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January:PART3

「この後、梨月はどうするの?」

帰路につきながら、前を歩く梨月にりおは聞いた。

「うーん、一度家に戻ろうと思って」

「そうだね。れお、梨月のこと…」

「わかってるって。ついでに新年の挨拶してくる。りおはどうすんだ?」

あからさまに陸斗を意識してれおはいう。

「私は夕食の買い出ししてから帰る。梨月のご両親にはよろしく」

「うん、了解。じゃあ、また連絡入れる」

「はいはい。気を付けてね」

そういってれおと梨月は一度真中家によってから梨月の家へ、りおと陸斗は買い物をするためにスーパーへそれぞれ別れた。

「さてと、陸斗は何食べたい?」

「りおの食べたいもの」

「うーん、何がいいかなぁ」

二人で歩く道。

並んで歩くのもいつの間にか当たり前になっている。

こうして正月を過ごせるだけで、どれほど嬉しいか。

そんな陸斗の気持ちにりおが気付くことはかなり難しいのかもしれない。

『気付いていないなら、それでもいい。いつか必ず、ちゃんと伝えるから』

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

「?」

ただ優しく笑う陸斗にりおは首をかしげる。

その仕草が幼い頃のりおを思い出させた。


スーパーで買い物を済ませ、真中家へと帰ってきた二人はさっそく夕食の準備に取りかかった。

この日の夕食はおでんに決まり、早くから煮始める。

その間、ソファーに座ってテレビを見つつ他愛のない話をした。

そうしているうちに、コテンとりおが陸斗の肩に寄りかかるようにして寝てしまった。

りおの顔にかかる髪をそっと耳にかける。

そこから見えるりおの寝顔に陸斗は小さく微笑んだ。

理由がなければ傍にはいられない。

寄りかかるりおに、陸斗も少しだけ体を預けた。

「…俺、お前の傍にいてもいいか…?」


それからおよそ一時間後、玄関のドアが開く音がした。

リビングに入ってきたのはれおだけだった。

陸斗に気付いたれおは、いつもの調子で叫びそうになる。

それをわかっている陸斗はすぐに人差し指を口元に持っていき先にれおを黙らせる。

「ったく、完全に信用しきってんな、りおのやつ」

れおは陸斗の座っている側のソファーの端に寄りかかった。

「少し怖くなる。こんだけ信用してくれてんのに、全てを話せないこと」

瞳を閉じ思い出す自分の両親のこと。

「いつか話さなきゃいけなくなるのかね」

「…もしかしたら…な」

れおの中に一瞬、“あの不安”が走る。

「その時…りおは…」

『…安心しろ。いざとなったら、俺の方から消えるから…』

口には出さない。

想いはいつであっても変わりはしない。

陸斗にとって幼馴染みであるこの兄妹が自分のことよりも大切だった。

「……ところでよ」

れおがそれまでとは違う口調でいう。

「……なんだよ」

「………」

「………」

「…………」

「…………」

「……………」

「……………だからなんなんだよ」

軽くキレぎみに陸斗は聞く。

「………お前、いつ告るんだよ」

「………はぁ?」

あまりに唐突すぎるれおの問いかけに陸斗はついていけない。

「まだ告ってねーんだろ?いついうんだ?」

「…あのなぁ、それは俺の勝手だろ?告ったら告ったでギャーギャーうるせーくせに」

「…まぁ、それは否定しねーけど。よくいわないままで我慢できるなぁ…って」

能天気にそういって振り向いたれおのマヌケ顔に、陸斗は一発殴り飛ばしたくなった。

その気持ちをなんとか抑えながらいう。

「俺だって普通に不安なんだよ。それに、俺の場合そう簡単な話じゃねーだろ?」

「案外思ってるより簡単だったりして」

「そりゃお前の希望だろ」

「まぁな。けど不安てなんだよ。お前の過去のことか?」

呆れ顔のまま陸斗はため息をつく。

「その不安も確かにあるけど、もっと根本的なものだよ」

「根本?まさか『もし上手くいかなかったらどーしよー!!』とか?んなわけねーよなぁ、陸斗に限って!」

「………」

「………マジ?」

りおが寝ていなければボコボコに殴っているところだった。

「相手の気持ちなんてわかるわけねーだろ。上手くいく保障なんてねーよ。第一、俺をその対象として考えてくれてるかすら危うい」

『……陸斗のやつ、一番肝心なトコ抜けてやがる…。っていうか、こいつは昔から色々考えすぎなんだ。答えなんてすぐ目の前にあるのに…』

そんなことを考えながら、れおはちょっとしたからかいを思いつく。

「あー、でも早くしねーと、どっかの誰かにもっていかれちまうかもしれねーなぁ。その前にさっさと告っちまった方がいーと思うなぁ」

チラッと横目で陸斗を見ると、陸斗がプッと吹き出して笑った。

「悪いけど、俺その心配だけはしてねーから」

「んな?!何でだよ!!」

「何でって、本人が仮にOK出しても、お前からの許可が降りないだろ。そう思うと、ちょっと可哀想だな」クスクスと陸斗が楽しそうに笑う。

からかったつもりが、いいように返されたれおは、今この時の状態をコロッと忘れていた。

「笑うんじゃねー!!」

「わっ、バカ!!りおが起きちまうだろ!」

れおが陸斗に飛びかかった反動でりおが陸斗の肩から滑り、ソファーからも落ちそうになった。

「りお!」

とっさにりおをかばってソファーに引き上げた陸斗だが、れおのせいで自分がソファーから落ちてしまった。

あげく、バランスを崩したれおがその上から降ってきてしまい、陸斗は下敷きになってしまった。

「いってー」

「まぁ、りおが無事でなによりじゃん」

れおはそういって笑って誤魔化した。

その横でりおが目をこすっていた。

「……ん………二人とも何やってんの?」

起きたりおの目に飛び込んできたのは異様な光景だった。

「ごめんな、りお。起こしちゃって」

「…いいから、早くどきやがれ!このアホゥ!!」

れおの下敷きになったままの陸斗が珍しく叫んだ。

「ったく、うるせーなぁ陸斗。親友のスキンシップだろ?」

のそのそと起き上がってれおがいう。

「何がスキンシップだ、気色悪い」

「大丈夫?陸斗。どこかぶつけたりしてない?」

りおが心配そうに陸斗を支え起こす。

「あぁ、平気だよ。ごめんな、起こしちまって」

りおの頭を撫でながら陸斗は苦笑いをした。

「私こそ寝ちゃってごめんね」

「疲れてんだよ、きっと。毎日こいつの面倒みてるし」

「おい!どーいう意味だ!」

「そのままの意味だけど?」

「テメー、りおが味方してるからって調子に乗るんじゃねーぞ!」

「さてと、りお。夕食の準備するか」

「そだね」

れおとのやり取りに飽きてきた二人は揃って話題をそれる。

「俺も手伝うよ、りお!」

れおが慌てピョンッとソファーを飛び越えてキッチンへ顔を出した。

「珍しいね、れおが手伝うなんて。そういえば梨月は?」

「そういやー、お前彼女と一緒だったんじゃなかったのか?」

「あー、梨月今日は自分んちに戻って、明日の朝また来るって。…うまっ」

いい具合に味のしみたおでんを味見という名のつまみ食いでれおは口へ運びながらいう。

「そっか、じゃあちょっと量が多いかな」

「まぁ、おでんなら日保ちきくし、大丈夫だろ」

「そうだね。あ、陸斗、先にお風呂入ってきて?」

りおがいって笑いかける。

「何で陸斗が先なんだよ!」

すぐにれおが叫ぶ。

「当たり前でしょう?陸斗はお客様なんだから」

「りお、れおのいうこときくつもりはねーけど、俺は別に最初じゃなくていいよ。そもそも客じゃねーし」

クスクス笑いながら皿を運ぶ陸斗は、この真中家にずいぶんと馴染んでいる。

この家で、三人一緒に過ごす時間はまるで足りないものが満たされていくような、そんな不思議な空間だった。

そう感じているのは、ここに集う三人皆同じ。

そして同時に抱える不安も。

けれど、不安ばかりに心を囚われているわけにはいかない。

そのせいで大切な想いを見失ってしまうわけにはいかないから。

「じゃあ、こーしよーぜ?りおが最初に入ってきてよ。そのうちに俺らで運んどくから。で、その次俺でその後が陸斗!この順番が一番だろ!」

さんざん陸斗といいあってれおが出した結論。

「え、陸斗が最後じゃない!」

「もうめんどくせーから、りお先入ってきちまえ。こいつと議論してるだけ時間のムダだって」

「確かに時間はもったいないけど…。…じゃあ、先に入らせてもらうね?」

「あぁ」

りおはすぐにリビングを出ていった。

その後ろ姿を陸斗は優しい瞳で見送った。

もう二度と失いたくない大切な想いを心の中に秘めたまま。

「早く告っちまえよ」

二人になって、準備をする陸斗にれおはいう。

「…またその話かよ」

「早く告って、いっそのことフラれちまえ」

「縁起でもねーこというんじゃねーよ」

陸斗は作業したまま、横目でれおを睨む。

するとニッとイタズラな笑みを見せるれお。

一通り、全てテーブルに並べ終えると、いいあっていた二人はリビングの大きな窓から庭を眺めていた。

二人の間にはかなりの距離があるが、二人がその庭に見るのは昔の自分達の姿だった。

「昔はお前も素直だったのに、なんでこうひねくれちまったのかね」

「テメーにだきゃいわれたくねーよ」

と、それから少したって、りおがお風呂から上がってきた。

「お、じゃあ、俺入ってくる!」

れおがすかさず入れ換わりで姿を消す。

「ごめんね、先にお風呂」

「いいって」

りおは陸斗の隣までいくと同じように外を見た。

「冷えるはずだな。降ってきやがった」

「あ、雪」

昼まではよかった天気がいつの間にか雪に変わっていた。

「ったく、風邪引くぞ?」

横に立っていたりおを見て陸斗はいう。

りおの髪からは雫が落ちていた。

陸斗はりおの肩にかかったタオルで、優しくりおの髪をふく。

「あ、ありがとう」

恥ずかしそうに下を向くりおに陸斗は笑いかける。

「今日は色々疲れたな。けど楽しかった」

「うん。私も楽しかった。おみくじの通り、うまくいくといいね、陸斗の恋」

「……あぁ、うまくいったら嬉しいな」

二人は互いに笑いあった。

これからを思い浮かべながら…。


新年始まり一月が終わった。


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