魔法使いの弱点
「ま、なんか面白そうだしついて行ってやるよ。」
「だから、頼んでないのに…」
何を求められても今は返すものを持っていないため、助けは不要だと断るかと思ったが、サーシャを見ると頷いていたので、恐らく前回か何処かで助けて貰ったんだろうとその辺はサーシャに任せた。
「あ、オレはアキラ。ジョブは狩人。君たちは?」
「サーシャです。一応…勇者です。」
「えっ!?」
ジョブとは何だろうか、と考えてサーシャを確認する。なるほど、サーシャの場合、勇者がジョブなのか。
アキラと名乗った男はその言葉に驚いていたのでよくあるジョブという訳でもないんだろう。
「え…じゃあさっき俺の矢をはじいた何かってやっぱり魔法なのか!?」
「あ、それは私じゃなくて…」
「気配もいきなり現れたし、そうじゃないかとちょっと思ってたんだ!へぇーー!なぁなぁ、さっきのもう1回見せてくれよ!」
「あの…!カレン!」
勇者と聞いた途端なにやら人懐っこい笑顔を浮かべてサーシャにつめよるアキラにあわあわするサーシャが可愛くてちょっと見守っちゃったけど、助けを呼ばれたら助けなくちゃね、とこちらに駆け寄り、袖を引いたサーシャの頭を撫でた。
「ちょっと、うちの勇者様を怖がらせないでくれない?」
「怖!?いや、俺は昔から勇者に憧れてて…」
「それと…」
アキラの言動から、どうやら魔法と言うのは珍しいらしいことを判断し、いかにもそれっぽく指を鳴らし指の先に火を灯して見せた。
「さっき貴方の矢をはじいたのは私。間違ってもサーシャに矢を射ったりしないで。」
私にとっては杖もいらないくらい下位の魔法だけれど、魔法が珍しいのならこのくらいが丁度良いだろう。
案の定驚いた様子のアキラを見て素直な男なんだなと笑った。
「カレン。魔法使いよ。」
「魔法…使い?」
「で、いいのよね?」
「うん!カレンかっこいいわ!」
何故か興奮しているサーシャにありがとう、とお礼を言うと、足元にふわふわしたものがよってきた。先ほどサンドイッチをあげた魔物らしき子だ。大きさ的に狼のようでもあるけど、改めて見てもやっぱり狐である。
殺されたことがあるサーシャはビクリとして私の腕を抱きしめたけれど、大丈夫、ともう一度頭を撫でておいた。
こちらを見上げる瞳には敵意は見られない。
連れて行ってくれということだろうか。
私達についてくれば餌をくれるかもしれないという魂胆かはたまた一瞬で懐いてくれたのかは謎だが…
「サーシャ、連れて行ってもいいかしら?」
ふわふわしたものやかわいいものに私は弱いのだ。
耐えきれず抱きしめると思った以上のふわふわで頬が緩んだ。よしよしと毛並みを撫でると甘えるようにくーんと鳴いてペロリと私の耳を舐めた。
「カレンがそうしたいなら、大丈夫。」
「ありがとう!良かったね!」
「お、おい!俺との態度の違いはなんだ!?」
慣れるまではサーシャに近づかせないようにしよう、と思っていると、魔法に驚いていたアキラがこちらに詰め寄ってきた。
態度の違いと言うとどういうことなのかわからないけど、アキラの同行に関してはサーシャが既に了承しているし、と彼と目を合わせた時、その上のものが目に入って思わず手を伸ばした。
「え?」
風でふわりと揺れた髪の毛を撫でる。これは思ったより手触りがいいな、とまた頬が緩んだ。
「うん、気に入った。」
「は!?」
同時にこっちも撫でろとばかりに狐っぽいのが鼻でつついてきたのでそちらに手を戻した。
「え、何!?何なの!?」
「ふふ、その子、カレンに懐いたみたい。」
「君たち、ほんとに勇者…?いや、でも、魔法…って頭を撫でるな!」
あーふわふわで幸せ。