選ばれなかった私
主人公カレンが乙女ゲームの主人公になる前のサーシャが乙女ゲームの主人公である世界から始まります。
今日は何千年かに1度の勇者が選ばれる日らしく、選ばれたのは平民出身の女の子だとか。
勇者というのは、ただ唯一魔王を倒せる呪文を覚えられる者らしく、言い伝えでは魔法の使える年頃の女の子から選ばれると伝えられ、見事勇者の使命を果たせばなんでも望みが叶うとか。
それ故に街も騒がしかったがそれ以上に我が家も騒がしかった。
「なぜお前が選ばれなかったんだ!」
「あなたには期待していたのに…」
喚く父と嘆く母にため息をつきそうになって慌ててお腹を引き締めた。
そんなことしたらこの状況が悪化するに違いないし。
自分で言うのもなんだが、確かに私はかなりの魔法の天才であるし、顔もいいし、スタイルも抜群である。確かに勇者と言われてもおかしくないスペックは持っている。
でも選ばれなかったんだからしょうがないじゃない?
そもそも勇者って言い方してるけど、言い換えればこの世界からの生贄みたいなもんだ。
何しろこちらを侵略しようとしているらしい世界に送り込まれるのだから。
帰ってこられるのかもわからないし、勇者の使命ってのがなんなのかもさっぱり。そもそも魔王なんているの?って私思ってるんだけど、周りは当たり前のように勇者が魔王を倒してこの世界を救ってくれる!みたいに言ってて昔から怖かったんだよね。魔法使うのは楽しいし好きだから学んでいたけど、自分が勇者になりたかった訳では無かったのに…
色んなことを考えていても、やれお前にどれだけ金をかけたかとか、なにか悪いことでもして神様に見放されたんじゃないかとか、その他もろもろちゃんと耳に入ってきて悲しくなる。
実の娘に言うことかね?
これ以上何も言われたくなくてその場から強引に立ち去ったけど、何しろ家だけではなく、周りから期待されてたもんだから、家から出ても貴女が勇者に選ばれるべきだったとか、何故選ばれなかったんだ?とか言葉はなくても白い目で見られて辛かった。
何とか人のいない所まで辿り着き、心に刺さった棘を吐き出すように胸に手を当ててため息を吐いた時、後ろから気配を感じて振り返った。
「あ、」
目が合ったその子は私を見て酷く怯えたような表情をしながらもこちらに足を踏み出した。
彼女とは初対面のはずだから、何故怯えられたのか不思議なんだけどその後発せられた言葉により何となく察しはついた。
「あの、カレン様ですよね、私、勇者に選ばれましたサーシャといいます。」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中から炎の魔法を放てと恐ろしい声が聞こえたからだ。
どうやら私は彼女に嫉妬しているらしい。
自分が炎の魔法を放ったあとの光景も頭に浮かぶ。火傷を負ってうずくまる彼女に、こんな魔法も防げないのに勇者だなんて、と言い放つ私の映像が。なんてひどい。この子だって望んで勇者になった訳では無いだろうに。
目眩がするようなちぐはぐの心に戸惑いながらも目の前のサーシャと名乗った女の子の声に耳を傾けた。
「私の、仲間になってください…」
そう頭をさげる彼女が震えているのに気づいて、いっそう強くなった炎の魔法を放てという声を振り払うように強く頭をふると、何やら頭の中がスッキリした気分になり落ち着いた。
確か勇者は向こうの世界に仲間を1人だけ連れていくことが出来るという。
その仲間に私を選んだということだろうか。自分で言うのもなんだけど、まあ、妥当だよね。
「え、ダメでしょうか…?」
「あ、違う違う!えー、と?」
私が首を振ったことにより、断られたと思ったのかそう言葉を発した彼女は驚いたようにも見えたが少しホッとしたようにも見えた。
何しろ天才なもんで表情で色々察せてしまうのよね。
彼女は見るからに私を怖がっていることとか。
初対面のはずだし何故かはわからないけれど、そんな私を誘うって言うのに心当たりがひとつ。先程私に炎の魔法をと囁いてきた声だ。
彼女もまたそのような声が聞こえているのではないか?私を仲間にしろと。
「貴女は貴女の本心で私を仲間にしたい?」
「え?」
「だって初対面でしょ?向こうに行けるのは貴女ともう1人だけ。気心知れた相手の方が楽だと思うけど。」
「私は…そんな相手…いませんし…」
「え?」
俯いた彼女は唇をかみしめて今度は涙が溢れてきているようだった。
いないはずない、とも思ったが、魔王がいるような世界に行くのだ。確かに魔法がそこそこでも使える人ではなければ無理だろう。…あれ?おかしくない?
魔法が使える子はもれなく魔法学校に通い、数も少ない為この私の優秀な頭は全員の顔と名前を覚えている。少ないけれど平民出身の子もいたが、このサーシャと私は初対面であるということは…あれ?
「ちょっと待って、えっと、あの、サーシャ?つかぬ事を聞きますけど、あなた魔法は?」
「使ったこともありません!」
そう叫んでとうとう泣き崩れた彼女に呆然とした。
どうしようすごく可哀想。