美味しくお持ち帰りされてしまいました・・・・・・
夢に見たのを勢いで書きました。公開はしているが後悔はしていない(滝汗)。
皆さんこんにちは、私はアイリス。辺境の村に住む、しがない村娘です。
突然なんですが、村娘って嫌ですよね。毎朝早く起きて水を汲んだり、料理をしたり、農作業をしたり、羊の世話をしたり。とっても忙しいんです。もう、ほんと嫌になっちゃいます。
小さい頃はこんな生活が当たり前だと思っていました。でも成長して周りが見えてくると色々と欲が出てくるものです。
一度だけ行ったことがある王都の風景は今も忘れることができません。華やかな大通り、楽しげな人々、見たこともないおいしい食べ物。全てが輝いて見えました。
それに比べてここでの生活は…… だめだとは言いませんが、劣って見えるのは仕方のないことなのでしょう。
このまま一生をこの村で過ごす、そんな悲しいことを考えると夜しか眠れません(昼寝なんてしたらお父さんとお母さんに怒られちゃいます)。
そこで私は必死に考えたんです、この生活から脱却する方法はないのかと。
私はただの村娘、普通に考えればこのまま年をとって、再来年かそこらにはどっかの農家の息子に嫁がされて終わりです。
自分で言うのもなんですけど、私本当に普通の村娘ですからねぇ…… あ、いや、一つだけ普通じゃないことがありました。
変身能力です。なんと私、ウサギさんに変身できちゃうんです、ウサギさん。野山に居るような逞しいウサギさんではなくて、もっとこう、ふわふわした感じのやつですよ。
私がまだほんとに小さい頃、両親はウサギさんに変身した私を見て死ぬほど驚いたそうです。それはもう、ひっくり返って腰を打つほど。ウサギさんが変身した私だと長老が両親に教えてくれなければ、私は鍋にされていたかもしれません。
ちょっと成長してからはウサギさんに変身して山で遊んだり、見知らぬ男の子と遊んだりしてたんですが最近はお手伝いが忙しくてしてません。その時の男の子ももう大人になっているでしょうから、野山でウサギと遊ぶなんてことしないでしょうしね。
今思えばウサギの姿のまま知らない人の前に出るなんて、結構危ないことしてたんだなって思いますが…… 一歩間違えればお腹の中に直行でした。
……おっとっと、話が逸れちゃいましたね。それでこの村娘からの脱却方法ですがその名をなんと「肉食ウサギ計画」! です!
この計画は…… っと、もうそろそろです。早く行かないと!
やってまいりました秋祭り。お酒を片手に楽しげな大人に、走り回る子供や陽気な音楽。いつもは寂れた様子のこの村も、祭りのときだけは活気に溢れます。
お貴族様主催ですからね。食べ物はもちろんお酒もお貴族様が出してくださるんですから、それはもう楽しくないわけがないです。毎年飲み過ぎて倒れる人が続出するくらいですから。
「お~い、アイリス。ロラン様のお酌をしなさい」
「あ、は~い」
ふぅ、危なかったです。これに遅れてたら肉食ウサギ計画がめちゃくちゃでした。
村長に呼ばれた私はすぐさまそのロラン様という方の元へと急ぎます。
ロラン様というのはお貴族様です。年に一度のねぎらいの場としてこの秋祭りを開いてくださっている、アーデン辺境伯家の跡取り様だと聞きました。こんな辺鄙なところへ毎年来てくださっている良い方です。
アーデン辺境伯家というのはこの国の中でも上位に食い込む武闘派貴族。国の西方を何百年もの間、守り続けている由緒あるお家なのだそうです。
普通のお貴族様は重税だとか、重労働だとかやりたい放題だと聞いたことがありますが、アーデン辺境伯家にそんな噂は聞いたことがありません。武家であるが故、いざという時に兵となる領民とのつながりは大切だと、こうして毎年の祭りを負担してくださっている温情ある方々なのです。
そんなお貴族様は私達にとって雲の上の存在。きっと美味しいものを食べて華やかな生活をしているのでしょう。それはもう、私が羨むような華やかな生活を。
普段は雲の上の存在のお貴族様。でも今日は、今この時だけは手の届く存在になるんです。それが未婚の男ならばやることは一つ!
ふふふ…… もう、なんとなくわかったかもしれませんね。私の肉食ウサギ計画、それはこのロラン様を酔わせて"お持ち帰り"してしまおう、という作戦です。
普段、草しか食べないウサギさんが、ガツガツと男を求める肉食ウサギに変貌! これこそが肉食ウサギ計画です。
酔わせてお持ち帰りした後は事を致して、「責任とってね?」これで大丈夫だってお母さんが言ってました! お母さんにはお持ち帰りしようとしている相手は言ってないですけど、ロラン様もこれで大丈夫でしょう、たぶん。
当然、月の物は把握済み。今日致せばほとんど的中なはず。私は平民なので正式な妻になることはできないでしょうが、お妾さんでもなんでも構いません。私の目的はこの村から出ることなんですから。
そんな肉食ウサギ計画のため、用意しましたのは村特産のお酒。ナントカ度数40%超えのすごいお酒です! 酒好きの男たちもこれを飲むとほとんどがバタンキュー。そのお酒をなんと三瓶も用意しました。これがあればいかにロラン様がお酒に強くともお持ち帰りは成功するでしょう。
さらに、加えて用意したのが山からとってきた薬草! これは山の奥地にしか生えないもので、その効能は強烈な媚薬効果と強壮効果。たとえお持ち帰りが成功したとしても、致せなければ意味がありません。それを防ぐために凄まじいやつを取ってきました。
なんでそんな薬草を知っているのかって? 言ったじゃないですか、私ウサギさんの姿で小さい頃から山を駆けてたって。そんなんだから山の草花にはかなり詳しいんですよね。なんたってウサギさんは草食動物ですから! 食べられる草なのかはもちろん、どんな効能を持っているかも本能なのか、なんとなくわかるんですよ。
万が一、お酒に倒れることがなくともこの薬草があれば、酔った勢いで…… なんてこともあり得るわけです。念には念をということですね。強いお酒とすごいお薬! この二つでロラン様をお持ち帰りです。
苦労しましたよ、ええ…… この秋祭りでロラン様にお酌をする役を仰せつかるのは。
お持ち帰りとまではいかずとも、この秋祭りをという場でロラン様に近づきたいという娘はいっぱいいます。
そんなライバルたちをあっちの男とくっつけ、こっちの男とくっつけ…… 村のおせっかいさんもかくやというほどカップルを作りました。途中からなんか面白くなってきちゃってやりすぎたせいで、村の中の同年代で未婚なのは私だけっていう、ちょっと悲しい状況になっちゃいましたが……
でもいいんです! アツアツなカップルを見て心を荒ませるのも今日までなんですから。
「始めましてロラン様。私はアイリスと申します。今晩のお酌を務めさせていただきます」
初めてお会いしたロラン様。年の頃は私と同じくらい、背丈は私よりもずっと高いです。
少し疲れ気味と言ったところでしょうが、優しさを感じさせるくっきりとした顔立ち。正直結構タイプかもしれません。
「ん、ああ…… はじめましてかな。よろしく、アイリス。今年もこうして祭りを開くことができた。皆には楽しんでほしい。君も今は村の者達と話してきていいんだよ? 僕の酌なんかは後回しでいい」
「いえ、私にはお構いなく。ロラン様が楽しんでくださるのが私達の望みですから」
「はは、そう言ってくれると嬉しいね。それじゃあちょっとお願いしようかな」
そう言って杯を出すロラン様に特製の薬酒を注ぐ。そしてそれをぐいっと飲むロラン様。
ふふふ、まさに計画通り。さぁロラン様、肉食と化したウサギさんにおとなしくお持ち帰りされてください!
「ふぇぇ……」
頭ガンガンします…… お股も痛い……
「大丈夫かい? やっぱりあのお酒は飲み慣れてない人にすすめるべきじゃなかったね、ごめんよ」
「いえ、だいじょう、ぶ、ううっ……」
吐きそう…… でも今は吐くのは絶対だめ……
「君が使った薬も副作用があるからねぇ。あんまり人に使っちゃいけないんだよ? まぁ、僕もこうして君をここにつれてきたんだしお互い様かな」
そういって笑うロラン様。でもあなたも私が用意したお酒、結構飲んでたじゃないですか……
「僕はもう飲み慣れてるお酒だったしね。それにあの手の薬には小さい頃から耐性をつけさせられるんだ。じゃないと今回みたいな時大変だし」
うう、完璧だと思ったのに……
「そんな顔しないでおくれよ。君の計画は失敗したかもしれないけど、結果は同じだろう?」
「同じじゃ、ないですよ…… 私が、持ち帰ろうと思ったのに……」
「あはは、まぁね。君は貴族に取り入ることができて良し。僕は小さい頃から好きだったウサギさんを手に入れられて良し。それでいいじゃないか」
「ふぇぇ……」
そういって頭を撫でられる私。すこしゴツゴツしたその大きい手は、なんだか安心する。
「ふふふ、それにしても同じ日にお互いがお互いをお持ち帰りしようと考えるなんて運命を感じないかい?」
「ひどいです…… 女の子にお酒を飲ませて自分の家に連れ帰って、あんなことやこんなこと……」
「それは君が言えたことじゃないと思うけどねぇ。僕だって耐性がなければ今頃は君の家で寝ていたのかもしれないんだよ? あ、いや、君からしてもらえたならそっちのほうが良かったのかな? そういうのもいいなぁ~」
楽しげに笑うロラン様。年頃の女の子にする話じゃないですよ…… まぁ私も、もう生娘じゃないわけですけど。
「……責任とってくださいね?」
「もちろんだよ。僕の家は代々子沢山なんだ、年子で二十人は生んでもらうよ?」
「ふぇぇ、私壊れちゃいます……」
「あははは、まぁこれからもよろしくね、僕のかわいいかわいいウサギさん?」
「あ、あの、ロラン様? やっぱり年子で二十人は……」
「ん、ああ、あれは言いすぎたな。十五人で十分だ」
「それなら…… ってそんなに変わらないですよ!」