ステータス
ゆっくりと目を開ける。
目を覚ますと聖堂の中にいた。
目の前には美しい女神像があり、窓から朝日が差し込んでいた。
仰向けに寝ていた冷たい床から体を起こして、自分の手を握りしめて、開く。
昨日までより少しだけ小さい手のひら、体。
鏡がないから顔は確認できないが触った感じで、今までの顔ではないことが分かる。
「は、ははは。本当に違う体だ」
声も出せるが日本語で話しているつもりなのに、耳から聞こえる言葉は日本語ではない知らない言葉だった。
なのに意味は分かる。なんだか不思議な気分だ。
日本での記憶もちゃんとある。
25歳、水瀬達也。
日本に暮らしていたが、昨日変な空間で神官に頼まれて人生を交換した。
シリウスとしての記憶もある。
ここアポロニア王国で生まれ教会で生きてきた。
自分の記憶でないのに、思い出そうとしたら頭に浮かんでくる。
まるで昔観た映画を思い出すみたいに。
なんだか変な気分だ。
さてさてさて早速だけど。
まずは定番の、、
「ステータス・オープン」
視界の中央に白い長方形が浮かび上がった。
神官の記憶の通りだが本当にゲームみたいだな。
さーてどんなレア能力貰えたのかなーっと。
シリウス
レベル1
HP :10/10
MP :10/10
筋力 :3
耐久 :2
敏捷 :4
器用 :5
職業 :神官レベル1、指揮官レベル1
スキル:治癒魔法レベル1、マップレベル1、鑑定レベル1
ステータス低っ!!
完全にレベル1だな。
こんなんで将来は魔王と戦うとか言われたらシリウスじゃなくても逃げ出すわ。
あ、今は僕がシリウスか。
ただいくつかシリウスの記憶と違うことがある。
恐らくこれがシリウスが言っていた、異世界から来ることで獲得できるレア能力だ。
まず一つ目。職業:指揮官だ。
シリウスの知らない職業だな。
シリウスは冒険者になる前に書物で色々なスキルや職業を調べていたが、その知識にないと言うことは多分かなりのレアスキルだ。
試しにタップすると説明文が出てきた。
<<職業:指揮官レベル1
パーティーメンバー最大5人に対しての指揮権。指揮下パーティーメンバーのステータス向上。>>
うーん。この説明だとイマイチ分からんなぁ。
ステータス向上はともかく指揮権?
メンバーがみんな俺の言うことを聞いてくれるのか?
そんなの美少女ばっかのパーティーだったら悪用しまくっちまう。
ハーレム作れるじゃん。
指揮官は恐らくレア職業だろうし、まだ他人にバレたくない。
『パーティーへの指揮権』がどれほど強力かは分からないが、絶対服従のような能力であれば誰もパーティーを組んでくれないだろう。
なんでも言うことを聞いてくれる洗脳のような能力なのか、ちょっと言うこと聞いてやるか、くらいの強制力しかないのかで変わってくる。
まあ試して見ないと分からないからとりあえず保留。
二つ目はコイツだ。
<<スキル:マップレベル1
自身の周囲のマップを表示。表示内容はパーティーメンバー、地形>>
これは分かりやすいな。ゲームで良くあるマップ表示だ。
実はさっきから視界の右隅にチラチラ見えていた。ゲームで良くある自分を中心とした2次元の地図。
今は俺しかいないから意味ないが、パーティーメンバーと冒険する時に役立ってくれるだろう。
半径は10mくらいか?
狭っ!!
こんなん使えないじゃん!
レベルが上がったら表示範囲が広がればいいな。
三つ目はこれ。
<<スキル:鑑定レベル1
視界にある物体の情報を分析。>>
これも異世界では定番だろう。鑑定スキルでチートする物語もあったし実は必須スキルじゃね?
実験してみようと、シリウスの持ち物だった杖が近くに転がっていたので、それを持って鑑定スキルをONにしてみた。
『女神教徒の持つ杖。信仰系魔法の効果微増』
おお。説明画面が出てきた。
レベルが上がればもっと色々見えたりするんだろうか。
敵のステータスとか味方の状態とか分かれば戦略が立てやすい。
アイテムの説明が分かるなら商人になって大儲けできるかも。
ちなみにマップと鑑定もシリウスの知識にはない。この世界では一般的ではないスキルのようだ。
ただし鑑定の力を持ったアイテムは存在するが、アイテムしか見れず、他人のステータスは見れないようだ。
マップとか鑑定はゲームやラノベでは当たり前すぎて違和感ないけど、この世界の人は持ってないのか。
まあ、以上3点が異世界に来た時に獲得したレア能力です!
総合して考えると……
うーん……微妙。
レア能力ってこの3つだけかよ!!
人生交換したらすごい能力貰えるって言ってたじゃん!!
もっと分かりやすいチート能力くれよ!!
HPが100倍になるとか!レベルMAXとか!
どんな敵でも切り裂く武器とか!!
こんな微妙で分かりにくいやつじゃなくて!!!
一通り不満を目の前の女神像にぶちまけてみた。
やべぇ。女神に向かって暴言吐いたとか本物のシリウスに怒られる。
少し憤っていたが、気持ちを切り替える。
まあ訳わからないスキルも試行錯誤してみたら最終的にチートになっていう物語も嫌いじゃない。ていうかむしろ好き。
この能力もきっとレベルを上げたり使い方次第で化けるに違いない。
うん。そう思い込もう。
どうせ新米の駆け出しだし色々試してみよう。
ちなみにスキルや職業はそれらを使用するか、それに準じる経験を積むことでレベルが上がっていく。
つまり使わなければいつまでもレベル1のままだ。
職業はともかくスキルはなるべく使用して経験値を稼がないとな。
マップと鑑定は常にONにしておこう。
シリウスが言っていたとおり、今日が俺の冒険者デビューの日だ。
冒険者ギルドに行き、そこで最初のパーティーメンバーと合流する。
ちなみにメンバーとはまだ誰とも会ったことがない。
完全に初対面だ。
新米はギルドが最初にメンバーを見繕って強制的にパーティーを組ませるのだ。
パーティーをギルドで調整しないと最初の冒険で全滅することが多くてそのようなルールになったらしい。
このルールじゃなきゃ詰んでたかも。
ギルドの酒場みたいなとこで知らない冒険者に「仲間になって」とか声かけるのは絶対無理だし。
かと言って攻撃力皆無の神官ソロとか絶対死ぬし。
そんなことを考えていたら、ぎいいと木製品が擦れる音がして、後ろを振り返ると聖堂の入り口にある大きな扉が開けられた。
「おっはよーシリウス!こんな朝早くから聖堂で何してんの?」
聖堂に入ってきたのはシリウスの記憶によると、シリウスと同じく教会に住んでいる孤児の女の子だ。
『コニス 村娘』
早速、鑑定スキルが名前を教えてくれた。
14、5歳くらいで絵に描いたような元気そうな娘。
少し汚れて粗末だが丈夫そうなシャツとズボン姿。ポニーテールと歳にそぐわないけしからん胸の膨らみを揺らして部屋に入ってきた。
おっといかんいかん。
今は俺がシリウスだ。
ならシリウスらしい喋り方にしないと。
一人称は僕だったな。
「おはよう。コニス。女神様に冒険の無事をお祈りをしていました。今日から僕も冒険者ですから」
するとコニスがこちらをジロジロ眺める。
「およよ?シリウスなんだか元気になった?
昨日は『もう人生の終わりです。僕には無理です』みたいな顔してたのに」
シリウスのやつ。そんなに追い詰められてたのか。
「心配させてすみませんでした。見ての通り元気になりましたよ」
「うんうん。本当にやる気になったんだねぇ。まるで人が変わったみたいだよ。そんじゃぁご飯出来てるから早く食堂においで」
コニスは手を振って聖堂を出て行った。
すいません。本当に人が変わったんです。