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初戦闘

僕たちはゴブリンがいる森の前までやってきた。

見上げるほど高い木ばかりだが、森の中は木漏れ日で意外と明るかった。


今日はあまり森の深くまでは行かない予定だ。

森の奥にはゴブリンの巣があって、下手をすれば数十匹のゴブリンがいるらしい。

初心者の僕たちは森の外れで「はぐれ」のゴブリンを狩る。

「はぐれ」とは森の外周付近にいる巣を持たないゴブリンのことで数匹単位で行動しているらしい。

新米の僕たちにとっては格好の獲物という訳だ。3匹のゴブリンを倒せばクエスト達成だ。


僕たちは獲物を探して歩き回わっていた。

すると森に入って10分もしないうちに、先頭のカデットが立ち止まり、右手で合図を出してゆっくりしゃがみこんだ。

パーティー全員が止まり、周囲を警戒する。

みんなが緊張しているのが伝わってくる。

周りに怪しい影がないことを確認して、全員でカデットの所に静かに歩み寄った。


カデットの指差した先にいた生き物は3匹いた。子供くらいの背丈に緑色の肌。粗末な腰布を巻いて棍棒を持っている。

間違いない。

ゴブリンだ。



こちらに気づいた様子はなく少し開けた場所で、僕たちの視界を右から左に向かってのそのそと歩いている。


なんともあっさりと見つかったもんだ。

距離は10mほど。

ゴブリンの周囲は開けていて大きな障害物もなし。

マップで見るとパーティーメンバーは青色の点、敵はゴブリンは赤い点で表示されていた。

半径20m以内には僕達とゴブリンしかいない。



「相手は3匹。周りに他のゴブリンはいない」


初戦闘には理想の状況だ。


「では皆さん。作戦通りにお願いします」


僕がそういうと皆が装備を確認しだした。カデットとミト、エリーゼは音の出ないようにゆっくりと剣を引き抜く。

シルビアはゆっくり深呼吸をして息を整える。

僕は右手で神官の杖を握りなおした。


僕も深呼吸をしてからみんなを見渡し、左手でみんなに見えるように三本の指を立てる。全員が固唾を飲んでそれを見つめる。


指をゆっくり一本、もう一本と倒し

最後の一本を倒した瞬間ーーーーー


「行け!!!」


戦いの始まりだ


僕はすぐに指示を出した。


「エリーゼ!詠唱を!中央のゴブリンを狙え!」


まず仕掛けたのはエリーゼだった。

立ち上がり、ゴブリンに狙いをつけて詠唱に入る。


『万物を巡る力の片割れ。紫電の精よ』


ゴブリン達はエリーゼにすぐに気づいたようだ。こちらを睨みつけ、状況を伺う。

すぐに前衛2人が飛び出した。

先頭はカデット、少し遅れてミトが続く。

それを見てゴブリンは迎え撃とうと棍棒を構えた。


『理に従いて我が手に宿れ。


雷の矢』


エリーゼの詠唱が終わり、魔法が放たれる。

この一撃は外れてもいい。

雷魔法の強烈な光と音でゴブリンを混乱させることが目的だ。

中央のゴブリンを狙わせたが恐らく当たらないだろう。


そう考えていると剣の先から、強い光と轟音がゴブリンに向かって爆ぜた。

近くにいたシルビアと僕は耳を塞ぐ。


一瞬の閃光の後、目を開けてみると信じられない光景が広がっていた。


3匹いたゴブリンは左右の2匹だけとなっており、今まで中央のゴブリンが立っていた地面は黒く焼け焦げて変色していた。

残ったゴブリンも何が起きたか分からず混乱しているようだ。

これはつまり、、、


雷魔法当たったのかよ!

しかも狙い通り真ん中のゴブリン!

命中率悪すぎるんじゃなかったのか!?

さっき5mでも外してたのに倍以上遠くてしかも小さい的に直撃ってどういうこと?


しかも威力高すぎて真ん中のゴブリンが跡形もなく吹き飛んでんじゃん!

さっき見た威力より格段に強いよね!?

雷魔法怖っ!!!


魔法を使ったエリーゼ本人も信じられないのか呆然としている。

いずれにせよゴブリンの数も減らせたしこれは好機だ。


「カデット!右側のゴブリンを!ミトは左側のゴブリンの相手を!!」


僕は慌てて指示を出す。

その声で、あまりの事態に呆けていた皆もゴブリンも動き出した。


最初に接敵したのはカデットだった。


「ふんっ!!」

ゴブリンが大上段で振りかぶった棍棒を左手の盾で受けとめる。

盾によほどの力を込めていたのか、ゴブリンは棍棒を弾かれて後ろに体勢を崩す。


カデットはその隙を見逃さず、すぐさま一歩踏み込み、右手の剣でゴブリンを脳天から真っ二つに切り裂いた。


ゴブリンは悲鳴を上なることも許されず、綺麗に二つに分かれて地面に転がった。


カデット瞬殺かよ!

初戦闘の癖になんかもう歴戦の戦士って感じじゃん!

すげー流れるように仕留めたな!


ミトの方を見ると、こちらも余裕がありそうだ。

ゴブリンはミトを近づかせないように棍棒をめちゃくちゃに振り回している。

それに対してミトは棍棒の軌道を見切ってギリギリで全て躱している。

焦っているのか、ゴブリンが大振りに振り下ろした棍棒を躱してすぐに間合いを詰め、棍棒を握るゴブリンの右手首を切り飛ばした。


ゴブリンは悲鳴を上げて体勢を崩す。


「とどめだよっ!」


ミトの剣がゴブリンの喉笛を切り裂いた。ゴブリンは喉を押さえるが、そのまますぐに崩れ落ちる。


3匹いたゴブリンが全員動かなくなり、森に静けさが戻った。


「勝った?のかしら?」

「ああ!俺たちの勝ちだ!」

「やったやったーー!みんなすごーい!勝った勝ったーー!」

「えと…誰もケガしなくて…良かったです」

「ええ。本当に。皆さんありがとうございました」


俺は長いため息をつく。

なんとも呆気なかった。

危機的な状況もなく、作戦通りに終わってくれた。


でも自分で思っていたよりずっと緊張していた。

始めての戦い。始めての冒険。

命のやり取り。


その緊張も解けて徐々に喜びの感情が湧き上がってくる。


おおおおお!勝った勝った勝った!!

すげえ!生で観るとすげえな!!

戦いって感じ!冒険って感じ!!

自分は人に指示出しただけなのに興奮していた。


ゴブリンを仕留めたカデットとミトの元に向かう。

カデットは肩で息をして、目に見えるほどの汗をかいていた。

時間にしてみれば僅か1分にも満たないだろうが、命のやり取りだったのだ。無理もないだろう。


「エリーゼもすごかったですね。あの距離でも当てるなんて」

「あ…ありがとう。こんな距離で当たったの……はじめて…です」

「やったやったーー!!いえーいーー!」


ミトはまだ跳びはねて喜んでいる。

近くの大岩の上に登ってVサインをしていた。


「ミト。はしゃぎすぎよ」

「俺たちの初めての戦いだったんだ!ちょっとくらい喜んでもいいだろ」


戦いの緊張は完全に緩んでいた。

それに勝利した喜びで興奮がおさまらなかった。


<<経験値を獲得しました。シリウスのレベルがレベル1からレベル2に上がりました>>


<<指揮官レベル1からレベル2に上がりました>>

<<マップレベル1からレベル2に上がりました>>


<<思考加速レベル1を獲得しました>>

<<状態異常回復魔法レベル1を獲得しました>>



おお!天の声!

一説によるとこの声の主が女神教の信じる女神らしい。


いやー初戦闘初勝利!!

そんで初のレベルアップかーー!

順調順調!

テンション上がるわーー!

思考加速スキルも獲得してんじゃん!

さて早速ステータスを確認しようかなっと。


俺はステータス画面を開こうと顔を上げた。

すると視界の右隅に表示されているマップが目に入った。

マップの縮尺を考えると、どうやらマップレベルが上がったことでマップに表示される範囲が広がったらしい。



僕はそれを見て一瞬固まった。


今まで表示されていなかった場所に、赤い点があったからだ。

赤い点は魔物の証。

俺たちの後ろに魔物がいる。


急いで後ろを振り返ると、20m程先にある大木の樹上。地上10m付近に1匹のゴブリンがいた。

しかも弓を構えて、背中を向けているミトを狙っている。

不味い!ミトは気づいていない!


ゴブリンが矢を放った。


「避けろぉ!ミト!」

僕は叫ぶ。


新たに得た思考加速スキルの効果か、矢がゆっくりとミトに向かって飛んでいくのが見えた。

しかし加速しているのは思考だけで、身体は動かない。


矢は真っ直ぐにミトの心臓目掛けて飛んで行く。

ミトの心臓を貫くまで、あとほんの数センチ。もう絶対に躱せない。


そう確信して絶望した瞬間-


ミトが目にも留まらない速度で身体を捻り、矢を躱してみせた。


矢はミトを通り過ぎて地面に刺さる。


なんだ?

今明らかに考えられないほど速い動きをした。

これも指揮官スキルの効果か?


ミトは一瞬、何が起きたか分からないような表情を浮かべていたが、地面の矢を見て驚愕する。


「ゴブリンの伏兵がいた!弓矢を持っている!後方20mの樹の上!」


僕はそう叫んで樹の上のゴブリンを指差す。


さっきまで初勝利で喜んでいた皆も動揺したがすぐに構えをとった。


「シルビア!詠唱を!カデットはシルビアを守れ!エリーゼとミトは樹の影に隠れろ」


「応!」


カデットはすぐに盾を構えてシルビアの前に立つ。

弓を持つ敵に高所を取られている時点で接近は危険だ。

こちらも遠距離から魔法で仕留める。


『万物を巡る力の片割れ。緑風の精よ』


シルビアは詠唱を始めた。


しかし魔法よりも弓の方が連射に優れる。

ゴブリンはすぐに新たな矢をつがえ、シルビアに向けて放った。


矢は狙い違わずシルビアに向けて飛んだが、カデットがシルビアとの間に立ちはだかり、剣で矢を斬り落としてみせた。


まじかよ!

飛んでくる矢って斬れるもんなの?


『理に従いて我が手に宿れ。


風の矢』


シルビアの杖の先から撃たれた圧縮された空気の刃が一瞬でゴブリンに迫る。

魔法の射出を感じたのかゴブリンは咄嗟に右に避けて空気の刃を躱そうとする。

しかし避けきれずに空気の刃はカマイタチのようにゴブリンの首を切り裂いた。


頭から上を切断されたゴブリンは樹から転がり落ちた。

シルビアの魔法はこの距離でもゴブリンの首を正確に切断したようだ。

マップから赤い点が消えた。


こっちも一撃かよ!

魔法すげぇな!


ゴブリンが落ちて少しの間、皆で警戒していたが、伏兵は1匹だけのようだ。


僕たちは警戒を解かず、戦闘の片付けをしてすぐに移動した。

やっと戦闘回まで辿りつけました

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