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August:PART2

夜七時半、学園の時計塔の前にC組は集まった。

「えっと、では最後にもう一度ルールを説明します。ペアで懐中電灯を一本持って、校舎裏手の林を抜け旧校舎の最上階の一番奥の教室に置いてあるコインを一枚取って戻ってきます。戻ってくるまでのタイムが一番早かったペアが優勝です。女子は浴衣なので十分気を付けて下さい。では一組目スタートしてください」

りおの合図で順番に出発していく。

りおは出発した時間を一つ一つ記録していった。

そして最後のペアが出発した。

「これで終わり…と。あとは帰って来るのを待つだけ」

記録用紙を用意された机の上に置いて、りおは一息ついた。

「何だ、真中は行かないのか?」

担任が寄ってきていう。

「記録なら俺がやっといてやるから、山倉と一緒に行ってこい!お前らだって優勝すりゃあ、賞品貰えんだから!ほら、行った行った!」

担任はいいながら陸斗の腕を引っ付かんでりおとくっつけ背中を押した。

「行ってらっしゃーい!」

半ば強制的にスタートをきらされた二人。

「っち。あのクソ担任。こういう時たけ仕事しやがって」

陸斗がボソッと呟く。

校舎裏は思いの外闇が強かった。

七夕祭の時は一定間隔で照らされていたが、今はたった一つの懐中電灯だけ。

陸斗がその灯りを手に歩き、その少し後ろをりおがついていく。

「元気ねーな、この頃。兄貴と喧嘩でもしたんか?」

陸斗がいう。

しかし返事がない。

「…りお?」

陸斗は振り返ってりおを見ると、りおはその体を小刻みに震わせていた。「りお!!」

すぐに駆け寄ってりおの手を取る。

「お前、具合でも悪いんか?!」

「……」

りおは俯いて首を横に振る。

その様子で陸斗はピンときた。

「……お化けか」

「…平…気」

やっと出たりおの言葉は小さく消え入りそうなものだった。

「…はぁ。俺がついてるから、心配すんな。さっさと終わらせて帰んぞ」

「…うん」

力強く握りしめた手。

まだ震える小さな手。

自分を頼ってくれるその手に陸斗は自然と笑みがこぼれた。

「…そうだ」

「……?」

「怖いなら俺が背負って走るか」

「んな?!!何いってんのよ!そんなのダメ!絶対無理!私浴衣だもん!」

顔を真っ赤にして焦るりおをつい可愛いと思ってしまう陸斗。

「あはははっ!少しは怖いの吹っ飛んだか?」

「……もう!!」

りおはからかわれたことに対する恥ずかしさを怒りでごまかす。

陸斗はいまだに笑いが収まらないでいた。

そんな陸斗にフイッとりおはそっぽを向く。

髪飾りの鈴がリンと鳴る。

「それ、自分で着付けたのか?」

「え?あぁ、浴衣のこと?うん、自分でだよ」

淡い水色に鮮やかな紫陽花の絵柄の浴衣。

「似合わないでしょ?」

「そんなことねーよ。似合ってるって。けっこう感じが変わるな、やっぱり」

「そう…かな」

りおはふと毎年浴衣を着た時にれおが必ず『似合ってる』といってくれていたのを思い出す。

「…やっぱり元気ねーな。どした?お化けか?兄貴との喧嘩か?」

りおの小さな声に、陸斗は心配そうにいった。

陸斗に手を引かれながら暗がりを進む。

その時だ。

ガサッと草むらから音がしてE組の仕掛けが発動した。

「キャー!!」

木々の間から傷だらけの人形が飛んでくる。

とっさに陸斗はりおをかばうように自分の腕の中に隠した。

仕掛けが止まって人形が再び木々の間に戻っていくのを確認して、陸斗はゆっくり腕の力を抜きりおを自由にする。

が、りおがしがみついたまま動かない。

「おい、マジで大丈夫かよ。体調悪いっていえばきっと休ませもらえる。戻った方がいい……」

陸斗がそういうと、りおがゆっくり離れて首を横に振る。

「ダメなの。以前、肝試しのために委員会のメンバーだけで旧校舎に入ったでしょ?私その時失しちゃったの…。私のブレスレット。旧校舎、いつも鍵かかってて中に入れなくて……。探さなくちゃ……」

涙は見せないものの、今にも泣き出しそうな顔で自分の左手首を握るりおを陸斗は見つめた。

「…そんなに大切なもんなのか?」

りおは小さく頷く。

「あれは…れおと私を繋ぐもの…」

「…それが喧嘩の原因か?」

「違うの。れお、その事にたぶん気付いてないの。喧嘩っていうか、なんていうかれおは悪くないんだよ。れおはただ心配してくれただけ」

そういったりおの表情はどこか切なそうに見えた。

そんなりおを見て放っておける陸斗ではない。

「あー、わかったよ。しゃーねー、俺がついてるからいざって時は担いでやる。…ほら、手ぇかせ」

「え?」

「また何か出てきたらどーすんだ?浴衣じゃいつもみたいに身軽な行動はできないぜ?守ってやるよ、俺がお前を」

差し出された陸斗の大きな手をりおはそっととる。

ぶっきらぼうな言葉に隠れた陸斗の本心をりおは知らない。

『旧校舎は“色々”いるからな。…まったく、しょうがねーなぁ』

陸斗はそんなことを考えつつ、穏やかに笑っていた。


「キャー!!」

E組の仕掛けがまた発動する。

悲鳴とともにりおは陸斗に飛びつく。

りおにとって今恥ずかしがっている余裕はない。

それとは逆に陸斗は恥ずかしさを通り越えて余裕がなくなっていた。

「キャー!!!」

りおの目には涙が溜まっていく。

それを見て陸斗はくっついたままのりおを抱きしめた。

『ったく、よくこんなんで旧校舎まで探しに行くとかいったよな。つうか、俺の心臓がもたねーよ』

暗闇の中、表情を確かめるすべは少ない。

陸斗の顔は赤く熱を持っていた。

その後もりおと陸斗はお互いに別の意味で余裕がなかった。

やっとの思いで旧校舎の前まで来た二人にやっと星の光が見える。

「…ごめんね、陸斗。…何度も抱きついて。陸斗好きな人いるのに…」

「……あほぅ。んなこと別にいいんだよ。いったろ、鈍いやつだって」

陸斗は落ち込むりおの頭を叩く。

「でも…」

「でももへったくれもねーよ。おら、ブレスだかなんだか探しに行くんだろ?行くぞ」

陸斗は旧校舎の扉を開けて入っていく。

「ちょっと!」

慌ててりおは追いかける。

下駄特有の足音が響いた。

「走るとコケるぞ」

「そんなお決まりなことしないよ。先に行く陸斗が悪いんだから」

いつものような強気な言葉とは裏腹に、りおの心は恐怖に震えている。

自然と陸斗が支えると、自然とりおもそれを頼っていた。

「で?どんなやつだ?」

旧校舎の中を歩きながら陸斗がいう。

「えっとね、水晶の玉がつながった数珠なの。一つだけ平らなんだけど、そこに名前が彫られてて……」

「…とにかく水晶なんだな?」

「うん」

りおは小さく答えた。

「…心配すんな。絶対見つけてやるから」

そういう陸斗をりおはジーッと見つめてクスッと笑った。

「…あんだよ」

照れながらいう陸斗にりおはそっという。

「陸斗、前よりもずっと本当ので笑うようになったね」

「んな!!別に俺は!!っていうか、そりゃお互い様だろーが!」

「あ、照れてんの?」

「うるせー!んなことどーでもいんだよ!だいたいお前はすぐそうやって……ん?」

さんざんいいあっていた陸斗が急に足を止めた。

「何?どうしたの?」

「……何か首に冷たいものが…」

「…え?」

するとヒュッとりおの耳元を何かが通り過ぎ首に触れた。

ひんやりと冷たい何かが。

「キャーッ!!!!!」

りおはそれを払いのけようと動いた直後、下駄に違和感を感じた。

前にむかって倒れ込む。

それも陸斗を巻き込みながら…。

りおが倒れそうになった時、いつものように腕を引いた陸斗だったが、勢いがありすぎたようだ。

『…忘れてた。りおのやつ今日下駄だった』

靴ならきくはずの踏ん張りが下駄ではできない。

ましてやりおは浴衣だ。

『いつもみたいに身軽な行動はできない』

陸斗がいった通りだった。

とっさの行動がとれない。

その結果、二人して倒れてしまった。

陸斗はりおの頭をかばうので精一杯で体勢を直すことができない。

「………大丈夫か?…………悪い」

りおの頭の下に陸斗の腕が、そしてもう片方の手で陸斗は自分自身を支える。

りおの顔のすぐ上に陸斗の顔がある。

危うい接触はギリギリ避けられたわけだ。

とはいえ、事情を知らない人が見ればその体勢は十分に怪しい。

陸斗はそっと自分の腕をりおの頭の下から抜いた。

陸斗が体勢を戻すのを待ってから、りおも体を起こした。

「ご、ごめん。陸斗腕痛かったよね…」

「いや、りおが怪我してねーならいい。…立てるか?」

陸斗はりおの手を取って引き上げる。

「わわっ」

「大丈夫かよ。…ん?なんだ、鼻緒が切れてんぞ。…貸せ」

陸斗はしゃがみ込むと、りおの左足の下駄を手にする。

「俺の肩につかまってろ。またコケるぞ」

陸斗の言葉にりおは先程の事を思い出し、顔が赤く熱を持った。

だからといって片足で立っていられる程下駄は楽ではなかった。

この時だけは素直に従うしかない。

陸斗の肩にそっと手を置いてみる。

「おい」

「な、何?あ、重いよね?!ごめん!」

「ちげーよ、あほぅ。お前、今日学校来てからこの下駄脱いだか?」

顔を上げた陸斗は何やら怒っているようだった。

「…うん、一回。校舎の中入ったから。……どして?」

「その時、近くに俺達のクラスの誰かがいなかったか?」

「え?あぁ、確かいたよ?って、だからどーして?」

「誰だ、誰がいた!」

「だからどうしてそんな事聞くの?!」

「いいから答えろよ!」

陸斗がこんなに怒っているのをりおは初めて見た。

「……七夕祭の時、陸斗とペア組んだ女の子とそのグループの子…。ねぇ、陸斗…。どうして、そんな……」

りおが小さくいう。

その声に陸斗はハッとなった。

「……悪い。お前にキレたわけじゃねーんだ。…ほら、これ見てみろ。鼻緒に切れ込み入れてあんだろ。そいつらの仕業だ。…ごめん、俺といるばっかりに…」

悔しそうに唇を噛む陸斗の姿も初めてだった。

陸斗は恐れていた事が現実になりつつあると感じていた。

『…俺のせいでりおが傷付けられてる。……“あいつ”に守って約束したのに…。守れてねーじゃねーか…!』

「…陸斗!!」

黙り込んでしまった陸斗にりおは叫ぶ。

「…大丈夫?」

「……ごめん」

「…どうして?どうして陸斗が謝るの」

「どうしてって、俺と一緒にいるからお前に!それでも俺はりおと…!」

陸斗はいい掛けてやめる。

暗闇の中、二人の影が窓から入る月光によって浮き上がっていた。

「私…は、陸斗といたいよ。それに…私は陸斗が無事ならそれでいいんだから。陸斗が謝ることないんだよ。私がここに、陸斗の隣に立っていたいだけだから」

りおは笑いかける。

陸斗が怒ったわけも、自分を守ろうとしてくれていることもわかったから。

そんなりおの笑顔はたった一人、陸斗にだけ向けられたものだった。


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