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みんなの勇者じゃなくてもいい


さて、準備と言ってもどうしたものか。

お前にどれだけ金をかけたかと言っていた両親に買ってもらった装備をしていけばいいのか?

違う世界に行くって話だけど、こちらのお金は使えるの?

謎だらけすぎてどうすればいいのか分からない。

サーシャは勇者に決まった時なにか教えてもらったりしてないのだろうか?

まあ、どうやってサーシャが勇者になったのかも知らないんだけど。


「ねえ、サーシャ、何を用意すればいいのか分からないのだけど、何か知ってる?」


我が家に向かう道を2人歩きながら問いかける。

私が来た時と同じく…むしろそれ以上に突き刺さる視線に既に慣れてもういいやとなっている私と違い、その視線に怯えているようだった。



「あ、あの、武器とか、着替えとか…?」


「お金は違うのかな?」


「えっと、違うので、最初は向こうでモンスターを狩って素材を売りま…そうです。」


「なるほどね。売る文化があるのならば、それなりの物を持っていけば換金できるかしら。」


「あ、はい!なるほど!できま、ると思います!」


「ふーん?」


先程から不自然な言葉選びをしているけれど、もしかして行ったことがあるのかな?

まあ、其れもおいおい聞いていくとして、とにかく装備とお金になりそうな物を持っていけばいいのね。


「サーシャも用意しに戻る?どこかで待ち合わせましょうか。」


「いえ、私はもう済んでいますから。」


「え、どこかに置いてあるの?」


「え?」


「え、まさかその着の身着のまま?その肩にかけている鞄だけ?」


「はい。お恥ずかしい話ですが、私の家には持って行けるようなものはなく、毎日の食事もその日その日で食いつないでいるくらいで…これが1番動きやすい服装で、武器は向こうで棒でも拾えば…」


「動きやすいって…なんの効果もない服じゃない!せめてもう少し防御力のあった装備を着なきゃ!武器も!モンスターっていうのは恐らく野獣みたいなものでしょう?」


「は、はい!」


「…心配通り越して呆れたわ。まあ、装備については私のをあげればいいとして、両親への挨拶も既に?」


「はい、むしろ父は私が出ていくのを喜んでいますので、特に必要でもありません。」


「それは…」


そこまで口にして、勇者に選ばれて喜ばれているからか、娘がいなくなることで自由になるからなのかは口に出さずにいることにした。

とにかく異世界のことを知っているようなのに素っ頓狂なサーシャに呆れつつ、家にある装備を思い浮かべた。


「サーシャ、魔法を使ったことがないと言っていたわね。他の武器は?」


「今は全て使えないです。」


「昔は使えたってこと?」


「いえ、いや、あ、はい。」


「なんだかハッキリしないわね。」


そんな話をしていたら我が家に着いたものだから、サーシャにはあれが似合うわねなんて考えていて1番の問題を忘れていた。


「どこに行っていたんだ!」


私の両親である。サーシャの不思議発言で忘れていたけれど、そういえばこの2人が面倒で家を出てたんだった。

2人は私の後ろのサーシャを見るやいなや目を吊り上げて口をひらいた。


「私の娘から勇者を盗った娘ね!盗賊みたいな格好をして!なぜこの家にいるのかしら!」


我が母ながら恥ずかしい。こんな人だとは今日まで知らなかったのだからすごい。

既にサーシャが勇者だということは映像で知らされていたのか。

勇者勇者と言っておいていざとなったら勇者に当たるのか。勇者が世界を救ってくれるのを信じているのならもっと敬えばいいのに。


「どんなイカサマを使ったんだ?その貧相な身体で色仕掛けでもしたか。」


はは、と笑いながら下品な視線でサーシャを見る父にも腹が立った。

無計画にサーシャを連れてきてしまった自分にも腹が立ちながら、サーシャを振り返ると、何も言い返さずただ俯いている彼女にもなぜだかイライラして、顔を上げさせるように彼女の手を引いた。予想通り驚いて顔を上げたサーシャの目をしっかり見つめて、不敵に笑ってみせた。私に任せて、と伝わるように。


「もっと胸を張ってくれないと。私の勇者様。」


「!」


「私は見たことも無い信じてもいない神に勇者にされるより、今目の前にいるサーシャ、貴女に友達になってと言われた方がずっと嬉しかったわ。」


「と、もだち?」


「貴女と一緒に行くって、そういうことでしょう?それと、凡人な私の両親は分からないようですけど、サーシャはすごい魔力を持っているのよ。」


驚く両親とサーシャに、やっぱりサーシャも気づいてなかったのか、と思いながら今度は両親に向き直り、堂々として見えるように装備していた杖を前に出した。私の魔力を知っている両親や事を見ていた周りの使用人達もビクリと怯えていい気味だと思った。してやったわ。


「いい?サーシャには、この、私がついているのよ!必ず私が勇者にしてみせる!」


「カレン…」


「魔王を倒せた時、真っ先に貴方達に土下座をさせますからせいぜい毎日床を綺麗に磨いて準備しておく事ね!」


久々にこんな大声を出した気がする。

サーシャの手を引き、私の部屋へと向かいその唖然とした人達の場から立ち去った。

あースッキリした。

次回ようやく魔王の世界に旅立ちます。

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