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こうして人生を交換しました

俺はおそるおそる目を開ける。

気がつくと見覚えのない場所に立っていた。

真っ白な天井、真っ白な床。照明はないのにいやに明るい。見渡す限り壁もない。

精神と◯の部屋みたいだ。もしくはハ◯レンの真理の扉みたいな。


目の前には重厚な造りをした扉があり、その前に一人の少年が立ち尽くしていた。

15歳くらいだろうか。

フード付きの白い上着が足首まですっぽりと覆っている。


なんだかファンタジーなゲームの登場人物みたいだ。それも教会にいてHP回復してくれそうな。

爽やかな美少年っぽい顔だが、今は口を大きく開けて呆然としている。



全く状況が飲み込めない。

なんだこの不思議空間。

生きてくのが嫌すぎて夢でも見てるのか。

自分の後ろを見てみると俺の後ろにも少年と同じような扉があった。


「あのぅ、すみません。」

少年が話しかけてきた。

あ、良かった。日本語通じるんじゃん。


「ここはどこでしょう。教会の聖堂にいたはずなんですが。気がつくとここにいて」


丁寧な喋り方をする少年だ。

黒い髪と黒い瞳。整った目鼻立ち。

イケメンだし年上のお姉さんにモテそう。


「俺も全く分からない。自分の部屋にいたんだけど」


「そうですか。なにかの魔法でしょうか。急にこんな場所に飛ばす魔法なんて聞いたこともありませんね」


おっと。少年が気になることを言い出した。


「魔法って、、なに?ゲームかなんかの話?」

「え?魔法は魔法ですが。急に違う場所に飛んだということは転移魔法でしょうか?でも転移魔法みたいな高等魔法を使える人はほとんどいないんですが」


少年の服装を見てひょっとしてとは思ってたが魔法なんてファンタジー用語、普通に言いだすとは思えない。

でも少年はどうみても自然体だ。


そしてこの空間と状況。

アニメやラノベでなんだか見たことあるような気がする。

これはひょっとしたらひょっとして、、


「ちなみにスマホ持ってない?ガラケーでも良いけど」


「すまほ、、とは何でしょう?がらけー?」

少年は首を傾げて聞き返してくる。

どうみても演技をしているとは思えない表情だ。


この少年はきっと携帯電話を知らないのだろう。


「名前を教えてくれ。俺は水瀬達也といいます。日本の東京でフリーターをしている」


「私はシリウス。アポロニア王国で神官をしています」


聞いたこともない国だ。しかも神官って現代では名乗る職業じゃないよな。

やっぱり異世界人なのか。


でもいきなり異世界人とか言うと変質者みたいだよなー。

俺もまだ信じれてないし。まぁとりあえず話してみよう。


「ええと、、シリウス。落ち着いて聞いてくれ。

さっき君は魔法と言ったが、俺の知る限り魔法は存在しない。

でも君が本当に魔法が実在すると思っているのなら俺と貴方は、、ひょっとしたら違う世界の人間かもしれない」


「はい。私達はお互いに異世界の住人のようですね」

シリウスはにっこりと笑ってそう答えた。


「信じられないだろうし、俺もまだ信じてないけど……え?いまなんて言った?」


「私たちは互いに異世界の人間だと言いました。貴方は魔法をご存知ないようですし、私も貴方の言った『すまほ』や『がらけー』は知りません。

それに貴方の服装は私の世界では見たこともない。

違う世界の方と言われても納得です」


シリウスはニコニコしながら自分の口を指差す。

「あと気づいてますか?

私はアポロニア語で話して、貴方の言葉もアポロニア語に聞こえます。

でも貴方の口の動きと聞こえている言葉が全く合っていません」


「え?マジで?全然気づかなかった」


「ええ、本当ですよ。貴方にも同じように聞こえているのでは?」


本当だ。よく見ると日本語に聞こえるのに口の動きが全然違う。

映画の吹き替え見てるみたいだ。


「全然気付かなかった。ていうかすごい落ち着いてるね」


頭の回る冷静な美少年かよ。

モテてんだろうなコイツ。


「そんなことはありませんよ。実はですね、私にはこの状況に心当たりがあるのです。


「心当たり?」


「はい!伝説が正しければ、今!この場で私と貴方の人生を交換することが出来るのです!」


「は?」

いきなり何言ってんだこいつ?


「私の世界では異世界から来た英雄の伝説があるんですよ。御伽噺だと思っていましたがこの状況はまさに伝説そのままです!

突然の転移!真っ白な空間!見たこともない格好の異世界人!互いの後ろにある扉!全てが伝説の通りです!」


シリウスは両手を広げてオーバーなアクションで説明する。


「そしてその逸話によると、向かい合った2人のそれぞれの人生を交換することが出来る、と言われております」


人生交換?転生とかじゃなくて?


「つまり俺とあんたが入れ替わるってこと?」


「そうです。貴方は私の世界へ行って私の体で人生を送り、私は貴方の世界へ行って貴方の体で人生を送る、というものです」


シリウスは爽やかに微笑みながら説明してくれる。

こんな状況だけど全然実感持てないな


「達也さん。早速で申し訳ありませんが一つお願いが」


「お願い?」


「ええ、一生に一度のお願いです」


爽やかな笑顔のまま、まるで地面に飛び込むような勢いで両手を地に付ける。


「どうかっ!どうか私と人生を交換してください!!一生に一度のお願いです!!」


シリウスは地面に頭をつけながら華麗な土下座をした。



「ちょ、ちょっと落ち着け!どうした急に?」


さっきまでは知的で爽やかなイケメン少年だったのにいきなり全力の土下座!

しかも泣きそうになりながら。

異世界にも土下座ってあるのね。


「お願いです!どうか!どうか私と人生を交換して下さい!!

無理なのです!私には無理なのです!!」


「分かった。分かったから落ち着いて。ちゃんと説明してくれって」


「は、はい。取り乱してすみません。」

シリウスはふらふらと立ち上がって話しだす。


なんだ?

いきなり取り乱して。

しかも初対面の人間に向かって土下座するとか。

そこまでして人生交換したいなんてどんな酷い人生送ってるんだ?


「私は今まで教会で生活しておりました。しかし今年で成人して、私は明日から冒険者となるのです」


「あー冒険者ね。ファンタジーの定番だけど命がけの危険な職業って感じ?冒険者になるのが嫌だったのか?」


「いえ。冒険者になることは自分で望んだことです。私の信仰する女神様のために人々を苦しめる魔物と戦うのは本望です。

それに私は神官で回復職なので他の役職に比べればどのパーティーでも優遇されますし生存率は高いです」


神官だったのか。どうりで真っ白な服を着てると思った。

回復職ならどのパーティーでも後方になるだろうし確かに安全そう。


「じゃあ何が嫌だったんだ?冒険者になりたかったんだろう?」


「はい。神官としての修行を積み、いよいよ明日、パーティーを結成して冒険者となるところでした。

ですが、昨日!いつものように教会でお祈りをしていると女神のお声が聞こえました!神託が降りたのです!

神託を聞けるのは本当に一握りの神官のみで私は初めてだったのですか……」


シリウスはガタガタと震えだした。

ちょっと涙目だ。


「女神いわく『汝はいずれ勇者を導く者となるであろう。仲間と共に魔王と戦う運命にある』と」


シリウスはまるで地獄へ落ちることを言い渡されたかのような悲痛な表情だった。


「無理です!!!神官としてまだ新米の私が!!勇者を導くなど!!しかも魔王と戦うなんて!!」


「ああーたしかに。魔王と戦うとか怖いもんな。最悪、死ぬかもしれないし」


「いえ、死ぬのは怖くありません。女神の教えに殉じ、戦いの果てに散るのは望むところです。

神託が魔物と戦い、死ぬことなら私は喜んで魔物の群れに突っ込んでいったでしょう。それが女神の望みなら未練はありません」


あれれー

なんかこの子、思ったよりもぶっ飛んでる?

すっごい当たり前のように死ぬのは怖くないとか言ってんですけど。

ちょっと狂信者っぽいぞ。


「私が怖いのは失敗して、女神の期待に応えることが出来ないことです。

私のようななんの経験もない神官ではきっと勇者を導くことはできません。必ず失敗してしまいます」


なるほど。女神とやらに責任重大な役目を押し付けられて自信がないんだな。


「もし失敗してしまったら…勇者を導くことが出来なければきっと魔王を止められず、多くの人が犠牲になるでしょう。

そんな責任重大なお役目は私には荷が重くてとてもとても」


なるほど。死ぬのは怖くないけど失敗して女神の期待を裏切るのが怖いと。そんで人に迷惑をかけるのが怖いと。


「でも俺だってなんの取り柄もない一般人だし。なんで初対面の俺に頼むんだ?」


「先ほども説明した通り、私の世界には異世界から来たとされる方々が歴史上で何名かいます。

そのいずれも特殊な能力や技術を持ち、大きな功績を挙げて伝説と呼ばれるまでになっております!

ならばこの場にいる貴方様もきっと素晴らしい才能の持ち主に違いありません」


うーん…そんなに期待の眼差しで見られてもなぁ


俺はこの状況について少し考えてみる。

異世界人との人生交換、はっきり言って悪くないんじゃないかなと思っていた。

今の日本での人生に満足しているわけではない。

流行りのアニメやゲームを見ていて異世界に行ってみたいなーと思ったこともある。

なにより今は将来が不安になってきている!


異世界に行けば勇者を導く立場!

しかも他の人生交換した奴らは伝説になるくらいだから恐らくチートっぽい能力を貰らえるだろう。

勇者を導くってあのアー◯ー王のマー◯ン的な感じじゃね?

けっこう美味しいポジションなんじゃね?

そして仲間と共に魔王に挑む!

絵に描いたような異世界転生じゃん?


でも転生ではなく人生交換って言ってたな


「人生交換ってことは俺はお前の体に入るのか?記憶だけ入れ替える的な」


「伝承が確かであれば、貴方は前の世界の記憶を有したまま、私の身体に入ります。ちなみに今までの私の記憶も朧げながらあるようですよ」


なるほど。少しでもシリウスの記憶が使えるならあまり常識外れすぎて最初につまづくこともないのか。

言葉も通じるだろうし。

しかも美少年のこいつの身体で異世界にいけるとかかなり好条件じゃね?


今の人生に未練がないこともない。

ただ日本で生きている限り、今後の人生で想像も出来ないほど楽しいことが起きるとは思えない。

だが異世界なら想像も出来ないような楽しいこともある!かもしれない。


俺はまだ25歳だが、自分の人生がどんなものか、もうなんとなく分かってしまっている。

平凡に生きて、平凡に死ぬんだろう。

いや、平凡でさえ俺からしたら死にものぐるいで努力しなければならない。

残りの人生が面白おかしく過ごせないなら、いっそ異世界で新しい人生を始めるのも悪くないんしゃないか。


俺はあーでもないこーでもないと悩んだが、結論を出した。


「よっし!いいぜ!俺がお前と人生交換して勇者を導いてやんよ!」


「本当ですか?ありがとうございます!ありがとうございます!」


シリウスは泣きながら俺にしがみついてきた。

こいつは本当にこれで良いのか。


「これできっとこの世界は救われます!どうか!どうかこの世界と勇者様と女神様をよろしくお願いします!」


「まあやるだけやってみるさ。ちなみにシリウスが行くことになる俺の世界はつまんないぞ。多分シリウスの世界よりも平和だけど毎日毎日、同じような楽しくもない仕事して生活している」


「なんの問題もありません。女神様に祈り日々の糧を頂けるのであればそれだけで至上の喜びです」


こいつはやっぱりちょっとやばい奴なのかもしれない。いや宗教に命を捧げるならこんな感じなのか?


「ちなみに人生交換ってどうすれば良いんだよ。なんか儀式でもあんのか?」


「互いの後ろにある扉がそれぞれの世界の扉です。

私の後ろにある扉の中に入れば、そのまま私の身体で目が覚めるはずです」


「そうか。なら早速行くとするか」


思い立ったが吉日だ。


シリウスはやっと泣き止んで立ち上がった。


「お前の人生、俺に任せろ。しっかり勇者を導いてやる」

「はい。どうか勇者様をよろしくお願いします。貴方の人生は私が完遂いたします。女神と共に」


俺はシリウスとしっかりと握手をする。

そして互いにすれ違い、それぞれの扉へ向かう。


不安ももちろんある。

ただこれは間違いなく、今までの人生にない、最高に楽しそうなイベントだ。

不安より興奮が勝っている。


ドアノブに手をかける前にもう一度振り返るとシリウスが扉の前で祈りを捧げていた。

少しだけ日本に繋がる扉を見てから、異世界の扉へ振り返った。


「よし!じゃあ始めるか!異世界人生!」


勢いよく扉を開ける。


こうして俺の日本での人生は終わり、異世界で新たな人生を踏み出した。


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