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出会い

洞窟の中は暗く、湿っぽかった。


時刻が時刻だけに外からも光はほとんど入らず、薄暗い洞窟内を灯無しで進むには難しそうだった。


『ライト』


小さく呪文を唱えると、手の中にポット光の玉が現れる。

俺はそれを前に出すようにして洞窟内を照らした。


照らされた洞窟の中は岩でゴツゴツし、壁には所々に苔が付いている。

道には小さな水たまりがいくつかある。

道は一本道のようだ。


苔や水たまりに足を取られぬように注意しながら進んで行く。


そうして100mくらいずっと真っ直ぐ進んだところは小部屋のようになっていて、それ以上先に道はなさそうだった。


恐る恐る中を照らすと、目当てのものがそこにはあった。


「本当だったのか……」


部屋の中心に無骨で大きな岩と、それに突き刺さった見事な装飾が施された大剣。

部屋の大きさ、質感共にセルバが剣を抜いだ時と同じ感じで、球場の形に壁の表面は大理石を磨いたかのような高級感と神秘さに満ちていた。

セルバが持っていたものより大きいが、装飾の感じは似ている気がする。


どうやら、話は本当だったみたいだ。


沢山の見物人が来ていたが誰も抜けなかったようだ。

勇者の剣は素質のある人間にしか抜けない。


ごくり。


俺があの時もし、セルバより先に剣を握っていれば俺が勇者になっていたのではないかと思ったこことも少なくない。

目の前には勇者の剣が刺さっている。確かめないわけにはいかない。


一歩、二歩と俺は剣に近づいていき…柄を握りしめた。


「……」


剣に変化はない。セルバが剣を抜いた時のように光ったりする事は無く、ただ静かに岩に刺さったままだ。


(まぁ、そうだよな)


ちょっと残念に思いながら剣の柄から手をはなそうとして……気付いた。


「あれ?」


指に力を入れ剣の柄を離そうとするが、剣の柄から離れない。

接着剤でも塗ってあったかなようにピッタリと柄に吸い付いたまま動かない。


「 ちょ、嘘だろ!」


右手を左手で掴んで必死に引き剥がそうとするが、それでもビクともしなかった。


(どうすりゃいいんだよ…)


諦めて力を抜いた瞬間。


カタカタカタカタ……


岩に刺さったままの剣が小刻みに震えだした。


驚いて剣をみると、剣が明滅するように光り出す。


……何が起こってるんだ?


明滅は段々と速くなっていき、最終的には強い光になって直視できなくなった。


とっさに目を抑える。


……どうなった?


暫くして目を開くと、さっきまで右手に吸い付いて離れなかった剣は無かった。

ふぅ、と安堵の息を漏らして前を見てみると……そこには全裸の女の子がいた。


「え?」


突然のことに放心してしまったが、すぐにいくつかの可能性が脳裏に思い浮かんだ。


剣に気を取られ気付かぬ内に、この部屋に入って来たのか。剣をトリガーにして召喚されたのか。……または、サキュバスや魔族なんかの人型の魔物なのか。


一番の最悪を考慮して俺は自らが持ってる魔剣に手を掛けた。


「…誰だお前?」


俺は問いかけながら改めてその姿を観察した。


少女は服を纏うどころか、体に一切の装飾が見当たらず武器も装備していない。

魔族なら武器を待っているはずだし、サキュバスと言えど全裸で魅了してくるなど聞いたことがない。

魔族もサキュバスも、基本的に男を惑わすために扇情的な衣服を身に付けていたと記憶している。


背丈は、宿のマレーヌより少し大きいくらいで多分俺より年下であろう……まあ、魔族なら容姿と年齢は比例しないが。


そしてその顔立ちは、とても整っていた。

大きく、暗い洞窟内では金にも銀にも見えるような瞳にすらりと通った鼻。薄い紅いろの唇。体毛は瞳と同じ色だ。


全体的に色白で、そこら辺は北のほうで会ったことのある民族の容姿に似ていた。

放心している様子だが、よく見れば表情はどこか勝気な感じがして、気が強そうな印象だ。


改めてこの洞窟に不釣り合いな存在だ。


……状況を再度確認しよう。


少女は全裸。こんなところにいるべき存在じゃないし、道中には魔物だっている。装備無しでここまでくるのは有り得ないと考えていい。

装備的に魔族ともサキュバスとも言えない。

……そして、さっきまで刺さっていた剣が岩から無くなっている。


「お前……まさか剣が擬態してるとかか?」

「何言ってんのよ! ……ってかどういう状況よこれ」


そう言って端正な顔を歪めた。

どうやらこの少女も状況が理解できてないようだった。

罠を警戒して俺は剣の柄に手をかけながら話しかける。


「落ち着いて聞いてほしい。君、ここに来るまで何してたかわかるかい?」

「何してたかって、そんなの……あれ?」


少女は不思議そうな顔でそう言うと、段々と曇ったか顔に変化していった。


「ちょっと待って。……あれ、おかしいわ。何も思い出せない」

「名前とかも?」

「……うん」


そりゃ困ったな。

状況から見ると剣がこの女の子に変わったような感じなんだが。……剣が反応したということは俺が勇者に選ばれたかと思ったんだが。


「……まぁいいや。取り敢えずなんか着だほうがいい」


そう言って俺は防具類の装備を外して、来ていたTシャツを脱いで手に取る。


「………なんで?」

「何でって、恥ずかしくないのかよ」

「恥ずかしい……?」

「痴女かよ」

「痴女ってなによ!人を変態みたいに言わないでよ!」


少女は眉間にしわを寄せて怒りを強調する。


「痴女の意味はわかるのかよ……。お前の中の痴女の定義ってどうなってんの?」

「そんなの、変態な女よ!」

「変態ってどういう意味がわかるか?」

「変態は、変態よ!っいうか、何でいきなり服脱ぎだすのよ!この変態!」

「……もういいや。取り敢えずこれ着てくれない?」


めんどくさくなりそうだったので、適当なところで折れた。少女はぶつくさ文句を言っていたが、最終的には服を着る気になってくれたようだ。


服を渡すために少女に近寄ろうとした瞬間思いもしないことが起こった。

ピカッと激しい閃光が二人の間で弾けた。


「何!?」


一瞬少女に攻撃もされたかと思ったが、反応的にそうでは無さそうだ。


暫くして光が止むと、そこには……

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