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8/13

ゴブリンとの戦いを終えて、僕たちはギルドに帰ってきた。

戦いは短かったが、緊張のせいかやけに疲れている。

ギルドに着いたのはもう日が暮れてからだった。僕たちは受付で今日の報告をした。


「今日、登録した駆け出しのパーティーです。ゴブリンを討伐したので報告を」

そう言ってゴブリンの魔石を差し出した。


魔物は死ぬと必ず魔石を残す。

この魔石が討伐の証となり、ギルドで褒賞と交換してもらえるのだ。

死体はほとんどが消えてしまうが、稀に一部の部位がドロップアイテムとして残る。

今回はドロップアイテムはなかったが、モノによっては高価で取引される。


ちなみにゴブリンの魔石は小指の先程の小さなものだった。


朝、僕を案内してくれた受付嬢か片眼鏡をつけて魔石を覗き込む。

「ふむふむ。はい。確かにゴブリンの魔石ですね。初クエスト達成おめでとうございます!」


受付嬢さんは満面の笑みて祝福してくれる。

やばい。めっちゃ美人。


「ではこちらが報酬となります。ゴブリンの魔石一つあたり銅貨10枚。魔石は4つなので銅貨40枚になります」


ちなみにこの国は銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚だ。

この街の最安値の宿で一泊朝食付きで銅貨5枚。つまり僕らのパーティーで5人だと1日で銅貨25枚は最低かかる。

装備やらなんやら買うとゴブリン退治だけでは赤字になってしまうだろう。

早くレベルを上げて報酬の良いクエストを受けなければ。


銅貨を全員に山分けしていると、後ろから声を掛けられた。


「おう!手前ら見ねぇ顔だな?新入りか?」


やたらとドスの効いた声だ。

僕よりも頭一つ大きい身長で筋骨隆々。顔に刀傷のような後もある。見るからに荒くれ者だ。

鑑定スキルが名前を教えてくれる。ザイルドというようだ。


「そうだ。冒険者になって初クエストを終えて帰ってきたところだ」


カデットがみんなを庇うようにずいと前にでる。

頼もしい!さすが兄貴分!

てゆうか怖い。なにこの状況!やっぱ冒険者って腕っ節の世界なのか?

もう見た目が怖い。

報酬もらったばっかでカツアゲ?的な?

今日の稼ぎよこせよ!的な?


「そうかいそうかい!そんじゃまぁ新入りの手前らに冒険者の流儀ってやつを教えてやるよ!」


ザイルドはこちらの返事も聞かず、カデットの腕を掴んだ。カデットも警戒していたようだがレベルの差か抵抗できなかった。そしてそのままカデットを奥へ引きずって行く。


「ちょ!待てって!おいおっさん!」


カデットは振りほどこうとするが、力で負けているのかそのまま引き摺られていった。

僕たちも慌てて付いていく。

ザイルドは食堂の扉を蹴り開けた。中には今日の仕事を終えたのか、多くの冒険者が酒を呑んでいた。

鎧を着た戦士、三角帽子を被った魔法使い、斧を背負ったドワーフ。いかにも歴戦の冒険者達だ。


「おう!てめぇら!こいつらは今日冒険者になった新米だ!さっきクエストを終えて帰って来たんだってよ!!」


ザイルドは大声を上げる。

宴会をしていた冒険者達は一瞬静まりかえった。

しかしすぐに歓声を上げる。


「おう新入り!!歓迎するぜ」「よく生きて帰ったじゃねえか!「一杯奢ってやる!今日のクエストの話を聞かせろや」


僕たち一行は少しの間、呆然とする。

あれ?なにこの歓迎ムード?

てっきりもっと怖いイベント発生かと思った。


僕たちは招かれるまま、食堂の真ん中の席に座らされた。全員が酒を持たされる。

しれっとザイルドは僕たちの横に座って酒の入った木製のカップを掲げた。


「てめぇら!酒は持ったな!冒険者としての一歩を踏み出した新米達に!!乾杯!!」


「「「かんぱーい!」」」


あっという間に宴が始まった。あちこちでカップをあわせている。


「なら私たちも乾杯しようかしら」

「おう。乾杯」

「かんぱーい!」

「か…かんぱい」

「乾杯」


みんなもそれぞれカップを合わせる。みんな急な歓迎に戸惑っているようだ。


「なんだよてめぇら!せっかくの宴だ。ぱーっと呑みやがれ」


ザイルドは僕に肩を組んでくる。随分と馴れ馴れしいやつだ。


「このギルドじゃあ駆け出しの冒険者が初クエストに成功したら酒を奢るのが恒例なのさ!今日の飲み代は俺たち持ちだ!分かったらそんなつまんねぇ呑み方してんじゃねぇ」


そういう事だったのか。完全にアルハラだがシリウスは酒が飲める体質だったはず。異世界では酒の年齢制限もない。ならお言葉に甘えてがっつり頂こう。

僕はカップの酒を一気に呑み干した。エールのようだ。少し炭酸は弱いが悪くない。


「呑めるじゃねぇか!ほらそっちの戦士の兄ちゃんも!」


カデットはニヤリと笑ってカップを呷る。


「イケル口じゃねぇか」


ザイルドがカデットに酒を注ぐ。

他のみんなの方を見ると、それぞれ先輩冒険者達に話しかけられている。楽しそうに雑談しているようだ。


「初クエストならゴブリン退治だったんだろ?何匹仕留めたんだ?」

「4匹です。最後は伏兵もいたので危なかったですよ」

「初めてなら上出来だ。なにより無傷ってのが良い」


ザイルドも酒を呷る。

すぐにカデットが酒を注いだ。こういう心遣いが出来る男の証なのだろうか。


「しかし初対面で奢りだなんて気前が良いな。もっと冒険者ってのは互いにライバルみたいなもんで、殺伐としているもんだと思ってたよ」


「そいつも間違っちゃいねぇ。同じ獲物を狙ってやり合うこともある。だがな難易度の高い大規模なクエストじゃ他のパーティーと組むなんてザラだ。冒険者ってのはライバルであると同時に仲間なのさ」


なるほど。それでこんなに雰囲気が良いんだな。


「ところでどうやってゴブリン倒したんだ。見たところ前衛3人、後衛2人か?」


自分達の手の内を教えてもいいものか一瞬躊躇っが、奢ってくれるのに教えないのは不義理だろう。


「エリーゼ、あの端に座っている女の子が雷魔法で先制して1体撃破。そのまま前衛2人がそれぞれ1体ずつ倒して、最後に伏兵の弓兵をシルビアが風魔法で倒しました」


ザイルドは飲みかけていた酒を噴き出す。


「雷魔法だぁ?そんな上級魔法使える奴がいんのか?しかも当てただと?ゴブリンみたいな小っこい的に?」

「ええ。エリーゼは一発で狙い通り命中させました」


たぶん僕の指揮官スキルの補助があったからだけと、それは言わない。


「そうかよ…まあビギナーズラックっていうのもあらあな。しかし風魔法で倒すなんて最後の弓兵も随分と近くに隠れてたんだな」


ザイルドは再びグラスを口につける。


「だいたい20mくらいですかね。10mくらいの樹の上にいました」


ザイルドはまた酒を噴き出す。

やめろ。勿体ない。汚いし。


「そ…そんな距離を新米が当てられるもんなのか?しかも一撃で?」


ザイルドは驚愕していた。


「ああ。俺も驚いた。ウチの遠距離組は優秀だな」

「そういうカデットもゴブリンを頭から真っ二つにしてたじゃないですか。十分凄いですよ」

「頭から真っ二つ?どんな馬鹿力だよ。レベル1じゃありえねぇだろ」


そういってザイルドはポカンと口を開けたが、しばらくしてニヤリと笑った。


「そうかいそうかい!そんくらい大口叩けるイキの良い奴のほうが長生きするってもんだ」


ザイルドは僕の肩をバンバンと叩く。

いや全部本当のことなんだが。

ザイルドの中では僕たちがでまかせを言っているように聞こえたのだろう。

まぁ訂正する必要もないか。


ザイルドはあの森でよくゴブリンが出没する場所や戦術を教えてくれた。

明日もゴブリン退治に行こうと思っていたから都合が良い。

コイツ実はめっちゃ良い奴だな。

見た目怖いけど。


ふと女性組を見ると向こうもかなりのペースで呑んでいるようだ。


「こちらに葡萄酒をお願い。樽でも良いわよ」


シルビアが通りすがりの店員のお姉さんに注文をしていた。シルビアのカップも空になっている。こいつ絶対ザルだ。

シルビアを口説こうとしていたであろう中年の冒険者はベロベロに酔っ払って机に突っ伏している。


「いやーどうもどうも。この果実酒美味しいねー」

ミトもかなり呑んでるが顔が真っ赤だ。こいつは酔っ払ってるな。


「私なんて……わたしなんてぇぇ……」


エリーゼは泣き上戸なのか。隣に座った魔法使いっぽいお姉さんの胸に顔を押し付けている。

お姉さんはエリーゼの頭を撫でて優しげな表情。


なにあの母性。僕も酔っ払ったふりしていこうかな。



そのまましばらく呑んでいたがミトとエリーゼが出来上がっていたので僕たちは宿に向かうことにした。


カデットは気に入られたのか他の冒険者に捕まっていたので、シルビアがミトを、僕がエリーゼを担いで宿まで運んだ。


シルビアが手続きをしているうちに宿の階段を上がりって二階の廊下を歩いているがまだエリーゼは酔っ払っているようだ。


「ううん……よっぱらっちゃいまひたー」


顔も真っ赤だし呂律も回っていない。

なのに素面の時より大きな声が出ている。

そしてやたらくっついてくる。

おい色々当たってる!


肩を貸していただけなのに、急に両手を僕の首に回して抱きついてきた。


「きょうはびっくりでしたぁ。わたしのまほうがあたるなんてぇ」


エリーゼの前髪が横に流れて素顔が見えている。

あれ?普段は前髪のせいで分からなかったが、めっちゃ可愛いじゃないか。

大きな愛らしい瞳。すっきりと伸びた華。守ってあげたくなる少し儚げな美少女。

そして酒のせいか瞳は少し潤んでいて頬を染めていた。


「それもこれもみなさんのおかげでぇ。わたしおれいをしないと」


近い近い。顔を近づけて来るな。

吐息があたる。目を閉じるな。

これは据え膳か?据え膳なのか?食わぬは恥となるやつか?

でもまだ出会って1日なのにそんな…


「あああー!シリウスとエリーゼがいちゃついてるーアタシも混ざりたいー!!」


廊下に響くほど大きな声がして、後ろを振り向くとミトが僕の背中に突撃してきた。

衝撃で息がつまったが、なんとか倒れずに堪える。


「ふふーん。パーティーならスキンシップは大事だよねぇ」


そう言ってミトは体を押し付けて腰をくねらせる。胸が当たって下半身に良からぬ刺激が加わる。

しかも前にいるエリーゼも抱きついてきているので女体のサンドイッチだ。


やばいやばいやばい。

エリーゼはなんかこう、良い感じの雰囲気だったが、ミトはド直球のエロスだ。

これはもう甘酸っぱいなにかではなく性欲に直結した動きだ。

ああ、女神よ。僕は今日汚れてしまうかもしれません。

ごめん、シリウス。君が15年守ってきた純潔を

僕は1日で捨ててしまうかも。



「なにをしているのですか!!この変態ども!!」


僕が神に祈っているとそんな叫びと同時にシルビアがこちらにヅカヅカと歩いてきた。

激怒していることがシルビアの顔を見て分かった。後ろに怒りのドス黒いオーラが見える。


「離れなさい!このふしだらなアマゾネス!エリーゼも!なんで抱きついているの!」


シルビアは力づくで僕から2人を引き剥がす。


「ええー?いいじゃんこれくらい。ウチの里では普通だよ」


さすがアマゾネス。やっぱりエロスには開放的な種族なのか?


「お黙りなさい!年頃の乙女ともあろうものが!こんなはしたない!

貴方も貴方ですわシリウス!なにをされるがままになっているのですか!それでも女神教の神官ですか」


「面目次第もございません」


僕はその場でうなだれる。

たしかに酔った勢いもあったけど、出会って1日目の仲間の女の子といちゃつくなんて…


シルビアの説教は続いたが、動いたせいか酔いが回ってきたエリーゼが目を回したので、シルビアが2人を部屋に連れて行った。


女部屋として借りた3人部屋に入るのを見届けて、僕はため息をついた。


ああ惜しかった。

じゃなくて

幸せだった。

でもなく

「本当に疲れた1日目だった」

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