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August:PART3

完璧に切断されてしまった鼻緒を直すことはできいない。

あくまで応急処置でしかないが、陸斗の手から再びりおの足に戻った下駄は下駄の形をしていた。

「あれ…?」

「チェーンだから足痛くなるかもしれねーし、たぶんすぐに取れちまうから、ゆっくり行くしかねーな」

陸斗が立ち上がった時、りおは気付いた。

いつも陸斗の首にかかっていたペンダントがない。

「陸斗…」

「………」

「…ありがとう」

「…あぁ」


二人は最上階の奥の教室にたどり着いた。

コインが数枚残っている。

おそらく、まだE組に仕掛けにはまってたどり着いていないペアがいるのだろう。

コインをポケットにしまい、あとはりおのブレスレットだ。

陸斗の持つライトで床を照らしながら進む。

その時、何かが光った。

「おい、これ。水晶玉だよな」

陸斗が摘み上げたのは確かに水晶玉で、紐を通すための穴が開いていた。

「…たぶん私のブレスレットのやつだ。……落とした時に紐切れちゃったのかな…」

陸斗からその玉を受け取ると、りおはそうつぶやいた。

「全部は無理かもしれねーけど、名前の入った部分は絶対に見つけてやる。だから、諦めんな」

「……うん」

力なくうなずくりおの後ろを何かが通った。

そのことに気付いたのは陸斗だけだ。

「…ったく、素直じゃねーな」

「え?」

「いや、何でもねぇ。行くぞ」

先程見つけた水晶玉から、まだ近くにある可能性を考え二人は探した。

『…おかしいな。さっき見つけたの以外、一つも見当たらない。普通ならもっと……。…あれ?』

陸斗は明かりを階段の踊り場の端に向けた。

ひときわ光を集めるそれは、りおのいっていたネーム入りの部分だった。

「りお、あれ、そーじゃねーか?」

「あ!そう!よかった!」

りおはそれを取りに駆け出す。

「あほ!走るな!」

陸斗の声がその場に響く。

「キャッ!」

直後、りおのバランスが崩れる。

階段のところに仕掛けとしてかけられていた紐にりおは足を取られてしまったのだ。

りおの体はそのまま階段の方へと倒れていく。

「「りおっ!」」

その時、聴き慣れた二人の声が重なって聴こえた。

真っ白な布のお化けがりおの手をつかみ引いた。

「陸斗!!りおの方頼む!」

りおの手を引いた反動で、そのお化けが階段に放り出される。

「れお!!」

りおを抱きとめた陸斗がそう叫んだ。

『……え…?陸斗、今…』

その直後、すさまじい音をたててお化けは落ちた。

「ぃってぇー!!つーか、誰だよ!階段のとこに仕掛け作ったの!!危ねーだろ!!!」

陸斗はりおをその場に座らせると、階段を駆け降りる。

「おい!大丈夫なのかよ!」

「ったりめーだ!だいたい、テメーがしっかり守ってねーから!」

「それは……!」

陸斗はそれ以上いい返せなかった。

腰をさすりながらお化けは立ち上がる。

「りおが無事だったからいいけど。そうだ、水晶玉見てないか?」

お化けは陸斗にいう。

「一つだけ見つけて、りおが持ってる。…やっぱり、りおが失くしてたこと気付いてたのか」

「梨月にいわれて…だけどな。…でも、これで全部そろった」

階段の踊り場の端にあったネーム入りの水晶を拾い上げ、お化けは安堵した。

どこか優しい声でつぶやいたお化けはりおのところへと階段を上る。

と、その時陸斗がお化けの裾を引っ張った。

「今のりおに必要なのはお前だが、そんなもんかぶっていったらどうなると思ってんだよ。どこぞのバカなお化けさん?」

意地悪そうな陸斗の表情にカチンときたお化けは、かぶっていた布を陸斗に投げつけ、人に戻って階段を駆け上った。

『ったく、あいつだけは昔と変わんねーな』

その時の陸斗の顔がどこか懐かしそうにしていたことに誰も気付かなかった。

「りお!」

その声と一緒に上がってきたのはれおだった。

ペタリと座り込んだままのりおの前にれおも膝をついた。

そしてりおの体はれおに引き寄せられる。

抱きしめるれおの腕にも力が入り、りおの顔はれおの肩にちょうどのっかる。

りおはこの時ふと思った。

いつの間にこんな“男の人”になったのだろう。

こんなにも近くにれおを感じたのは久しぶりな気がした。

いつも一緒にいた二人。

けれど、いつの間にか遠くなっていた。

そして、れおもまた同じことを思っていた。

妹とはいえ、自分よりしっかりしていたりおが今は腕の中にすっぽりとおさまっている。

強いはずのりおがとても弱く小さく感じた。

『そうだよな。りおは女の子なのに、どうして“強い”って思ったんだろう。そりゃ、りおは確かに強い。けど、強がってるんだよな。気付いてやれなくて……』

れおはギュッとさらに抱きしめる。

「ごめん」

「…れお」

「ホント、マジごめん。一番そばにいる俺が何も守ってやれなくて、ブレスレットのことも、梨月にいわれるまで全然…。りおが肝試しに参加するっていったのだって、これを探すためだったのに、俺最後まで聞かなかったし…。……それから」

そういってれおはりおに一つの袋を渡した。

受け取って中を見ると、水晶玉が入っている。

「これ…」

「梨月に聞いてから、今までずっと探してたんだけど、玉が一つだけ見つからなくて……」

「それじゃあ、陸斗が見つけてくれたこれで全部…だね。ありがとう、れお。それから、私もごめんなさい」

「りおは謝んなよ!けど、これからはもっと俺を頼って……」

「何いってるの。私、れおのことすごく頼りにしてるのよ?だって、私達は家族なんだから」

りおが優しく笑いかける。

「りお…。あー、もう、ホント俺バカだぁー!!」

そういってもう一度りおを抱きしめた。

れおの向こう側、階段の下に陸斗が見える。

陸斗は優しくりおに笑いかけた。

『よかったな、りお。それから、俺もごめん』

りおもそんな陸斗に笑顔を向ける。

それかられおと何やら話すりおを陸斗は見守っていた。

「山倉君はやっぱり優しい方ですね」

「あんた、あのバカの彼女…だな」

「はい、川端梨月です。やっぱり、あなたとりーちゃん、変わるきっかけはお互いが持っているんですよ。りーちゃん鈍感ですから、きっと大変ですけど、でもすでにりーちゃんにとってのあなたはとても大きな存在ですよ」

いつの間にか梨月が陸斗の横に立って、微笑んでいた。

「れー君は“守ってない”っていってたけど、この旧校舎に入ってからりーちゃんのことちゃんと守ってましたよ。“色んなモノ”から…ねぇ?」

「まさか、あんたも視えてんのか?“色々”と」

「多少…ですよ。この旧校舎にはたくさんいますが、素質のある人には視えてしまうみたいですね。みんな悪戯を楽しんでいるだけですし、害はありませんが…あ、りーちゃんにもれー君にも一応いってあります。私がもともと視えるということだけは」

「…つまりは、この旧校舎に本物がいることは二人にはいってないんだな」

「えぇ。それに“みんな”にりーちゃん達にはあまり手を出さないようにいってありますから」

「よかった。俺は旧校舎にいるやつらしか視えねーし、声は聞こえないから。そうか、だから何も仕掛けてこなかったか。あいつを、りおを影で一番守っていたのはあんただな」

そういってりおを見つめる陸斗は穏やかに笑っていた。

「私は私にできることをしただけです。大好きなりーちゃんのために…。だから、山倉君も山倉君にできることをしてあげてください。これからも、彼女のそばで」

梨月はそういうと、りおとれおのいるところまで歩いて行った。

『俺は俺にできることをすればいい…か。さすがあのバカの彼女だ』

梨月の言葉を頭の中で思い返す。

忘れていた一番大切な何かを思い出せた気がした。

陸斗も階段を上る。

「りーちゃん、怪我、ない?」

「梨月!私は大丈夫」

「れー君も?」

「もっちろん!」

「よかったぁ」

フッと梨月は笑みをこぼす。

「……りお、大丈夫か?」

「陸斗!」

りおは立ち上がって、陸斗のもとへ駆け出す。

と、その時だ。

「わっ!」

「りお!」

りおがつまずき、れおの声が響く。

けれど、りおの先には陸斗がいる。

陸斗の腕に抱きとめられて、りおは申し訳なさそうに笑って見せた。

「だから、走るなっての。チェーンでつないでるんだから、足だっていてぇだろ。…俺はいつでもそばにいるんだ。お前を助けるために…な」

陸斗は微笑んだ。

少しだけ何かを隠した笑顔。

「ありがとう、陸斗。頼りにしてる」

「りお!!」

「ん?」

呼ばれて振り返ったりおの目には、不機嫌そうに見つめるれおが入った。

「どうしたの、れお」

「…どっちが頼りになる?!そいつか、俺か?!」

「…はぁ?あはは!何をいい出すかと思えば。どっちもだよ。れおも陸斗も、もちろん梨月も。誰よりも三人を信頼してるよ」

りおがクスクスと笑う。

「りーちゃん、れー君はヤキモチやいてるのよ」

「梨月!!」

梨月の言葉にれおは焦った。

「…ガキだな」

「あんだと!お前、りおがどんだけ面倒なこと一人で背負ってるか知ってんのかよ!いつも一人で抱え込んで!って、りおも悪い!」

「…お前、結局何がいいてーんだよ」

「だーかーらー!!」

余裕のある陸斗と、その欠片もないれおがいい争う。

りおと梨月は顔を見合わせると二人して笑った。

「れお、私は独りなんかじゃないってば。れおと梨月がいてくれたし、今は陸斗が力になってくれる。いつもそばにいて支えてくれる。だから私“大丈夫”って笑っていられるんだよ?」

「りお…。…どうでもいいけど、早くりおから離れろよなー!!」

れおがりおと陸斗を離そうとした、その時だった。

「ギャ――!!!」

すぐ下の階から悲鳴が聞こえた。

「あれ?この下の階に仕掛けなんか作ったっけか?」

「仕掛けは最上階と一階にしかないはずだよ?」

「だよなぁ。ってことは…」

れおと梨月がそんな会話をしいている横で、りおは陸斗にくっついていた。

すると小さな光が四人の前をフワフワ漂う。

「これって…」

「もしかして……ほ…」

「…って、りお?!おい、しっかりしろ!」

突然りおが崩れ落ちた。

「りお!」

「りーちゃん!…気、失ってる…ね」

駆け寄ってきたれおと梨月はりおが無事なことに一安心だ。

「…俺、こいつ本部につれていくから。帰りは送っていくけど。それともお前が連れて帰るか?」

「……いや、俺よりもお前の方がいいと思う。りおが今一番頼ったのは……あ゛ー!認めねー!けど、お前にしょーーーーがなく任せてやる!ちきしょう!」

「…何なんだよ、お前」

陸斗はあきれ顔でつぶやくと、りおを抱き上げ階段を下り始めた。

「…陸斗!」

「………なんだよ」

「…りおのこと頼んだからな。それと…」

「あぁ、わかってるよ」

れおがいい終える前に陸斗は応え、そのままその場を後にした。

「れー君…」

「…りおにばれるのも時間の問題…だな。もしくは俺から話すか。どちらにしても、その時は近い…」


陸斗はりおを抱えたまま、七夕池に足をのばしていた。

池に着いた直後、りおが目を覚ました。

「…あれ…私…」

「気が付いたか。おろすぞ。立てるか?」

「え?あ、ごめん!ってもしかして、旧校舎からずっと?!」

「さぁな。それより、これ見せてやろーと思って」

陸斗に促されて池の方に目を向けると、旧校舎内で見た小さな光が無数に飛んでいた。

「まさか…蛍?」

「あぁ。ここの池の水ってさ、けっこう綺麗なんだよ。だから毎年蛍達はここに来るんだ。これなら怖くねーだろ?」

「うん、すごく綺麗…。……陸斗」

「ん?」

二人並んで見る蛍の光。

それは儚くゆれる小さな光。

そっと伸ばした手に一匹の蛍がとまる。

りおはその蛍を見つめていう。

「今日は本当にごめんね。それからありがとう」

そしてフワリと風に乗せて逃がした。

「俺こそ、色々悪かった。それと、ありがとな。…さて、帰るとするか。ほらよっ」

「わわっ!ちょっと、陸斗!私もう大丈夫なんですけど!」

「足は大丈夫じゃねーだろ?安心しろ、誰にも見られないよーに本部まで戻るからよ」

陸斗は再びりおを抱えあげ歩き出した。

「陸斗、今さらだけど、このチェーンってペンダントのやつでしょ?本当にごめんね」

「別にかまわねーよ。チェーンは後から俺がつけたものだし」

陸斗は笑っていう。

「……もう一つ。…陸斗とれおって、本当は何かあるの?」

りおの問いに陸斗は一瞬戸惑いを見せる。

けれどすぐいつもの調子に戻っていった。

「…さぁ、どうだかな。ないっていえば嘘になるかもな。けど、俺からは何もいえねーよ。大丈夫、お前の兄貴がいずれ話すはずだ。安心しろ」

「………うん。陸斗の言葉を信じる」

「あぁ、“俺達”を信じとけ」

そういって、陸斗は再び笑ってみせる。

りおの不安を少しでもぬぐうため、そして自分がこれ以上弱くならないため」

『俺もれおも、お前に隠し続けてたことがある。でもそれはお前のことが何より大事だったからだ。だから…話せるまで待っててくれ』

「……ねぇ、陸斗!ヒントは?好きな人のヒント!」

「あぁ?!ったく、いらねーことは覚えてやがる。……『お化け嫌い』だな」

「へぇ!私みたいに?」

「……そーだな(だから、気付けっての)」

この肝試し終了後、陸斗はしっかりりおを送っていった。


肝試しの八月は、色々なものと一緒に過ぎていった。


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