最初は・・・
続きは今連載中の作品が、区切りの良い所まで行ってからとなります。ご了承ください。
体験没入型ゲーム。この数年で急成長したVR技術を利用した、世界観を擬似的に体験出来るゲームの総称だ。歩く、走るといった基本的な動作は思考するだけで出来る上に、煩わしいメニューボタンは目線や手振りだけで操作する事が出来るようになった。一昔前なら合計で数キロあったヘルメット状のハードも、今では眼鏡より少し重い程度というのだから、当時を知る人には驚きの一言だろう。───因みに僕はその頃を知らない。
生体電気を読み取る云々という長ったらしい理屈も記載されているけれど、そんなの僕達にはどうでもいい事だ。遊んでいて楽しい───その事実さえあれば。
「これがマイワールドかぁ・・・。中世?」
名前入力を経て、ゲームが始まった。転送された先は最初の町で、ゲーム内に幾つか用意された場所に、ランダムで転送されるらしい。街そのものは特に差異がある訳ではなく、一箇所にプレイヤーが集中しないように、という配慮らしい。
風景は何かの漫画とかアニメで見た、十何世紀かのヨーロッパみたいな雰囲気だ。さて、最初は何処に行けばいいんだっけ?
「へいらっしゃい。何をお探しで?」
案内板を頼りに武器屋へ行くと、入った瞬間にNPCの声が響いた。幾つかの街毎に声が違い、確認している限りでは十数種類も用意されているんだとか。使い回しじゃないんだ・・・。
武器は個人が選んだステータスによって、装備の可否が決められている。僕は初心者お勧めと書かれていたバランス型を選んだ。
このゲーム、ステータスには表記が四つしかない。筋力と敏捷性、器用さ、賢さだ。わざわざ日本語にしたのは、分かりやすさからだろうとまとめサイトには書かれていた。───実際は某国民的ゲームを意識したから、と後で知った。───
改めて売られている装備を見る。ブロードソード、ショートダガー、クロスボウの三種類と皮の鎧、皮の盾が並べられていた。ラインナップは明らかにアレだ。深くは追求しない。
今のステータスでは、ダガーと皮の鎧しか装備出来ない。ブロードソードは筋力が足りないし、クロスボウは器用さが足りないからだ。ダガーは二刀装備だから、必然的に盾も却下。初期資金で購入出来るのは、装備品と回復薬が少しだけだったかな?
所狭しと人が動き回る街は、初心者とそれ以外が入り交じっている。僕が転移した所は所謂当たりだったようで、中級以上のプレイヤーも多く集まる場所だったらしい。
「すいませーん、ちょっといいですか?」
情報板を見る人の中で、自分と似たような系統の装備をしている人に声をかけてみる。何となく、その方が話しやすそうだったからだ。
「ん、俺の事か?」
「はい、このゲーム初めてで、色々教えてもらえればと思ったんですけど・・・。取り敢えず、最初の狩場でお勧めとかあれば」
ついてきな、と案内されたのは街を東に出た草原だった。動きが遅い上に単純な攻撃パターンしか無いモンスターが、ここには大量に湧いてくるらしい。
「ここで二時間も頑張れば、ある程度資金も貯まるし。もしまた見掛けた時に声を掛けてくれれば、別の街への行き方も教えるよ。敏捷特化ってあんまりいないからさ、分からない事は何でも聞いてくれ」
そう言い残して、その人は消えていった。多分ログアウトしたんだと思う。うーん、急いでるとしたら申し訳ない事をしたかな?
適当に狩りを終えて時計を見たら、そこそこ良い時間になっていた。明日も学校があるから、そろそろ寝ないとまずいかな?もしゲームをやってて寝坊した、なんてなったら親に没収されるだろうし。・・・このハードとソフトを買うのに、二年も我慢してお小遣いを貯めたわけで。没収されたらショックで立ち直れない。
学校に着いてすぐ、強烈な眠気に襲われた。布団の中でもステータスやスキルについて考えていたら、朝になっていたんだ。情報サイトも参照しながらシミュレーションした結果、特別に知り合いのいない僕は、ソロ効率も高い敏捷型が向いていそうだった。キャラクターの作り直しも出来るみたいだから、試してみてもいいかもしれない。昨日教えてくれた人も、敏捷特化とかなんとか言っていた気がする。・・・学校が終わったら、すぐログインしたい。
授業中に睡眠時間は確保した。いや、本当は駄目なんだけど。とにかく眠気は消え去って、後は家に帰ってゲーム三昧だ。都合のいい事に、明日明後日と連休になるし。更に両親不在と、奇跡的な重なりだ。
「さーて、今日もレベリングしますかー」
ログインしてすぐ、装備とストレージ容量を確認する。装備には耐久値があって、使っていくうちに劣化していく。鍛冶屋で修理出来るけれど、余程高価な物でなければ使い捨てが良いんだとか。費用を見てみたけど、確かにお高めだった・・・。
回復薬は殆ど・・・というか、全く使わない。最初は結構もらっていた攻撃も、見てから回避出来る程度には慣れたからだ。出費は抑えていかないと、欲しい装備が買えなくなってくるし。
「んー、やっぱりこの辺は人いないなー」
昨日案内してもらった場所から少し離れると、大きな森があった。そこに湧いてくる蜂とイノシシが、僕の経験値だ。たまに出てくる白蛇もなかなか美味しくて、見る間にゲージが伸びていく。イノシシはヒットポイントが高いのか、そこそこ時間がかかるけど。
「何だありゃ・・・?」
メイン狩場から出てくると、一人のプレイヤーがホーンビーと戯れていた。ホーンビーは初見殺しの嫌なやつで、毒針と毒液攻撃がかなり厄介なモンスターだ。素早い動きで突いてくるし、離れたら毒液を噴射してくる。それが十数匹襲ってくるもんだから、運営マジ許せんと言っている初心者は多い。ある程度育てば、自ずと対処法は見えてくるんだが。
そいつは軽く二十いるその蜂を、ショートダガーだけで対処してやがる。店売りの一番安い武器だし、防具も革製の胸当だ。どう見たって中級以上じゃない。
「おいおい・・・、クラギースネークもかよ?!」
クラギースネークは数時間毎に湧いてくるレアモンスターで、実は森の中で一番経験値効率がいい。ワイルドボアもなかなか美味いけど、スネークはあれの三倍あるからなぁ・・・。その白蛇をそいつは、安いナイフ三本を投げて沈めやがった。有り得ねえだろ・・・?
【質問】クラギースネークとホーンビー
1.プレイヤー名が入力されていません
タイトル通りなんだが。蜂数十と白蛇に囲まれて対処出来るか?
2.プレイヤー名が入力されていません
装備次第。バランスタイプの筋力寄りなら、盾装備で何とかやれる。
3.プレイヤー名が入力されていません
釣り乙。フレの筋肉バカがフルプレ装備で溶ける。ちなそいつ28レベ
4.プレイヤー名が入力されていません
いや、ガチなんだ。革装備な上にダガー。白蛇に至ってはナイフ三本ぶん投げて処理してた
5.プレイヤー名が入力されていません
ちょwwwガチ初心者かよwww釣りじゃなきゃ運営の仕込みか?
6.カンナギ
ちょっと待て。俺敏捷特化やってるけど、投げナイフなんてスキル無いぞ?無い・・・と思う。少なくとも情報上がってない。スキルじゃないならPSがアホ。1回見に行ってみるわ。白蛇なら始まりの街西の森だよな?
7.プレイヤー名が入力されていません
カンナギってあのカンナギか?未発掘スキル持ちかもだし、釣りじゃないってんなら他の目撃情報待つか。糞スレだったら許さん