転機は一枚の紙
朝。
目が覚めると隣には心地好さそうに眠るマレーヌが居た。
まだ覚醒してない頭でボーっと暫くマレーヌの顔を凝視していると、「う、うぅん、もう食べれないよぉ〜」なんて可愛いらしい声をあげていた。
どんな夢を見ているのやら。
俺はマレーヌを起こさないようにそぉっとベットから抜ける。
理由もないし、気持ちよく寝ているところを起こされる不快感は知っているのでマレーヌは起こさないでおく。
ぱぱっと簡単な身支度を済ませてから部屋を後にする。
俺はギルドに向かうことにした。
取り敢えず今やるべきことは実力をつけることであるとは思うが、流石に1ヶ月で実力が付くようなら今
こうして悩んでいない。
だが、何もしないよりは何かしらの行動を起こすべきだ。
何もしないのでは身体も鈍ってしまうし。
ギルドでクエストを受注する以外になんも思いつかないなら取り敢えずギルドに行くしかない。
(そういえば、昨晩はさぼっちゃったな)
いつも筋トレやら秘密の特訓をしていたが昨日はする気が起きなかったし、そもそも頭の中から抜けていた。
経験的にこういうのは甘えれば甘えるほど堕落していくのはわかっている。
だからギルドに行く前に少し体を鍛えてから行くことにした。
俺はギルドとは真反対にあるこの町の運動場をかねた公園のようなところに行くことにした。
行く時は駆け足。少しでも体を鍛えることを意識。
日々のトレーニングのお陰で息切れ一つせず目的の場所に到着する。
(太陽が昇ってる時に来たのは初めてかもな)
着いてから先ずやるのはウォーミングアップ。
いつもならまあまあ広いこの運動場を30周するところだが、今日は昨日やらなかったペナルティー込みで50周することにした。
リング状の運動場を走っていると時間帯的にいつもより人が多く、交わす挨拶も多い。
朝、太陽の元でやるのは新鮮な気分になる。
落ち込んでる時にはこっちの方がいいかもなぁ
ウォーミングもつつがなく終わり、いつもより少し疲れたがそれだけでは終わらない。
今度は腕立て、腹筋、スクワット、剣の素振りなど基本的な筋トレに入る。
いつもより少し多めにやったせいか、終わる頃には汗で服は湿っていたが、その後も偶然来ていた知り合いの道場の師範代と、話の流れで組み立てをしたり、見知らぬ強そうな人に声を掛けられて、木刀を交えたりして気付いたら太陽が頭上にあった。
「じゃあ、そろそろ行きますので」
「わかりました。いや、煉獄の勇者のパーティーメンバーのテイルさんと手合わせできて嬉しかったです。ありがとうございました。俺は大体この時間にいるんでまた今度一緒にやりましょうよ」
そう言って別れた後に俺は冒険者ギルドに向かった。
ギルドはいつもと同じように活気が溢れていた。
ごっつい体をごっつい装備で包んだ戦士や、そこまでがっしりした体ではないが鋭く叡智をたたえた瞳を爛々と輝かせる魔法師や、その上級職である魔導師。
女がいない訳ではないのにどこかむさ苦しいこの場所は、来ると不思議と心が落ち着く。
木製の扉はしっかり油を刺していないのか、開閉の際にギコギコ音がなるため、入る際には一瞬視線が入り口に集まる。
正直、勇者のパーティーとして入る時は何となくその視線が誇らしかったりしたもんだ。
「よぉ! テイルじゃねーか!……今日は一人か?珍しいな」
「どうしたよ、どうしたよ? もしかしてレティシアさんとセルバ様でデートでも行って取り残されたか?」
「ちげーよ。まあな、色々あったんだよ。少しは察しろ」
「そりゃ無茶振りだろぉよ!」
適当に相手をしながらクエスト受注板の前まで移動してサーっと高難易度クエストを閲覧する。
見たところ、一人でも頑張れば何となりそうなクエストがほとんどだ。
どれにしようかな……。
「すいません、煉獄の勇者のパーティーメンバーのテイルさんですよね?」
悩んでいると、後ろから女性の声がかかった。
振り返って見てみれば、そこには顔なじみの受付嬢の人がいた。そういえばこの人の名前なんだっけ。
「はい、そうですが」
そう答えると、受付嬢さんは俺の耳にそっと顔を近づけて来て、
「魔王討伐に向かったんじゃないんですか」
と小声で囁いた。
魔王討伐のことに関して知っているのは、国とギルドだけなので公には出来ない。
ペレーが言うには、もし公表して勇者が負ければ人々がパニックになるからだそうだ。
魔王が実際人々に影響を与えるのはまだ先のことで、もし勇者が魔王に敗れたとしても人々にはその情報を伝えずに冷静でいてもらった方がが都合がいいという考えらしい。
「まあ、そうなんですが色々ありまして」
小声でそう返すと受付嬢さんは不思議そうに俺を見つめて来た。
「……ギルドの方には自分で後から説明しときますよ」
「そうですか…」
俺の表情で何やら察したらしく受付嬢さんはそれ以上聞いてこなかったが、場は気不味くなった。
「あー、それよりなんかいいクエストありませんか? お金はいいんで経験値重視でなんかありませんかね」
「あ!そうそう!丁度今朝入ったばっかりなものなんですがね」
そういうと受付嬢さんはとことこ走ってカウンターの奥の方へと姿が消えていったかと思うと、しばらくして一枚の紙切れを持って戻ってきた。
「これ見てくださいよ」
そう言って渡して来た紙に目を通す。
暫くして読み終えた俺は、少しフリーズしてしまった。 ちょっとしてから再起動して俺はかばっと受付所さんの方に顔を向けて、
「これ本当ですか!?」
と受付嬢さん切羽詰まって問い詰めた。
周囲の視線が一斉にこちらに向くのを感じたが、内容が内容だけにそんなこと気にもならなかった。
「それが、詳しくはわからないのですが今朝ごろ隣国のカルパンの方から来たんですよ。特に説明もなく他のクエスト受注書の中に混じっていたのを後になって発見して、なのでギルド長と話してもし魔王討伐からセルバ様達が帰ってきたら一番に話そうと思ったんですが……」
受付嬢さんが何やら言っていたが正直耳に入ってこなかった。
いやだって、これが、マジのことなら……
そこにはあり得ないような内容が記されていた。