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March:PART3

フワリと風が吹く。

二人を優しく包み込みながら、垂れ桜をゆらす。

「…忘れてなんかいないよ。でも、私全然わからなくて…」

「だろうな。りおはニブイから」

陸斗はクスクスと笑いながらいった。

いまいち先が読めないりおは怪訝そうに陸斗を見る。すると陸斗はそっとりおの頭を撫でていう。

「賭けは俺の勝ちだよ」

その言葉にりおの表情は一瞬固まった。

そして無理に笑顔を作る。

「陸斗…告白したんだ…」

りおのわかりやすい言動に、陸斗はまた笑う。

「いや、まだだよ。これから告白するんだ」

「そ、そうなんだ。上手くいくといいね」

「あぁ。上手くいったら嬉しいな」

「早くその子のところいかなくていいの?」

心配顔でいったつもりが、その表情は切なさしかない。

と、陸斗はりおから一歩下がった。

そして改めてりおを真っ直ぐに見つめる。

「もう、ここにいるよ」

「え…?」

そっとりおの頬に陸斗は触れる。

「りお。俺はりおが好きだ」

「…?!」

驚きで目を丸くするりお。

そんなりおに陸斗は笑いかける。

「ただの幼馴染みとしてじゃない。俺はりおが好きだよ」

「う…嘘!」

りおが叫ぶ。

「何で嘘になるんだ。っていうか、告白を聞いて第一声がそれか」

若干キレ気味になる陸斗だが、フゥッとため息をつくと触れていた手をりおの頭にのせた。

「まぁいいよ。どっちにしたって、賭けは俺が勝ったんだ。一ついうこと聞いてもらうぞ」

まだ現実を飲み込めていないりおは一人慌てる。

「あの、陸斗…?!」

「りお。もういいんだ。他人のためじゃない、自分だけの幸せを見つけるんだ。りおはりおの幸せを優先していいんだ。これが最後の命令で、俺の願いだ」

そういって陸斗は優しく笑い、りおを撫でる。

そんな陸斗をりおは見上げる。

りおにとって、今ここで起きていること全てがまるで夢のようだった。

『…でも、どうか夢じゃないのなら、お願い…。私のこの気持ちがちゃんと陸斗に伝わりますように…』

頬はすでに真っ赤になり、恥ずかしさから、どこか伏し目がちなりお。

そんなりおが小さくいう。

「私の…私の幸せは、陸斗の隣にいて、初めて成立するの。だから、お願い。陸斗の傍にいさせて?私は…陸斗が好きだから」

「りお…」

陸斗は驚きながらも、りおの返事に優しく笑った。

その笑顔は、普段の陸斗より、ずっと子供っぽい真っ直ぐなもの。

そして陸斗はりおの手を引き寄せる。

「り、陸斗?!」

抱き寄せられたりおはパニックになりながら、陸斗の腕の中から陸斗を見上げる。

すると陸斗は余裕たっぷりにクスリと笑う。

「じゃあ、これからはずっと、俺の傍にいてよ」

「…!は…はい…」

「はい!そこでスト――ップ!!」

二人でいい雰囲気だったところに、突然れおが割り込んできた。

「いっとくがな、陸斗!俺はまだ認めてねーからな!」

りおをかばうように立ちながらいうれおに、陸斗はため息混じりにいう。

「…ったく、うるせーぞ、れお」

「れお、落ち着いて」

フーッと陸斗に対して威嚇するれお。

覚悟はしたつもりだった。

りおが陸斗への想いを自覚し、二人が互いに好き合っていることがわかれば、それを祝福しよう。

『そうやって、素直に“よかったな”っていうはずだった。そのために陸斗に誓いをたてたのに…!あー!!やっぱりダメだ!』

プルプリと怒りながら、れおが歩き出し、それをりおと陸斗は苦笑いしながら追いかけた。

陸斗にはれおが何を思って怒っているのか手に取るようにわかる。

ふと陸斗はりおに耳打ちした。

れおには聞こえないよう、こっそりと話す。

「れおがいってたんだ。秘密にしろっていわれたけど、さっき邪魔した罰として、りおに伝えとく」

「?」

「れおのやつ、前にいったんだ…」


『俺ずっと決めてたことがあるんだ…。…俺さ…りおに一番大切な人ができるまでは、俺の一番はどんな時だってりおだけ…。いつだってりおのもとへ一番に駆けつけようって。誰よりも大切で愛しい人なんだ。だから、りおがもし心から好きだって思える人に出会って、その人もりおを一番に想っているなら、素直に祝福しようって…』


「…ってさ。けど、実際はそう簡単じゃないみたいだ。れおのやつ、りおと彼女とで一番を選べないでいるんだ」

りおはそういわれて、前を歩くれおを見る。

そして陸斗の顔を再び見ると、頷いた。

りおはれおのもとへ駆け出し、その手をとる。

「…!りお?」

びっくりして立ち止まるれおにりおはいう。

「ありがとう、れお。でも、もういいんだよ。私じゃなく、れおの本当に大切な人を一番に想ってあげて。私はもう大丈夫だよ」

「りお?…まさか、テメー!いいやがったな?!」

れおは焦って振り返るが、そこにいる陸斗は小さく笑っているだけ。

「りお、俺違うんだ。りおが陸斗のこと好きだって知ってるし、陸斗のヤツがずっと前からりおを好きなのも知ってるから、覚悟だってしてたんだ…!それなのに、ダメなんだ!俺は欲張りだから、梨月のこと好きだけど、りおのこともやっぱり好きなんだよ!りおの一番が俺じゃないのが寂しいんだ…!」

「れお…」

りおの手を握る手に力が入る。

バツの悪そうな顔を繋いだ手とは逆の手で覆う。

そんなれおにりおは優しく笑いかけた。

「れお、私も選べないよ。だって、れおも陸斗も大好きだもの」

「りお…」

「選ぶ必要なんてねーんだよ。どっちも大切ならそれでいいじゃねーか。何も大切なものは一つとは限らない。それに俺は、れおを大好きだっていうりおが好きなんだ。きっとお前の彼女もそうだろ」

りおの後ろから、陸斗がいった。

幼い頃から、れおとりおを見てきた陸斗には、二人の絆がどんなに固いものかわかる。

りおを大事に想うれおだからこそ、親友として背中をおせる。

れおを大事に想うりおだからこそ、大切な人として守っていきたい。

そして、そんな二人だからこそ、心から信頼し笑顔になれる。

「結局、お前もりおには敵わねーってことだよ」

陸斗がいうと、れおはそれまでの空気をぶち壊して、叫んだ。

「テメー!人のこといえた義理か?!誰だよ!何度もりおのこと見舞いに来てたのはよ!」

「…!!」

「見舞い?」

りおが陸斗を見ると、陸斗はれおを睨んでいる。

「陸斗のヤツ、りおが寝込んでる時、心配で何度も見舞いに来てたんだぜ!」

「お前なぁ…」

「これでおあいこだろ!だいたい、テメーはかっこつけすぎなんだ!」

「もう意味わかんねーわ、お前」

いい加減、れおとのやり取りにも飽きてきた陸斗は一人先を歩き始める。

それが照れ隠しであることをりおは知っている。

手を繋いだままのれおが、いつだって自分を想ってくれていたことも…。

『…私はずっと、二人に守られて、支えられてきたんだね。今の私がいるのは二人のおかげだよ』

りおはクスッと笑って、れおの手を引くと、もう片方の手で陸斗の手をとる。

右手にはれおが、左手には陸斗が、三人は並ぶ。

「私、二人が大好きよ!」

「俺はりおだけ好きだ!陸斗のヤツなんか好きじゃねー!」

「あたりめーだ、気色の悪いこといってんじゃねーよ。俺だってりおだけだ」

「もう、喧嘩やめなよ」

そういいながら笑ったりおはふと振り返る。

少しずつ遠ざかる垂れ桜。

その時、フワリとりおの目の前を何かが通りすぎる。

『…あ!』

急いで目で追うが、それは再び風に乗ってどこかへ飛んでいってしまった。

「りお?」

「どうかしたか?」

「何でもないよ。帰ろ!」

そうして三人は歩き出す。

それはまるで幼いあの頃のよう。

時間を戻すことはできない。

全てがあの頃と同じわけでもない。

それでも、また三人でいられる。

また、新しい思い出を作りながら一日一日を過ごしていく。


数日後、終業式が行われ、全てが終わると、りおは一年C組の教室の鍵を締める。

改めて思い出されるこの一年。

四月の再会。

五月の体育祭。

六月の狂い咲き。

七月の七夕祭。

八月の肝試し。

九月の秋祭り。

十月のハロウィン。

十一月の学園祭。

十二月のクリスマス。

一月の初詣。

二月のバレンタイン。

そして三月。

『思えば最初から、陸斗のことを特別に感じていたのかな』

鍵を握りしめ、りおは思う。

「どうした?」

隣にいる陸斗が優しく問いかけるとりおは笑っていった。

「一年間、クラス委員お疲れ様でした。それから…一年間、待っていてくれてありがとう」

「…!俺の方こそありがとな」


想いと絆が繋がった三月はこれから先の未来へと続いていく。


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