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寂しさと慰め


勇者パーティーと別れてから、俺は来た道を三日三晩寝ずに走り抜けて宿に帰ってきた。


道中では魔物と何体か遭遇していたはずだったが、正確な数を覚えていない。

いつもなら、狩った魔物の使える部位や魔石などを剥ぎ取るっているから、正確に何匹狩ったか分かるのだが。

そんなことをしている気分じゃなかった。


俺は久し振りに一人で宿に泊まった。

部屋に入って早々布団の中に潜ったが、静けさが逆に気に障り碌に寝付くことは出来なかった。


不安とか、孤独とかそういう感情に苛まれていた。


いつも4人と1匹で泊まっていた。

勇者の一行ということで、特別に犬のバルカンも部屋の中に泊めてもらえて、部屋の中で賑やかさが絶えることはなかった。


レティシアが仲間に加わった初日こそ別々の部屋で泊まったが、その次からは大きめな部屋を取ってみんなで一緒に泊まった。


寝る前は毎日談笑やらボードゲームやらをした。

俺が寝てからもなにかしらの悪戯をしてくることだってあった。

鬱陶しいと思っていたと思ったけど、いざそれが無いとこんなに物足りなく感じるとは思いもしなかった。


「少し寒いな…」


独り言はやけに大きく響いた。

寝付けないことの苛立ちやら、自分の能力が勇者パーティーとして相応しくないことのやるせなさを、「くそっ!」と布団にぶつけるように勢いよく蹴飛ばして解消しようとした。


ほんの少しだけ気は晴れたが、それは一瞬のことで、

再び気分は落ち込んだ。


起き上がってからベッドの淵に座り、手を組んでそこに頭を沈めた。


心の中はモヤモヤしていて、ペレーみたいに賢くない俺には、今の気持ちをなんて言葉で表したらいいか

わからなかった。


漠然とした虚無感だけを感じている。


(今頃もアイツらは魔物と戦っているのだろうか)


魔王城の大きさは、大きな街一つ分くらいあるため攻略には時間がかかるはずだ。


ペレー推察だと1ヶ月そこそこはかかるとのことだ。


その間、俺は毎晩こんな気持ちを味合わなきゃならないのだろうか。 ……それはとても辛い。


「はぁ……これからどうしよ」


一人になって気付いたが、俺は割と寂しがり屋な性格なのかもしれない。

そういえば小さい頃から一人になる経験はこれが初めてではないか。

ずっとこのまま待っているのは精神的に持ちそうにない。

今は何かをしていたい。


別に気が晴れなくてもいいから、

ごませるくらいの、

何かを。


俺がパーティーにいた時にやっていたことは、

冒険者ギルドの誰も手をつけないような最高難易度のダンジョン探索や魔物討伐だ。



だが、それは今、一人の俺に出来ることじゃない。


クエストの難易度を下げてやるか?

弱い魔物でいいから、一人で安全に狩れるクラスのクエストを。

探せばクエストなんて腐るほどある。


いや、でもそれだと今まさに戦い続けているだろうあいつらとの差が開いてしまうのではないか。


これ以上差をつけられるのはごめんだ。


そもそも、今回の件だのことだって、

俺にもう少し実力があればあんな風な話にならなかったはずだし、一緒に戦えてさえいれば、

パーティーの生存率も上がったはずだ。


正直今の状況は全部自分のせいだ。


さらに生緩いクエストばかりやって手が訛ったらと思うと……


アイツらから文句を言われなかったとしても、無能としてパーティーに在籍するのは、世間の勇者のパーティーに対しての想いを裏切る意味でも、俺の居た堪れない感情的にも無理なことだ。


「力があれば違ったんだがなぁ……」


再度大きくため息をつこうとするとコンコンと、部屋の扉が控えめに叩かれた。


「……なんですか?」

「あのぉー、タオルとお湯をお持ちしましたが入ってよろしいでしょうか」


そういえば、セルバ達とここに泊まっていた時は毎日体を拭くようのお湯とタオルを頼んでいたっけ。


レティシアが身体を拭く時になると、セルバと一緒に部屋を追い出されたなぁ。

自分だけ俺たちのを見ておいて、理不尽だ!と、

叫んだりしたけど、冷たい目でを向けられただけだった。


追い出されても諦めずに、バレないようにセルバと一緒に覗いたりしてたっけ。


「あぁ、すみません。今開けます」


そういって重い腰を上げて扉の方へと行って解錠して扉を開けると、

そこには綺麗な赤髪を三つ編みおさげので身長が胸の高さくらいの小さな女の子がいた。


亭主の娘であり、看板娘のマレーヌだ。


普段は窓拭きとか雑巾掛けとかの雑用なんかやっている彼女だが、愛嬌ある顔で接客する時はいつも笑顔なことから泊まる人皆を自然と幸せな気持ちにしてくれる。


「失礼します」


「ベッド脇に置いといてください」


マレーヌは桶を乱雑なベッドの脇まで置くと、チラリ、俺顔を覗き込むようにして見て、


「何かあったんですか?」


と訪ねてきた。

一人で寂しい気持ちに打ちひしがれていた身の俺には、マレーヌの心配そうにかけてくれた声が染み渡るようだった。


「まぁ、原因は自分の力不足なんですけどね…」


ポツリポツリと、経緯を話した。

一度、口から言葉が出てしまえば、後は芋づる式に勝手に溢れ出ていた。


ほんとは無関係者には話してはいけなこともその中には入っていたが、それでも止まらなかった。


言葉を紡いでいる最中、目頭にも熱いものが湧いてくる。


「……ぞれで、1ヶ月どうじようがなっで思っでまじで」

「なるほど…」


話が終わる頃には、涙声になっていることに自分でも気付いていた。


マレーヌはうーん、と唸りながら何やら考えてくれていたようだが、何か思いついたのかキリッとした目で言った。


「ちょっと、屈んでくれませんか?」


そう言われて意味もわからず、

ただ、言われた通りすると、

ばふっと頭が包まれた。


「……」

「……何してるんですか?」

「寂しい時はこうするのが一番ですから」


そういうマレーヌは俺の髪の毛をゆっくり撫でた。


「…ありがとうございます」

「もう敬語はやめてくださいよ。私年下ですし」

「……わかった。ありがと」


マレーヌの体温は、まだ子供だからか妙に熱く、

丁度そういう温度に飢えていた今の俺には、

心身ともに染み渡った。


しばらくそうしてから俺はもう一度小さな声で「ありがとう」と言ってから抱擁を解き、再び向き直る。


「今晩は特別に一緒に添い寝しましょうか?」

「……あんまり、男にそういうこと言うのは良くないぞ」

「変な意味でいったんじゃありませんよ…」

「わかってるけど…そういう風に勘違いされたら困るだろうからあんま口にしないほうがいい」


マレーヌは少し頰を膨らませて見上げるように俺を見てきた。

悪戯に頰をぷにぷに押してみたい気持ちが湧いたが、そこは自重した。


「……じゃあ、やめます?」

「……いや、ごめん。お願いするよ」


今日は誰でもいいから側にいて欲しかった。

胸に空いた穴を近くで塞いでくれる人が。


一人では、鬱で頭がおかしくなりそうだった。


その日は二人で同じベッドで寝た。

マレーヌは小さな体ではあったが、一人の時とは比べ物にならない満たされた感じがした。


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