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November:PART2

土日を挟んで月曜日。

風邪から完全回復したれおがルンルン気分で学園へ向かう。

「ったく、陸斗のヤツ、治りが遅いんだよ」

「んー、わからなくもないかも」

横を歩くりおがいう。

「なんで?」

「だって、陸斗の方がデリケートっぽいし」

「デリケートぉ?ないない!あの陸斗がデリケートなんて!……ウゲッ!」

「テメーにだけはいわれたくねーよ」

れおは後ろからマフラーを引っ張られた。

そこにいたのは、まだ鼻声の陸斗だ。

「何しやがる!」

「もう、平気なの?」

抗議するれおの陰からりおの心配顔が現れる。

「あぁ、ありがとな、色々」

「お礼なんていらないよ。私は私にできることをしただけ」

「俺をシカトすんじゃねー!!」

れおは二人の間に割って入ると、陸斗にくってかかった。

陸斗とりおは笑っていた。

幼い頃のあの日のように。


学園に着いて、三人は思い出した。

れおと陸斗の風邪でそれどころではなかったが、架音学園は十一月に学園祭を控えていたのだ。

すでに校内の飾り付けが始まっている。

「忘れてた…」

自分のクラスに入ると、机が全てさげられていた。

「あ、りおちゃん!もう風邪大丈夫?」

「え、あ、うん!ありがとう!」

よってきたクラスメートに弁解するのも面倒になって、りおは笑って応えた。

「おー、真中!山倉もいるか?お前ら大道具だからなー!」

「…は?」

教室の後ろの扉から担任がひょっこり現れ、二人を呼ぶ。

その言葉にりおと陸斗の二人は顔を見合わせる。

「お前ら二人して休みだった日に、舞台演出のクジ当たっちまってな。うちのクラス、劇やることになったからよ。とりあえず、今回はお前ら楽な役回りにしといたからよ。いつも大変なこと押し付けてるしなぁ」

『わかってんならやらすなよ』

ヘラヘラと笑っていう担任に陸斗はそんなことを思いなつつ、りおを横目で見た。

りおも同じことを思っていたようで、陸斗と目が合う。

二人は笑った。

「ありがとうございます。あの、ところで、劇の演目って…」

「あー、『Beauty and Beast』ってお前らも知ってんだろ?」

「『美女と野獣』ですか」

「大道具って何作るんだよ」

「お前らどうせクラス以外にも引っ張りだこだろ?だからバラだけ作ってくれりゃいいよ。一番重要なものだけど、二人で頼んだぞ!」

そういって担任は爽やかに去っていった。

この時、担任は大切な決定事項をいい忘れていた。

そんなことをりおと陸斗の二人が知る由もなく、バラの作成に取りかかった。


放課後の真中家。

「っていうか、バラって大道具か?」

「そこは突っ込んじゃダメだよ、陸斗」

用意した様々な材料を前に二人は四苦八苦していた。

「折り紙のバラに、布のバラ、発泡スチロールにプラスチック」

目の前に並んでいくバラを一つずつ見て、れおがいう。

「どれも完成度高いのに、まだ作ってるのか?」「なんかしっくりこなくて。それに、色々作っていけば文句もいわれないじゃない?」

「なるほど」

困った風にいうりおに、れおは納得する。

りおの向かい側にいる陸斗に目を向けると、細かい作業を黙々としていた。

「陸斗ってホントに器用だよね」

「そんなことねーよ」

そういって陸斗は小さく笑った。

それかられおを交え、試作品の中から使えそうなものをいくつか選んだ。


そして翌日。

クラスに持って行くと様々な意見が飛びかった。

結局、壊れてもすぐに修正のきくプラスチックが選ばれた。

劇の練習は順調に進み、とうとう野獣から王子へと魔法が解ける場面だ。

舞台上で繰り広げられる野獣と敵との一騎打ち。

戦いには勝利したものの、傷付き倒れた野獣のそばに美女が駆け寄る。

そして美女の『愛しています』の一言を合図に照明の効果で舞台上の二人の姿が見えなくなり、魔法が解けたことを表現した。

「ストーップ!」

監督をしているクラスメートの突然の声にりおと陸斗はびっくりした。

「山倉君!ここで入ってね!」

「………どこにだ」

突然の指名に陸斗は嫌な予感がした。

「え?先生から聞いてない?」

「………何のことだ」

「あれ、先生引き受けてくれたっていってたんだけど…。まぁとにかく、山倉君は王子様役だから、ここで野獣役と交代してね」

監督がニッコリと笑った。

王子役のことなど一言も聞いてない。

「俺は絶対やらないからな」

陸斗はきっぱりいって動かない。

その場の雰囲気が一変した。

りおは心の中でクスクスと笑った。

『さぁ、どうする?陸斗君』

りおのそんな表情を見て陸斗も心の中で怒る。

『“どうする?”じゃねーよ。俺は劇なんざゴメンだぞ』

その時だった。

「どーだ?ちゃんとやってるかー?」

その場の微妙な空気をもろともしない担任のお出ましだ。

「先生ー!ちょっとー!」

女子達が担任に駆け寄っていく。

あーだこーだと色々話し合っていると、陸斗が呼ばれた。

「…だりー」

ボソッと陸斗がいう。

「いってらっしゃい」

りおが小さくいった。

陸斗も加わってから、長引く話し合いに終止符を打ったのは誰でもない陸斗本人だった。

「あー!ウゼーんだよ!やればいんだろ!やれば!」

『あ、陸斗がキレた』

周囲がビクつく中、りおだけは陸斗を見つめていた。

『本当に嫌そうだなぁ、陸斗。そりゃそうか、目立ちたくないんだよね』


陸斗がキレて数日。

劇の練習は佳境に入っていた。

『っち、めんどくせー。あのクソ担任、楽な役回りっていってただろうが。何が“王子は最後ちょろっとしか出ないからやっちくれ(ハート)”だ。気色悪い。あー、思い出しただけでイラついてくる…』

ふと舞台の上からりおが見えた。

陸斗とりおの二人で作ったプラスチックのバラを丁寧に運んでいる。

その姿に少しだけ気持ちが落ち着いた。

「じゃあ、山倉君!セリフに動きつけてやってみてくれる?」

「……」

照明がばっちり陸斗を照らす。

野獣から人間へと戻った王子。

美女の王子を愛しく思う気持ちが呪いを解く。

「『呪いが…解かれたのですね…』」

「『…あぁ。貴女のおかげだ。貴女の想いが私達を救ってくれた。ありがとう。本当にありがとう』(ダリー)」

「『私の想いは本物です。私は貴方を…』」

王子は美女の肩を持ち、向かい合った状態でセリフをいう。

『……マジでこれいうのかよ。しかもその後、…キ…キスって…』

照れるとか照れないとかそういうわけではない。

ただ陸斗は嫌なだけだ。

美女役はりおの友人で、よく一緒にいる女の子。

確かに可愛いというよりも美人というタイプの美女役にはピッタリの子だ。

しかし陸斗にとって、そんなことは関係ない。

「山倉くーん!キスはフリでいいからね!」

「…あたりめーだ」

呆れながら陸斗は呟いた。

『……やるしかねーか。さっさと帰りてーし』

陸斗が心の中でぶつくさいっていることを、りおはお見通しだ。

『ちゃんと演じてるじゃん、陸斗。頑張って』

「……はぁ。…『今まで貴女が私に与えてくれた想いを言葉にして返しましょう。私はこれからも貴女と一緒にいたい。私は貴女を心から………愛しています』」

「『私もです』」

『…あー!もう、俺は知らねーからな!』

半ばヤケになって陸斗は王子を演じた。

そしていつだったか、りおにしたように、美女の頬を持ってキスをするフリをする。

二人がキスの後、見つめ合ったところで幕がゆっくりと下がっていった。

見ていたクラスメートから拍手が贈られる。

再び幕が上がって仏頂面の陸斗が現れる。

「すっごーい!山倉君、ちょーかっこいい!」

「あとは衣装合わせて、一回通して見ようよ!」

「俺達には関係ねーから帰っていいかね」

「大道具係とかもう必要ねーし、帰るぜ」

男女でパックリと意見が割れる。

結局、陸斗を含む役者と大半の女子が残り、道具作りの男子は帰っていった。

残っている女子の中には、例の陸斗ファンもいる。

『先に帰ってろ。待ってると何されるかわかんねーし』

りおのケータイにそうメールが入った。

返信をして、りおは外に出て行く。

『時計塔の下で待ってます』

「ったく」

「どうしたの?山倉君」

「…別に。悪いけど早く終わらせたいんだけど」


それから陸斗がりおのところに行けたのは、およそ一時間後だった。

周囲はもう暗く、そんな中、マフラーに顔をうずめて寒そうに空を見上げるりおがいた。

陸斗はそっと近付いてりおの手を握る。

ひんやりと冷たくなったその手を包む。

「あったかいね」

「ありがとな」


その後も放課後の練習は毎日のようにあった。


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