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January:PART2

数十分後、階段を降りてくる音がして、れおがリビングに入ってきた。

「おはよぅー」

まだ少し寝ぼけ眼のれお。

「もう少し濃い方がいいですか?」

キッチンの方から聞こえる声。

「いや、これくらいで俺はいいと思うけど」

れおの目が一瞬で見開いた。

キッチンへ駆け込んで、れおはフリーズした。

陸斗と梨月が二人並んで味見をしている。

それは端から見れば仲のいいカップルのやり取りでしかない。

「ちょ、ちょっと待てー!!」

れおが叫びながら二人の間に割って入る。

「あ、れー君おはよぅ」

「おはよ、梨月!…って、だから何やってんだー!」

「れお、お前朝っぱらからうるせーよ。りおが起きちまうだろ」

呆れ顔でれおに陸斗はいう。

その陸斗にフーッとまるで猫のように威嚇するれおの後ろで梨月は小さく笑った。

「何って、お雑煮の味見してもらったの。おせちはりーちゃんが準備してくれたから。れー君も味見する?」

そういって、梨月は味見用のスプーンをれおの口元へともっていく。

そうやって、一発でれおを黙らせることができる梨月を見て、陸斗はさすがだと思った。

と、陸斗はリビングの方に視線を移す。

「ったく、起こしちまったな」

ボソッと呟くと、りおの眠るソファーへ向かった。

そこにはまだ、りおがれおと同じように目をこすっている。

「大丈夫か?りお」

陸斗は優しくりおを支える。

「…あれ…私、いつの間にソファーで…毛布も…」

りおの横に腰をおろす陸斗はただ優しい表情でりおを見つめていた。

「おはよう、りお」

「おはよ、陸斗」

少しだけ照れたような笑顔でりおはいう。

他愛のない話をしながら笑うりおと陸斗をキッチンの方かられおと梨月が見守っていた。

陸斗と再会したりおは本当によく笑うようになった。

れおはつくづくそう感じていた。

幼い頃、三人で遊んだ日々を思い出す。

いつだって太陽のような笑顔で駆け回っていたりおが、少しずつ本当の自分を隠すようになって、笑顔を失っていった。

陸斗の両親の事故死、りおの記憶喪失。

失われ行く記憶とともに、遠く離れてしまった関係。

二人の再会はれおにとって恐れでしかなかった。

もし二人が親しくなって、過去を振り返った時、りおの笑顔が完全に失われてしまったら。

れおはただそれだけが不安だった。

もちろん、陸斗のことは信じていた。

りおと陸斗の関係がなくなっても、れおと陸斗の友情はなくなっていない。

それでも不安だったのは、れおにとってりおがずっと誰よりも傍にいた大切な家族だったから。

どんなことがあっても、自分にだけは笑いかけてくれたりおを守りたかった。

そんなことを考えながら、れおは静かにりおを見つめる。

陸斗と一緒に笑うりおの笑顔こそ、本当に守りたいものだった。

全ての不安が消えたわけではない。

今もまだりおの記憶に不安は残る。

けれど、陸斗と再会し、幼馴染みという関係を知ったりおが昔のような笑顔を取り戻したことも事実。

今はただりおの幸せを願う。

「れー君、大丈夫?」

珍しく真剣な顔で考え込むれおに梨月はいう。

「うん、大丈夫。ただ少し昔を思い出してただけだよ」

「昔?」

「りおを大事にしているのは、俺だけじゃねーってこと、今さら気付いたのかも」

そういったれおの表情は本当に優しいものだった。

「ごめんね、梨月!私寝坊しちゃって」

りおが梨月のもとへやってくる。

「おはよ、れお。もう平気?」

クルリと振り向いて心配してくれるりおが、れおには嬉しかった。

「うん、ちゃんと寝られたよ。だから平気」

そういってれおは笑顔で返す。

「そう。じゃあ、ちゃんと陸斗に謝ってね?」

「うん…って、え?!何で陸斗が出てくんだ?!」

せっかく兄妹で優しい雰囲気に包まれて笑っていられたと思ったれおは一気に現実に引き戻される。

「だって、れおが寝相悪いせいで陸斗ちゃんと寝られなかったんだから」

「つーわけで、今謝るっていったよな、お前」

りおの後ろから陸斗がいたずらに笑っていう。

「だ、誰がおめーになんか謝るもんか!!」

陸斗と比べて余裕のないれおが陸斗に敵うわけもなく、そんな二人を横目にりおと梨月は朝食を用意した。

朝食の後は初詣だ。

「ほら、二人ともお雑煮冷めちゃうよ?」


それから四人はそれぞれに支度を済ませ、玄関に集合した。

「それじゃ、初詣に行きますか」

れおがいって先頭を歩く。

真中家から徒歩三十分程の場所に大きな神社がある。

毎年大勢の人が集まる。

神社の敷地の前で四人は立ち止まった。

「スゲー人だな」

「毎年のことなのよ。いつもはれおと二人だったから、あまり意識はしてなかったけど」

初めて四人で来た初詣。

いつもははぐれてしまわないよう、れおがりおの手を握りしめていた。

けれど今年は違う。

梨月がいて陸斗がいる。

「もしはぐれたら、大鳥居の下で合流しよ」

「はいはい。はぐれないことを祈るけどね」

りおが苦笑いする。

「うっしゃ、行くぞ!」

れおは梨月の手を握り、人混みの中に入っていく。

りおと陸斗もその後に続く。

しかしこの時、りおの手は陸斗の手と繋がってはいなかった。

陸斗の差し出した手をりおがとろうとしたその時、後ろから一気に人の波が押し寄せ二人は流されてしまった。

れお達とはぐれるのは予想の範囲内。

けれど、りおにとって陸斗とはぐれるのは予想外だった。

「陸斗!!」

そして、それは陸斗にとっても同じこと。

『しくった。とにかく、りおを探さないと。…無事でいてくれ』

境内へは一本の大きな道が延びていて、人の波はそこを流れていく。

この本流に細い抜け道が途中いくつか延びていた。

陸斗ならいざ知らず、りおの小さな体では、人の波に流されるしかない。

「陸斗…!」

いくら叫んでも、周りの音にかき消されてしまう。

「どうしたの?君一人?」

突然背後から声がした。

人混みの中振り返ると、そこには二人の少年がいた。

りおよりも少し歳上に見える。

「一人なら、この後俺達と遊びに行かね?」

そういってその少年はりおの肩に手をのせた。

「や、やめてください!」

「えー?だって一人でしょ?」

少年二人は全く引こうとしない。

振りほどこうにも、できる状態ではない。

その時だ。

「きゃっ!!」

横からりおは腕を強く引っ張られ、気付くと一本の抜け道に出ていた。

「何だよ、急に道それちゃって」

りおを追って二人の少年も抜け道に入ってきた。

りおは怖くなって身構えた時だった。

「俺の連れに何か用か?」

後ろから抱き締められたかて思うと、聞き慣れた声が頭の上から降ってくる。

自分を抱き締めるその腕をりおはギュッとつかむ。

「ちっ、つまんねーの」

少年達は舌打ちすると再び人の波へ戻っていった。

「……ふぅ。りお、大丈夫か?怪我とかしてないか?」

先程少年達に発していたのとは全く違う優しい声。

抱き締める腕が少し緩くなった。

「りお?」

けれど、りおの手がなかなか離れなかった。

「…陸…斗…?」

陸斗からもりおからも、互いの顔は見えない。

けれど、声を聞けばいくらでも察することはできる。

陸斗は緩めたはずの腕に再び力を入れる。

「ごめんな、りお。怖い思いさせて。もう大丈夫だ」

「ありがとう、陸斗。助けてくれて…」

やっとりおの心も落ち着いて、りおは掴んでいた陸斗の腕を解放した。

陸斗もそれに気付き、りおを自分の腕から解放する。

「もう、平気なのか?」

その声にやっと互いの目があった。

そして、今になって二人とも頬を赤く染める。

「じゃあ、行くか」

「うん」

今度こそ手を離さぬよう、しっかりとつなぐ。

やっと本殿までたどり着き、お賽銭を投げる。

手を合わせ祈ること。

『今年もみんなが健康でありますように。…あ、あと、陸斗が両想いになれますように。そして願わくば…それまで陸斗の傍にいられたのなら…』

『りおが幸せならそれでいい。後は…少しでも傍にいたいんだ…』

二人は互いに微笑み再び手を繋ぎ大鳥居を目指して歩きだした。

その途中でおみくじがあった。

「ねぇ、陸斗!引いていかない?」

「あぁ」

順番におみくじを引き、二人は一緒に開いたら。

「わぁ!やったね!」

りおが嬉しそうにいった。

二人のおみくじはどちらも大吉。

各項目を見ながら、りおはふと思った。

「ねぇ、陸斗?恋愛のところちゃんと読んだ?」

「ん?恋愛?」

りおにいわれてその項目を見る。

『気持ちは素直に伝えるのが吉。またふとした誤解が絆を深め想いが通ずるなり』

「……………」

「よかったね、陸斗!」

「ハハハ…」

陸斗は自分のおみくじを眺めながら苦笑する。

「りおのはどうだったんだよ」

「私?私のは…」

りおは陸斗に自分のおみくじを見せた。

『自分を見つめ直すことで気付く想いあり。自分を貫くことが吉』

「って書いてあるけど?」

「そういわれても、私にはちょっと難しいよ」

「…だろーなぁ。いつだって他人優先だし」

「そんなことないけど?」

いって笑うりお。

りおの本当の気持ち。

それがわかるのはいつになることやら。

「ほら、全部読んだら木に結ぶぞ」

「うん」

丁寧に結びつけられた二つのおみくじ。

隣同士に並んだおみくじのようにこれから先も並んで歩けたら。

陸斗はそう思いながら最後にもう一度おみくじに触れた。

「来年もまた一緒にこられたら、ここに結ぼ?一緒にいられる保障なんてないけど」

「…なんで保障がねーんだよ」

「だって、陸斗にはきっと彼女ができるじゃない?そしたら、今みたいに傍にはいられないから」

少しだけ寂しそうに笑うりおを見て、陸斗はりおの手を強く握りしめた。

「彼女ができるかなんてまだわかんねーだろ。俺は…来年もお前と一緒に…」

「ありがとう、陸斗。…でも大丈夫!陸斗、絶対上手くいくから」

「その自信はどこからくるんだ?」

陸斗の複雑な表情に気付かないまま、りおは話す。

「だって、おみくじにはああやって書いてあったし、私も神様にお願いしたし。それに、陸斗の告白断る人なんていないよ」

陸斗を精一杯応援しているつもりのりお。

「お前なぁ…って、おい、ちょっと待て。お前、なんで自分のお願いじゃねーんだよ!」

「私のお願いだってちゃんとしたよ?みんなが健康でありますようにって。それに……」

決して口にしてはいけない願い。

陸斗が離れていってしまうその時まで、一緒にいられたら。

「それのどこが自分の願いなんだ」

「そういう陸斗は何をお願いしたの?」

「俺は……」

自分の願ったことを思い出す。

『……いえねぇだろ』

横を歩くりおがまっすぐ見上げている。

「…秘密ってことで」

「えー!ずるいよ、私はちゃんといったのに」

「あ、ほら、れお達もういるぜ?」

「話そらしてるし」

大鳥居の下、れおと梨月が立っていた。

陸斗に手を引かれながら、やっと四人合流した。

「はい、りお。りおの好きな苺飴。こいつと一緒だったから、そっちの方いけなかったろ?」

れおがいって、苺飴をりおに手渡す。

「忘れないでいてくれたんだね」

「当たり前だろ?今年は梨月も一緒に食べられるしな!」

「ありがとう、れお。陸斗の分は?」

りおの言葉にれおはフッと目をそらした。

「ほら、れー君、いった通り。山倉君の分もありますよ。はい」

梨月は陸斗に苺飴を渡す。

「ありがとう」

「ありがと、梨月。でも何がいった通りなの?」

りおがそう聞くと梨月はクスクスと笑いながら話した。

「それが、れー君てば最初山倉君のはいらないっていってて」

「こいつがいいそうこった」

陸斗がチラッとれおを見る。

「でも梨月が、きっとりおにコイツの分はどうしたのっていわれるよって」

「さすが、梨月ね」

拗ねたれおに苦笑いしながら、りおは梨月にいった。

それから四人並んで歩き出した。


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