗に託される。

陸斗は一気にスピードを上げた。

その右足首にはテーピングがされている。

陸斗は借り物競走の時にりおの足と紐で結んでいた右足を軽くねんざしていた。

安静にしていれば大した怪我にはならないが、そんなことをしてリレーに出なければ、りおは余計な責任を感じてしまう。

だから陸斗は走っていた。

りおのそんな不安を取り除くために。

陸斗は一人抜いた。

その頃れおも走り出していて二人を抜き陸斗の後ろにつく。

陸斗の足は痛みを増していた。

それでも陸斗は走る速度を緩めず、トップに躍り出る。

負けじとれおも一人抜かして陸斗を追う。

ゴールが二人の目に入る。

そこでれおがラストスパートをかけた。

迫りくるれおの足音に応えて陸斗もスパートをかける。

『あいつの、りおのためにも一位でゴールしないとな…』

両者の速さはほぼ同じ。

あとは走り切るのみ。

「…陸斗!」

ふいに陸斗の耳にりおの声が聞こえた。

周囲の歓声の中、耳に届いたたった一つの声。

『…心配すんな』

ゴールテープを切ると同時に一発ピストルが鳴る。

「一位はC組!最後まで逃げ切ったー!惜しくも敗れたのはE組!」

『終わった…。…っつ』

走り終えたとたん、陸斗の足は急に痛み出した。

『…負けた…負けた!!こんな奴に!』

その横で、れおは肩で息をしながら陸斗を睨みつけていた。

そのことに陸斗は気付いていたが、いちいちかまっていられなかった。

救護テントでは今もりおが心配そうな顔で待っているのが見えていたからだ。

全員がゴールして最後の競技である選抜リレーが無事に終わる。

これで長い体育祭がやっと終わったことになる。

この年に残された一つの伝説。

“借り物競走でお姫様抱っこ”

後にも先にもそれをしたペアはいなかった。


体育祭後、教室に戻って担任からクラス全員にジュースが配られた。

「人数分しかないから、二本とるなよー!」

「せんせー!真中さんと山倉君がいないんですけど!」

りおの席の前に座る生徒がいう。

「保健室だ。山倉、足怪我しててな。真中は付き添ってる」

「真中さん付き添う必要ないのにね」

「もしかしたら、あれじゃん?脅されたとか?」

「えー!りおちゃんかわいそー!」

担任の言葉にクラスのあちこちからそんな話し声が聞こえていた。

そんな頃、りおと陸斗は保健室から教室に戻る途中だった。

「ったく、りおは大げさなんだよ。こんなけが、何でもねーのに」

「何でもなくない。私が転んだせいだし…。それに陸斗、私に心配かけないようにリレーも出て、足すごい腫れてるじゃない。…本当にごめんなさい……」

陸斗は隣でうつむいて歩くりおの頭をたたく。

「謝んな。お前のせいだなんて、俺は思っちゃいねーよ」

「でも…」

「大丈夫だって。それに俺こそ悪かったな、心配かけちまって。……ありがとう、りお」

陸斗が照れくさそうに笑うと、りおもつられて優しく笑っていう。

「ごめんなさい」

「だから、もういいっつうの」


体育祭の五月は嵐のように過ぎていった。


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