洞窟と知人と
「ここが……」
俺はそこを少し離れた場所から見ていた。
そこにあるのは人が3、4人並んで入れるかというくらいの小さな洞窟だった。
受付嬢さんが持ってきたクエストをその場で受注した俺は、直ぐに確認をするためにクエスト用紙に記されていた場所へと移動することにした。
その洞窟はそこそこ離れたところにあったが、徒歩で行けない距離でない。
鬱蒼とした森を越え、膝まで浸からないくらいの浅い川など通り、時折現れる魔物なんかを倒したり、回避したりして出来る限り最速できたつもりだったが、それでも陽はもう落ちかけていた。
(なのに、なんでこんなに人がいるってことは……)
普通は暗くなってくると危険なのでクエストを行なったり、ダンジョン内に入ることはよほど特別な理由がない限りない。
まさか、あれはマジなのか。
いや、でもペレーはそんなことないって言ってだはずだし。
「すいません、なんでこんなに混んでるんですか?」
今正にその洞窟から出て来た人に聞いてみることにした。フルフェイスの兜とガッチガチの鎧で全身を固めた偉丈夫の戦士らしき人が2人と、金髪碧眼の女エルフ、あと性能よりも見た目を重視したような美しい銀色の鎧を纏った茶髪のイケメンといった面子のパーティーだった。
「なんでって、ここにいるんならわかってるんじゃねーのか?」
戦士らしい方の片方が凄みを効かせて俺を睨みつけてきた。まぁ、冒険者ギルドを出入りしてればもっと怖そうなやつは多いのでビビったりはしないが。
でも確かに聞く必要のないことだった。
ちょっと動揺していた。
皆、その真偽を確かめにきた人達だろう。
「ちょっと待って、この人もしかして煉獄の勇者のパーティーメンバーの……人じゃない?」
金髪碧眼のエルフの人が俺を見て問いかけてきた。どうやら名前は覚えてくれていないらしい。
「…そうですが」
その事に少し悲しくも思いながらそちらを向いて返事をするともう片方の戦士らしき人がびくりと反応し、「ほんとじゃねーかぁ」と言って覆っていた兜を脱いだ。
「デバルスさん?」
「おうそうよ。いやぁ懐かしいな、大きくなって。こんなところで会うとは思わねぇーよなぁ」
そう言って怖い顔をニヒルと崩し手を差し出してきた。
デバルスさんは俺とセルバがまだ村にいたころに世話になった人だ。
顔は怖いが子供好きで、村では一番の力持ちで、頼りになる、皆んなのお兄さんみたいな感じで俺たちの間では人気があった。
「デバルスさんはあんま変わりませんね。でもなんでこんなところにいるんですか?」
手を握り返しながら聴くとどうやらデバルスさんは、2年くらい前に夢だった騎士になるために村を出たそうだ。
デバルスさんとはよく話していたから騎士になりたがっていたのは知っていたが、まさか本当に騎士になってるとは思いもしなかった。
騎士試験の倍率がべらぼうに高いこともあるがそれよりも、
「正直、意外です。デバルスさんが村から出ることなんてないと思っていましたから」
デバルスさんは村のことを愛し、村の人から愛され、生涯村から出ることは無いだろうと思っていたからだ。
デバルスさんはどこか遠くの星を見つめながら、
「お前たちが勇者になったって聞いてよ、夢を追いかけたくなったんだよなぁ」
と少しキザっぽく言った。
申し訳ないが、顔的に似合わなかったので少し吹いてしまったが、特段それで機嫌を損ねることはなさそうだった。
デバルスさんの顔と性格のギャップは凄く、心は優しいのだ。
「まぁ、まだ下っ端もいいところだからよぉ、これから頑張ろうと思ってんさ」
顔は怖かったが、長い付き合いがある俺にはその表情の中に確かな信念みたいなものがあるのを感じた。
「頑張ってください。応援してます」
「おうよぉ!」
「……そろそろ終わったか?」
それまで黙っていた茶髪のイケメンがそう言うと、俺に顔を向けて、「急いでいるのでこれ以上の話は個々で違う機会にしてください」と真剣そうな顔で言って足早にその場を立ち去っていった。
その言葉を聞いてデバルスさんは急いで兜を被り直すと、
「じゃあな!またどこかで話しよぉや!」
とこちらに向けて手を振りながら茶髪イケメンの後を追いかけて行った。
(まさかデバルスさんに会うなんてなぁ)
と暫く感傷にひたっていたが、自分の目的を思い出して再び洞窟の方へと向かって行く。
先程までは洞窟に入ろうとしていた人が多かったように思うが、今は出てきている人の数の方が多い。出てくる人の中には先ほど入ったばかりの人の顔もあった。
探索というよりは、確認みたいな感じか。
洞窟はそこまで深くはないのだろう。
出て行く人とすれ違うように俺はその洞窟の中へと進んで行った。