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September:PART2

「まさか…、れお二人分食べる気?それはさすがに食べ過ぎ…」

真面目な顔でりおはれおをのぞきこんだ。

りおのあまりにも拍子抜けな言葉にれおはキョトンとしたまま動けない。

その横で陸斗は頭を抱えてため息をつく。

「…って、ちっがーーーう!!そりゃ、りおのオムライスはマジ美味いけど!」

「え、じゃあ…」

陸斗そいつの分だよ!あー!ちきしょー!」

れおは陸斗を睨みつけ、りおの手を引いて家の敷地に入った。

りおはいまだに理解できていないまま、れおと陸斗を交互に見る。

「おらっ!入ってこねーなら、メシ出さねーぞ!」

ついてこない陸斗にれおはいった。

さも自分が夕食を作るかのような口ぶり。

「ん?ちょっと、作るの私なんだけど!」

すかさずりおが訂正する。

「はい、そうです」

『…落ち着きのねー兄貴だな、相変わらず』

陸斗は小さく苦笑して門をくぐり、二人の後を追った。

玄関に入り、靴を脱ぐとすぐにりおは指示を出す。

「れおは洗濯物しまって、陸斗はご飯作んの手伝ってね」

「あぁ」

「あぁ?!何で陸斗が手伝いなんだよ!俺がりおを手伝う!」

あまりの子供っぷりに、りおと陸斗は揃って呆れ顔だ。

「俺はどっちだってかまわねーけど?俺が洗濯物りおのも取り込んでいいならな」

ボソッと陸斗がいう。

「絶対ダメ!だー!俺が洗濯物取り込んでる間、りおに手ぇ出すなよ!」

そう叫ぶとれおは二階へと姿を消した。

『あのアホゥが』

フッと肩の力が抜ける。

その時、クイッと陸斗の服をりおが引っ張った。

「…れおに呼ばれたの?」

「…まぁな。お前が知りたがってた事を話すためにな」

「…二人は仲が悪いんじゃないの?」

りおが小さく聞いた。

一瞬の躊躇のあと、陸斗はポンッとりおの頭を叩いて呟いた。

「…それが一番の誤解だよ」

「え?」

「いや、後でわかることだ」

「?」

陸斗のどこか切ない表情。

今までに何度か見たことがあった。

こんな時、決まってりおは優しく笑いかけた。

「陸斗!また玉ねぎのみじん切り、お願いね!」

「…お前は鬼か」

「ほら、早く!」

りおは陸斗の腕を引いてキッチンまで行く。

陸斗は自分の腕をつかむその小さな手に大きな温もりを感じていた。

エプロンをつけてさっそく調理開始だ。

包丁がまな板を叩く音が響いた。

「陸斗ってすごいよね。みじん切りとか早いし、綺麗に切れてるし」

「このくらいのこと、お前の兄貴だってできんだろ」

「れお?あぁ、無理無理。れおぶきっちょだもん」

りおはそういうとクスクス笑った。

『即答…かよ。れおのやつ立場ねーなぁ』

「りーおーっ!!」

いつの間にかりおと陸斗の後ろにれおが立っていた。

「ん?あ、れお、いたの?」

「『いたの?』じゃねーよ!みじん切りくらい俺にだってできらぁー!」

「ちょ、ちょっと、やめなよ、れお!」

れおは陸斗から包丁を奪うと、陸斗が切っていた玉ねぎの残りを切り始めた。

「ほら、見ろ!これぐらい、俺だって!」

「わっ、バカ!よそ見すんなっ!手ぇ、切んぞ!」

「あぁ?……ギャーーー!!」

「…いってるそばから」

陸斗は呆れて頭をおさえる。

それからすぐにれおの手をひっつかんで傷口を流水にあてた。

りおはというと、れおが包丁を手にしてすぐ薬箱を取りに行っていた。

れおが何かしらやらかすであろうことを予想しての行動だ。

「れお、こっち座って。まず止血しなきゃ」

「ヴゥ゛。ごめん、りお」

手際よく手当てしていくりおと、それを黙って受けるれお。

そんな二人を見て陸斗は自然と微笑んでいた。

幼い頃の思い出が重なる。

『そういえば、こんな光景、しょっちゅうだったな』

「痛い?大丈夫?」

出血の量は多いものの、幸い傷はあまり深くなかった。

「はい、手当て終わり。れおはそこで見学しててよね」

「…はーい」

おとなしくりおのいうことを聞くれお。

ばつが悪そうに小さくなるれおに、りおは優しく笑いかけた。

「さてと、陸斗、お手伝いよろしくね」

「はいよ」

れおの一件ですっかり遅くなった夕食は、八時近くになってようやく完成した。

「あとは運ぶだけだし、陸斗は座ってて」

「いい。最後まで手伝う」

「ありがとう」

テーブルの上に料理が並ぶ。

りおと陸斗が席についてやっと食事にありつける。

「いただきます」

「はい、どうぞ」

りおの前にれおが、りおの隣に陸斗が座っている。

オムライスを口に運ぶ二人の顔を交互に見て、りおは微笑んだ。

「……何か、今日のオムライス、イヤ」

「イヤって、マズい?いつも通り作ったつもりだけど」

「そのバカは俺が玉ねぎ切ったのが嫌なんだろ。りおの作ったメシはいつも美味いよ」

「あ、ありがとう、陸斗」

頬を赤くしてりおは笑った。

そんなりおの女の子らしい仕草にれおは不機嫌になる。

「りおの作ったオムライスは美味い!スゲー美味い!けど、こいつの切った玉ねぎは嫌いだ!」

「お前の切った玉ねぎも入ってんぞ」

「う、うるせー!俺のはいいんだよ!」

「…これがみじん切りか?」

陸斗は自分のオムライスの中から出てきた、ビローンと繋がった玉ねぎを見せる。

「それは俺の芸術だ!」

「…またわけのわからんことを…。昔から変わらないのはいいけど、進歩はしろよな」

「あぁ?!よけーなお世話だ!」

れおと陸斗はいい合う。


クスクスッ。


「あぁ?」

「りお?」

二人を黙って見ていたりおは笑っていた。

「変なの、二人とも」

「おい、りお。こいつと俺を一緒にすんなよ」

「んだと、コラッ!!」

「あははっ!おかしい!」

静かに笑っていたりおだったが、我慢ができなくなり声を出して笑い出す。

陸斗は優しい目でりおを見つめた。

『こんなに賑やかに食事したのは久しぶりだな』

一人暮らしの陸斗にとって、りおとの食事はとても嬉しいものだった。

誰かといることは、つまり一人ではないわけで、その相手がりおなのだから余計に心が安らいだ。

『…りおは知らないだろ?俺がどれだけお前に救われているか。…いつか伝えるから。俺の想いと一緒に、数えきれない“ありがとう”を…』


「陸斗!紅茶いれるけど、飲むでしょ?」

食後、りおが笑顔で聞く。

その笑顔があるから、陸斗も笑うことができた。

「手伝うか?」

「大丈夫、座ってて」

「わかった」

食後のデザートというべきか、りおは紅茶とケーキを用意する。

その間、れおと陸斗は二人だけだ。

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「………………おい」

沈黙に耐えかねたれおがいった。

陸斗は目だけをれおに向ける。

「…記憶にない過去を、りおが信じてくれるかなんてわかんねーぞ。りおが自分の記憶を無理に引っ張り出して、へたに思い出したら、お前のことも拒絶するかもしれない。お前のことを今度こそ消すかもしれない。…それでもいいっていうのか…?」

れおが心配そうにいった。

「……お前はりおの心配だけしてろ。俺のことはいいんだよ。“あの時”お前にもいらねー負担かけちまったからな。だから、俺のことはいいんだ。お前とりおが笑っていられるなら、それでいい。俺はもう、お前ら兄妹の笑顔を奪いたくない……」

陸斗はそう答えた。

うつむきながら、何かを悔いるような、どこか辛そうな顔。

「……違う…だろ。そんなの、間違ってるだろ!そんな、陸斗だけが苦しむこと、俺は望まねー!りおだって望まねーよ!」

ガタンと椅子から立ち上がってれおはいった。

「りおがあんなに笑えるのはお前のおかげだろ!それなのに、何でお前は今も心のどっかで笑うことを躊躇ってんだよ!なんでいつも独りで背負うんだよ!俺は陸斗を……負担に思ったことなんて…ねぇよ!!」

れおの言動に陸斗は動じず冷静に見返した。

心の中では少し驚いていたのかもしれない。

れおの真っ直ぐな気持ちが、嬉しい反面くすぐったく感じる。

「……お前こそ昔から色々抱え込んでただろうが。お互い様だ。………ありがとな、れお」

陸斗は瞳を閉じ小さく笑っていた。

れおは少し悔しそうに、照れたように陸斗から目をそらす。

と、りおがケーキと紅茶をもって運んできた。

「れおでしょー?なんかギャアギャア騒いでたの」

「え?会話聞こえてた?!」

「ううん。ガタゴト音はしてたけど、ちょうど陸斗用のカップ取りに行ってたから」

「そうか。……ん?なんでこいつ用のカップがあんだよ!」

りおに話を聞かれていなかったことに安心したと思ったら、次から次へと新たな問題が出てくる。

「何でって…」

カタンと小さな音をたてて、ティーポットやカップ、ケーキの乗ったおぼんがテーブルに置かれた。

「何でっていわれても……ねぇ?」

陸斗に助けを求めるように視線を送る。

「そうだな。何でっていわれてもなぁ。…まぁ、しいていうなら」

陸斗はニヤリと笑って椅子から立った。

「…え?」

「んな?!!」

陸斗はりおの肩を自分の方へと引き寄せる。

「まぁ、何度も来てるし。なぁ、りお」

余裕たっぷりにれおを見た。

「ちょ、ちょっと陸斗?」

「あのアホに見せつけてやるか、りお」

そういうと、陸斗はりおのあごに手をかけ上を向かせる。

「え…?りく……」

その直後だ。

「だーー!わーー!ざけんな、コノヤロー!りおから離れろ!!」

二人の間に飛び込むようにれおは割って入った。

りおをかばうように自らの腕の中に隠す。

「ったく、やだね。兄貴のくせにヤキモチか?」

「んだと、コラ!」

「ちょっと、れお。離してよ、苦しい」

「あ、ごめん。…って、陸斗はよくて、俺はダメなのか?!」

「別にそういうわけじゃないけど…って、そんなことより…」

「そんなこと?!」

「そろそろ本題に入らなくていいのかよ、れお」「…あ…でもぉ!!」

れおは一人思い通りにならないことが気にくわないようだったがりおのことは解放した。

りおと陸斗は互いにため息をつきながら、椅子に座った。

一人取り残されたれおはしぶしぶ椅子に座る。

それを確認してから陸斗は話し出した。

「りおがどこまで気付いてるか俺にはわからないけど、俺とこいつは…」

「こいつっていうな!」

「……お前は俺が話終わるまで黙ってろ。りお、とにかく俺とれおは……」

「…親友…なんでしょ?」

「……」

「……」

陸斗とれおはそろって同じ表情をしていた。

「二人ともおんなじ顔。本当にそうなのか確信なんてないけど、なんとなくそう感じたの。だって二人似たもの同士っていうか、どこか通じるものがあるっぽかったから」

りおはクスクス笑った。

そして、ふと以前陸斗がピアノを弾いてくれた時のことを思い出す。

あの時陸斗のいった“親友”が誰なのか、やっとわかった。

そんなりおの横で二人はまだ浮かない顔をしている。

それは、りおが気付いたのは陸斗とれおの関係だけ。

りおも含めた三人の関係については、何も触れていないからだった。

「…りおにずっと隠してた事があるんだ。へたに“記憶”を探さなくていいからな」

真剣な口調で、けれどその瞳にはどこか恐れを含んだれおがいう。

「……俺達三人は、何をするのもどこへ行くのもいつも一緒だった。あえて、その関係に名前をつけるなら、俺達は……幼なじみなんだよ」

れおの言葉にキョトンとするりお。

それから何かを考え始めた。

『もう後には引けねーぞ。りおが受け入れてくれなきゃ、俺ら三人の関係は本当に“無”になっちまう』

『そうなったら、俺は二度とりおには近付かない。りおにとっての幸せを最優先にする。たとえりおが俺の存在を消したとしても、それだけは変わらねーよ。隠し続けることよりも、真実を話すことに決めたんだ。後悔なんてしない。それに俺は、今もりおを信じているから』

陸斗とれおはりおを見つめる。

りおの中で答えが出るのをただひたすら…。

その答えが希望か絶望か、今の陸斗とれおには待つことしかできなかった。


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